※関連
部屋とYシャツとミサカ
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「でさぁ、今着てるYシャツが彼のってワケ」
「マジ~?いいなぁ……」
「ああ、あの3年の彼氏さん?カッコイイよねぇ~」
ミサカだって着て来る筈だったのだ。
あの人のYシャツを。
少し大きさが合わないで身の丈に余るそれは、優しい包容力で持ってミサカを包んでくれる筈だったのに。
身の丈に余るどころか、身の丈に足りなかった。局部的な意味で。
現実とは、残酷だ。
「………はぁ~………」
「どした、御坂?なんか今日元気ないじゃん?」
「ううん。何でもないの気にしないで、ってミサカはミサカは……はぁ~」
何でもなくないじゃ~ん!と心配そうに揺さぶるクラスメイトには悪いが、
今朝の出来事を思い出すと溜息しか出てこない。
結局今日は普段通り自分のYシャツを着て登校した。
いくらブカブカだったところであんな新品を着たって何の意味もない。
「ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……」
「お、何だその言い様!御坂、彼氏いんの!?」
「え、マジ!?どんな人どんな人!!」
「年下~?年上~?ま、まさかこのクラスに………!!!」
「み、御坂は私のモンだからな!!彼氏なんて認めないぞ!!」
思わず漏らした一言にクラスメイトが食いついてくる(一人変なの混じってたが)。
しまった。
ミサカは彼氏って思われても一向に構わないケド……
って、ミサカはミサカは何考えてんのもうキャーーーーーー!!!!!!
「お~い、御坂~~~?」
「へんじがない ただのしかばねのようだ」
「また御坂のヤツがトリップしちゃったよ、アイツ妄想長いからなぁ……」
大覇星祭を一緒に回って、ミサカの応援にも来てもらって、
一緒にお弁当食べてそれからそれから…………
………アレ?これ彼氏っていうか父娘じゃね?
「起きろ御坂~~~、弁当食う時間無くなるぞ~~~」
「ハッ!ってミサカはミサカは何か違う想像から脱出してみたり!!!」
「今日の妄想は3分28秒と」
「御坂にしては短い方だったね」
「も、もう!!いいからお弁当食べよう!お昼休み終わっちゃうよ、ってミサカはミサカ
はここで話を中断!!」
いつもと同じく酷い言われようだ。
いいじゃないか妄想の一つや二つ。
こちとらもっと強力な妄想を放つDNA単位でそっくりどころかまるきし同じなお姉様が
いらっしゃるんだよ!!
って………アレ?
「どした御坂?また妄想か?」
「お弁当………ない………」
時刻は12時17分。
お喋りに夢中になっていたせいでお昼休みの1/5近くが終わってしまっている。
今から行っても購買は売り切れ状態だろうし、
学食は確か改装工事だとかで一週間くらい休みじゃなかっただろうか。
「ふ、不幸だ…………」
ミサカはどこかのヒーローさんか。
今朝のYシャツ問題に気をとられ過ぎた所為で玄関かリビングにでも忘れてしまったのだろう。
「うぅ………」
なんだか惨めな気分になってきた。
あの人のYシャツは結局着れず。お弁当も忘れ。
ミサカには、何にもないじゃないか。
「泣くな御坂、弁当くらい分けてやるから~~~」
そういえば今日帰って来たテストも赤点だった。
あの人にテスト中のミサカネットワーク使用を禁止された所為だ。
どこからかテストの日程表を入手したあの人は、
何の契約を交わしたのか知らないがネットワークを使えば番外個体から連絡が入るように仕向けていた。
「駄目だ話聴いてねぇし………つか、何か廊下騒がしくない?」
ネガティブな思考もあの人に似てきた賜物なのか。
ペットは飼い主に似るとか言うけどミサカはあの人にとってペット的なものなのだろうか。
「ホントだ。ちょっと見て来る」ガタッ
「あ。あたしも」
妹や娘的な立場とペット的な立場なら一般的に見てどちらが幸せなのだろう。
どちらにしたってあの人は不器用な優しさを持ってミサカを大事にしてくれるだろう。
「ちょ、大変大変!!なんか見たことないイケメンが廊下歩いてる!!」
「マジで!?」ガタッ
「年上~?年下~?」
「年上年上!!大学生くらい!!」
だがそれはミサカが求める優しさとはベクトルが少し違う気がする。一方通行のクセに。
『あらゆるベクトルを操作する能力』なら感情のベクトルも操作しろってんだ。
「今確認してきた。マジイケメン」
「どーゆー系~~?爽やか系?カワイイ系?」
「んんと、どっちか言うとヴィジュアル系?白髪赤眼の
「二次元から私を迎えに来てくれたのね、判ります!!!」ガタッ
イケメンかぁ……
ネガティブモードに移行していても都合のいい耳は都合のいい単語だけはバッチリ拾ってくるようだ。
ミサカにとってイケメンとは、あの人だけを指すものだ。
例えソイツがヴィジュアル系の白髪赤眼なんてミサカのタイプを真っ向から攻めてきたって………
ん?白髪赤眼?
