637 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage saga] - 2011/03/22 01:53:11.78 MTL8MVTE0 1/15乙ですブリブリ
>>263 及び >>338ですブリブリ
またも続きを投下します。またも未完ですブリブリ
かなり中途半端なところで切れてるので、引っ張りが嫌な人は飛ばして下さい
(ひっぱたんじゃないんです…ここまでしか書けなかったんです…)
木原と一方通行が仲良く一等賞を目指すお話
13レスです
※関連
第一位のつくりかた
http://toaruss.blog.jp/archives/1025839277.html
第一位のつくりかた2
http://toaruss.blog.jp/archives/1025839682.html
死体があるから片づけて来いと言われて行ってみれば、
死んでいるはずのクローンは生きているし、
学園都市最強とその次が殺し合いをしているし、
最強の人からは羽が生えているし、
常識は通じないらしい。
どうとも身動きが取れず、一方通行は頂点二人の闘いを物影に隠れて見守っていた。
正直なところ、死体が無かったのは少し嬉しかった。
死人を見るのは初めてではない。不可抗力とはいえ、彼自身が人を殺してしまった事もあるくらいだ。
しかし木原に引き取られてからは、そういった悲劇に直面する機会が無かった。
普通の学生よりは免疫があるし、それなりの覚悟はしていたが、実際に死んだ少女を目の前にしたら後味の悪い思いをしただろう。
とはいえ、恐らくこのまま放っておけばあのクローンは死ぬ。
そして彼は放っておくつもりである。
死ぬ瞬間を見るくらいなら死んだ後対面した方がましだったかもしれない。
複雑な気分だった。
覗き見している一方通行の前で、二人の闘いは激しさを増していた。
学園都市第二位の超能力者である御坂美琴は、暗部に関わらないいわゆる『表の世界』でも有名人で、その能力『超電磁砲』の特徴も知れ渡っていた。
電流を操る能力、『電撃使い』の最高位。
電撃使いというものを今まで見た事が無かった一方通行は、それまで何となくお気に入りのゲームに出てくる『イナヅマズドーン』という敵の頭上に雷を落とす魔法を思い浮かべていたのだが、彼女に出来るのはそれだけでは無かった。
流石レベル5と言うべきか、超電磁砲は電磁場やローレンツ力等も操り、電撃の槍を出したり、電磁派を生み出して攻撃したりと、多種多様の技を見せていた。
よくそンなに色々できンな、と驚くほどに。
それはつまり、それだけ色々手の内を晒しても相手を倒すには至らないという事。
対する垣根帝督は、向けられる攻撃の全てを軽々と防いでいた。
ある時は背中から生やした妙にメルヘンな羽を使い、ある時は不自然に相手の攻撃の軌道を曲げて。
おちょくっているのか彼なりの気遣いなのか、最初に肩に当てた一撃以来、垣根の方からは御坂に攻撃は仕掛けていなかった。
何もされていないのに、一人どんどん消耗していく。
第二位の表情に焦りといら立ちが見て取れた。
(窒素を操る能力者がいるってのを聞いたことがあるが、それに近いのかもしれねェ)
一方通行は、怪物二人のぶつかり合いを見ながら、垣根の正体不明の能力を観察し、知らず知らず分析していた。
(何か決まった物質があって、それを自在に操作してるワケだ……見た事ねェけどな、あンな白くてメルヘンな物質は)
(ただ、そこにある物を操るンじゃなくて、無から有を生み出すってのがぶっ飛んでやがる。流石はレベル5ってとこか)
異物。
それが、彼が『未元物質』に対して持ったイメージだった。
たった一滴で、カップの中の真っ黒なコーヒーを間抜けな茶色に変えてしまうミルクのような。
その異物が、レベル5の闘いの世界に一方通行の知らない物理法則を生み出している。
御坂は電気を操る能力者だ。その応用性は多岐に渡る。
だが、それはすべて科学の世界の枠組みの中で広がるものでしかない。
物理の常識に則って演算式を組み立てる御坂美琴を、垣根帝督というイレギュラーは完全に翻弄していた。
これが、『未元物質』。
これが、学園都市第一位・垣根帝督の実力。
―――― こ れ が ?
