263 : パパはなンだかわかってない。[age] - 2011/04/02 10:15:43.76 cqknwUJM0 1/5


ある晴れた昼下がり。
フラスコの暇人こと、アレイスター=クロウリーの起こした世界規模の戦争から一年が経とうとしていた。
学園都市はすっかりと嘗ての世紀末モヒカンヒャッハーな鳴りを潜め、平和で穏やかな様相を呈していた。


そんな学園都市のとある高層マンションの一室にて、白髪頭の少年がソファーに身を預け眉間に皴を寄せ思考に耽っていた。

彼の脳内を占める事柄は唯一つ。

お隣さんに頂いた茄子をどのように調理するかであった。

麻婆茄子では匂いが服に染み付くかもしれない。それは自分はともかく、少女達には好ましくないことだろう。
ではオーソドックスに焼くか煮るかすべきだろうか。
いや、自分探しという名のニートの暇つぶしで蕎麦打ちを芳川がしていたはずだ。彼女にしては意外と長続きしたのか家族五人では食べきれずにまだ随分な残りが冷蔵庫にあった。
だとすれば天ぷらにして蕎麦と一緒に食べるのがいいかもしれない。
ついでにそろそろ賞味期限の危うくなってきている鶏肉をから揚げにしておくのも良い。黄泉川の弁当のおかずにもなる。


「ねーねー、一方通行~!」

「ウォッ、危ねェだろォがクソガキ」


思案を巡らせている一方通行(学園都市第一位)の膝の上に小さな影がダイブしてきた。
さり気無く少女が膝からずり落ちないように支えてやりながら一方通行が打ち止めをにらみ付ける。
気の弱い者であればそれだけで萎縮しかねない眼光を浴びても少しも動揺することなく打ち止めは手にしていた雑誌を一方通行の目の前で開く。
視線を向ければ、そこには純白のドレス、所謂ウエディングドレスが、モデルの白々しい程に爽やかな笑顔と共に写っている。
黄泉川の読んでいたブライダル関連の雑誌だとすぐに察する一方通行に、打ち止めが目を輝かせて笑う。


「これ凄く綺麗でしょってミサカはミサカは乙女の夢の衣装をうっとりと眺めてみる」

「それを俺に見せて一体どォしよォってンだ?」

「えっとね、ミサカもこれ着たいなぁ~ってミサカはミサカは上目遣いでおねだりをしてみる」


つぶらな瞳から伸びる長い睫が少女を少しだけ大人びて見せる。
これが対一方通行専用交渉術である。これによる交渉術の成功率は現在七、八割。中々の実績である。


「なンでそれを俺に言う?第一、お前にはまだ早ェ話だろォが」


そして、黄泉川や芳川は逆にそろそろ遅くなる話だ。
勿論、そんな事は言わない。数々の戦いを経て、思いやりを身に付けた一方通行。
時に一つの真実は千の嘘を凌駕するほどの切れ味をもって人を傷付けることを学んでいる。
そんな彼の反応が不服だったのだろう、打ち止めが頬を膨れさせる。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-26冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1301325535/
264 : パパはなンだかわかってない。[age] - 2011/04/02 10:16:13.34 cqknwUJM0 2/5



「もうッ!貴方って本当にわかってないんだねってミサカはミサカは貴方の相変わらずの鈍感ぷりに憤慨してみせる」

「あァ?」

「こ、これは貴方にとっても他人事じゃないんだからね!」

「意味がわかンねェンだが」

「だから!ミサカはこれを着ていずれ貴方と…その歩きたいんだからね!!ってミサカはミサカは乙女に此処まで言わせるなんて信じられないとこっそり思ってみる!」

そう、これは少女のおしゃまで可愛らしいプロポーズである。
若干頬が赤いあたり、打ち止めの女の子らしい恥じらいが見て取れる。
少女は恥じらいながらも内心期待で一方通行を見る。
少女の脳内では、目の前の白髪頭の少年は、頬を朱に染めつつ、『ケッ…クソガキがマセたことぬかしてンじゃねェよ。………まァ、そのウチ着せてやるよ』等とツンデレ台詞を吐く姿が先行上映されているのだ。
それに対して『うん、楽しみに待ってるからね、ってミサカはミサカは16歳になる日を心待ちにしてみる!』等という気の利いた返事も準備してある。


