296 : アイテムと猫 1[sage] - 2010/11/22 21:45:12.83 NVZxboko 1/7

 私は三毛猫である、名前は72通りほど付けてもらった
生まれは第7学区の神峯寺中学校という学校の男子寮と女子寮の間の狭い敷地で
そこの生徒たちが共同で面倒を見ていた親猫のもとに6匹の子猫の長女として生まれた。
ここで私はしばらくの間過ごすのであるが、流石に中学生が親もあわせて8匹も面倒は見れまいと考え
親と兄弟姉妹とで話し合った結果、親と身体の弱い末の妹のみを残し私たちはそれぞれ旅立った。

 旅立ったのは良いが食べ物はともかく、寝床が見つからないのは難儀した。
学生たちが人口のほとんどの学園都市では、彼らが給食やら弁当やらの残りをくれたり
給食のおばちゃんたちから野菜くずやらを貰ったりすることが出来たのだが。
そんな環境であるがゆえに野良猫たちは増えに増え、そのせいでよさげな寝床を見つけても大抵は先客がいるので
おおよそ私は寝るのに不便な場所で睡眠を取らざるを得なかったのである。

 そんな生活もしばらく続けば、生き物というのはたくましいもので、
今ではゴウンゴウンと1日中けたたましく音を立て続ける工場の側でも寝られるようになった。

 その頃になれば私もある程度一日の行動というものは決まってきて、朝起きればあすなろ園という孤児院へ行き
そこで朝飯の残りを頂き、その後適当に第7学区のあちこちをうろつく。
午前中はやれ根性根性とうるさい男に出くわしたり、スキルアウトの抗争を眺めたり、
ボケっと外をみている学生と目をあわせてみたり、どっかの家の犬と喧嘩してみたり、
顔見知りのじゃんじゃんうるさいアンチスキルのもとに行ってみたり、窓のないビルとかいう建物の入り口を探ってみたり、
たまに別れた兄弟姉妹たちと再開して近況報告したり、常盤台中学の寮監のところに行ってみたり、
刺青のつけた怪しげな研究者のところに行ってみたり、そんな事をして楽しんでから
昼に室谷小学校という学校の給食室のおばちゃんから昼飯の残りを頂いてその後やはり適当にうろつく。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-17冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1290001348/
297 : アイテムと猫 2[sage] - 2010/11/22 21:46:15.82 NVZxboko 2/7

 午後になると学校の終わった学生たちと出会うことがよくある。というより、会うためにうろついているのだが。
頭がお花畑な娘とその娘のスカートめくりが趣味な女子中学生たちと遊んだり、
なんとも影の薄い女子高生となんとも委員長っぽいその娘の友人と遊んだり、
なんとなくズレた常盤台中学の空力使いの女子中学生と
その友人の2人の水流操作の能力者の会話に聞き耳を立ててみたり、
ホログラムなんだか幽霊なんだかは知らないが霧ヶ丘女学院の制服を着た女子高生の足元に座ってみたり、
なんともゴツイ顔に似合わず子供に人気のあるゴリラのような男が率いるスキルアウトのところで遊んだり、
電撃ビリビリレベル5の女子中学生と不幸だなどと叫びながら逃げる高校生の追いかけっこを眺めたり、
幸運にも純白の修道服を着たシスターさんに飼われた弟とその飼い主さんと遊んだり、
そんな事をしている内に日が暮れると、今度はとあるパン屋さんのなんとも個性的な青髪をした高校生から夕飯を頂いて
あすなろ園の園庭の茂みにこしらえた寝床に戻り一日を終える。

 そしてたまに気が向くとこの都市の暗部と呼ばれる組織とかを見てみたりする。
この歳になって恥ずかしくないのかメルヘンな翼やらを使って次々に敵を血祭りにあげていく無駄にイケメンな男や、
何をやったんだかは知らないが、重装備の兵に次々と殺されていく研究員や、
マッドサイエンティストな男に率いられた組織がどうもこの都市に対し反乱を起こしたらしい組織を制圧したり、
いかにも怪しげな研究してますといった研究所をアンチスキルが一斉検挙していたり、
同じ顔をした少女たちが毎晩のように殺されていたりする。
そんなのを離れた場所から眺めているとなんとも言えない気分となり、猫の身ながら生きる意味とはなんなのかとなどと考えてしまうのだ。

