432 : 浜面仕上のもう一つのお仕事1/19[sage] - 2010/05/17 21:30:30.55 Ult/ex2o 1/19

『学園都市』それは東京都西部を切り抜いて作られた都市。

『学園都市』そこでは「人間を超えた身体を手にすることで神様の答えにたどりつく」ことを目的として日々「超能力開発」が行われている超能力都市。

『学園都市』外の世界より三十年も科学技術が発達している科学都市。

『学園都市』総人口は二三〇万人弱、その約八割が学生という学生のための都市。

学園都市は二十三の学区に分けられており、それぞれの学区に特色がある。

学校、病院、学生寮、などの施設が立ち並び、学園都市の中心に存在する第七学区。

その第七学区の大通りに面したファミレス『Joseph's』

そのファミレスの一角を占領する集団が今日もいた。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ≪3冊目≫」【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1273677472/
433 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/05/17 21:30:59.78 Ult/ex2o 2/19

「温めてもらうとシャケは美味しいんだけど、付け合せが劇的に不味くなるわね……」


ファミレスに居座りながらシャケ弁に文句を垂れている女性。

彼女は麦野沈利、道を歩けば振り向かないものはいないのでは、と思わせるほど魅力的な女性である。

しかしその見かけとは裏腹に、彼女は学園都市に七人しか存在しないレベル5、『超能力者』の一人である。

ランクは四位、『原子崩し』を持つ彼女は、学園都市の裏で暗躍する組織『アイテム』のリーダーでもある。


「ん~……ダメだ!開かない!浜面~、これ空けて~」


こちらも麦野同様、ファミレスに居座りながらまったく関係ないものを持ち込んでいる少女。

彼女はフレンダ、サラサラのブロンドヘアーと蒼い瞳を持った少女である。

およそ日本人には見えないその外見と名前から外国人なのでは、という疑問をもたれているとかいないとか。

主に爆弾や薬品を使った戦闘をするタイプであり、彼女もまた『アイテム』の一員である。


「ちょっと浜面!私の飲み物はまだですか、超早くしてください!」


聞いたことも無いような映画しか載っていない雑誌を見ながら飲み物を催促している少女。

彼女は絹旗最愛、小学生にも見えなくもないが、本人は中学生であると主張している。

彼女のスカートはいつも見えそうで見えないギリギリのラインを保っており、道行く純粋な男子学生を困らせているとか。

レベルは4、『窒素装甲』の能力を持つ彼女は『アイテム』の主力である。


「…84.7MHz……南東から電波が来てる……」


ソファーの背もたれに身体を預けながら電波的?な言葉を発している少女。

彼女は滝壺理后、肩の辺りで切りそろえられた黒髪に、ピンクのジャージを着た癒し系少女。

起きているのか寝ているのか分からないが、誰かと違い存在感は持っている模様。

レベルは4、『能力追跡』を持つ彼女は特定能力者の捜索を担当しており、『アイテム』の要を担う人物でもある。

434 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/05/17 21:31:26.12 Ult/ex2o 3/19

「ほらよ絹旗、紅茶だったよな。フレンダ、ちょっと貸してみ」


絹旗の前に飲み物を置き、フレンダからベコベコの缶を受けとった少年。

彼こそが浜面仕上である。

身長はそこそこあるが、特筆すべき特徴は無い。

髪は茶髪で、服装はジャージの上に下はジーパンというラフなスタイル。

レベルは0、正真正銘の無能力者であり、特技はピッキングであり、また、一通りの乗り物も操れるようだ。

これらのことから、彼、浜面仕上は『アイテム』において雑用という立場に置かれている。


「浜面、ミルクは無いんですか?」


ん、と浜面は顔を絹旗の方に向けながら、手では器用にフレンダの缶を空けていく。


「私が紅茶といったらミルクティーなんですよ!ミルクが超いるんですよ!」


(それならそうと一言言ってくれよ……)


