741 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/03/05 00:41:38.61 vKcqBOCO0 1/86レスお借りします。
ステイルと小萌のお話です。
駄文ですが、よろしくお願いします。
学園都市に設けられた数少ない喫煙室。
(こういうのを、「風情がない」と言うのかね……)
赤髪の長身神父、ステイル・マグヌスは喫煙室の中で煙草をふかしていた。
ステイルが吐き出す煙は、彼が座る机の穴に吸い込まれていく。
これは分煙装置と言うらしい。
喫煙者とそうでない者が、同じ空間で過ごすためのものらしいだが、ステイルは好きではない。
煙が周りを漂う心地よい空間を、この装置は壊してしまう。何も喫煙室にまでつけなくてもいいだろう。
ステイルはガラス張りの喫煙室から、忌々しげに外を見る。
空は灰色に曇り、激しい雨が降り注いでいる。
いつもなら、全面禁煙などどこ吹く風で煙草を吸う。
しかしこの雨のせいで、屋内で煙草を吸う羽目になってしまった。
ガチャリ
ステイルのが座る椅子の後ろで、扉を開ける音が聞こえた。
「ふ~、やっと一息つけるのです」
小さな女の子の声だ。わざわざ喫煙室で一息着くということは、雨宿りなのだろうか。
「あれ?」
いや、違う。
自分はこの声を知っている。
ある意味、上条当麻よりも厄介な人の声。
「あー!!もしかして、あの時の神父さんですか?」
ステイルは恐る恐る後ろを振り返った。
扉の前には、見た目は子供でも中身は高校教師、月詠小萌が笑顔で立っていた。
「会いたかったのです。この前はちゃんとお礼も言えなかったし―」
「ただの応急処置だ。礼はいらない」
ステイルは小萌の言葉を遮った。
確かに、自分が魔術で『吸血殺し』を治療した。
ただ、それはこちらにも借りがあったせいもあるのだ。
「……むしろ礼を言わなければならないのは、僕の方だ」
「え?どういうことですか?」
小萌は首を傾げた。
「あの時あなたが治療を施してくれなければ、あの子の命は危なかった」
「あの子?」
「7月20日と言えば、わかるかい?」
「あ」
小萌が口に手を当てた。
かつて、小萌が魔術の発動を手伝ってくれなければ、自分が最も大切な少女は死んでいた。
さらに、部屋の天井を破壊される事態まで引き起こしたにもかかわらず、今もインデックスと仲良くしていることも聞いている。
ステイルにとって、小萌は頭の上がらない存在と言えるのだ。
「あの時はシスターちゃんの言うとおりにしただけなのです」
「それを言うなら、姫神秋沙の件も貴女の知識があったからこそ可能だった。僕は少し手を貸したに過ぎない。お礼を受け取るほどではないさ」
「むう……どうして先生にお礼を言わせてくれないのですかね~」
そうはいっても、お礼を受け取るのはどうしても納得できない。
ステイルは話題を変えるものはないかと考えた。
そう時間はかからずに、案は出る。
「それより、ここに来た目的を忘れているんじゃないか?」
「話をそらそうとしているのですか?」
「いいえ」
無論、話をそらすつもりだ。
「……じゃあとりあえず失礼するのです」
小萌はステイルの横に座り、持っている鞄を開けた。
しばらくごそごそと鞄をあさる音がした。
「あれ?」
音が激しくなる。そして、
「煙草、ないのです……」
落胆した声が聞こえた。
どうやら、家に忘れてきたらしい。
「うう、せっかく用事が終わったのに」
子萌はがっくりと肩を落としている。
まあ、同じ立場だったら自分も似たような反応をするだろう。ステイルは同情しつつ、口に咥えていた煙草を消した。
懐から煙草の箱を取り出し、新しい煙草を1本引き抜く。
ふと箱の中に目をやる。
残り本数にはまだ余裕がある。
「…………」
馬鹿なことを思いついた。
普段ならまずやらないことだ。
「へ?」
「ヘビースモーカーの苦しみは多少わかる」
「で、でも」
「僕の手持ちにはまだ余裕がある」
ステイルは煙草を一本、子萌の目の前に差し出した。
「ありがとう、なのです」
子萌はゆっくりと煙草を受け取った。
「火は?」
「ライターはあるのです!」
小萌は安物のライターを鞄から取り出し、掲げた。
ほどなく、2つの煙がゆらゆらと上がる。
学園都市内において、自分が目立つ格好であることは自覚している。
しかし、自分の横で煙草を満足げに吸う幼女(に見える大人)ほどではないだろう。
ステイルはそんなことを考えながら、小萌を横目で見ていた。
「ん?」
小萌の煙草を吸う姿に、ステイルは何かを感じた。
「はい?」
「いや……少しね」
彼女の仕草はどこか見覚えがある。
しかし、知り合いで煙草を吸う者はそう多くはないはずだが……。
考え込むステイルを小萌は不思議そうに見つめた。
「そうか、そういうことか」
既視感の正体がわかった。ある意味これは盲点だった。
「貴女の煙草の吸い方は、僕の吸い方と同じなんだ」
「ふ、ふふふぇ!?そ、そうですか?」
ステイルの発言に小萌はたじろいだ。
「煙草の吸い方は人それぞれ微妙に違うものだと思っていたが……」
「あはは、ぐ、偶然ですねー……」
小萌は顔を逸らして、ごにょごにょとつぶやいた。
心なしか耳が少し赤く見える。
(?何か気に障ったのか?)
それ以降、小萌は一言もしゃべらずに煙草を吸っていた。
ステイルとしては、静かに煙草を吸うという目的が達成できたので、喜ぶべきことではある。
しかし、何か釈然としないものがあった。
「そろそろ行くか」
ステイルは煙草を消し、立ち上がった。
「へ?もう行くのですか」
「一服はもう済んだ。外もマシになったようだしね」
先ほどは激しく振っていた雨も、今は小降りになっている。
部屋を出るにはいい頃合いだろう。
「それでは失礼するよ。もう前みたいに追いかけてこないように」
「ちゃんとお礼をさせてくれたら、そんなことはしないのです!」
呆れたような口調のステイルに、小萌は反論した。
ステイルはやれやれと肩をすくめた後、扉の前に移動した。
そして、扉の取っ手に手をかけようとした時。
「ちょっと待ってください!」
後ろから小萌の声が聞こえた。
「何だい?」
ステイルは面倒くさいと思いつつ振り向いた。
「あの……神父さんとはまた会えるのですか?」
小萌は不安げな目でステイルを見つめた。
「…………」
自分と彼女は住む世界が違う。よって、会えない可能性の方が高い。
そう言って、部屋を出れば済むことだ。
だが、ステイルはそれを口に出せなかった。
普段は上司にすら暴言を吐くというのに。
「……煙草」
「え?」
「僕は基本的にイギリスの煙草しか吸ったことがなくてね」
今日は何かがおかしい。
「できれば、でいいのだが」
任務で疲れたのか。
煙草を吸いすぎたのか。
それとも。
「今度会ったときは、日本の煙草をいただけるとありがたい」
自分はこの人の、汚れなき目に惹かれてしまったのだろうか。
了
748 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2011/03/05 00:54:09.18 vKcqBOCO0 8/8以上です。
小萌は未成年の喫煙を注意しないのかとか。
ステイルはこんなキャラじゃねーだろとか。
色々ツッコミどころは多かったと思います。すいません。
でも、この2人に会話させるのって結構難しいんだよ……。