337 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage saga] - 2011/03/17 02:34:46.70 iw5KxnVX0 1/10>>263です。
続きっぽいのを書いたので投下させてください
木原と一方通行が仲良く一等賞を目指すお話
8レス、またも未完
※関連
第一位のつくりかた
http://toaruss.blog.jp/archives/1025839277.html
「木原さん」
誰だっけ。
同じ研究室の、多分新人かそこらの研究員が後ろから走って来た。
コスト削減で電灯が少なく、薄暗い廊下。妙に足音が響くので耳障りだ。
「あーっ? 走るんじゃねえよ。うるせえから」
「す、すみません」
新人は小走りをやめたが、木原はゆっくり歩き出した後輩を止まって待つでもなく、ずかずか歩き続ける。
仕方ないので、新人はすり足の早歩きで木原の隣まで追いついた。
「あの、一方通行の件ですが」
「めんどくせ。消えろ」
「え、あの……」
ここで、はい分かりましたと素直に消えない程度には、我の強い人間だったらしい。
新人研究員は多少申し訳なさそうにしながらも木原の横を歩き続ける。
「彼を暗闇の五月計画に渡すというのは本当ですか? 『未元物質』の演算パターンじゃ、『一方通行』には応用利かないと思うんですけど」
学園都市第一位の超能力者、垣根帝督の演算パターンを他の能力者に植えつけて能力の向上を図るプロジェクト。
それはつまり、他の能力者に垣根なりの『コツ』を分け与えるということになる。
畑違いの能力者に施しても、あまり意味がないだろうというのが彼の意見だ。
将棋の棋士にマジックのテクニックを教えてやるようなもので、多少は視野が広がるかもしれないが、その程度なら詰将棋でもしていた方が有意義である。
「相性が悪すぎます。それに、人格にも影響が出るって聞きましたよ。まあ、あれ以上悪くなることはなさそうですけど……でも、」
「あーあーあーもーうるっせえなあー」
歩きながらうんざりした声を吐き出す木原。声は廊下の向こう側まで届き、響き渡りながら耳に戻って来る。
「その件はなあ、あいつが次の測定でいい線行ってたら取り下げてやるからいいんだよ。あいつにはこれが最後のチャンスだと言ってある。次の測定でも暗闇の五月計画の後でもダメだったら追い出すぞってな」
「嫌ならがんばれって事ですか……根性論ですか? 木原さんらしくないです」
「ばぁーか。根性でレベルが上がるか、ばぁーか」
何故二回言った。
新人はむっとしたが、すぐにまた喋り出す。
「じゃあ、どういうつもりなんです?」
「俺のカンじゃ、あいつは次の測定でレベル4の一歩手前くらいの成績出してくるはずだ」
「無茶ですよ。この間測った時は『オマケで3』ってくらいの数値だったそうじゃないですか。頑張ったってレベル3の真ん中あたりでしょう」
「何をどう頑張るってんだバカ。さっきも言ったろ。根性でレベルは上がらねえよ」
「根性じゃないならどうやって上げてくるっていうんです? 測定日までに猛特訓っていうなら結局根性ですよね」
「はーっ、ここまで言って分からないかねえ」
木原は、改めて隣の若い男を眺めた。
本当に誰だっけ、こいつ。
「俺が相手するバカは一人で充分だ。本当にそろそろ消えろ」
「……」
新人はまだ何か言いたそうだったが、これ以上得るものはないと判断したらしい。
軽い会釈と挨拶の言葉を残して、薄暗い廊下を引き返して行った。
一人になった木原は考える。
先程言ったとおりただのカンだが、次回一方通行はレベルを上げてくると踏んでいる。
前々からそういったフシは見受けられたが、どうやら彼はわざと自分の評価を下げているらしいのだ。
つまり、その演技をやめればレベルは上がるという事。
(わざわざバカの振りをするとは、嫌味だねえ……)
何故彼がそんな事をするのかは、大体想像が付いている。
悪目立ちすると碌なことがないということを十歳の時すでに学んでいるからだろう。
それでも、それを押してもレベルアップしなければならない事情が、今度の彼にはあるはずだ。
木原はそう確信している。
