クリスマスもとうに過ぎ去り、季節は年末。
学園都市を彩る装飾や、漂う雰囲気もどことなく静かだ。
良いことも悪いことも甘いことも苦いこともあった一年。
人々は過ぎた日々を振り返り新年を迎えるのだろう。
(私以外は、ね)
冷たい風をほほに感じながら、御坂美琴は拗ねたように口を尖らせた。
彼女は今、一人第七学区の大通りを当てもなく歩いている。
普段一緒にいることの多い友人たちの姿はない。
賑やかな面々は、それぞれに用事に忙しそうにしているらしい。
年末故、御坂自身もこなさなければならないことは山のようにあるのだが、
今はそれらを無視して街をぶらりと歩いている。
なんとなく、一人になりたかったのだ。
「さすがにクリスマスが過ぎると、人だかりもいつも通りになるのね」
当てもなく歩く大通り。
行き交う人の少なさに、そんな感想がこぼれた。
つい数日前には、恋愛の一大イベントであるクリスマスがあった。
たった2日間のことに、学生たちは異様なまでに熱をあげていたものだと思い返す。
一歩街に出ればハートを周囲にまき散らす大量のカップルが群をなし、
1人身の人間が「ケッ、なにがクリスマスだぁああああ!!」と吠えるのも馬鹿馬鹿しくらしくなる程の熱気。
「ま、私も人のこと言えないけど」
そんな伝染病のように学園都市を席巻した熱病であるが、勿論、御坂も発病していた。
「……勇気出して、失敗したかなぁ」
御坂は純粋に思ったのだ。
きれいなイルミネーションを一緒にみたい。
美味しい手料理をふるまいたい
選びぬいたプレゼントを渡したい。
――――出来ることなら、心の中を暖かく灯してくる感情を伝えたい。
そう思った。
だから勇気を出した。
そして、その結果、
「……撃沈、ってね」
ははは、と乾いた笑いが湧きあがる。
タイミング良くすれ違った同年齢くらいの女の子が、その笑いに驚いて小さな視線を御坂に向けた。
いつのまにか思考が口からタダ漏れになっている事実に気がついて、
ミサカは慌ててもこもこの手袋で覆われた両手で、唇を覆った。
(「ゴメン、俺が女の子として『好き』なのは……アイツだから」、かぁ)
迷う素ぶりすら見せなかったツンツン頭の男の言葉が脳裏に浮かぶ。
(あーあ、いつもは鈍感なナリしてる癖に、大事な所はかっこよく決めてくれちゃってさー)
はっきりと「好意を受け取れない」と言われてしまえば、どうすることも出来なかった。
うまくいくと良いわね、と良い女ぶった捨て台詞を吐いて逃げるしか、進むべき道は残されていなくて。
逆切れしたり、泣き落してみたり。
そんな風に、違った道を選択したら答えたのだろうかと、一瞬考え、
(…………ないわぁ。ないないない。絶対、ない)
あり得ないことだ、と自分で自分に突っ込みをいれる。
いっそ呆れるほど馬鹿正直な男が信念を曲げることなんて考えられないし、
曲がったことも卑怯なことも嫌いな御坂が出来ることでもない。
(なる様にしてなった、って考えるしかないのかなぁ)
御坂はピタリと足を止め、なんとなく空を仰いだ。
空は晴天。雲が空を覆う面積が若干多めだが、青空に変わりはない。
小説とかドラマとか漫画とかでは、
主人公が憂鬱な気分が心を満たせば、それに呼応して天気も崩れるのが定番なのだが。
残念なことに、御坂にその現象が起きることはないらしい。
「ほんと、嫌になるわね」
天気も時間も御坂をほっといていつもと同じに流れていく。
御坂は『超能力者』であるため、ある意味特別な部類に入る人間だが、それ以外は普通の人間に変わりないのだから当然ではある。
「…………ほんと、嫌になる!」
少しだけ、大きな声で同じことを空に向かって叫んでみた。
自動で動いている飛行船はもちろん、振り向いてくれる鳥もいない。
寂しいとは思わないけど、なんとなく空しくなる。ただ、それだけだけど。
彼に振られた。
御坂の恋は終った。
どれほど冷静に、愚痴をこぼす様に考えを巡らせても見えてくる結果は変わらない。
(―――――『御坂美琴は失恋した』)
ただ、それだけのこと。
(……そう、私は失恋、したのよねぇ)
それが、事実。
彼女が内に秘め続けた感情に将来はない。
彼の一言によってその命の源は断たれた。………断たれた、はずなのだ。
だと、いうのに。
「……嫌になるわ」
本当に、嫌になる。
「――――――わたし、まだ、アイツのことが好きなのよね」
振られたのに。
将来がないのに。
叶わないのに。
失恋、したのに。
「失恋したはずなのになぁ」
いつまでたっても御坂の中には彼への恋慕の炎が燃え続け、生きている。
恋を失ったはずなのに、彼への想いは変わらずに存在していて。
現実と幻想、理性と感情の間で揺れる乙女心に、居心地が悪い気分になる。
「あーぁ。いつになったら、私は恋を失うのかな」
ぐるぐるに巻いた大きすぎるマフラーに顔を埋めて、ポツリと弱音がもれた。
女の子があまり選びそうにない灰色の渋めのマフラーは、彼へ贈るはずだったもの。
贈ることが出来なかったが捨てるのも忍びなくて、御坂は自分用に流用した。
その行為すら、未練がましいけれども。
はぁ、と息が漏れる。
マフラ―の隙間から流れるそれは、空中で白へと変化し消えていった。
その溜息のように、内にある感情も空気に溶けていけば楽なのにな、と御坂美琴は苦笑いを浮かべた。
736 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga sage] - 2010/12/31 00:25:24.00 KcTg7Tc0 5/5終了ですお邪魔しました