「おい、御坂っつーガキがいンのはこのクラスか?」ガラッ
「な、なななななななんであなたがここに、ってミサカはミサカはミサカはミサカは……」
「なんで、って出張講師の仕事終わって帰ってきたらオマエが弁当置きっぱなしだったからワザワザ届に来てやったンだろォが」
「あぁ今日の仕事は能力開発指導だったのね、ってミサカはミサカはえぇ~~~!!!!」
どうしよう。物凄く嬉しい。
きっとあの人は講師を終えた後も他の仕事が山ほど詰まっていて。
しかしそれでもミサカのためにわざわざ学校まで来てくれたわけで。
心中ではさっきまであの人の悪口ばかり言っていたのに、身勝手な心は心機一転晴れ渡ってゆく。
「ホントに!!ホントにありがとう、ってミサカはミサカはあなたに抱きついちゃうキャーーーーーー」ダイブッ
「馬鹿野郎!!こちとら杖ついて……ってウオ!!!!」
急いでチョーカーのスイッチを切り替えてミサカを支えてくれたあの人は
「もう忘れんなよ、いつも届けてやれるワケじゃねェんだから」
と頭を掻き回して(撫で回しのツンデレ版だ)去っていった。
ハァ……やっぱりミサカにはあの人しかいない……って
「…………………」ジトー ←クラスメイトズ
「 」
「『ミサカはミサカはあなたに抱きついちゃう!!!』」ポソッ
「!!」ビクッ
「『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』」
「!!!!」ビクビクッ
「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!アレが彼氏かぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「ヴィジュアル系のお兄ちゃん系かぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
「ふざけんなよコンチクショォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!」
「御坂は私のモンだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!」
え、ちょ、何このテンション。
止めて来ないで追い詰めないでってミサカはミサカは………
「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~
……………不幸だ(本日2回目)。
「え、じゃつまり一緒に暮らしてるワケ?マジで!?」
「体弱いから家族の人と暮らしてるっつてたのに……まさか彼氏とはねぇ……」
「同居………もうヤることヤった?」
なんやかんやでクラスメイト3人(不穏な発言をするヤツは縛り付けて置いてきた)
を我が家へ招待することとなり、帰り道を賑やかに歩いてゆくミサカ一行。
どうやらあの人はミサカの彼氏として認識されているらしい。
ミサカとしては嬉しいが、あの人がこの光景を見たらどう思うのだろう。
「彼氏さん何やってる人?見た目は派手でも服装的にバンドとかじゃなさ気だったし」
「け、研究職!!能力開発に携わっててよく学会とかに出かけてるよ、
ってミサカはミサカは厳しい追及に焦りながらもついつい自慢しちゃってみたり!!!」
「学会っつーことは結構高収入てコトだよね?」
「クールで落ち着きあって高給取り………完璧じゃないか」
あの人も『クール』だとか『落ち着きがある』だとか表現されるようになったのね、
嬉しいわ……ってミサカはミサカはあの人のお母さん!?
