219 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:51:15.79 cedehc260 1/7

夜の学園都市。
土御門元春は学生寮に向かう道を走っていた。

金髪頭にサングラス、上着の下にはアロハシャツ。一見すれば、どこかで遊びほうけた帰りの不良学生である。

しかし、彼は学園都市の裏組織『グループ』の一員、イギリス清教所属の魔術師、さらには多角スパイといった様々な裏の顔を持っている闇の住人だ。今日も「危険人物の削除」という、グループの仕事を終えたばかりである。

そんな彼が家路を急ぐ理由はただひとつ。彼にとって最も大切な人、義理の妹の舞夏が帰りを待っているからだ。

(くそ~、予想以上に時間がかかっちまったぜい)

本来ならば短時間で終わる仕事だったのだが、標的はしぶとく抵抗した。グループに被害が出るほどではなかったが、予定より時間を食ってしまう羽目になった。
よりにもよって、舞夏が夕飯を作りに来てくれる日に。

舞夏は土御門が闇の住人であることは知らない。そのため、土御門が帰りが遅れるという連絡をしたときも、いい反応をしなかった。
どうせ、馬鹿なことをして時間を潰したとでも思っているのだろう。

(馬鹿なことってのは当たりだけどな)

土御門も、好きでグループに入った訳ではない。学園都市の主に舞夏という弱みを握られたのがきっかけなのだ。他のメンバーも何かしらの弱みを握られている者ばかりだ。

しかし、土御門はそこで黙って従うような人間ではない。いつかお膳立てをしてくれた組織を使って、あの「逆さ吊りの男」に一泡吹かせてやろうと日夜考えている。
それが果てしなく無謀な行為であることを承知しつつも。

土御門の眼前に住み慣れた学生寮が見えてきた。愛しの義妹に会うまであと少し。

今日の失態を怒られないことを祈りつつ、土御門は足を速めた。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-23冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297083486/
220 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:52:28.78 cedehc260 2/7

「た~だいま~!」

元気な声が部屋中に響いた。

「おかえり、兄貴」

部屋のキッチンで鍋の火加減を見ているメイド服の少女、土御門舞夏が静かに応えた。

「悪い、こんなに遅くなって」
「まったく……こっちは帰って来る時間を逆算して料理を作ってるんだぞー。少しはこっちの都合も考えてくれないと」

舞夏は不機嫌そうに言った。視線は鍋から離さない。

「本当にごめん、舞夏」

土御門は申し訳なさそうに頭を下げた。そんな義兄の謝罪の言葉を聞くと、舞夏は微笑んで土御門を見た。

「次はもうちょっと早く連絡するよーに。はい、まずは手洗いな」
「ああ」

とりあえず舞夏の機嫌を直したと判断した土御門は、舞夏の横の流し台へ移動した。そして蛇口に手を伸ばそうとすると、

「兄貴」

舞夏が呼びかけた。

「ん?」

土御門は手を止めて舞夏を見る。まだ、何かあるのだろうか。

「サングラス」
「……そうだったな。うっかりしてたぜい」

土御門はサングラスを外した。無能力者の土御門はこの学園都市において、戦闘力が高いとは言えない。もう一つの顔である魔術師としての実力も今は満足に発揮できない。
しかし、そんな彼にも「ウソツキ」という武器がある。サングラスは相手に表情を読まれにくくする重要なツールの一つなのだ。

グループのメンバーやイギリス清教の仲間、不幸を自称する親友の前ですら、土御門は自分からサングラスを外したことはない。
彼のサングラスなしの顔を見るのは、目の前の少女だけに与えられた特権なのである。

「んーよろしい」

舞夏は土御門の手からサングラスを取った。土御門のサングラスは彼女が預かるのが、いつの間にか暗黙の了解となっている。

「兄貴はサングラスなしの方がいいと思うがなー」
「そいつは俺の一部と言ってもいい。今さら外すことはできないにゃー」
「うーん、もったいないなー。悪くはない顔なのに」
「ははっ、舞夏がそう言ってくれるだけで十分だぜい」

