691 : フィアンマ「……」 オッレルス「さぁ上がってよ」[] - 2010/10/20 20:13:11.81 VCdxcQQo 1/4

フィアンマ「……」

オッレルス「さぁ上がって上がって。」

フィアンマ「……」

シルビア「? どうした?」

フィアンマは絶句していた。
ここはオッレルスのアパートメント。

実は、世界を知らない孤独な彼は、同じようなはずの右手を持つ少年と黄金の空をバックに殴られ、
その少年に脱出用コンテナを譲られ、降りた所でアレイスターに右手を切断され、お前は古いだの何だの言われ、
ロシアでぶっ倒れて死にゆく所を、この金髪の奇妙な二人組に「見聞きしたモノを教える代わりに安全を保障しよう!」と、
まぁこれだけでライトノベル1巻は書けるのでは?という一日を過ごした。

で、その奇妙な二人組こと、オッレルスとシルビアに連れられてアパートメントに来た訳なのだが。

フィアンマ「…………何だ、この子供は」

アパートに入った途端に、数人の子供たちがわらわらと、まるで餌を見つけた犬のように寄って来たのだ。
全員が彼の奇妙な格好を珍しげに、目を見張って見上げている。

ちらり、と二人を見る。

二人はここに住んでいるらしい。
男と女。そして幼い子供たち。

そして少しばかり合点が言ったというように、二人を見たまま、
「なるほど……。 しかしその年齢でこの人数はさすがに作りすぎじゃないのか……」

直後、シルビアの聖人パンチが飛んできた。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-15冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285633664/
692 : フィアンマ「……」 オッレルス「さぁ上がってよ」[] - 2010/10/20 20:13:54.54 VCdxcQQo 2/4

フィアンマは二度目の、アレイスターの右腕切断と同じ苦痛を味わう事になった。

「し、シルビア! さすがにこれはやばいんじゃないか……!?」
「大丈夫、手加減はした。 聖人にしては、だけど。」

という少し不穏な会話が聞こえたがもう思考できなかった。



次に目を開けた時には、視界には見知らぬ天井、そして子供たちの心配そうな、何かを期待してるような顔が見えた。
身体中がズキズキする。どうやらあの後気絶して寝かされていたようだ。
……腐っても右席、象徴である右腕を断たれたとはいえ、
ただの人間になったとはいえ、自分を気絶させるなんてどういう事だろうか、と思ったが。

「はいはいちょっとどいてね。」

彼を気絶させた張本人の金髪の女性――シルビアがやってきた。
途端に子供たちは蜘蛛の子を散らすようにそそくさと物陰へと隠れる。
……あくまで、自分から離れようとしないらしい。

「すまないね、安全を保障すると言った途端にこれで。」

後ろから金髪の男――ロシアでオッレルスと名乗ったような気がする――が、申し訳なさそうに謝る。

「はぁ……。」

「腕の事もあるし、しばらくここにいてもらうつもりだから先に説明しておくか……」

そういうとオッレルスは近くの、木製の椅子に腰掛ける。

「あの子達は、ミラノの人身売買組織から助けた子供達だ。」

「……人身売買組織、から? わざわざ助けた?」

それを聞いてわざわざそんな危険な事をするような、お人よしがいるものか、と否定しようとしたが、
彼は、死にゆく所をこのお人好しに助けられたことを思い出しそれ以上は言わなかった。

「まぁ原石……天然の超能力者がいるかもしれないし、学園都市やアメリカに連れてかれて実験に使われるのも色々とあれだと思った訳で壊滅させたんだが……。」

「本来なら里親に引き取られたりする所を、このふらふらとどっか行ってた馬鹿を待って居着いた訳だよ。」

そばにたっていたシルビアがオッレルスの言葉を引き継ぐ。

「……ま、まぁそういう訳だ。 で、君に頼みたいんだが。」

「……あぁ」

「……俺はまぁ、さっき言った通り家を空ける事が多いし、シルビアにまかせっきりも両方に悪いし。」

何となく、言いたい事が予想がついた。

693 : フィアンマ「……」 オッレルス「さぁ上がってよ」[] - 2010/10/20 20:14:45.39 VCdxcQQo 3/4



「……この子達の相手をしてやってほしいんだ。」


子供達が、物陰からさらに身を乗り出してこちらに視線を投げかける。
期待を込めて。

「……しかしお前がいない間、俺様の安全の保障とやらはどうなる」

「シルビアがいれば大丈夫だろう。 さっきのパンチを見ただろう? あれはガチムチ傭兵をもこえ」

いいきらないうちにシルビアがガッ!とエルボーをオッレルスに喰わせる。
途端にオッレルスは泡を吹いてそのまま椅子から倒れる。

「………まぁ確かに、大丈夫そうだな。」

「……」

ギッ!というシルビアの視線が痛い。
それ以上に。

子供達の期待の視線が。彼にとって痛かった。

(……幻想殺し、 これが、 お前が言ってた事なのか?)

悩んでみたが、分からなかった。
しかし、それでいいのだ。
今まで孤独で誰も頼らず、一度の成功の為に誰にも手をさしのべず。
誰の笑顔も作れなかった自分にとって、そんな事分かる訳ないのだ。

『なら、これから確かめてみろよ。』

最後に、幻想殺しはそう言った。
少年は、結局、自分の、あれだけの事をしなければ誰一人救えないという幻想を殺せたのか。

分かる訳はなかった。
だけど、しかし、だからこそ。

694 : フィアンマ「……」 オッレルス「さぁ上がってよ」[] - 2010/10/20 20:15:12.92 VCdxcQQo 4/4


「おい、そこのガキども。」

びくっ、と一瞬だけ震えるが、安心したようにすぐ集まってきた。
子供達は全員嬉しそうな顔をしていた。

「……ふ、ふふふふ、まぁいいか、しばらくは……俺も子供達には幸せ以外望んでないし。」
と、オッレルスが泡を吹きながら言っていたが、その言葉は彼以外聞き取れなかった。

「ははは、よかったなぁ。」
シルビアはそう言って子供達の頭をワシワシとなでる。
子供達もおどおどしながら決して拒みはしなかった。

集まっていた子供達の中の、一人の少女が見上げながら質問してきた。
「ね、ねぇ一つ聞いていい?」

「……いいが?」

「わ、私ね、恩返ししたい人がいるの! だからどうすれば恩返しできるのか、教えてほしいの!」

「……そうか。」

そうだ、まずはこの子供の笑顔でも見てみるか。
ちゃんとした、正しい答えは与えられるか分からないけど。
それでも、あの少年が言ってた通り、やってみた方がいいに決まってる。



Fin