647 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:18:14.99 BqdHP1mfo 1/6

二月十四日。

記憶違いでなければ、この日は女子が気になる男子にチョコレートをプレゼントするのが主な趣旨の特別な日だった筈だ。

学園都市の頂点。

レベル5の超能力者といえど例外に漏れず、御坂美琴も何日も前から密かに準備をしてきた一人だったりする。

だと言うのに、

「あ、あの……御坂様、もしよろしければコレを受け取ってもらえませんか?」

おどおどした様子の少女が可愛らしいラッピングに包まれたチョコを差し出してきた。

これで何個目になるだろうか。

「あはは……ありがと、大事に頂くわね」

礼を述べてチョコを貰うと、名も知らぬ少女の顔はパッと明るくなり『ありがとうございます!』なんて逆に頭を下げて去っていく。

一応、姿が見えなくなるまでその場で見送ってから、美琴は軽く溜息をついて寮に帰る準備をはじめた。


鞄を確認してみると、既に中身はカラフルな宝石箱状態のように色々なデザインのチョコで一杯になっていた。

「困ったなぁ、さすがにもうこれ以上は入らないし……だからって好意でしてくれてるのを拒否する訳にもいかないのよね」

誰を責めるでもなく、『ま、仕方ないか』と諦めて学校を出ると、何やらたくさんの人だかりが出来ている。

おや、と美琴が何気なくその辺りに近づていくと、

「いいですか、皆さん。先程決めたように順番を守って一人当たり制限時間三分までを厳守して日頃から募らせてきた想いを御坂様に全力でぶつけましょう!」

声を張り上げながら物騒な感じの宣言をしている生徒が集団の中心に立っていた。

(え、な、何? 何なの!? 私の名前を言ってた気がするけど一体どんな騒動に巻き込むつもりなのよー!?)

危険な雰囲気を察知して美琴はゆっくりとその場からフェードアウトしようと思ったのだが、

「御坂様!? 待ってください! どうか私達のチョコレートを受け取ってください!!」

ギラリと目を輝かせながら獲物を発見した動物みたいな勢いで、集まっていた女子生徒達が一斉に美琴に向かって走り出した。

もはや渡す順番など関係なく我先にと突撃してくる生徒を前にして美琴は猛ダッシュで逃亡を図る。

「あーもー! ったく、何だってのよー!!」

はたから見ればどこがお嬢様学校なのかと思われてもおかしくない光景がそこには広がっていた。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-23冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297083486/
649 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:19:06.55 BqdHP1mfo 2/6




──────数時間後。

あれから幾度となく似たような展開に出くわした美琴は、その度に全力で逃げまどいながら寮に戻っていた。

まだ肌寒い季節とはいえ、既に制服の下は汗でびっしょりだ。

「うぅ……疲れた。ちょっと早いけどシャワーでも浴びないとやってらんないわ……」

理不尽なイベントに振り回され続けたのもあって、少し乱暴にブレザーを脱ぐと美琴はユニットバスのドアを開ける。

と、そこには見慣れない茶色い物体が置かれていて周りにはヘラやらボウルやらの道具が転がっていた。

おまけに甘ったるい匂いが充満していて、ちょっと嗅いだだけでこれがチョコの匂いであると分かる。

この時点で美琴は嫌な予感がしたが、目の前の物体(どう見ても人型)がこの現状を作り出すために要した努力を考えると、
冷たくあしらうのも気が引けたのでとりあえず一芝居打つことにする。

「何だろうこれもしかしてチョコレートかしらそういえば今日はバレンタインデーだったわよねそれに黒子ったらどこいったのかしら」(棒読み)