298 : アイテムと猫 3[sage] - 2010/11/22 21:47:03.59 NVZxboko 3/7

 そしてその日も、パン屋で夕飯を頂いた後、あすなろ園の寝床に戻ろうと薄暗い路地を歩いていた
ふっと曲がり角を曲がろうとしたら。
ばったりと、綺麗な女性と出会った。

 正直、とても驚いた。こんな時間にこんな所に居ることがだ。
が、すぐに疑問は氷解した。何故なら彼女は何度か見たことがあったからである。
綺麗な長い茶色の髪、スタイルの良い身体、茶色がかった綺麗な瞳。
間違いなく、暗部抗争で何度か見かけたことのあるレベル5、麦野沈利その人であった。

 突然のことに驚いて立ち止まって彼女を見上げる、彼女も驚きこちらを見つめていた。
そうして十数秒、もしかしたらもっと経っていたかもしれないが彼女がポツリと言った

「わー猫だぁ、可愛いなぁ……」

 これはまた驚いた、普段「ピー」だの「ピー」だのとても文章に書けないようなことを平然と叫びながら
レーザーで敵を蒸発させている暗部組織の女ボスがこんなにも女の子らしい台詞を吐くとは予想だにしなかったので少々面食らってしまった。
そうして驚いて止まっている間に、彼女はズイとこちらに近づいて屈み込んできた。

「よしよし……あ、そうだシャケ弁あったんだった……たべる?」

 そう言いながら彼女は持っていたスーパーハラロクのロゴが付いているビニール袋の中から
『越後村上 鮭づくし弁当』とかいう名前の弁当のフタを開けると一切れの焼き鮭を取り出して私の目の前に差し出した。

「ほーら、シャケだぞー……美味しいかー」

 手渡された鮭を食む私を見て彼女はそんな事を言う、実際この鮭はうまい。
学園都市の養殖物とは違う天然もののようで、猫の本能に訴えかけてくるような旨さだ。
瞬く間に完食した私を見て彼女は微笑んだ。

「おー良い食べっぷりだ…あんたもシャケ好きかい?」

 にゃー、と一鳴きする。彼女はそうかと言って私を撫でてきた。
しばらく撫でられていたが彼女はふと立ち上がり、私に別れを告げて去っていった。

299 : アイテムと猫 4[sage] - 2010/11/22 21:47:51.30 NVZxboko 4/7

 翌日、私はいつものように朝飯を食べ、散歩に出かけた。
今日は気分を変え第8学区へ足をのばすことにした。
第8学区の古い町並みを抜けていくと塗装の剥げかけた古いビルを見つけた
はてさてこんな所にビルなどあったかな?などと思いつつそこを通りすぎようとしたが
かすかに、銃声がそのビルから聞こえてきた。

 私はその銃声がどうも気になった。ここは専ら教職員のための学区であり、
こんな所で銃声がするということはスキルアウトの抗争なんてちゃちなもんじゃなく
もっと大規模な、そう例えば違法な研究をしている研究員の摘発などかもしれない
もしかしたら大捕物になるかもしれないと考え、私はそのビルの銃声がする方へ向かった。

 で、銃声のしたところに向かうといきなりレーザーが私の目の前を通り抜けていった。
レーザーが目の前を通り抜けていくのは初めての経験だったので吃驚した、最近は始めての経験が多い気がする。
それはともかくとして私はさっさと物陰に隠れることにした、ここならば多少は安全であろう。
ひょいとそこから覗いてみると、どうも争っているのは研究員でもなければアンチスキルでも、ましてやスキルアウトでもないようだ。