手洗いを終えた土御門は鍋を覗き込んだ。

「おお、今日は豚汁か」
「豚汁は野菜がたくさん取れるから便利だな。あとはそっちに煮魚があるし、サラダもあるぞー」

下宿学生は栄養が偏りがちである。土御門もその例外ではない。
舞夏は美味しいだけでなく、義兄の身体を考えた料理を作ることを心掛けている。メイドの矜持をかけて。

「兄貴、配膳をやってくれないかー?」
「了解だにゃー」

221 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:53:32.23 cedehc260 3/7

「久々の舞夏のご飯は格別ぜよ。また腕を上げたか?」
「ふっふー、メイドは日々進化しなければならないからなー」

夕飯を残さず食べ終えた土御門の反応に、舞夏は得意気に胸を張る。

「ところで兄貴、食器洗うのを手伝ってほしいんだが」
「了解。お安い御用だぜい」

二人は食器を流し台に持っていき、洗い始めた。とは言っても、洗うスピードは舞夏の方が断然早い。土御門があまり数をこなさないまま、食器洗いは終わった。

「……何かあったか?舞夏」


「ん?」
「いつもは、『一人でやる方が鍛錬につながる』って言うだろ?」

舞夏は義兄の家で食事を作ることもメイド修行の一環と捉えている。そのため、配膳や片付けも全て一人でやるのだ。

ところが今夜は土御門に手伝いを頼んだ。最初は自分が遅れたせいかと土御門は考えていたが、舞夏の雰囲気を見て別の考えに行き着いた。

舞夏は何か悩みを抱えているとき、いつも回りくどく伝えてくるのだ。

「あー……大したことではないんだが―」

「聞いてやる。舞夏が苦しんでいるのを、俺はほっとくつもりはない」

「……大げさなんだよ、兄貴はー」

土御門の真剣な眼差しに、舞夏は苦笑した。

222 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:55:00.80 cedehc260 4/7

「今朝夢を見たんだ」

「夢?」

洗い物を済ませた二人は、ベッドの下に並んでもたれかかっていた。

「一日中それが頭からはなれなくてなー。研修もちょっとミスしたし。全くメイド失格だ」

「どんな夢だった?」

ため息をつく舞夏に土御門は優しく問いかけた。

「……エグい夢だった」

一瞬、舞夏の手が震えたように見えた。

「いつも通りこの部屋にきたらさ……」



「兄貴が血まみれで倒れてた」



「兄貴の身体触ったら、すごく冷たくてさ……何度も何度も呼びかけても動かなかった」
「……」

土御門は黙り込んだ。舞夏が夢で見た状況に自分は幾度も陥っている。
ある時は敵の攻撃を受けて。またある時は自分の魔術の反動で。

「多分、前読んだマンガの内容が頭に残ってたんだなー。いやー、あれは失敗だった」

「俺だって、舞夏が血まみれになっている夢なんて見たらトラウマになる。そう気を落とすな」

「……真剣な台詞言うなよ。バカバカしい夢なのに」

そう言って顔をふせた舞夏を土御門は優しい目で見つめた。

223 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:56:20.75 cedehc260 5/7

「兄貴ってさ」
「ん?」


「たまに私の知らないとこで苦労してるよなー」



「……苦労?」

土御門は一瞬血の気が引いた。
まさか、自分のやっていることは義妹に筒抜けだったと言うのか。

「この学園都市に来るときも、何か大変みたいだったし」

舞夏が言った苦労とは、学園都市に入る手続きのことだった。最悪のシナリオが回避できたことに、土御門は安堵する。
「ああ、別に大したことはなかったぜよ」

あっけらかんと言ったが、嘘だ。実際はかなり苦労した。

学園都市に生徒として潜り込むことが決まった際、土御門が一番懸念したのは舞夏だった。
スパイという職業上、舞夏が危険に晒される可能性は高い。もし離れて住んだとしたら、舞夏を危険から守れるかは自信がない。
何より二人とも離ればなれになるのは嫌だった。

そこで土御門は、「舞夏も学園都市の住人になってもらう」という苦肉の策を実行した。
結果として、「逆さ吊りの男」から人質扱いされることにはなったが、魔術サイドの追っ手から身を守るにはこれ以上の場所はない。

「大したことないはずないだろー。まったく、ろくに相談もしないでさ」

舞夏は当時彼が苦労していたことに薄々感づいていたらしい。
あの時はまだまだ未熟だったからなと土御門は自嘲した。

224 : Imperata cylindrical[sage] - 2011/02/09 21:57:18.61 cedehc260 6/7

「兄貴」
「何だ?」

舞夏は土御門に寄りかかる。

「無理するなよ。兄貴までいなくなったら、どうなるかわからん」

無理をするなというお願いを聞いてやることはできない。無理をしまくったからこそ、今の生活がある。
自分たちが本当の平穏の日々を手に入れるためには、まだまだやるべきことが山ほどある。

しかし、これだけならば聞いてあげられる。

「いなくならないさ。俺たちはずっと一緒だ」

土御門は舞夏の肩をそっと抱いた。

舞夏を守るためならば、周りの仲間ばかりでなく、自分自身も犠牲にする覚悟はできている。しかし、それはあくまで最終手段だ。

舞夏にとって自分が大切な存在だということはわかっている。ならば、自分も生きて戻らなければならない。舞夏の笑顔を絶やさないために。

「ふっふー、兄貴にそんなクサい台詞は似合わんぞー」
「なぬぅ!この土御門元春の一世一代の名台詞を足蹴にするとはひどいぜよ!」
「だったら、いい加減メイド服をコスプレ扱いするのはやめろヨ」
「ぐ……それとこれとは話が別だぜい!」

舞夏は元気を取り戻したようだ。二人のいつも通りの掛け合いが始まる。

(俺は今も舞夏に心配かけてるのかにゃー?)

掛け合いを楽しみつつ土御門は考える。
彼女の心配が折り重なって悪夢を生み出したとすれば、本当に申し訳ないことだ。

一流のスパイならば、愛しの義妹に不安など与えてはならない。
もっと精進しよう。土御門は思った。

土御門舞夏の、ただ一人の守護神(ガーディアン)として。



225 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/02/09 21:59:27.53 cedehc260 7/7

以上です。ありがとうございました。

ちなみに「Imperata cylindrical」は茅(チガヤ)というイネ科の植物です。
花言葉が「守護神」ということで、タイトルに使いました。