肩すかしを食った気分になった。
一方通行が二人の戦闘を眺めていたのは十分かそこらだったが、それだけで粗方の解析は済んでしまった。
知らない物理法則がそこにあるなら、今まで知っていたものが間違っていたというだけの事である。
もう一度、垣根が生み出す得体の知れない『何か』が世界に存在するものとして自分の中の物理法則を構築し直せばいい。
恐らくあの物質を反射する事は可能だろう。
垣根の『未元物質』があの変な物質を操る以外に能が無いなら、対処法は普通の銃器と変わらない。
突っ立っていれば終わりである。
これが、学園都市を代表するレベル5の、さらに一番頂上にいる能力者だというのか。
確かに一方通行は、自分が本気を出せばレベル5になってもおかしくないだろうとは思っているが、それでもレベル5は六人もいるのだから、自分より上が三人くらいはいるはずだと考えていた。
しかし実際に頂上二人の闘いを見学してみれば、第二位はおろか第一位ですらこの体たらくである。
常識に沿って正々堂々と向かってくる相手にルール無視の反則技でぶっちぎるというやり方が、そもそもチャチな気がしてならない。ルール違反はお互い様のような気もするが、それはそれで置いておくとして。
喧嘩の勝敗で順位が決まるわけではないという事はよく分かってる。
だが、それを抜きにして考えてもこの第一位には。
どうも負ける気がしない。
と、半ば馬鹿にするような事を考えていたその時だった。
守り続けるのに飽きたのか、垣根の方から御坂へ軽い攻撃が仕掛けられた。
白い翼の先が分解され、分かれた羽根が彼女の方へと襲いかかる。
「――ッ!!」
御坂はこれを間一髪のところで避けた。
避けられた羽根はそのまま直進し、障害物にぶつかる。
一方通行が姿を隠すコンテナへ。
(しまった……ッ!)
コンテナが爆発する。
起爆するような荷物など入っていないはずの鉄の箱が、弾けるように八方へ引きちぎれて飛んだ。
一方通行は、咄嗟にその破片と衝撃波を反射した。
彼は、自分の能力に「来たものを来た方向へそのまま返す」用途にのみ使用するという縛りを掛けている。
コンテナから彼へ飛んだ破片は、そのまま真後ろへ軌道を変え――
「!?」
――背を向ける御坂の真横を通り過ぎ、垣根の顔面めがけて突進した。
「……誰だ」
簡単に首を振って避けた垣根は、破片の飛んできた方向へ、つまり弾け飛んだコンテナの方へ目を向ける。
そこには、肌も髪も真っ白な、異様な出で立ちの少年が立っていた。
もちろん知り合いでは無い。こんな白い人間に心当たりも無い。
突然の第三者の介入に、垣根は驚くと言うよりも面倒そうな顔をした。
「やれやれ……実験に関わってしまった一般人は口封じに消しましょうなんて事になるのか?」
「なっ……」
垣根の言葉を聞き、御坂が声を上げた。
「やめてよ! 関係ない人まで殺す事ないでしょ! そこのあんた、ぼーっとしてないで逃げなさい!」
「ま、わざわざ俺がやらなくても誰か下っ端が殺るだろうよ。って事で目の前で一般人殺戮ショーが展開される事は無いから安心しろ」
垣根はほとんど関心の無い様子で、頭をぽりぽりと掻いている。
鉄の破片が彼の方へ飛んだという事は、彼は突然現れた一般人から攻撃されたと認識しているはずだが、それすらどうでもいいらしい。
「おい、白髪。俺は今忙しいから一般人の相手をする気はねえ。巻き込まれて死にたくなかったら消えろ」
「いやァ、俺は一応無関係の人間じゃねェンだよ」
一方通行は観念して進み出た
御坂が警戒心を顕にして彼を睨みつける。
「何ですって? 実験の関係者?」
「大層なモンじゃねェ。バイトだよ。俺はこの実験で出る死体の回収係」
殺気立って見詰めてくる御坂を宥めるように手を振り、一方通行は続ける。
「隠れてたコンテナがブチ壊れた時に破片が来たンで弾き飛ばしはしたが、もともと邪魔をする気はねェよ。どっちが勝つンでもイイから、さっさと続けて終わらせろ」
「バイトだと? ……お前を雇ってる奴ってのはどこの誰だ」