「おらどうしたァ!第四位なら勝てるんじゃなかったのかァ!」

 レーザーが飛んできた時点でそんな予感しかしなかったが、片方は昨日の彼女率いるアイテムで
もう片方は見たことは無いが多分どっかの暗部組織かなんかであろう。
言うまでもないが戦況は圧倒的にアイテム有利だ、ここから名前も知らない暗部組織が巻き返すのは不可能だろう。
ふと視線を傾けると、彼女の背後に拳銃を持ってゆっくりと近づく男がいる、彼女はまったく気がついていない。
どうやらあの男の能力は周囲の人間から認識されなくなる能力か何からしい。
これは一大事である、彼女には鮭一切れの大恩があるのである。
私は物陰から飛び出すと男に向かって走り、思い切りそいつの足首に噛み付いた。
ぎゃあとか面白い悲鳴を上げた男は気づかれたことを悟り彼女に拳銃を向けるが、時既に遅しという奴で
哀れにも男は彼女の回し蹴りを喰らい動かなくなってしまった。
そいつが最後の抵抗戦力だったらしく、掃討を終えたアイテムの他のメンバーが戻ってきた。

300 : アイテムと猫 5[sage] - 2010/11/22 21:48:28.61 NVZxboko 5/7

「むぎの、大丈夫?」

 Tシャツとジャージといった服装の高校生くらいの少女が声をかけてきていた、確か滝壺とかそんな名前だったはずだ。

「ええ、大丈夫よ。こいつが助けてくれたからね」
「ねこ?かわいいね」

彼女は私の方に寄って来て、ひょいと抱き上げてきた。

「あら、あんた昨日の猫じゃない。こんなところでなにしてるのよ」

 散歩ですよという意味も込めてみゃーと鳴く、多分彼女はわかってないだろうが私のことを撫でてきた。

「超大丈夫ですか?麦野」
「結局、注意一秒怪我一生って訳よ。大丈夫?」

 建物の中からなんとも残念な発育…もといこれから成長するであろう期待に溢れた身体つきの少女が二人駆けてきた。
確か絹旗と…フレ…フレ…フレンド…?だかそんな感じの名前だったと思う。
彼女は二人に大丈夫だと返した。

「あれ?その猫どうしたんですか」
「ん?あー昨日ね、この猫に餌をあげたんだけど…その恩でも返しに来たのかしらね」

 別にここに来たのは単なる偶然であるのだが、まあ助けたことについては昨日の恩なので別に間違ってはないだろう。
ふと気がつくと妙に手をワキワキさせながらさっきの滝壺という少女が話しかけてきた。

「ねえむぎの、私にもだっこさせて」
「ちょっと待ってください、私も超だっこしたいです!」
「あ、私も!私もだっこしたい訳よ!」

 まあ待ちたまえ君たち、私が可愛いのはわかるが残念ながら私の体はひとつしかな…
って!バカ引っ張るな!やめろ!らめぇ!ね/こになっちゃうから!

301 : アイテムと猫 6[sage] - 2010/11/22 21:49:10.26 NVZxboko 6/7

 十数分後、私はぐでーとだらし無くシートに寝そべっていた。
彼女らの間でどういう話がついたのかは分からないがどうやら私を飼うことで話がついたらしい

「結局さ、ミサワよ、ミサワがキてる訳よ」
「……ばすてとにしろって西南西から信号がきている……」
「ナイトロジェンですね、超ナイトロジェンがいいと思います」

 どうもこの連中にはネーミングセンスが壊滅的に無いらしい
思えば弟もスフィンクスなんて名前だったし、この街の人間のネーミングセンスには期待してはならないのだろう。

「……あんたらねえ、猫の名前なのよ?もっとこう猫っぽい名前をつけなさいよ」
「じゃあ麦野はどんな名前がいいんですか」
「うーん、そうねえ……」

主は少し迷った末、口を開いた





「うん、じゃあこの猫の名前は────――

302 : アイテムと猫 終[sage] - 2010/11/22 21:50:20.94 NVZxboko 7/7

オチもなく終わり、お粗末様でした