ここは喫茶サテン。通称『サテンさんの喫茶店』
私、佐天涙子が一人で(たまに初春をこき使いつつ)経営する喫茶店だ
それほど広くない店内には珈琲豆を挽いたいい香りが漂いモダンな雰囲気が漂っている。
昔ながらの友人もよく顔を見せてくれる…ありがたい限りだ。
カランカラーン
佐天「いらっしゃーい、空いてる席ならどこでもいいですよー?」
浜面「いや、ちょっと待ち合わせを・・・ちょうど目の前のカウンターにいるそいつと」
絹旗「おっ、やっと来ましたね浜面。人のこと呼び出しといて遅れてくるとは超いい度胸ですね?」
浜面「悪ぃな。ちょっといろいろあって」
佐天「待ち合わせでしたか。それじゃぁ、隣の席どうぞー」
絹旗「で?わざわざ呼び出して何のようですか?愛の告白となから超NGですよ?」
浜面「違ぇよ!!」
絹旗「ぬっ・・・全力で否定されるとそれはそれで傷つくんですが・・・」シュンッ
浜面「あっ・・・なんだ、その・・・すまん」
絹旗「って、なにマジになってるんですか?この程度の演技でマジになるから超浜面なんですよ」
浜面「テメェ!・・・いや、いい。お前に全力でつっかかってく元気もでねぇ・・・」
絹旗「あら?思ってたよりも超弱ってますね?」
浜面「実は・・・滝壺とちょっとケンカを―――」
絹旗「ずばり原因は浜面ですね」
浜面「いや、せめて俺の話を最後まで聞い―――」
絹旗「ぶっちゃけ滝壺さんからケンカをふっかけるなんて超想像できませんし」
絹旗「どうせ浜面がデリカシーの欠片もないことしたに決まってます」
浜面「・・・・・・・・・」
絹旗「ありゃ?超図星ですか?」
浜面「あぁ・・・うぅ~ん、いやっ。今回は一概に俺が完璧に悪者ともいえない・・・と、思う」
絹旗「まぁ、それを判断するのは浜面じゃなくて私の客観的な視線に超任せてもらいましょうか」
絹旗「なので、まずは原因を言ってみてください」
浜面「・・・よし、分かった。えぇっとだな、二人で共有して使ってるパソコンがあるんだがな」
浜面「普段隠している丸秘フォルダをあやまってデスクトップに放置しちまってそれを滝壺に・・・」
絹旗「見られたと・・・、で?」
浜面「え?」
絹旗「いや、だからフォルダを放置して滝壺さんに見られた・・・それでどうしたんですか?」
浜面「いや、それだけだけど?」
絹旗「は?」
浜面「は?ってそりゃないだろ。これでもコッチは一大事なんだぞ?」
絹旗「・・・私はそんな超くだらない理由のケンカの相談に乗るためにわざわざ休日を潰したというんですか・・・」
浜面「止めて・・・お願いだからそんな目で見ないで・・・。素で凹むからやめて」
絹旗「はぁ・・・。で?どんなフォルダですか?」
浜面「はぁ!?大体ケンカするようなフォルダの中身なんて分かるだろ!・・・わざわざ言わなきゃ駄目?」
絹旗「『わざわざ』はコッチの台詞です。来てやったんですからそれくらい知る権利はあると思いますが?」
浜面「ぐぬぬ・・・」
絹旗「ほら?どうしました?言えないほどの代物なんですか?」ニヤッ
浜面「・・・さ・・・さん」
絹旗「え?何ですか?聞こえませんでした」
浜面「うさぎさんだよ・・・うさぎさんフォルダだよ!!バニーガールですよ!!悪ぃかよ!!」
佐天「クフッ!!」
浜面「・・・・・・・・・」
佐天「くふっくくくっ・・・うさぎさ・・・あっ」
浜面「・・・・・・・・・うぅっ」プルプル
佐天「いやっ、ええっと、その・・・・・・・すみません」
絹旗「いや、いいですよ笑ってやって下さい。この浜面が超馬鹿なだけですから」
佐天「いやぁ、盗み聞きするつもりじゃなかったんですけど・・・本当にすみません」
絹旗「というか、カウンター席に座ってるのに聞くなって言うほうが無理ってもんですからね」
浜面「お前がカウンター席で待ってなんているからじゃねぇか!」