心の中で愚痴を零しながら浜面はミルクを取るためテーブルを離れる。

フレンダが何かいっていたような気がしたが、今は考えないでおこう。


念のためミルクと一緒に砂糖も持っていくと、関心関心と言った表情で絹旗がこっちを見る。


「浜面もようやく絹旗様のことが超少し分かってきたようですね」


子供扱いすると怒るのに、などとは言えず、再びフレンダの缶へと向かう浜面。

缶の隙間からサバの臭いがプンプン臭い、周囲からきつい視線を浴びているのだが、フレンダ曰く


「結局、気にしたら負けって訳よ」


だそうだ。

いったいフレンダは誰と戦っているのだろう…

435 : 浜面仕上のもう一つのお仕事4/19[sage] - 2010/05/17 21:32:11.85 Ult/ex2o 4/19

「……きぬはた、なんか気になる映画はあった?」


電波の受信が終わったのだろうか、滝壺がいつもの調子で絹旗に話題を振る。


「やや、滝壺さんも気になるんですか。そうですね、今のところ気になっているのは……」


映画雑誌に半分興味をなくしかけていた絹旗であったが、問われれば答えずにはいられない。

絹旗は再び雑誌に目を通し始め、気になる作品を次から次へと滝壺に教えていく。


「なぁ、いつも疑問に思ってたんだが、これって会議……なんだよな?」


常日頃から思っていた疑問を解消すべく、浜面は今だにシャケ弁と格闘中の麦野に問いかけた。


「なに言ってんの? どっからどう見ても会議じゃない」


頭大丈夫?とでも言いたげな目で見つめられ、浜面はなんともいえない気持ちになる。

ふと後ろを振り向くと、先ほどの話を聞いていたのか、ウェイトレスに哀れみの目で見つめられた。

浜面は泣きたくなった。

436 : 浜面仕上のもう一つのお仕事5/19[sage] - 2010/05/17 21:32:37.12 Ult/ex2o 5/19

「じゃあ、今日の会議はこれでお終い。必要なときはまた連絡するから」


会議という名の集会が終わる。

アイテムの面子は仲がいいのか、基本的には行動をともにしているらしい。


「おう、お疲れさん」


しかし、浜面は別だ。

彼が男であるという理由かも知れない。

彼が比較的新参者という立場だからという理由からかも知れない。

行けば拒まれることは無いが、なんとなく居心地が悪いと思ってしまう浜面の気持ちを考慮してかも知れない。

理由は分からないが、浜面は呼ばれたとき以外はアイテムの面子と一緒にいることは少ない。

(しかし、朝食を作りに行ったり、朝起こしたりするのは浜面の役目らしい)