でもやっぱり自分の友達からあの人を良く言われるのは……
………嬉しいな。
「着いたよ、ここがミサカ達の愛の巣さ!!ってミサカはミサカは調子に乗ってみる!!」
玄関を開けると、そこには見慣れない靴が何足も並んでいた。
普段は2人分(しかも1人1足)しか置かれていない分、4足というのは余計多い気がする。
「ただいま~~~ってミサカはミサカは疑問を前面に押し出して帰宅を宣言する~~~」
「「「おじゃましま~~~す」」」
3人を引き連れてリビングへと向かうと妹達とあの人のヒーロー、上条当麻が何故だか人の家で美味しそうにコーヒーを堪能していた。
「お。おかえり打ち止め」
「ただいま。そしていらっしゃい、ってミサカはミサカは挨拶をきちんと返すよ!
ところで今日はどうしたの?他にもお客さんが来てるみたいだけど……」
「ああ、俺は今日大学午後から休みだったから一方通行からYシャツ貰いに来たんだよ。
なんかサイズ違いのヤツ大量購入しちまったんだって?」
ナルホド。
今朝あの人がそんなことを言っていた気がする。
しかし1足はあの人、もう1足はヒーローさんとして残り2足は一体……?
「御坂と御坂妹も来てるんだ。なんだか生体電流のついて書斎で議論してるみたいで。
難しすぎて上条さんには全く判らないのですがねぇ……」
不思議そうにしてたのが顔に出てたぞ。
と付けくわえながらヒーローさんは懇切丁寧に教えてくれた。
下位個体も呼んだということは妹達の『調整』についての話なのだろう。
色々と複雑な経緯を経たが、
お姉様とあの人が普通に話をするような関係になったのはとてもいいことだと思う。
「じゃあミサカ達はミサカの部屋に行こうか、ってミサカはミサカは提案してみる」
「今ミサカのお姉様達も来てるんだ~、ってミサカはミサカは解説を加えるね」
「ほほう、つまりお姉様公認の仲というワケですなキミ達は」
「ち、違うよ!!いや合ってるけれどその解釈は違うよ!!ってミサカはミサカは……
「『合ってるけれど』?」
「/////」プシュウゥゥゥゥゥ・・・・・・
確かにお姉様はミサカ達が一緒に暮らしている経緯も
あの人が妹達を護ってくれている経緯も認めてくれたし理解してくれたけど!!!
あの人の行いを許したわけじゃないしそもそも認めたってそうゆう認めたじゃないし!!
「お、お姉様はあの人と研究のことでお話に来てるだけだもん……
ってミサカはミサカは……うう~~~~~」
「ハイハイ、からかってゴメンね御坂。」
「だってさぁ。話聞いてるとラブラブなのに彼シャツ着れないとかどうしてかな~って
気になっちゃって」
…………彼シャツ?
「言ってたじゃん、昼休み。『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』って」
「い、いや……それは……」
言わない言えない言えやしない。
あの人がスタイル良すぎてミサカじゃ入んなかったなんて!!!
「あ、あの……それはね、ってミサカは……ミサカは……」
ジリジリと歩み寄ってくる女子A~C。
アレ?これデジャブじゃね?昼休みと同じじゃね?つまり辿りつく結末は………
「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~
……………不幸だ(本日3回目、本家リビングにてグータラ中)。
「なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と」
「彼氏さんスタイル良さ気だったもんね~~」
「なんかダイエットでもしてんのアレ?食べても太らないとか女の敵?」
言わないであげて。あの人気にしてるから。
頑張ってお肉食べてるのに無駄な努力だねとか言わないであげて。
「あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!」
「考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……」
「そこを何とか丸めこんでさ~~」
「無理だよぅ……ってミサカはミサカは……」
何といえというのだ。
「あなたはモヤシだからミサカのでも着ていればいいのよ!」?
「べ、別にミサカのYシャツ着て欲しいワケじゃないんだからねっ!」?