最初に測定した時、一方通行はレベル2だった。
そして、木原が「こんな役立たずはさっさと余所へ処分するか」とぽろっと口にした直後の測定で、彼はレベル3に上がった。
生意気に反抗して見せているが、結局のところ、少年は木原に見捨てられることを何より恐れている。
どん底に落ちるぎりぎりの所で彼を引き上げたのは、手を差しのべたのは、木原数多ただ一人なのだから。
その手を放されたら戻って来られない。
他の誰に拾われようと、木原に捨てられたら生きては行けない。
三年掛けて木原が刷り込み、一方通行自身が信じ込んだ、強迫観念だった。
(あのガキが本当にレベル5の才能を秘めた化け物なら……面白いことになる)
レベル5の価値は、学園都市にとって絶大である。
そして、その精神を掌握しているとなれば、彼自身の力も一気に跳ね上がる。
(本性引きずり出してやるよ。何が何でもな)
次の測定で一方通行は律義に上げて来た。
予想通り、レベル4のギリギリ手前。
「木原くン木原くゥン、たらこスパゲティの海苔が偏ってオマエの顔の刺青みたいになってるンですけどォ」
「お前はバカだね~~~~、一方通行クン。食い物で遊んでる暇があったら勉強するか死ね」
「すっげェ、このパスタ木原そっくり」
「死ね」
ぎりぎりレベル4寄りのレベル3になってから二年。
少年は十五歳になっていた。相変わらず色は白い。
あれ以来、一方通行の成績は上がっていない。
同じように脅しつければ上がっただろうが、この二年は木原の方にその余裕がなかった。
何度考え直してもどういう理屈で決まったのか分からないが、暗部の小組織のリーダーに仕立て上げられてしまったのだ。
科学者を暗殺集団の指導者に据えて一体何の意味があるのか。
学園都市の発想はつくづくぶっ飛んでいる。
おかげでグレーゾーンで踏ん張って来た両足を、学園都市の暗部にどっぷり浸からせる羽目になった。
そして本日は、その真っ黒な世界に秘蔵っ子を巻き込もうという魂胆である。
自室のテーブルに置かれた一皿のスパゲティをフォークでつつく(顔に例えるなら丁度鼻の穴あたりを執拗に狙っている)一方通行の傍へ、木原は近寄った。
「おいクソガキ。お前バカだし暇だろ。ちょっと働け」
「バカは全然関係ねェだろ。面倒くせェからパス」
「説明するぞ。この間下っ端が大勢死んじまって、新規クズの補充まで一週間かかる。その間にくだらねえ用事が来ちまった」
「俺はやンねェって……」
「絶対能力進化計画って知ってるか。知らねえよな、バカだから」
「いちいち再確認させンじゃねェよ。どォせバカですよ」
「そんな当たり前の事はどうでもいい。絶対能力進化計画ってのはつまり、能力者を前人未到のレベル6に引き上げる計画だ」
「……ハァ」
一方通行はあきらめたのか、フォークを置いて話を聞く姿勢に入る。
「レベル6だと? どォせ第一位様が頑張ってンだろ。レベル3の俺に何しろってンだ」
「後片付けだ」
「何の」
「死体」
少年は押し黙った。
それでこそクズのお仕事だ。
もしいくら死んでもいいような人間の死体なら。
「……随分物騒な実験じゃねェか。最初から誰か死ぬのが分かってンのか」
「殺すのが工程の一部だからな」
「そりゃヒドイ」
「今日の分は一体でいいはずだから、楽だぞ。お前はラッキーだ」
「今日の分? 一体でイイ? 何日掛けて何体出す気なンだよ、死体」
「期間は知らね。出る死体は全部で十万体」
「じゅゥまン!?」
流石に驚いて椅子を鳴らす。
口を開けて見上げてくる一方通行へ、木原は事務的な調子で説明を続ける。
「十万通りの戦闘環境で能力者を十万回殺害すると、経験値が溜まってピロリロリン♪ って事なんだとよ」
「十万人も黙って殺されてくれンのかよ。第一位のレベルアップのために? カルトの教祖様か」
「いいや、クローン人間だよ。感情なんかない。第二位の超電磁砲の遺伝子マップを使って、能力者を量産したんだ。もとはレベル5の大群を生み出す目的で作ったらしいが、せいぜいレベル2か3どまりの能力者しか製造できなかったんで頓挫したとか」
「十万人も無駄に作ったってのか?」