とにかく、そのことは彼にとっても都合がよかった。

そう、彼にはもう一つの『仕事』があるのだから……

437 : 浜面仕上のもう一つのお仕事6/19[sage] - 2010/05/17 21:33:11.83 Ult/ex2o 6/19

その日、浜面は自宅とは別に借りている部屋へと戻ってきていた。

部屋といっても、その部屋は第七学区の地下街にある薄汚れた店舗である。

元々レストランとして利用されていた場所だったらしいが、何か事件があったのだろう。

内装はボロボロで、いたるところにガラスの破片や赤黒い滲みが散乱している。

ここから以前はどのような雰囲気の店だったのか、想像することも出来ない。


彼は裏口から店に入るなり、他のものには目もくれず、キッチンへと向かう。

そして、今は壊れて動かない冷蔵庫の中からおもむろに黒の羽織と紺の布を取り出す。

この服装は普段の生活に戻るための服装ではない、『仕事人』としての浜面仕上へと戻るための服装だ。

浜面は慣れた手つきで着付けをしていく。

仕上げに三角に折った布を鼻から下を覆うようにして結んでいき、大小二つの刀を腰に差す。


――『仕事人』浜面仕上 の完成だ。


浜面仕上、彼は弱い者の涙を拭うため、晴らせぬ恨みを晴らすため、今日も『仕事』へと向かう……

438 : 浜面仕上のもう一つのお仕事7/19[sage] - 2010/05/17 21:33:49.53 Ult/ex2o 7/19

ここは第六学区、アミューズメント施設などの娯楽施設が集中している学区。

時刻は深夜の1時過ぎ、終電の発車時刻も疾うに過ぎ、虫の鳴く音だけが辺りを支配するはずだった。

とある施設の裏の路地に一人の女と三人の男が屯していた。

……否、正確には一人の『放心した』女を尻目に男達が下らない話をしているところだ。


「最近、全然女が捕まんねえな」


地べたに座っていた長身の男が口を開く。

物足りないことでもあるのだろうか、気が滅入るような深いため息を吐きながら首を垂れる。

それに対して対面に陣取っていた筋肉質な男が答える。


「そりゃ、向こうさんだって警戒してるんだ、仕方ないさ」


一瞬目で女の方を見た後鼻で笑い、なにを見るでもなく、空を見上げる。

と、いうことはだ、と今までナイフを見つめていた男が話を纏めるかのように話し始める。


「ここらはもう潮時だ、次回、適当に楽しんだら場所を変えるなり、時間帯を変えるなりしなきゃならねえな」


そんなことは分かってる、と言いたげな二人の視線を無視して、ナイフの男は路地の先に目をやる。

いつからそこにいたのだろう、この科学が発達した学園都市には不相応な出で立ちの男、浜面仕上がそこにいた。

他の二人も気がついたのか、ギョッとした表情で浜面を見つめている。

いつからそこにいたのだろう、どこから見られていたのだろう、

などと三人の男が考えを巡らせている内に浜面が三人に問いかけるように話す。

439 : 浜面仕上のもう一つのお仕事8/19[sage] - 2010/05/17 21:34:18.74 Ult/ex2o 8/19

「あれは、お前たちがやったのか?」


男達は硬直する。

あれ、とは何かを一瞬考えた後、三人同時に倒れている女の方を向いた。


――その瞬間だった


路地の男から一番離れた位置にいたナイフの男は確かに聞いた。

後ろの方でなにかが外される音を。

慌てて後ろを振り向く。

          ・・・・・・・

そこには、さっきまで人間だったものが二つ転がっていた。


「ひぃ!!」


あまりにも突然の出来事に思わず腰を抜かすナイフの男。


「あ゛あ゛……あ゛……」


それでも、声にならない悲鳴を上げながらナイフを握り締める。

力一杯、両手でナイフを握り締める。

しかし、ナイフなどまったく気にしないのだろうか、浜面はどんどん距離を縮めてくる。


「やめろ!!来るな!!こっちへ来るな!!」


男は半狂乱でナイフを振り回しながらズリズリと後ろに下がっていく。

時刻は深夜の1時過ぎ、肌寒い時間帯にも関わらず、男の身体からは止め処なく汗が流れている。

440 : 浜面仕上のもう一つのお仕事9/19[sage] - 2010/05/17 21:34:48.12 Ult/ex2o 9/19

「あ……」


汗で滑ったのだろうか、ナイフがあらぬ方向へ飛んでいく。

浜面は飛んでいったナイフを確認した後、ゆっくりと、手に持っていた刀をナイフの男の首に添える。


「た……助けてくれ、お願いだ……頼む、許してくれ……」


もはや目はうつろで全てに絶望したような表情のままナイフの男はしきりに呟くだけだった。


「……助けてくれ、か」


浜面は死体に群がるカラスを見るような冷たい目で男を見つめながら、ゆっくりと刀を振り上げ、言葉を発する。


「……一体今まで何人の人間がお前にそう言ったんだ」


言い終わるや否や浜面は上に構えた刀を男の首目掛け振り降ろす。


ブォン!!