………どこの超電磁砲だ。因みに本家は書斎である。
ハァ………所詮ミサカには彼シャツなんて無理な話だったのだ。
明日からも大人しく彼の買ってくれた自分用のブランドYシャツでも着ていよう。
「御坂」
なに?名もないクラスメイトA。
真剣な顔したところでケーキは出さないぞ。
「諦めたら、そこで試合終了だよ?」
……………………Aェェェェェェェェェエエエエエエ!!!!!!!!!!
「が、頑張る!頑張るよAちゃん!!ってミサカはミサカはここに宣言!!!!!」
「Aちゃんて誰だコラ」
次の日の朝。
今日もあの人は正装するらしい。
何といって声をかけようか。
ツンデレは駄目だ。あの人はあれでいて素直だから、そのままの意味で受け取るだろう。
うぅ~~~~
「おい、寝ぼけてンじゃねェだろうなクソガキ。遅刻すンぞ」
「あ、ウン!ってミサカはミサカは朝食にがっついてみたり!!」
「喉詰まらせンなよ、面倒臭ェから」
どうしようどうしようどうしよう。
今はまだパジャマだけど朝ご飯を食べ終えたらあの人は確実に着がえ始める。
その前になんとかミサカのYシャツを勧めないと……
どうしようどうしようどうしようどうしよう
「あ、そォだクソガキ」
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
「今日1日オマエのYシャツ貸せよ」
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうし………
…………………え?
「………え?今なんて……?、ってミサカはミサカは確認を取ってみたり……」
「だからァ、1日オマエのYシャツ貸せっつったんだろォがクソガキが。」
………これは、夢?
「昨日行った先の学校でバカ生徒にYシャツ汚されちまってよォ。
予備もクリーニングだし―――――――― オマエのなら多分ギリギリ着れンだろ」
夢、じゃない。
「で、でも……ミサカのだと袖短いし丈も長いよ……?、ってミサカはミサカは……」
「袖なら上着で隠れるし、丈は仕舞いこンじまえばなンとかなるだろ。
つーか、今日Yシャツねェ方が困ンだから文句なンて言ってられねェしよォ」
ミサカはあなたのシャツを着れないけれど。
いつでも一緒になんて、到底無理な話だけれど。
あなたは、ミサカのシャツと一緒に、ミサカといてくれるのね。
「ちゃ、ちゃんと大事に着てね、ってミサカはミサカはお願いするからね」
「あァ」
「ミサカだと思って、丁寧に扱ってくれなきゃ嫌だよ、ってミサカはミサカは……」
「大事にする」
ああ、どうしよう。
泣きそうだ。
「俺ァそろそろ着がえて行くから、戸締りちゃんとしとけよォ」
「う、うん任せて!ってミサカはミサカは胸を張ってみたり!!」
昨日の不幸は今日の幸福のためにあるものなのね、
ヒーローさんに教えてあげよう。
暇そうな穀潰しシスターと一緒に、惚気でも聴いてもらいながら。
出勤や通学ラッシュで混雑する駅前を、杖をついて器用に闊歩する一方通行は
携帯を開いて通話を始めた。
キチンとどちらかに報告を入れるように、小さな同居人の同じ顔をした『お姉様』から
念を押されている。
ピリリリ………と数回コール音を響かせてから、回線の向こう側の相手は電話をとった。
今日は2限からとか言っていたから、まだ寝ていたのかもしれない。
そんなことを気にする一方通行ではないのだけれど。
「オイ一発で出やがれ、三下ァ」
「こっちはまだ寝てたんだぞ?無茶言わないで下さいよ」
やはり寝ていたらしい。
「で、どうだった?ちゃんと借りれたのか?」
「あァ、まァな。適当言って借りてきた。今着てる」
「おうおう、素直に言えたんだなエライエライ。……嬉しそうにしてたか、打ち止め」
「嬉しそうっつーよりもどっか飛ンでたな、意識が。ボーッとしてた」
「それは何より。な、やっぱ上条さんの言った通りだったろ?」
「………ゴチャゴチャ煩ェんだよテメェはよォ………切るぞ」
「あ、ちょっと待って!!」だとか「少しは感謝しろよ!!」だとか聞こえてきたが、
まあ気にしない。
ウザイだけだ。
しかし打ち止めのあんな顔は久々に見たような気がする。
弁当を渡しに行った時も少しは見れはしたが、最近はコチラを見ては思い悩んでいるような顔ばかりしていた。
本当に久しぶりだった。
あんな、花が飛んだような笑顔は。