自分で言ってて馬鹿らしくなりながらも、美琴がその物体(どう見てもツインテール)に一歩近づいた瞬間、

バキィッ! と殻が割れた音がして中から愛すべき馬鹿もとい同居人が現れた。

「あぁ、お姉様っ、この記念すべき日にどうかこの黒子をお食べになってくださいですのー!」

案の定というべきか、予想した通りの後輩の行動に呆れながら美琴は白井を受け止めてやる。

「あのねぇ……食べてって言われても、肝心のチョコだったアンタがそれを粉々にしちゃ意味ないでしょうが」

白井が「食べて」欲しいのはもちろんそっちの意味ではないのだが、美琴にそれを突っ込んだりはしない。
彼女も"分かって"言っているのを理解しているからだ。

650 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:21:32.73 BqdHP1mfo 3/6

「あー、確かにそれは盲点でしたわね。でもご安心くださいなお姉様、今回のアドバイスを参考に来年はもっと完璧なスイーツになってみせますの!」

「ちょっ……!? お、お願いだからやめてよね。アンタ、どんだけチョコを無駄使いすれば気が済む訳!?」

「無論、お姉様のお口に合うまでですわよー」

そんなやり取りを何度か続けると、美琴がバスルームにやってきた目的に白井が気付く。

「ちょっとお待ちになっていてくださいな。汚れてもいいようにこの場所を選んだとはいえ……さすがにこんな状態でシャワーを浴びるのは抵抗がありますものね」

そう言うと、白井は散らかっていた器材や作業中に飛び散ったらしいチョコを片付けだす。

美琴はしばらくその様子を眺めていたのだが、一秒でも待たせまいと白井が一所懸命に掃除するのを見て、

「どうせアンタも身体を洗わなきゃいけないんでしょ? 待ってる時間もなんだしこのまま一緒に入る?」

白井は美琴が何を言っているのか分からない、という感じだったがすぐにその意味を理解すると、

「も、もももももちろんですの! お姉様の肢体を洗うのはこの黒子にお任せをー!?」

予想だにしない展開に大興奮している白井を尻目に美琴は冷静に言い放つ。

「勘違いしてるみたいだけどそこまでやらせる気は全く無いし、あまりにもアンタがチョコまみれだから洗ってあげるだけだからね」

チッ、と白井が心の中で舌打ちをするが、それでも普段から考えれば大盤振る舞いというものだ。


そうして美琴と白井が二人で時間を過ごしているうちに、時刻はやがて門限に近づき始めていた。

651 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:21:59.22 BqdHP1mfo 4/6




「う、迂闊だったわ……」

隙あらば身体に手を這わせようとする白井の猛攻から身を守りつつ、シャワーから出てきた美琴を待っていた現実は残酷だった。

わなわなと震えた手で持っている目覚まし時計が指す時間はすでに門限を過ぎ、もうちょっとで夕食が始まってしまう。

決して忘れていた訳ではない。

だが結果として今日の為に美琴が用意してきた物はまだ手元にあり、そして今からそれを相手に渡しに行くには門限破りをするしかない。

だけど、それを円満に実現するには白井の空間移動能力に頼る必要があって、その白井にとって問題の"相手"は非常に面白くない存在だ。

(べ、別に絶対にあげなきゃいけないって訳じゃないん……だけど、でもせっかく用意したんだし……)

自分がチョコレートを用意した理由は一体なんなのだろう。

ふとそんな思考が頭によぎる。

きっと、それは──────アイツのことが


「先程から時計と睨めっこしてますけど、どうかしましたの? お姉様」

「えっ? あ、いや、何でもないわよ、うん」

時計を握り締めたまま、心ここに在らずといった様子でボーっとしていた美琴を心配して白井が声をかける。

「そうですの? ……わたくしはてっきりまたあの殿方の事を考えているのではと思ったのですけど」
 
そう告げる白井の表情がちょっとだけ曇るのを美琴は見た。

出来れば見たくない後輩の姿に、先程まであんなにドキドキしていた感覚はどこかに消えてしまった。

明るく笑って『そんな訳ないでしょ、何であんな奴のこと考えてなきゃなんないのよ』と言ってやりたいのに、
直前まで頭の中を支配していたあの少年の事をそんな風に話すなんて出来ないと心が叫んでいる。

652 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:22:54.71 BqdHP1mfo 5/6

そして、そんな気まずい空気を先に断ち切ったのは白井の方だった。

「違うなら、それで構いませんの。お姉様がこれから外出し、あの男に会いに行く為の後処理を引き受けなくて済みますもの」

その声はどこか優しいものを感じさせた。

「え……? 黒子、いまアンタ何て……」

「ですから、面倒な事はわたくしに任せてお姉様は自分がなさりたい行動を取ればそれでいいんですのよ」

だから早く行ってくださいな、と白井が美琴を急かす。

「でも、本当にいいの? 黒子はアイツのことが……」

そこまで言って、美琴はまた口ごもってしまう。

それに対し、白井は微笑みながら、


「───お姉様は今日がどんな日かお忘れですの?」

そう。今日はバレンタインデーで、その日が自分にとってどんなに大切な意味を持っていたかを美琴は思い出す。

さらに白井はこう続けて、

「今日ぐらいはお姉様の恋を応援したって罰は当たらないと思いますのよ」

何の冗談かと普段なら思うだろう。だが、確かにこんな日ぐらいはそういう気まぐれが笑って許されてもいいかもしれない。

「……そっか」

美琴は少しはにかんだ笑顔を白井に向けると、あの少年に胸に秘めていた想いを伝える覚悟を決めた。

「ありがと、黒子」

世話焼きな後輩にとびっきりの感謝をして、美琴はとある少年にメールを送りはじめる。

(ホワイトデー、この子にもちゃんとお返ししないとね)


三月十四日、そんな美琴の善意が裏目に出て大変な目に会うとも知らずに、彼女は意気揚々と待ち合わせ場所に向かうのだった。

653 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2011/02/14 14:24:09.43 BqdHP1mfo 6/6

終わり! 久々に短編書いたから緊張した!