――学園都市に巣食う悪がまた一つ、取り除かれた。

441 : 浜面仕上のもう一つのお仕事10/19[sage] - 2010/05/17 21:35:16.60 Ult/ex2o 10/19

プルルルル……プルルルル……


浜面の携帯電話が鳴り響く。

浜面は電話の相手を確認する。


「フレンダか……」


どうにも電話に出る気分じゃない、そう思った浜面は携帯をそのままズボンのポケットへと押し込む。

留守番電話に変わったのだろうか、先ほどまでなっていた呼び出し音はもうしない。


「よっ……」


女を病院の裏口あたりまで届けるため、背中に背負い浜面は裏路地を後にする。


残ったのは三つの肉塊だけだった。


――辺りは再び、虫の鳴く音に支配された。

442 : 浜面仕上のもう一つのお仕事11/19[sage] - 2010/05/17 21:35:54.02 Ult/ex2o 11/19

ここは学園都市第三学区の高級マンションの一室。

浜面仕上とファミレスで別れたあと、隠れ家の一つでもあるこの部屋にアイテムの面子は集まっていた。

理由は簡単だ、彼女達は暇なのである。

彼女達は皆学生でわあるが、暗部の一員である以上おいそれと学校へ顔を出すわけにもいかない。

かといって家に引きこもっていても何もすることがない。

よって、仕事がない日でも彼女達は自然と集まってしまうのだ。


「暇だねー」


ソファーに横になりながらフレンダがポツリと零す。


それもそのはず、時刻は現在深夜の1時をまわったところ。

麦野は肌の美容のため、と早々にベッドの方に向かってしまった。

滝壺に関しては9時をまわった時点で


「いい子はもう寝る時間だよ?」


と言い残し、自分の部屋へと引っ込んでしまった。


なので、今起きているのはソファーと完全に同化してしまっているフレンダ。

そして、やたら外国人ばかり出てくる通販番組をぼーっと見ている絹旗のみだ。

443 : 浜面仕上のもう一つのお仕事12/19[sage] - 2010/05/17 21:38:26.09 Ult/ex2o 12/19

テレビでは、やたらとスマイルが似合う筋肉質な外人が、腰に怪し気なベルトを巻いて筋肉をヒクヒクさせているところであった。


「……フレンダはやはり日本人よりこういうハンサムマッチョの方が超好みなんですか?」


テレビを見ながら、本当にどうでもよさそうなことをフレンダに聞く絹旗。


「どれどれ……あー、コイツはバタ臭くて駄目だわ」


ずりずりとアザラシのようにテレビの方を向いたフレンダはテレビの中で白い歯を輝かせてる外人を一目見た後、一蹴した。


「バタ臭い……なんだかバタピーが超食べたくなってきました」


無意識だったのだろう、半ば独り言のように絹旗は呟く。


「バタピーか、最近食べてないなあ……結局いつも缶詰にしちゃうからなー」


缶詰中毒のフレンダらしい答えが返ってくる。

このままにしておくと缶詰談義に入りそうだったので絹旗は適当に話を逸らす。


「缶詰缶詰言ってますけど、ちゃんと野菜も食べないと身体、超臭くなりますよ」


まさかー、と流していたフレンダだったが、数秒の沈黙の後、恐る恐る絹旗に問いかける。


「……マジ?」


「はい、超マジです。フレンダは出会ったことありませんか? やたらと体臭きつい人に」


うむむ……と考え込むフレンダ。

彼女の表情はまるで、夏休み最終日に初めて宿題に取り掛かろうとする学生ように渋い顔だった。

444 : 浜面仕上のもう一つのお仕事13/19[sage] - 2010/05/17 21:38:59.45 Ult/ex2o 13/19

「……よし、バタピーとビールを補充しよう!」


一応説明しておくが、彼女はまだ未成年である。

ついでにいうと、ピーナッツが野菜に含まれるのかも怪しくなってくる。


「なんでビールまで付いてくるんですか、しかもバタピーとのコンボ……超太りますよ」


これだから外人は、と言いたげな顔でつっこむ絹旗。

しかしこういうときのフレンダの意志は無駄に固いものであった。


「そんなつれないこと言わないでよー。結局、絹旗はビールを飲んだことがないからそんなこと言える訳よ!」


ぐっ……と思わず勢いに飲まれそうになる絹旗。

中学生といえば少し背伸びをしたいお年頃

欲望と理性との戦い、その僅かな隙をフレンダは見逃さなかった。


「今なら麦野たちにも黙っててあげるからさ。ね、ちょっとだけ付き合ってよ」


「ち、ちょっとだけなら……付き合ってあげなくもないかも……しれないです」


あっさりと欲望の海へ堕ちる絹旗。


「それじゃあ浜面に電話して買ってきてもらおう! 結局、こういうときに浜面は役に立つって訳よ!」


善は急げというように、早々と携帯電話を取り出したフレンダは、浜面に電話をかける。

445 : 浜面仕上のもう一つのお仕事14/19[sage] - 2010/05/17 21:39:26.04 Ult/ex2o 14/19

プルルルル……プルルルル……プルルルル……

――おっす!おら浜面!今、ちょっと仕事中だ。

用件がある人は発信音の後にメッセージを残しといてくれ!時間は二十秒だ!