確かに少しは感謝すべきなのかもしれない。
全ては、上条当麻の計画通りだったのだから。
「折角友達来てるんだしさ、お茶の一つでも持って行ってやったらどうだ?」
超電磁砲や妹達との議論も一段落し何か飲むかとリビングに顔を出せば、
要件を終えた筈の件のヒーロー様は何故かのんびりとコーヒーを堪能していた。
「テメェ……帰ったんじゃなかったのかよ」
「上条さんチはお金がないのでクーラーつけられないんですよ、
大覇星祭間近のこのクソ暑い時期にだぜ?もう少しのんびりさせてくれよぉ……」
今にも人ン家で寝こけそうな三下ヒーローは、
どうやら打ち止めが連れて来たらしい客人とやらを持て成せと言っているらしい。
テメェがやれ。
しかし打ち止めが級友を連れてくるというのは本当に珍しいことだ。
三下曰く「家に友達連れて行くとそこん家のお母さんが茶やらなんやら出してくれるもん」
らしいので、あのガキ気に入りの紅茶とクッキーを出して部屋へと向かう。
一応は女(つってもまだ高校生のクソガキだが)の集まりであるわけだし、
ノックくらいはしておくべきだろう。
それくらいの料簡はある。
「おいクソガキ、入るz
『なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と』
『あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!』
『考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……』
『そこを何とか丸めこんでさ~~』
『無理だよぅ……ってミサカはミサカは……』
彼シャツ。
扉越しに話を聞くに、どうやら男のYシャツを女が身につけることらしい。
この前からYシャツYシャツ騒いでいたのはこういうことか、と納得する。
そうか、クソガキは。
俺を『俺のYシャツ』を着たいのか。
俺を、『彼氏』と呼びたいのか。
「彼シャツ、あの子の学校で流行ってるみたいね」
「………超電磁砲、聴いてたのか」
「アンタとアイツが騒いでた頃からずぅっと。あの子たち声大きいから全部丸判り」
「つまり一方通行は上位個体すらそのYシャツが着れないくらいモヤシというわけですね、
とミサカは一方通行をからかいます。プギャー」
………妹達はなにやら違う方向に個性が傾いている気がする。
それとも相手が俺だからだろうか。
「……で、どうすんのよ?着てあげるの?あの子のYシャツ」
「………」
「そもそもアンタはあの子のこと、どう思ってんのよ」
「因みにミサカは上位個体に恋愛感情を抱いていることを肯定した時点で学園都市第一位
はロリコンであると宣言するつもりで
アンタは黙ってなさい!!と超電磁砲が妹達にチョップをかましている。
関係。
アイツと俺の関係。
傍から見たら、俺達の関係とは一体どう見えるのだろう。
保護者と被保護者?
兄と妹?
加害者と被害者?
「…………判んねェ」
だが、恐らく。
「………アイツが望んでいるような感情じゃ、ねェと、思う」
「…………そう」
恐らく、俺がアイツにそんな感情を抱くことは一生ないだろう。
アイツは確かに俺が護るべき大事なモンで。
今もこれからもアイツのためにできることは何でもしてやることが変わらなくても。
アイツが本当に欲しいモンは、結局、何も与えてやれない。
「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな」
嘘をつくのは簡単だ。
好きだ、愛してる。嘘である方が逆に出て来る甘い言葉。
だが初めて会ったときから俺の核心を突いてくるアイツは、
すぐに気付いて、傷付けてしまう。きっと。
「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな。……泣かせるか傷つけるだけだ」
やっと理解できた。
思い悩んだ表情でこちらを見上げるそのワケを。
何かを求めるような、耐えるような眼をするそのワケを。
気付いたところで、何もやれない。
俺はアイツが望む感情を、持ち合わせちゃいない。
だから、俺は
「ふざけんなよ」
俺は、アイツと
「お前は打ち止めが大事なんだろ。例えそれが打ち止めの望むような感情じゃなくたって、
打ち止めのことを大切に思ってるんだろ
資格?泣かせる?ふざけんじゃねぇ!!
