898 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/02/06 11:18:02.50 0EZTS+qe0 1/12

ロシア編後のIF話。突拍子のない展開に「?」となって下さると嬉しいです。
シリアスですので苦手な方はご注意ください。グロさはありませんが微妙な死ネタも含みます。
10レスほどお借りします。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-22冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295367884/
899 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 1/10[saga] - 2011/02/06 11:19:00.37 0EZTS+qe0 2/12




眼が覚めると、ぼんやりとした視界の中、覗き込むようにして自身を窺う女性の姿が映った.


「あら。起きたのね、00000号」


――――――00000号?人間味の欠片も無いその『記号』が自分の名前なのだろうか。
頭の片隅に残る自分は同じ『記号』でも、もっと別の名前で呼ばれていた気がする。

湧きあがる疑問に00000号と呼ばれた少年が思わず首を傾げると、


「情報処理が追いつかないのかもしれないわね、目が覚めたばかりだし」


白衣を纏った女性に優しく言われた。
だが、決して崩れることの無い穏やかな表情とは裏腹に、女性が少年へと続けた言葉は非道く残酷なものだった。






「キミには他人の記憶情報が強制入力されているのよ……―――――学園都市第一位型クローン試作機、一方通行00000号」







900 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 2/10[saga] - 2011/02/06 11:19:55.82 0EZTS+qe0 3/12




「………クローン、ですか?」

「そう、クローン。―――学園都市が開発した先陣クローン『妹達』に関する情報は、キミに与えられた『一方通行の記憶』にあるわね?」


00000号の思考が記憶の海に沈む。在った、妹達。
1度は破棄された『量産型能力者計画』が採用され、学園都市第一位・一方通行を絶対能力者として昇華する『絶対能力者進化実験』の為に造られた
総数20000体以上に及ぶ軍用クローンの少女達。

しかし、


「出力できる記憶情報からは最後に遭遇した妹達、番外個体の生死が判別できないのですが」

「なら知識として書き加えておくといいわ。キミの素体である一方通行は極寒の地ロシアで学園都市から差し向けられた番外個体を撃破、
 しかし、その際負った傷が原因で回復した最終信号を伴い学園都市に帰還した後、死亡……―――とね」


キミが製造された理由はもう解ったでしょう?学園都市に2人といない稀有な能力『一方通行』をオリジナルに限りなく近い形で再現する為よ。
自身の製造者と名乗った芳川桔梗という研究者の言葉に、00000号には静かに頷く以外の選択肢は用意されていなかった。




901 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 3/10[saga] - 2011/02/06 11:20:53.10 0EZTS+qe0 4/12




「さあ、此処が今日からキミの生活の場となる家よ。『記憶』にあるでしょう?」


初めて使った杖は想定していた以上に体に良く馴染み、上出来と言える程度にはスムーズに歩を進めることができた。


「ゴメンなさいね。彼の能力が第二次成長を見せたのはミサカネットワークに演算を委託し始めてからだったから、
 電極の部分まで同様に再現するようにと上層部からのお達しなの。命令が撤回されたら弄ってある神経回路を戻してあげるから、
 それまで我慢して頂戴」


オリジナルに見られた能力の成長は妹達に代理演算を任せた為でなく、彼の中に1つの信念の様なものが芽生えた為ではないかと
00000号は与えられた『一方通行の記憶』から推測したが、研究職でもない上層部とやらにはそれが解らなかったのかもしれないと思考を断ち切った。

バグが発生して動かなくなったゲーム機を電源から落とすことで無理矢理停止させたような、そんな不自然な切断だった。




902 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 4/10[saga] - 2011/02/06 11:21:39.75 0EZTS+qe0 5/12




案内されたマンションの高級感漂う上層階の部屋へ入ると、
ジャージを着た芳川と同年代の女性と、水色のワンピースの上から男物のシャツを羽織った10歳前後の少女に迎えられた。


「おかえりじゃん、00000号!」

「おかえり!ってミサカもミサカも00000号に挨拶してみる!!」


出迎えた2人には覚えがあった。黄泉川愛穂と、打ち止め。芳川を含め3人とも『一方通行』と近い関係にあった人間だ。

彼女達は、何を思って自分と接しているのだろう。
死んだという『一方通行』の代わり?それとも、純粋にこれから生活を共にする『00000号』に対して?

