美琴「はいはい、じゃ、待ってるからね」
上条「長かったな。誰から」
受話器を置くと
テレビから視線を外さずに
夫が尋ねてくる
美琴「ん、気になる」
上条「べ、別にそういう訳じゃねえけど」
ちょっとだけ照れたように
上条が言う
昔は美琴がそっち側だったのに
美琴「じゃ、秘密で」
上条「お、おう……」
しょんぼりした声で夫が言う
ここでかわいそうと思ってしまうあたり
自分はやはり、甘いのかと思う
美琴「うそうそ、刀旅からよ」
上条「なんだぁ」
息子の名前を聞いたとたん
ほっとした声を出す
ほんと、わかりやすい
美琴「夏休みに帰ってくるって」
上条「ああ、そうか」
今度は嬉しそうに呟く
でも、これは美琴もうれしい
上条「学園都市はどうだって」
美琴「『僕も自分が変な名前だと思ってたけど、上には上がたくさんいた』だって」
上条「じいさん二人の字を取った、いい名前じゃないか」
美琴「むかしから嫌がってわよ、あの子」
上条「むう」
悔しそうに呻く
自信があったのだろう
あの子の名前に
生まれる前に悩んでいる姿もおぼえている
美琴「あと、今年こそ『超電磁砲』を倒してみせるだって」
上条「……お前、手加減しないからなぁ」
美琴「獅子はわが子を千尋の谷に突き落として、這い上がってくる最中もレールガンよ」
上条「鬼か、お前は」
美琴「おほほ、負けイヌが言うわね」
上条「ぐう」
そう、幻想殺しは一度負けている
去年の春休みに帰ってきた時
どうせ打ち消されてしまうのならと
能力を使わなかったあの子に
上条「ま、仕方ない。年には勝てない」
美琴「そう?」
そんな事を言いつつ
雪辱戦の為
夫がボクシングジムに通い始めた事を
美琴は知っている
負けず嫌いなのだ
上条「ま、それはいいとして楽しみだな」
美琴「そうね」
上条「あの街でアイツがどう変わったのか、早く見たいもんだな」
美琴「そうね」
あの街で過ごした事は
美琴の宝物だ
だから、あの子にも
なにかを掴んでほしい
ただ、それだけを願う
了