あの子の傍を離れようとするそのことが、何よりあの子を傷つけるんだろうが!!!
いいぜ、お前がそんな風に勘違いし続けるってんなら、
まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!!」
ドガシャァァアァァ!!!!!
怒り心頭といった表情で殴りつけて来るヒーローの顔は、
あの実験を体一つで止めに来た夜を彷彿とさせた。
チョーカーのスイッチを切り替えて能力使用モードにすることもできたが、
それは敢えてしなかった。
背中に突き刺さるフローリングの痛々しさが逆に心地良い。
「………結局。なンも進歩してなかったって事かよ、俺ァ」
「関係やら理由やら、難しい事はゆっくり考えていけばいいじゃねえか。
お前も打ち止めも時間はたっぷりあるんだから。その為に、お前は頑張ってるんだから。」
「………そォだな」
焦る必要はない。
アイツの『限界』は、俺がつくるのだから。
上条との通話を終えて電車へと乗り込んだ一方通行は隣の車両の窮屈加減を尻目に
指定席へと腰を据えた。
駅前の雑踏に思ったより体力は奪われていたらしい。
また妹達にモヤシやらホワイトアスパラガスやら言われそうだ。
ブルブルブル……ブルブルブル……
車両内だからとマナーモードにしていた携帯電話が着信を告げる。
三下からの電話だったら、「電車乗ってたから」と無視してやろう。
事実だし。
しかし念のために確認してみるとそれは電話では無くメールで、
送信先は『超電磁砲』となっていた。
大方三下から連絡を受けて送りつけてきたのだろう。素直じゃ無いくせにお節介な女だ。
『打ち止めのYシャツ着てあげたんだって?アイツの言った通り、あの子喜んでたでしょ?』
「やっぱ、お節介じゃねェか」
続きはまだ書かれていたが、どうせからかうような戯言ばかりが書き連ねてあるのだろう。
勝手にそう解釈してメールボックスを閉じた一方通行は、そこで大きく一度伸びをした。
携帯電話の待ち受け画面には、
彼と少女が色々な意味で幼かった頃に大切な家族達と撮った写真が収められている。
ぶっきら棒にカメラから視線を反らす自分。
豪快に笑う黄泉川。
素直になれない自分を小さく笑いながら嗜めている芳川。
そして、
満面の笑みの打ち止め。
「ま、今日も一日頑張ってやりますかァ」
長い長い人生の中で、
彼らがこれから歩む道なりは、地平線を越えた見えない彼方まで続いている。
『続・部屋とYシャツとミサカ』(完)
189 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[] - 2010/11/20 23:30:14.34 hUl0lC.0 18/18
そんなこんなで『続・部屋とYシャツとミサカ』、完結です。
個人的には『通行止め』というより
数年(6年後程度を想定。なので上条さんもギリギリ大学生)経ち少し成長した一方さんと
思春期真っ盛りの打ち止め、という形をとっていました。
一方さんが「一生かけても打ち止めに恋愛感情を抱けない」と言ったのは、
22巻のあとがきを読んで『初めて手にした大切な家族』という枠から打ち止めは絶対に
外れないんだろうな、と僕が思ったからです。
因みに本作の打ち止めも実はこれが恋愛感情か度の過ぎた家族愛(ブラコン)なのかは
自分でも判っていません。
ただただ恋に恋するお年頃、といったところでしょうか。
『家族』と思っていても時々「アレ?」となるのは、彼女の方はあり得るのではないでしょうか。
後書きまでこんな長々と申し訳ありませんでした。
続きを読みたいと仰って下さった>>125様、
いらっしゃいましたらお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
また何処かに出没しましたらせいぜい飛ばし読みしてやって下さい。
テスト前の机から、黄泉川家と禁書シリーズに愛を込めて。