絹旗「超遅れてきた浜面にそんなこと言われたくありませんね?」
浜面「くそっ・・・何も言い返せねえ」
絹旗「というかこの際マスターも一緒にこの超お馬鹿な浜面の話を聞いてやってください」
佐天「え?いいんですか?」
浜面「ちょっ、絹旗お前何言って―――」
絹旗「こんな馬鹿な相談私一人じゃ疲れるんですよ。それともうさぎさんフォルダの存在以上に聞かれたくないことがまだあるんですか?」
浜面「いや、別にそれ以上ヤバイことなんてねえけど――」
絹旗「それじゃぁ、決まりです。もはやこの決定は覆りません」
佐天「いやぁー、実はお客さんの悩み相談とか憧れてたんですよ。マスターとして」
浜面「畜生・・・このマスター案外ノリノリだ」
絹旗「あぁ、ドラマとかでありますね。悩んでる人に珈琲とかスッと出したりする超しぶいマスターとか」
佐天「そうそう!まさにそういう感じの。まさか実際そんな機会が回ってくるとは・・・、喫茶店やってみるもんですねー」
絹旗「よかったですね浜面。浜面でもこのマスターさんのお役に立てましたよ」
浜面「俺はいらぬ恥をかいただけな気もするんだがな・・・」
絹旗「でもよりによってマスターのはじめて相談がうさぎさんフォルダとは・・・それに関しては浜面超謝るべきですよね」
浜面「俺はいらぬ恥かいた上に謝らないといけないのか!?」
佐天「いやいや、私には全然謝ることありませんよ」
浜面「で、ですよねー。よかったマスターは話の分かる人で――」
佐天「だってその謝罪の言葉を向ける相手は私じゃないじゃないですか」
浜面「え?」
佐天「『ごめんなさい』は私にじゃなくて・・・家に帰って彼女さんに言ってあげるべき言葉ですよ」
浜面「うっ・・・」
絹旗「うさぎさんフォルダが原因の喧嘩なのに早速いい話っぽい空気にするとは・・・さすが喫茶店のマスターは違いますね」
浜面「・・・いや。でも、そんなに悪いことなのか?」
浜面「確かに滝壺がいるのにうさぎさんフォルダなんてこそこそ隠すようなマネはしてた・・・」
浜面「でも、これってそんなに悪いことなのか!?俺はそんな酷いことしたのか!?」
絹旗「うわー・・・浜面、うわー」
浜面「だからそんな目で俺を見ないでくれ!」
絹旗「はぁ・・・、まったく。せっかくマスターがいい感じのこと言ってくれたのに・・・」
絹旗「マスターもバシッと言ってやっていいですよ。超ガツンと言わないとこの馬鹿は分かりませんから」
佐天「うぅ~ん、そうですね。それじゃぁ言いますけど、別にうさぎさんフォルダ自体は悪くないんじゃないですか?」
絹旗・浜面「「え?」」
佐天「男の人ならそういうのの一つや二つ何かしらあるものだと思うんですよね」
佐天「私はその滝壺さんって人は知りませんけど、そういうの厳しい方なんですか?」
浜面「いや、そんなに厳しいほうじゃない・・・とは思う」
絹旗「と言うか、むしろまったく気にせず持ち前の超天然で受け入れそうですね、滝壺さんですから」
佐天「そんな方なら尚更うさぎさんフォルダくらいで怒らないと思いますよ私は」
浜面「でも実際こうして喧嘩になって――」
佐天「そのフォルダが見つかってから何か言ったりしてませんか?」
浜面「何かって・・・まぁ言い訳くらいはしたけど。そんなフォルダ見つかってどうどうとしてられる訳もないだろ」
佐天「それじゃないですかね?」
浜面「それって、言い訳が?」
佐天「たぶんですけどね。結構言い訳したんじゃないですか?」
浜面「そりゃあんなフォルダ見つかって恥ずかしいわ情けないわでとにかく必死に言い訳したけど・・・」
絹旗「一応、情けないとは思ってるんですね・・・なんだか浜面が少しはまともなんじゃないかと思えてきました」ホッ
浜面「お前の中で俺ってどんな評価されてたんだよ・・・」
絹旗「すれ違う女の人はとりあえずバニーさん姿を想像する位には超病んでるのかと」