「知らねェよ。実験の主導者だろ? オマエの方がよく知ってンじゃねェのか」
「そんなはずはねえな」
「……何?」
言いながら、垣根は白い翼の先端を一方通行へ向けた。
不穏な動きに白い少年は警戒するように眉をひそめる。
「この実験の死体回収と現場の隠蔽係は決まってんだ。いちいちバイトなんか雇わねえ。まだ死んでないクローン達がやるんだよ」
「……成る程ねェ、経済的だ」
聞きながら、一方通行は考えていた。
(木原の野郎、ハメやがったか。だが一体何のために……)
「今もそこら辺で待機してるはずだ。何せ大勢いるからなあ、人手に困るなんて事もありえねえ。つまり」
バサッ!! と音を立てて、翼が大きく広がる。
「その死体を欲しがってる野郎ってのは、実験とは関わりのない外部の人間だ」
攻撃開始。
翼から離れた無数の白い羽根が、一方通行の方へと突進する。
「やめてッ――!!」
御坂が叫んだ。
何かしらの手を使って彼を助けようとしたようだが、未元物質を止めるには至らなかった。
バイト男は、ただ何をするでも無くその場に突っ立っている。
こんな真正面からの単純な攻撃にも対処できない程の素人なのだろうと垣根は思った。
だが次の瞬間、彼は自分の体を翼で守っていた。
バイトの方へ向けて撃った羽根が、真っすぐ自分の方へ返って来たからだ。
彼は未元物質を自在に操るが、彼自身も未元物質に貫かれれば死んでしまう。
咄嗟に自分の前に翼の壁を作ると、そこへドドドッ! と無数の羽根が突き刺さった。
彼本体に傷は無いものの、精神的には多少なりとも衝撃を受けていた。
未元物質が跳ね返される等という事は今まで一度も無かったのだから。
翼を広げ、バイトの方を見る。
少年は、相変わらずそこに立っていた。
その白い肌には傷ひとつ無い。
「おいおい、そこは死んでおかなきゃいけねえ所だろう」
「空気が読めなくてすンませンねェ、第一位サン」
薄笑いを浮かべてはいたが、垣根の脳内は十数メートル先に立つ人物の正体を探ろうと目まぐるしく動いていた。
そして、ある事件を思い出す。
「……お前、もしかして五年前に警備隊を壊滅させた反射能力者か」
学園都市第一位の頭脳を誇る垣根は、五年前に見た新聞の記事を覚えていた。
たった十歳の能力者が、完全武装した警備隊に攻撃されながらも生き残ったばかりか、返り討ちにしたという話。
当時はそれなりの規模のニュースになったが、五年の間に次々起こるニュースの波に流され、ほとんど人々の記憶には残っていない。
「確かその後の測定で、レベル2だか3判定されたはずだがな」
「お陰様でレベル3だよ」
「俺からすりゃ底辺って事に変わりはねえよ」
「そりゃどォも」
底辺呼ばわりされて、レベル3の少年は満足げに笑みを浮かべた。
「だが不自然だな」
「何がァ?」
続けて投げられる言葉に、一方通行はうんざりした調子で返答する。
垣根の方は、そして御坂の方も、彼がレベル3と聞いて解せない顔をしていた。
「俺の『未元物質』はこの世界には存在しない物質だ。『まだ見つかっていない』だの『理論上は存在するはず』だのってチャチな話じゃない。本当に、存在しないんだよ」
「……え」
たらり、と、一方通行の額から汗が流れる。
「無い、てのはどォいう意味だ?」
「言葉の通りよ。どんな教科書にだって載ってない。本来ならあってはならないはずの物質」
一方通行の疑問に、御坂が緊張した面持ちで答えた。
「この世界の物理法則に当てはまらない異物。それが俺の『未元物質』だ。それをたかがレベル3の反射能力者が跳ね返せるはずがねえ。跳ね返す物質は既知の物でなければならないはずだからな」
「……跳ね返せるはずが、ない……」
垣根帝督と御坂美琴には分からなかった。
なぜこのタイミングで、このレベル3が滝汗状態になるのかが。
(やっべェェェェ! アレ反射できちゃまずかったのかよォ!? 教科書にも載ってねェ物質って何だ! そンなトンでもねェモン出すンじゃねェよ第一位! クソォ、理科の勉強全然やってねェから知らなかった!!)
