「……来たか」
路地裏に、ゴリラのような大男が佇んでいる。
彼は路地裏の入口から駆け寄ってくる少女に軽く手を上げる。
「おっ待たせー♪ あの子は今日も元気してる訳?」
「喧しくてアジトが警備員に割れるのではないかと危惧する程度にはな」
少女はチッチッと指を振り、
「結局そのくらいでなきゃセイヴェルン家の女子とは言えない訳よ」
おどけた調子でそう宣う。
「フレンダお姉ちゃんだー!」
「やっほーフレメア! 久しぶり!」
大男の背後から飛び出してきた女の子--フレメアを思い切り抱き締める少女--フレンダ。
「結局、いつも面倒見てて貰ってありがとうって訳よ、駒場さん」
「なに、気にするな。好きでやっている事だ」
「にゃははー♪ お姉ちゃーん♪」
フレンダに頬を擦り寄せるフレメア。
「結局かわゆいやつめー!」と言い頬擦り返すフレンダ。
大男--駒場はその様子を、僅かに頬を緩めながら、静かに見つめていた。
「それで、『仕事』を辞める目処はついたか?」
「結局、いい加減に足を洗いたいってのは、ある訳なんだけどねえ……」
フレンダは駒場から目を逸らし、とある少女達を思い浮かべる。
「出来ればみんな一緒に辞められるのがベストだけど、みんながそれを望むかどうか……」
「ふむ。お前の仲間にも、それぞれ込み入った事情がある、という事か」
顎に手をあてて思案する駒場。
「あー大丈夫大丈夫! 私、頑張って説得するから!」
「失敗する気がしてならないんだが……」
「ちょっとおー!? 少しは信用して欲しい訳よー!?」
「冗談だ」
「大体ジョークに聞こえないよ? 駒場お兄ちゃん」
サラッとフレメアに指摘され、酷く狼狽する駒場。
こんな子供に振り回されっぱなしの情けない男が、どうしてスキルアウトのリーダーなんて立場にいるのだろう?
フレンダは脳裏にそんな疑問が過ぎったのだが、彼の名誉の為にそれ以上考えない事にし、ニヤニヤと二人のやり取りを見つめる。
(コレはいわゆる『萌えポイント』って訳よ、うひひひ☆)
「おなーべー! うにゃー♪」
三人で近くの鍋料理店に赴く。
周りから見たら、自分達は一体どう見えるのだろう?
……まさか駒場が誘拐犯に見えていないだろうか?
などと要らない心配をしているフレンダの前に、注文した石狩鍋がドッカリと置かれる。
「シャッケシャッケにゃっふふ~♪」
「あれ? フレメアってシャケ好きな訳?」
「うん! 大体大好き!」
仕事仲間のサーモンジャンキーもといセクシー担当を思い出してほくそ笑むフレンダ。
「楽しそうだな」
「そりゃ当然な訳よ。結局、愛する家族と鍋をつつくなんて、至福の時間だと思わない?」
「ああ、その通りだな」
不器用に微笑む駒場に、悪戯な笑みを返すフレンダ。
「なになにー? ひょっとして、『俺と家族にならないか?』とか訊いちゃう訳ー?」
「そ、そこまでは、思ってないぞ? まったく、からかうなよ」
表面上は平静を装っているつもりだが、言葉にはあっさり出てしまう駒場。
「春菊。にゃあ」
気づけば自分の器が春菊だらけになっている。犯人は十中八九フレメアだ。そう確信した駒場は、
「野菜も食わんと大きくなれんぞ? ほれ、春菊返しだ」
「ふぎゃー!?」
この人絶対いいお父さんになれる、フレンダはそう思って微笑んだ。
「お姉ちゃん、次はいつ会える?」
食事を終えていつもの路地裏。
瞳を潤ませ上目遣いで尋ねてくる妹に不覚にも萌えつつ、フレンダはニッコリ笑って答える。
「フレメアがいい子にしてれば早く会えるわよ?」
「うん! 大体いい子にしてる!」
「「待てる女はイイ女!」」
「だもんね♪」
「そーゆー訳♪」
またねーと大きく手を振りながら去っていくフレンダを、どこか物悲しい表情で見送る駒場。
「大体駒場お兄ちゃんって、フレンダお姉ちゃんの事……好き?」
「うっ! な、何の事だ? いや、結局嫌いな訳じゃないが……」
本心を見透かされて、動揺を隠せず狼狽える駒場。
「大体やっぱりねー」と言って悪戯に微笑むフレメア。
珍しく真っ赤になった大猩猩は、彼には不似合いな西洋人形を大事そうに抱えて『森』へと帰っていった。
321 : 大猩猩と西洋人形[saga] - 2011/03/16 19:34:02.67 SkEKgutAO 6/6終わり
うん、本当にゆるいぜ