浜面「俺普段そんなことしてるように見える!?ていうかマスターちょっと引いてるじゃねえか!!」
佐天「あっ・・・すみません。想像以上のうさぎさんマニアだったみたいなんでつい」
浜面「・・・いや、違うからな?俺そんな自動バニーさん変換フィルタみたいなの脳内についてないからね?」
佐天「まぁ、それは置いといて本題に戻りますけど・・・いいですか?」
浜面「そのほうが助かる。というか是非そうしてもらいたい」
佐天「それじゃぁ・・・おほん。まず、さっきも言いましたけどそんなフォルダのこと自体は怒ってないと思いますよ」
佐天「隠してたことも問題ないと思います。まぁ、そんなフォルダ普段から見える場所に追いとくほうが問題ありますし」
佐天「でも、そんなに気にしてないのに必死に言い訳されたら『自分はこんなことで気を悪くするような人間だと思われてる』ってなりませんか?」
浜面「・・・そういうもんなのか?ちょっといまいち分からないけど」
佐天「女ってのは割りとそういう小さなこと一つとっても自分のことを信じて欲しいって思うものなんですよ」
佐天「面倒くさいって思われるかもしれませんけどね・・・でも、そういうちょっとした信頼みたいなものことが嬉しかったりするんです」
浜面「それがうさぎさんフォルダでも・・・?」
佐天「・・・うさぎさんフォルダでも、です」
絹旗「せっかく綺麗にまとまりそうだったのに・・・浜面超空気読めませんね・・・」
佐天「ま、まぁ、そういうことなんでたぶん謝っちゃえばすぐ仲直りできますよ」
浜面「謝る・・・」
佐天「もちろんどっちが悪いっていう喧嘩でもないみたいですから、謝れといってもあなたが悪いと言ってる訳じゃありませんよ」
佐天「ただ、早く仲直りしたいとあなたが思ってるなら自分からきっかけを作ることも大切だと思うんです」
佐天「大丈夫。今頃、彼女さんだって喧嘩したこと後悔して謝りたいと思ってますよ」
浜面「そうかな・・・」
佐天「そうですよ。なんならうちのお店の一ヶ月注文し放題でも賭けましょうか?」
浜面「うまそうな話だけど・・・そんな賭けいらねぇよ」
浜面「わざわざ相談乗ってもらってそんな賭けまでしたらそれこそ滝壺に怒られちまう」
佐天「ふふふ、そうですか」ニコッ
浜面「・・・あぁーっ、よし!覚悟は決めた、俺今からちょっと謝って仲直りしてくるわ」
佐天「頑張ってくださいね。うまくいくように祈ってますから」
絹旗「ちゃんと仲直りして次からこんな用事で私のこと呼び出さないようにしてくださいよ?」
浜面「あぁ、ほんと悪かったなこんな相談乗ってもらって」
絹旗「素直な浜面ってのもなんだか超気持ち悪いですね・・・。さっ、早いとこ謝りに行っちゃって下さい」
浜面「言われなくても行くってーの!それじゃぁ、マスターもありがとう!」
佐天「いえいえ、よかったら今度は彼女さんと来てくださいね?」
浜面「あぁ、絶対来るよ!それじゃぁ!」
カランコローン
絹旗「帰り際まで超騒がしい奴でしたね浜面は・・・」
佐天「いいじゃないですか。むしろ来たときは元気なかったからよかったですよ」
絹旗「それもそうですね。・・・そう言えば、浜面結局なにも頼まないで相談だけして帰っちゃいましたね」
佐天「そういえばそうですね。まぁ、彼女さんと来てくれるって言ってましたし、私も相談乗れて楽しかったですから今回はよしとしましょう」
絹旗「馬鹿浜面の代わりと言っちゃなんですが私はもうちょっとゆっくりさせて貰いますよ」
佐天「ふふっ、ありがとうございます」
絹旗「話は変わりますがマスター私と同い年位ですよねたぶん」
佐天「そうですね。見た感じたぶん同じじゃないですかね?」
絹旗「なのになんだか大人っぽいというか・・・」
佐天「そうですか?そんなことないと思いますけど」