造られた生命である自分が上位たる人間にそんな感情を抱くのも可笑しな話であったが、
その時は確かに、『家族』の関心を自分から奪う『一方通行』に嫉妬した。

彼女達を何の躊躇いも無く『家族』と呼べる事も『一方通行』の影響だと思うと、何だか寂しかった。




903 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 5/10[saga] - 2011/02/06 11:22:26.74 0EZTS+qe0 6/12




暫定的管理者となった芳川桔梗と黄泉川愛穂、そして同じく保護下にある打ち止めとの共同生活は何の障害もなしに上手くいった。表面上は。
予期していた通り、彼女達との生活には何処かしらで『一方通行』の影が射し、
時折混じる≪一方通行は○○だった≫という言葉に00000号は辟易していた。


「でね。そうしたらあの人はミサカに連続チョップしてきたのよ、ってミサカはミサカは――――……」

「そうでしたね、僕にも『記憶』があります。………しかしあれは打ち止めさんが全面的に悪いのでは?」


だからこそ、どれだけ求められても言葉遣いだけは頑なに直さなかった。一人称は常に『僕』、話し方は基本的に『敬語』。
≪家族なんだからそう畏まらなくていいのよ≫という言葉は、暗にオリジナルの独特な口調を強要されているようで嫌いだった。

もしかしたら彼女達は本心からそう言ってくれているのかもしれないが、最早半ば意地の様に00000号はそのスタイルを崩さなかった。


「ほら2人とも、夕飯できたじゃん!手洗って席について……――――桔梗、ツマミ食いはなしじゃん!」


『一方通行』さえ引き合いに出されなければ、きっと毎日が楽しくなるのに。
オリジナルであり自身の生誕理由となった彼に、00000号の中で憎悪の念が激しく揺らいだ。

真の『一方通行』の影は、もっと別の所で動いている事を気付かぬままに。




904 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 6/10[saga] - 2011/02/06 11:23:07.26 0EZTS+qe0 7/12




妹達と同じくして寿命の限られたクローン体である00000号には、定期検診の義務が課せられていた。
丁度調整の日取りが重なった打ち止めと共に、彼が最初に目覚めた第七学区の総合病院へと向かう。


「久しぶりだね、00000号君。今日は君にも調整機材を使う事になるから長く掛かってしまうが、我慢してくれるね?」

「はい、わかりました」


1度調整機材に繋げられると数時間はその場から動けないという事を、00000号は経験から知っていた。
そしてその調整が、自分にとって酷くどうでもいい代物であるという事も。

彼の世界はとても狭い。住人は同居人である芳川桔梗と黄泉川愛穂と打ち止め、加えて担当医の冥土帰しくらいだ。
自分を自分として見てくれぬ世界に、拘る理由があるだろうか。

00000号は徐に調整機材へと手を伸ばした。そこには緊急停止用のスイッチがある。
右手がスイッチを押してしまおうと力を込めようとしたその時、彼の思考を疑問が過った。


ピピッ


それは、機材が発する動作完了の音色だった。
だがあり得ない。普段を考えると調整用の装置がこんなにも早く全ての処理を終わらせる筈がない。

自分が機材を止めようとした事に気付いた誰かが下手に弄られる前に停止させたか、或いは本当に機械が動作を完了して自動停止したか。

どちらでも構わない。駆け寄って来るような人の気配がない事を確認した00000号は、そっと調整用に宛がわれた部屋から抜け出した。
何処か遠い場所に行ってしまいたいと、薄らに思った。




905 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 7/10[saga] - 2011/02/06 11:23:55.51 0EZTS+qe0 8/12




駆ける、翔ける。
00000号は走った。誰かに遮られてしまう前に、逃げてしまおうと。
行きつく先など彼だって知らない。知らずとも、雁字搦めのこの現実から脱してしまいたかった。

だが不意に、彼は自ら足を止める。
逃亡の為にベクトル操作によって研ぎ澄まされた五感が、通りがかったその部屋の前からぼそぼそと聞こえる自分の話題を察知した為だ。


「―――――……今日来て貰ったのは、君達の意思をもう一度確認する為だ」

「解ってるよ、ってミサカはミサカは承諾してみる」


何故だかそれがとても気になって、部屋の前に立ち耳を澄ませる。


「………00000号君は生活面も問題ないのかな?」

「うん。大丈夫だよって、ミサカはミサカは報告してみたり」


声と口調から、それが冥土帰しと打ち止めの会話であることが窺い知れた。
大丈夫だと?ふざけるな。
お前達が『一方通行』を押し付ける所為で、こちらがどれだけ苦心しているかなど知らないクセに。

00000号の中で怒りが湧いた。行こう。こんな話など聞いていて腹が立つだけだ。
そして、彼の足が再び冷たい廊下を踏みしめる。
が――――――――、




906 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 8/10[saga] - 2011/02/06 11:25:05.89 0EZTS+qe0 9/12




「しかし驚いたよ、君達が最初に彼を連れて来た時は」

「………あの人、すごく暴れていたものね。ミサカが演算を遮って無理矢理動けなくさせるまで、ってミサカはミサカは思い返してみたり」



―――――――え?
自分に暴れた記憶はない。会話の流れからしても『彼』というのは自分だと思うのだが、そんな覚え、一切なかった。
念の為に搭載された『一方通行の記憶』も探る。だがやはり、そんな情報は一切ない。

彼らは、一体『誰』について話している?