一方通行は焦っていた。
少なくともレベル3よりは上である事が、ばれた。
彼はあえてバカでいる事を選んだが、そのバカさが今裏目に出てしまった。
「……ハッ! おもしれえ。この第一位の『未元物質』どこまで反射し切れるか試してみるか」
「お断りしますゥ。実験はどォしたンだよ」
「そうだな……無駄な戦闘をすると肝心の実験の方に支障をきたすって話だが……」
垣根は再び、翼を広げる。
「ちょとレベル3の雑魚を殺すくらいなら、戦闘の内にも入らねえよ」
先程の十倍。
数え切れないほどの羽根の大群が、超電磁砲を越える速度で一方通行へ襲いかかった。
轟音が御坂のすぐ脇を通り過ぎる。
よろけた彼女が振り返ったその時、まったく同じ攻撃が、真逆の方向へ放たれていた。
反射。
来たものをそのまま同じ方向へ。
学園都市第一位の放ったものであろうと、この世に存在しない物質であろうと、数が十倍に増えようと、その反射能力者はそれを跳ね返して見せた。
第一位は、またしても自分で放った攻撃を自分で防ぐ羽目になる。
御坂は呆然とその様子を見守っていた。
恐らく、翼に隠された第一位の顔も、驚愕に染まっている事だろうと思いながら。
「……くっだらねェ」
ぽつり、と呟く声が聞こえた。
「あーあァ。終わるまで待っててやるつもりだったがよォ。話が逸れて全然進んでねェじゃねェか。さっさと死体処分して帰ってゲームしよォと思ってたのによォ」
言いながら、倒れているクローンのもとへ歩いていく白い少年。
「やっぱ待ってンの無理。っつかコイツほとんど死んでるし、イイんじゃねェの? 俺が処分しとくわ。後は勝手にやってろ」
その細腕のどこにそんな力があるのかと思うほど軽々と瀕死の少女を抱え上げ、少年は操車場の出口へと歩き出した。
「ちょっと! その子をどこへ連れて行く気!?」
御坂が少年の前へ立ちふさがると、彼は面倒そうな調子で彼女を避け、すれ違いざまに小声で言った。
「……びょォいン」
口調が砕け過ぎていて一瞬分からなかった。
そう、彼は「病院」と言ったのだ。
後を追えなかった。
御坂はその得体の知れない白い生き物の後姿を、黙って見送る事しかできなかった。
「……おもしれえ……」
「!」
垣根は、自分の手を見つめて立っていた。
「跳ね返された。この俺の『未元物質』が。今までこんな事はただの一度も無かったのに。たかがレベル3の雑魚にだ」
「……あんたも大した事ないのかもね」
御坂の挑発を、垣根は完全に無視していた。
というよりも、目の前の事態に頭がいっぱいで、他の事は目に入らないようだ。
「奴を殺せば……クローンなんかをぷちぷち殺していくよりずっと高い経験値が得られるんじゃねえのか!? クローン千人分くらいの経験値が! それこそ実験の目的そのものだ」
第一位の整った顔が凶悪に歪む。
彼は笑っていた。
しかし穏やかさは一切ない、他人に恐怖心と嫌悪感しか与えないような笑み。
「ハッ! よかったな、第二位」
「……何?」
垣根はゆっくりと歩き出し、御坂のもとへ近寄り、そのまま彼女の横を通り過ぎた。
「もし奴を殺す経験値がクローン千人分だったら、クローン千人は俺に殺されずに済むって事だ」
「ッ……!! あんた……!」
「犠牲者が減るかも」
学園都市第一位の男は、ゆったりと散歩を楽しむかのように、操車場を出て行った。
「……クソッタレ。怪我人の治療くらい黙ってやりやがれ」
病院から出て来た一方通行は不機嫌だった。