絹旗「いえいえ、先ほどの浜面の相談に乗ってるときだって『うさぎさんフォルダ自体は悪くない』とか言ってたじゃないですか?」
絹旗「私はそこまで許容できないですね。たぶんぶん殴っちゃいます。そういうのを許せるのが大人の余裕ってやつなんですかね?」
佐天「そんなもんじゃありませんよ。というか偉そうなこと言ってましたけど、私だって好きな人相手だったら気になりますしね」
絹旗「へー・・・。ときにマスターは好きな人いるんですか?」
佐天「気になりますか?」
絹旗「超気になります!」
佐天「そうだなー、どうしましょうかねー?」
絹旗「いいじゃないですか教えてくれても!教えてくれたら私ここの超常連になりますよ!」
佐天「そんな交換条件卑怯ですよ?う~ん、どうしようかな・・・」
カランカラーン
一方通行「よォ、今日もいつもと同じ珈琲淹れてくれェ・・・」
佐天「あっ、いらっしゃーい。いつもと同じのですね?」
絹旗「誰かと思えば一方通行じゃないですか?」
一方通行「ン?あァ、浜面の知り合いのチビじゃねェか」
絹旗「チビとは言ってくれますね・・・」
一方通行「怒るなよ。怒ると尚更縮ンじまうぞォ?」
佐天「あれ?お二人・・・というか浜面さんとも知り合いなんですか?はい、珈琲」カチャッ
一方通行「あのバカも知ってンのか」ズズーッ
絹旗「ふんっ、さっきまでここにいたんですよ」
一方通行「もうちょっと早く着てたらバカに遭遇するとこだったって訳か、家遅く出て正解だったなァ」
佐天「で?どういった知り合いなんですか?」
一方通行「まァ、昔いろいろとあってなァ・・・。あのバカのことは三下も知ってるぞ、たまに三人で会うしなァ」
一方通行「ところで、俺が来たとき二人でなンか盛り上がってたみてェだがそのバカの話かァ?」
絹旗「そうだ!すっかり忘れるところでした!マスター教えてくださいよー!」
佐天「あらら、思い出しちゃいましたか。そうですねぇー、どうしましょうかねぇー」
一方通行「ン?話が見えねェな。何を教えるンだァ?」
佐天「・・・そうだ、時に一方通行さん、一つ質問いいですか?」
一方通行「あァ?なンだ?」
佐天「一方通行さんってパソコンにエッチな画像とか保存してます?」
一方通行「―――悪ィ、ちょっと電極の調子がおかしいみてェだ。おかしなワードが聞こえてきやがった」
佐天「答えずらかったら別にエッチな本とかでもいいですよ?」
一方通行「あンまり変わらねェじゃ・・・って、なンで急にそういう質問になったンですかァ?」
佐天「えぇー、いいじゃないですか減るもんじゃないですし!」
一方通行「俺の大切な何かがえぐり取られるだろォが・・・」
佐天「ほぅ、それは所持を認める発言ととってもいいんですか?」
一方通行「はァ!?誰がそンなこと言いましたかァ?」
イインデスヨー?コタエテクレナイナララストオーダーチャンニキキマスカラ
ア、アノクソガキハカンケイナイダロォガァ!!
絹旗「・・・いきなり蚊帳の外ですね・・・」
絹旗(それにしてもマスターなんで急にそんな質問を―――)
佐天『そんなもんじゃありませんよ。というか偉そうなこと言ってましたけど、私だって好きな人相手だったら気になりますしね』
絹旗(―――あぁ)
絹旗「へぇー、そうなんですか」チラッ
佐天「ふふっ、内緒ですよ?」ニコッ
一方通行「あァ?何がそうなンだァ?何が内緒なンだァ?何だって言うンですかァ!?」
佐天「女の子だけの秘密です」
絹旗「そうです、超秘密です」
一方通行「?ホントなンだって言うンですかァ?」
ここは喫茶サテン。通称『サテンさんの喫茶店』
私、佐天涙子が一人で(たまに初春をこき使いつつ)経営する喫茶店だ
今日もたくさんのお客さんの笑顔に支えられて愉快な一日が過ぎていった
みんな大切なお客様、すべてのお客様を大切にもてなすサテンさんの喫茶店―
喫茶サテンは明日もまた皆さんのお越しをお待ちしております。
おわり