491 : とある異国の台所事情[sage] - 2010/07/09 19:47:49.29 Q4VyxQAO 1/3


「……ピンチです」


その日起床した神裂火織の第一声は、酷く暗いものだった。

彼女は今、イギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』女子寮の台所にいる。正確には、先日学園都市より送られてきた炊飯器の前。
どうやら学園都市製の炊飯器はとても優秀らしく。ある友人曰わく「何でも作れるんだよ!ハンバーグだって餃子だって作れるんだよ!」とのこと。それを聞き、神裂は意気揚々と炊飯器を取り寄せたのだが。


「……使い方が分かりません」

優秀な炊飯器を目の前にして、まさかのお預け状態。かといって、迂闊に手を出しても更に状況が悪化するのは目に見えていた。


神裂は改めて件の炊飯器を見つめる。
炊飯器に付いているボタンの数は十前後。点灯ランプらしきものも五、六。神裂は眉間に皺を寄せて、炊飯器を更に凝視した。
だが、いつまで見つめても使い方が分からない炊飯器に対し、神裂は次第に腹立たしい気持ちを募らせていく。今すぐここで斬り伏せてやろうかとまで考えたが、直前で何とか思い留まることが出来た。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-9冊目-【超電磁砲】
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492 : とある異国の台所事情[sage] - 2010/07/09 19:50:11.30 Q4VyxQAO 2/3



「……いや、いつかきっと私の気持ちは伝わるはずです! さぁ、炊飯器さん! 私にご飯の炊き方を教えて下さい!」


すなわち、愛。
自分なりの愛を持ってすれば、いつかは炊飯器も心を開いてくれる。神裂はそう考えたのだ。



…………。


しかし、炊飯器は何も言わない。

当然だ。
炊飯器は喋ったりしない。いくら学園都市製でも。もしいきなり炊飯器が喋り出すのなら、それはもはや炊飯器の形をした別の何かである。


「炊飯器さん!」

それでも神裂は炊飯器に話しかける。

そして、そんな神裂の様子を見る人影が一、二。

(神裂さん、どうしちまったんでしょう?)

(あらあら、大変でございますね)


オルソラとアニェーゼ。
以前はローマ正教に所属していた二人だが、とある事情により今はイギリス清教に世話になっている。
そんな彼女たちは現在、イギリス清教きっての実力者であり、世界に二十人程度しか存在しない聖人でもあるはずの神裂火織の奇行に、多大な恐怖を覚えていた。

493 : とある異国の台所事情[sage] - 2010/07/09 19:52:35.12 Q4VyxQAO 3/3


(せっかく朝ご飯を作りに来たのでございますが……。どうしましょうか?)

(か、帰っちまいましょう。もう嫌な予感しか――)


そうアニェーゼが言いかけた瞬間。

事件は起きた。



――バチチチッ!!


「「!?」」

二人が同時に神裂の方を振り向く。見れば、神裂の目の前からは多量の煙が上がっていた。


「な、な……」

神裂は白煙を上げる元恋人の姿に、わなわなと体を震わせる。
ガックリと膝をつくと、神裂はそっと『彼』に触れた。


「炊飯器さん……」

そして、神裂はそのまま炊飯器を抱きしめると嗚咽まで零し始める。ここまで悲しまれれば、炊飯器としても本望だろう。

そんな悲しみに暮れる神裂の前に、オルソラはゆっくりと歩み寄る。
そして、そっと彼女の肩を叩いて、優しい声で言った。






「朝ご飯、もう作ってもよろしいのでございましょうか?」





お わ り