642 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] - 2010/12/30 00:13:32.66 u/9wJto0 1/86レスほどお借りします。
上条さんで夜回り先生のパロディです。
上条当麻は教師歴3年の警備員である。
警備員としての活動の中で『帰る場所を失くし夜を彷徨う子供達がいる』事を知った上条は
元来の正義感と責任感から趣味、否、最早習慣として夜の街を歩いてはそこに棲む子供達と話をすることを続けていた。
「よっ、ビリビリ!今日も来てたのか」
「だ~か~ら~、私には御坂美琴って名前があるって言ってんでしょうがぁ!!」
挨拶代わりとばかりに発せられた紫電を楽々と右手で受け止めた上条は、深夜1時のコンビニ前を徘徊していた少女へと近づき
その茶色い頭をグチャグチャと撫でまわした。
「まーた寮抜け出して来たのか?寮監さん厳しいんだろ、怒られても知らないぞ?」
「アンタって奴はいっつも超能力者の攻撃にも物ともしないのね……」
上条の質問も無視し美琴と名乗った少女はまじまじと自身の電撃を打ち消した彼の右手を興味深げに眺めた。
学生時代をこの学園都市で過ごし能力開発を受けた彼が持つ『幻想殺し』は、学園都市第3位を誇る美琴の一撃を凌ぐ数少ない人物だった。
「お前が俺の右手にすんげー関心があるのは解ったからさ。いい加減帰んねえと危ないぞ、ビリビリ」
「誰に向かって言ってんだか。私は『超電磁砲』なんて恐れられる超能力者よ?」
名門私立学校『常盤台中学』に通うお嬢様の美琴が寮監からの叱りを受ける事を覚悟してでも深夜の街を歩くのには訳がある。
一つは超能力者としてのプライドから自身の攻撃を打ち破った無能力者の教師へとリベンジする事。
そして、もう一つは――――――
「レベル云々で言ってるんじゃねえっつーの。お前は『か弱い女の子』なんだから、何かあってからじゃ遅いだろうが」
自分を普通の女の子扱いしてくれる大人に甘えたいだけだなんて、美琴には言えやしない。
「んじゃ。もう俺は行くけどちゃんと帰るんだぞ、御坂」
ここぞという時はしっかりと名前で呼ぶあの馬鹿教師を何度ズルイと思ったか、美琴にはもう数えきれない。
「そんなんじゃ、何度だって来ちゃうわよ……バカ……」
美琴と別れた上条は、彼女が居たコンビニ周辺を回っていた。
居場所を失くした子供達はコンビニやファミレス、街灯の下など自然と灯りのある場所に集まってゆく。
(コンビニには今日はもういないかな……?)
2時間ほどの見回りを終えたので後は帰宅しながらの巡回にしようと考えた上条が帰路を辿ると前方から小さく掠れた呻き声が聞こえた。
喧嘩だろうかと思い歩を進めると、見慣れた天然の若白髪がコンビニ袋を片手に佇んでいる。
白髪の少年の周囲を確認すると1,2,3……合計6人の若者が各々武器を揃えながらも無残に転がっていた。
「また絡まれたのか、一方通行?」
「―――――ンだよ、テメェか」
美琴に続いて上条がよくこの見周りで見かける少年、
一方通行はコンビニ袋を杖が繋がった右手へと器用に持ちかえると余った左手で首元のチョーカーを弄り始めた。
上条はそれが彼の言語機能と計算機能を補佐するチョーカー型の電極であることを知っている。
彼がやんちゃだった時期も、どうして電極を必要とする様になったのかも全て知りながら上条は一方通行を護るべき普通の子供として認識していた。
「言っとくが先に手ェ出したのは――――」
「解ってる。救急車と警備員には連絡したか?」
台詞を奪われた事に調子外れとでもいう顔をしながらコクリと素直に頷いた一方通行の頭を一撫でした上条は、彼の肩を叩きながら軽快に笑う。
「ならヨシ。黄泉川先生の所でもイイ子にしてるか?ん?」
「子供扱いしてンじゃねェよ!あと気安く俺に触ンな!!」
顔を赤面させながら自身の右手を避けようと頭を振る一方通行に、彼の両手が塞がっている事を承知しながらも
そんな仕草がまだ子供なんだよなあと失礼ながら考えていた上条はハタと思いだしたように彼にも気軽に声をかけた。