ピーーーー


「……ばーか、ばーか、ばーか、ばーか、ばーか」


ピッ


「留守電だった……」


「……フレンダ、時間も超遅いですし、私たちも寝ましょう」


絹旗はそういい残すと自分の部屋へと戻っていった。

心なしか、絹旗の背中がいつもよりも小さく見えた。


「結局、お酒はお預けって訳ね……」


とぼとぼと絹旗に続いて部屋に戻るフレンダ。


居間には寂しく外国人風の笑い声だけが響いていた。

446 : 浜面仕上のもう一つのお仕事15/19[sage] - 2010/05/17 21:39:53.31 Ult/ex2o 15/19

「それで朝はあんなに騒がしかったのね」


ゆったりとした足取りで部屋に入ってきた麦野は、そのままいつもの定位置に腰掛ける。

テレビの正面の席、ここが彼女の定位置である。

麦野がソファーに座ると、浜面は慣れた手つきで入れたてのコーヒーとシュガーポット、ミルクを麦野の前に並べていく。

「ありがと」と一言言うと、麦野はおぼつかない手つきでコーヒーの入ったカップを口元へ運ぶ。

少しは眠気が覚めたのであろう、先ほどよりはいくつかはっきりとした目で朝の騒動の中心人物に目を向ける。


それは、ほんの15分程前の出来事だった――

447 : 浜面仕上のもう一つのお仕事16/19[sage] - 2010/05/17 21:40:21.15 Ult/ex2o 16/19

第三学区に存在するアイテムの隠れ家の一つ――もっとも、隠れ家というには豪華すぎるのだが――に浜面仕上はいた。

そこは、誰もが羨む高級マンション。部屋の広さは4LDK、ご家族みなさまでゆったりおくつろぎいただける広さになっております。

そんな部屋の無駄に広いキッチンで、浜面は一人寂しく五人分の朝食を作っていた。

今日の朝食のメインはオムレツ。

最近ようやく作れるようになった、浜面自慢の一品である。

鼻歌交じりに朝食の準備をしていると、廊下の方からドアを開ける音がした。

滝壺かな――などと適当な予想をつけて目を廊下の方に向けると意外な人物が立っていた。


「…………」


フレンダだ。

本当に寝起きなのだろう、自慢のブロンドヘアーはボサボサで、手にはテディーベアが握られている。

448 : 浜面仕上のもう一つのお仕事17/19[sage] - 2010/05/17 21:40:52.39 Ult/ex2o 17/19

「おう、おはようさん。飯の時間にはまだ早いぞ、なんか飲むか?」

「携帯……留守電聞いた?」

オムレツがうまく出来て上機嫌な浜面とは対照的に、とても不機嫌そうなフレンダ。

「あぁ、そういえば昨日電話になんか入ってたな……」

昨夜のことを思い出したのか、浜面は携帯電話を操作し、入っていた留守電を聞く。

「……って、馬鹿しか言ってねえじゃねーか!! 何か用事があったんじゃないのかよ!!」

「結局浜面は下っ端なんだから、電話ぐらいちゃんと出なさいよ!!」

「大体時間を少しは考えろ!!」

「なんで私が下っ端のことまで考えないといけないのさ!」

「なに!!……」

反射的に言い返しそうになって、浜面は口まで出かかった言葉を飲み込んだ。

(売り言葉に買い言葉、相手は寝起きで頭がはっきりしていないんだ、ここは俺が大人になり冷静に話しを聞こう。)

そう思い直した浜面は猛った心を落ち着かせる。

(……よし)

先ほどまで激流のように荒れていた浜面の心は、今は明鏡止水のように落ち着いている。

刺激しないように穏やかに話しをしよう、そう心に決めた浜面が口を開く。

449 : 浜面仕上のもう一つのお仕事18/19[sage] - 2010/05/17 21:41:19.03 Ult/ex2o 18/19

「あー……まぁ、電話に出れなかったことは悪かった、すまねえ。」

「ん……まぁ、結局分かればいいのよ分かれば」

「それで電話の用件はなんだったんだ? なにか問題でも起きてたのか?」

「んにゃ、別に何も。ただお酒とバタピー買って来て貰おうと思って」

「………」

浜面は一瞬何を言われたのか分からなかった。そして

「まさかそれだけの理由であんな時間に電話したのか……」

「そうだけど?」

あまりの下らない理由に浜面は怒りを通り越して呆れてしまった。

オムレツの喜びはどこへやら、急激落ちていく浜面のテンション。

その一方で大声を出してすっきりしたのだろうか、普段のテンションに戻ったフレンダが

「今度からは電話に出なよね」

と言いながら、浜面の肩をぽんと叩き、テレビの方へと歩いていった。

450 : 浜面仕上のもう一つのお仕事19/19[sage] - 2010/05/17 21:42:30.39 Ult/ex2o 19/19

「なんだかなぁ……」


そう呟きながら人差し指で頬を掻く浜面。

思わず出そうになったため息を飲み込んで、浜面は窓へ向かう。


窓を開けると、心地いいやわらかい風が入ってきて、ゆらゆらとカーテンを揺らす。

カーテンの隙間から差し込む光が道筋となり部屋を照らすと、気持ちが晴れていくような気がした。


たまにはこんな朝もいいか、そう思い浜面は朝食の用意へと戻っていく。


時刻は朝の八時半、学生にとって遅刻になるかどうかという微妙なライン。

そんな時間に追われる学生の生活とは完全に切り離された、ゆったりとした時がこの部屋には流れている。

そう、ここは学園都市暗部組織『アイテム』の隠れ家の一つ。

彼女達は抗えば抗うほどに絡みつく闇に身を置いて、常に死と隣り合わせの任務をこなす日々。

アイテムとしての活動がない日は、一緒に行動しない事が多い浜面だが、なんとなく今日は一緒にいようかなという気分になる。

彼の"仕事"もアイテムの"仕事"も今日はお休み。

闇に染まりきった彼らが"普段"とは違う平和な時を過ごせる貴重な日なのだから……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――fin