夜中に血まみれの少女を抱えた白髪の少年が殴りこんできたら、どんな修羅場をくぐって来た病院のスタッフだろうと何事かと思うだろう。
とにかく少女はすぐに手術室へ運ばれたが、それで少年が解放される事は無かった。
質問攻めにあい、警備員まで呼ばれる始末。
隙をついて逃げて来たが、この風貌では指名手配でもされたらすぐに見つかってしまうだろう。
特に罪に問われるような事はしていないので、指名手配までは心配していなかったが。
どのルートを使って帰ろうかと辺りを見回していると、ふいにポケットの中の携帯電話が震え出した。
発信元を確認せず通話ボタンを押す。
『元気かなーん、一方通行。ぎゃははははっ!!』
予想通り過ぎてため息が出た。
「なァンの用かなァ、木ィ原くゥゥン?」
『おやおやご機嫌ナナメだねぇ。お仕事で問題でもあったかな?』
「別にィ? 誰かサンにハメられて第一位に殺されかけたくれェかなァ? あと帰りに野良猫に睨まれたンで蹴っ飛ばそォとしたら逃げられたくれェかなァ?」
『おいおい。お前バカのくせに何野良猫さんにご迷惑掛けてんだよ何様のつもりだ? 今から戻って謝って来い』
「あ、やっべェマジだ。木原オマエ代わりに行って野良猫サンに土下座しといて」
『特に理由はねぇけどお前今すぐ俺に土下座しろ』
「野良猫サン待たすンじゃねェよォ。行けよ早くゥ」
『このクッソガキ……』
電話越しに木原と軽口を叩き合う内に、どこか日常へ帰って来たような安心感を覚える。
自分で思っていたより緊張していたようだと自覚した。
そこへ、木原から思いもよらぬ事実が伝えられる。
『っつか、そこに第一位とか向かってねえ? まだだったら探してみろって。そろそろ追いつくころだからよぉ』
「はァ?」
そこへ。
背後から伸びた白い光線が一方通行の首を掠めて病院の塀を貫いた。
「よお。ちょっと殺させろ、レベル3」
振りかえると、そこには垣根帝督が立っていた。
「な……?」
『ぎゃははははッ!! 来たみてえだな! モテちゃって妬かせるねえ、一方通行!』
「な、なンであの野郎が俺の後を……」
『一個だけアドバイスしてやるよ、クソガキ』
「……?」
『普通の反射だけじゃ死ぬぞ』
通話が切れた。
事態は再び非日常へ。
第一位が、どうやら自分を殺すために追って来た。
殺すために。
「……ってオイオイ。何だ今の? まともに当たってたら死ンでたぞ」
一方通行が不機嫌に睨みつける。
垣根は平然としていた。
「そりゃそうだろ。殺すつもりで撃ったんだから」
「……は?」
本気で。
今更だが。
今の今まで、一方通行は相手が本気だとは認識していなかった。
何せ、態度があまりにフランクだ。普通すぎる。
第一位にしろ第二位にしろ、人が死ぬか死なないかのやり取りをするには表情が「まとも」過ぎたのだ。
だが背後からの攻撃で首筋を狙われて、やっと事態の深刻さを思い知った。
目の前に立っているのは、本気で十万人の人間を殺す事にためらいを持たない殺人鬼なのだ。
急に、全身からどっと汗が流れて来た。
「…………ッッ!!」
気が付くと、一方通行は逃げ出していた。
強大な力を持つ第一位に背を向けて。
叫び出さないのが精一杯。
普段運動しない体に無理を強いて、全速力で病院沿いの夜道を掛け出していた。
その様子を見て、垣根は考える。
(やっぱり、戦闘の経験はほとんど無い素人か……だがそれでも『未元物質』を反射して見せたってのは事実。むしろズブの素人状態で俺に攻撃されて生き延びているってのがとんでもねえんじゃねえか?)