「突然コーヒー飲みたくなったからってこんな夜遅くに出て来ちゃだめだろ、黄泉川先生達も心配するぞ。
それにあんまり飲み過ぎてもコーヒー中毒になって――――――」
「うるせェな、勝手に人の買い物袋ン中見てんじゃねェ!」
例え相手が第1位の超能力者だろうが、付き合ってみればただの人慣れない子供である。
困ったり悩んだりと忙しない多感な彼らを護りその成長を見届けるのが大人の役目。
上条の信条は相手が誰であろうと変わらないのだ。
なまじ白い肌だからこそ恥ずかしげに真っ赤に染まった顔が目立ってしまう一方通行をもう一度撫でてから
早く帰れよと促した上条は今度こそ帰宅する事にした。
普段はこの他にも無免許なのに特技は運転とぬかすスキルアウトの少年やレベルに伸び悩む女子中学生、
超超叫ぶ生意気小娘やら冷蔵庫という単語にヤケに反応を示すメルヘン君など様々な子供達に出会うのだが今日は大人しくしているらしい。
賑やかな彼らに会えない日というのは少しばかり寂しい様な気もするが
彼らが安心して床に着き朝を迎えられる場所でこの時間を過ごしているというならば、それは喜ぶべき事なのだろう。
そんな事を考えてニヤつきながらも安定した足取りで歩いていた上条は、
だがそれまでの空気を打ち消すように真剣な顔立ちをしてピタリと足を止めた。
閉店したパン屋の駐車場にある街灯の真下に、女の子が居る。
年齢は高校生程度。
胸元に巻いたピンク地のサラシの様な布と学校指定のブレザーとスカートだけという
タチの悪い男に捕まれば直ぐにでも襲われそうな際どい格好をした少女は、
街灯の下のコンクリートに膝を抱えて座り込み途方もない目で地面の亀裂を眺めていた。
「こんな時間にこんな所でどうしたんだ?」
警戒させないよう警備員の証を見せながら声をかけると
「間抜けそうなツラね」と手酷い一言を浴びせてから少女は自身の境遇をポツリポツリと語ってくれた。
「――――色々あって、帰るトコロ失くしちゃったの。
今朝まではホテルで寝泊まりしてたんだけどこのままじゃダメかなあってチェックアウトしてきて……結局居場所なんて見つからなかったけど」
良く見れば少女は所々大怪我をした痕があった。
何か複雑な事情がありそうだったが、上条はそれを敢えて尋ねない。
後々ゆっくりと聞いてみてあの子が話したくなったら話してくれればいい、そう思った。
「俺の職場に小萌先生って世話好きな人がいてさ、よく家出してきた女の子とか家に引きこんでるんだけど―――――」
上条の言葉に静かに顔を上げた少女は、間抜けそうと判断した最初の一瞥以降初めて彼と顔を合わせてくれた。
「見た目小学生くらいなのに煙草もお酒もガンガンやってて、君も一緒に暮らしてみると面白いと思う」
無理に説得するでもなく、まるでサークルにでも勧誘する様な口振りにポカンとしていた少女は
暫くするとクスリと笑ってその誘いに応じた。
「そのこもえセンセーの所には小さな男の子は居ないワケ?」
「え、何お前そうゆう趣味の人?いやどっちかってゆーと先生はロリで……」
少女を小萌が住むアパートへと案内しながら上条は夜の学園都市を見渡した。
多くの学生が生活するこの街には、多くの悩める子供達がその捌け口すら見つけられずに必死に手を伸ばしている。
上条はそのたくさんの手に少しでも多く手を伸ばしてやりたかった。
少しでも多く手を伸ばして彼らの抱える物を自分が、自分だけでは何ともならない時には自分の仲間達と一緒に抱えてあげたかった。
夜に棲む子供達が声にならないSOSを発する限り、上条当麻は夜の街を歩き続ける。
649 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] - 2010/12/30 00:21:55.46 u/9wJto0 8/8お付き合い頂きありがとうございました。
本当はこちらで書かせて頂いた別の作品の続きを書くつもりだったのですが………どうしてこうなった。
上条さんが教師になったら多分こんな事やってそうです。