「量産計画で余った奴はみんな死んだよ。垣根が実験に承諾してから追加製造中だ。第一位様がどんどん殺してくれるんで、製造のほうがおっつかなくてヒーヒー言ってるらしい」
「……引くわァ」
「全くだ。天才の考えることは分からないねえ。で、天才でも何でもないクズの出番だ。今日の予定は第一七学区の操車場で一体殺害。その死体を回収して処分するのがお前の役目だ」
「ヤでェーす」
「行け」
一方通行は首根っこを掴まれ、外へ蹴り出された。
勝てなくはない、と思った。
一番最初に第一位に出会った、悪夢のようなあの日。
特に何の感慨もなさそうに、まるで目覚まし時計でも止めるかのように当たり前の調子で、自分と同じ顔の少女の頭を叩き潰した男。
垣根帝督。
学園都市最強の超能力者。
次点である第二位の御坂美琴は、その最強の座に君臨する男を見据えて立っていた。
第一位の向こうには力なく横たわる少女。
倒れる少女もまた、御坂のクローンだ。
肩が少し揺れている。
か細い息遣い。
今日殺される予定の少女がまだ生きている事を確認し、彼女はほんの少し安堵する。
まだ、助けられる。
私が勝てれば。
「それで? このクローンの命を救うため、俺に勝負を挑みたいというわけか――第二位」
「そういう事」
垣根は鼻で笑った。
以前、第一位と第二位の間には実力的に大きな差があると言われた事がある。
学園都市にたった六人しかいないレベル5の頂点と、その次。
他の能力者たちからすればどちらも雲の上の存在だが、頂上同士の間にも優劣は確かに存在するのだ。
しかし、届かない相手ではない。
手も足も出ないなんて事はない。
絶望的過ぎる差ではない。
出会ったその日に見た第一位の力の片鱗を思い出し、御坂美琴は小さく頷く。
「悪いけど、本気で行くから」
そう、本気なら。全力なら、どうにかなるかも。
ではなく、どうにかしなければ、勝たなければならない。
これ以上妹達を殺されてたまるか。
止めるのだ。
この実験を。
ポケットの中のコインを握り締める。
ゲームセンターから勝手にかっぱらって来た薄い金属。
「食らいなさいッ! ――――超電磁砲ッ!!!」
その華奢な手から弾かれた何の変哲も無いメダルゲームのコインは、音速を飛び越えて宙を走る。
鋭い光が辺りを照らし、一歩遅れて爆音が響く。
直撃。
ビル一つ倒壊させる程の威力を持つ超音速の弾丸が、垣根帝督の胸元へ向かって撃ち抜かれた。
ほんの数秒、御坂美琴は動きを止めていた。
辺りには砂煙が立ち込めていて、垣根がどうなったかはまだ分からない。
このくらいで死ぬ相手ではない。
それは確信を持って言える事だった。
そもそも、今のは彼女の全力ではない。すぐそばに妹がいたのだ。
それを巻き込まないで、人間一人戦闘不能にする程度。
『未元物質』がどんな能力であるにせよ、これで第一位が倒れるとは思わなかった。
御坂は油断無く煙の中を見据える。
反撃が来てもすぐ対応できるように。
次の瞬間。
「――!?」
白く輝く「何か」が、真っ直ぐ直線を描いて彼女の肩を貫いていた。
「痛ぅっ……!」
思わず膝から崩れ落ちる。
「成程、まあまあやるんじゃねえか?」
曇った景色の向こう側から、余裕を感じさせる声が響いてきた。
続いて、垣根帝督が進み出る。スモークを演出にでも使っているかのように、悠然と。
「だが常識的過ぎる。科学でどうとでも説明がついてしまう。それじゃあ俺には適わない」
「あ、んた……一体……?」
第一位の背中からは、大きな白い翼が生えていた。
その翼で繭のように体を包み、彼は超電磁砲の衝撃から自分を守っていたのだ。
翼が広がり、整った顔が現れる。
「一つだけ教えてやる。俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」
その様子を見て。
(引くわァ)
と、一方通行は思っていた。
346 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga sage] - 2011/03/17 02:43:24.76 iw5KxnVX0 10/10以上です。
終わりが見えない……
このスレでダラダラやるべきではないような気もしますが、
そんなに長くはならない気もします
困ったぜ