おもしろい。
再びそう呟き、垣根は追跡を開始した。
羽を広げ、地面を蹴る。
『未元物質』の翼は、彼に乗用車を越える速度を与える。
『一方通行』と『未元物質』。
この二つの能力のどちらがより優れているにせよ、二人の人間にはそれとは無関係に大きな差があった。
精神的な経験値。
垣根はとっくに慣れており、他人の死にいちいち驚いたり怯えたりしない。
しかし一方通行は、小学生の頃攻撃してきた人間をやむを得ず返り討ちにしてしまった時以来、人の死に関わった事がなかった。
彼は五年間ぬるま湯につかって来た。
優しい温度に包まれて呑気に生きる事は、努力によって手に入れたレベル3の特権なのだ。
高位能力者の過酷な運命など願い下げだった。
(何だ? 何だよ? 何なンだよ!? 何でわざわざ殺すって方向に頭が行くンだよ!?)
(動けなくすりゃ勝ちとかでいいだろォが! 怪我すンのも嫌だけどよォ!)
(闘って工夫して降参させましたってンじゃ何でダメなンだ!?)
(分っかンねェ!! 分っかンねェ!!!)
彼はレベル3の判定を受けてから、相応の生活をしてきた。
無茶な事には巻き込まれず。
低レベルだとバカにされて道を踏み外すような事も無く。
多少特殊な扱いをされながらも、レベルに見合った平和な人生を送って来た。
学園都市に大きな闇がある事はずっと前に学んでいる。
十歳まではまさにその闇のど真ん中に立ちつくしていたのだし、現在一番近しい人間である木原は暗部のリーダーだ。
一方通行自身に関わりがなくとも、木原の周囲で人がバタバタ死んでいるのは知っていた。
知識としては。
実感を持った事は無かった。
五年間、保護者の庇護のもとでまともに生きて来たのだ。
どんな才能を秘めていようが、急に都市の裏の顔だの負けたら死ぬだのという現実を突き付けられてもピンと来ない。
ピンと来る前に、現象だけがじりじりと近寄って来る。
分からないのだ。
今自分がどんな事に巻き込まれているのか。
誰に喧嘩を売られてしまったのか。
そして、それが絶対に返品不可という事も。
何も理解しないままとにかく逃げ出し、転げるように走り回る。
何が何だかわけが分からなかった。
大量殺人犯が、笑いながら追いかけてくる(※白い翼が生えています)。
正直言って、これは怖い。
651 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage] - 2011/03/22 02:12:11.82 MTL8MVTE0 15/15以上です
あと1回投下すれば一区切りつくと思います
なのであと1回だけ許して下さい
ただ、それでもタイトル回収はできなそうです
しまったぜ
書きためてる時にこんなタイプミスしました↓
「なァンの用かなァ、木ィ原くゥゥン?」
「おやおやご機嫌ナナメだべぇ。お仕事で問題でもあったかな?」