「でも本当に良かったのかい?今も繋いできた僕が言う事じゃないが、学習装置なんて使ってしまって。あれは君も知る通り………」



「いいの、ってミサカはミサカは断言してみる。だって、あんなあの人、見てられなかったもの。
 番外個体を救えなかった、って。あの人。あの人は何とかして助けようと必死に頑張ったのに、どうしようも無い事だったのに。

 心を壊しちゃうほどに責任感じちゃって、すごく暴れて、自分で自分を傷つけて。
 ミサカが動けないようにしたら、ゴメンなさいゴメンなさいって遠い目で呟き続けて……」




学習装置?今も繋いできた?確かにあれが学習装置であったというのなら、書き込み動作が早く完了したのも頷ける。
しかしあれは調整用の機材じゃなかったのか?その前に自分は何を書き込まれた?
いや、それより―――――――――――




907 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 9/10[saga] - 2011/02/06 11:25:51.76 0EZTS+qe0 10/12





「―――――――……あの人から全ての枷を外してあげたかったの、ってミサカはミサカは本心を吐露してみる。
 あの人は十分償った。だから、やり直しが必要だったの。あの人に自由に生きて欲しかったの。でも、あの人自身がそれを許さない。

 だからミサカ達はこの手段を選んだ。あの人に辛い事全てを忘れて欲しかった。だけどそうしたら、必然的にミサカ達の事も忘れてしまう。
 ミサカ達は『実験』がなければ出会う事の無い存在だったのだから。だから……――――――――」




打ち止めが、そこで言葉を切った。
聴いてはいけない。これ以上は聞いてはならないと脳が忠告するが、身体が一向に動かない。

痺れた様に床に縫いつけられた足が00000号を離さなかった。
そして、彼の耳に、続けられた残酷な言葉を届かせてしまう。





「だからミサカ達は学習装置を使ってあの人を、≪あの人の記憶を持った他人≫ にするしかなかったの。
ってミサカはミサカは自分勝手と知りながらミサカ達の行動を肯定してみる」





908 : アンドロイドは電気羊の夢を見るしかなかった 10/10[saga] - 2011/02/06 11:27:28.31 0EZTS+qe0 11/12




―――――――何と言うことだ。

あれだけ嫉妬していた『一方通行』は、学習装置でクローンだと信じ込まされた自分自身だったというのか。
製造当初から電極が施されていたのも付けたのではなく外せなかった為で、
『一方通行』を求められたのも全ては『一方通行』の為に用意された舞台であった為で。

芳川桔梗も黄泉川愛穂も打ち止めも、『一方通行』に日常を味わわせる為に『00000号』などという存在を造り芝居を打った。
その瞳はいつだって『一方通行』に向けられ、彼女達は『一方通行』の為に尽くして来た。


――――――では、『00000号』は?

何を言われようと、自分は00000号だ。それ以外の何物でもない。他ならぬ学習装置に、彼女達にそう刻み込まれたのだから。
結局、『00000号』に居場所はなかったのだ。生きる意味も、その価値も無い。


『実験』は、それは酷いものだったと思う。だがそれだけだ。
打ち止め以外直接対面した事のない妹達を、命を賭けてまで護ってやる道義などない。

面識ある打ち止めだって、『00000号』を蔑にするような相手なのだ。要は妹達と変わらない。
芳川も、黄泉川だって同じだ。



『一方通行』の、『00000号』の生存理由は奪われたのだ。



00000号が静かにその場を離れた。覚束ない足取りで、沈んだ瞳を揺るがしながら、当ても無いままに歩き続ける。




少年は、全ての枷を失った。それと共に、全てのモノも喪われた。
そして少年には、その喪失感に対し何の感慨も抱けない哀咽だけが残された。






≪アンドロイドは羊の夢を見るしかなかった≫(完)






何故なら、彼は元より人間<オリジナル>だったからだ。



909 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/02/06 11:28:18.16 0EZTS+qe0 12/12

以上です。最後の一文はタイトルに当てて。
もしも番外個体が助からなくて、一方さんの心が病んでしまっていたらというお話でした。
彼の幸せというのは一体何処に帰結するのか。そんな話ばかり書いている気がします。此処に書く度に陰鬱な話で申し訳ありません。
では!