しかし、一方通行の見せた反応はといえば、少女の想定していなかったものだった。



「………お前……俺を…そンな風に思っていてくれたのか……」


感慨深げに、そして感動を堪えるように低く抑えた声をもらす。
ついには、一方通行は目頭をグッと手で押さえ、俯く。予想外のリアクションに打ち止め焦る。


「ど、どうしたのってミサカはミサカは泣くのを堪えている貴方に動揺してみたり……」

「……グス…泣いてねェよ…チクショウ……」

「思い切り泣いてるよ!?」

「テメェが泣かせるよォなこと言うからだ…グス…お前が俺と…」


しかし、一方通行の涙が決して悲しみに暮れたものではないと打ち止めにはわかる。
自分が彼に向けた行為が、彼を感極まらせているということに、優越感と恥じらいを覚え、こっそり打ち止めははにかむ。

「もう…仕方が無いんだから……」


ならば、此処は将来の花嫁として、この世話焼きなくせに母性本能をやたら刺激する未来の旦那の涙を拭ってやるべきだろう。



「お前が……俺と一緒にバージンロード歩きてェだなンて……こンなロクデナシを親父だと思っててくれてンだな……」







「え…?」

ハンカチに手を伸ばした打ち止めの手が凍りついたように止まる。


265 : パパはなンだかわかってない。[age] - 2011/04/02 10:17:08.89 cqknwUJM0 3/5



「正直よォ…俺みてェなクソ野郎がそンな父親役だなンて高望みし過ぎだって思ってたンだ。お前らを散々殺しまくった大虐殺野郎の俺なンざよ…」


そんな打ち止めの様子など、目頭を押さえている超能力者には見えない。
一方通行の突然の(中々ヘビーな)告白が続く。

「期待してなかったと言やァ嘘だがな。お前らが願い下げだろォって思っててよ………だから妹達とバージンロードを歩くのはカエル医者にでも頼むつもりだったンだがな……
 そォか、俺と歩いてくれるってのかよ……クソ…クソガキが泣かせるよォなこと言ってくれンじゃねェかよ…」


自分の育て方は間違ってなかったということだろうか。
いや、違う。そうではない。それは自惚れというものだ。一方通行は己をすぐさま戒める。


「あの…一方通行?違うの。ミサカはね…」

「いいって。言わなくてもわかってる」


そう、ちゃんとわかっている。
きっと、それはこの少女の優しさだろう。
自分の浅ましい期待を見抜き、その上でそれを掬い取ってくれたのだ。自分を闇から引き上げてくれたように。
だとすれば、自分は何て情けない父親だろうか。娘にこうまで気を遣わせてしまっているのだから。


「頼りねェ、情けねェ父親だって自覚はある」


普段より三割増しで赤い瞳を一方通行が僅かに和らげ、そっと打ち止めの頭を撫でてやる。
いや、全然わかってねぇよ、という打ち止めの視線など華麗にスルーして、一方通行は遠くを見るように目を細める。

「だがよ……情けねェままでいるつもりはねェ。待っててくれ。お前が16になるまでには、今よりちったァマシな親父になってみせるからよ。そうしたら最高の式を用意してやる…」

「だから違うって!」


彼女にしては珍しく、怒気の籠もった声。
一方通行は驚き、目をかすかに見開くと、小さく苦笑を浮かべる。


「チッ……俺とした事が血迷ったことほざいちまったな」


額に手をあて、やれやれとかぶりを振ると、一方通行は寂しげな目をする。


「式の段取りは未来の旦那になる野郎と決めるモンだよな」

「違うって!!」

「だがよ、せめて結婚資金くれェ出させてくれよ?妹達の結婚用の資金もすぐ貯め終わるからよ」

「聞いてよ!!…て、最近頓に節約生活してたのって……」


レベル5の癖に、随分と切り詰めた生活をしてるなとは思っていた。
借金も(元々言いがかりに近いのだが)チャラになったし、彼がお金を節約する理由がわからなかった。
その謎が今初めて明らかになった。この男は9972人分(美琴含む)の結婚資金をコツコツ貯めていたのだ。
国家予算クラスの金額を貯めこむには、レベル5といえども至難の業である。

266 : パパはなンだかわかってない。[age] - 2011/04/02 10:19:31.87 cqknwUJM0 4/5

しかし、彼はそれを成し遂げつつある。
アレイスターの隠し口座を掠め取ったり、清濁併せ呑むとばかりに仕事を選ばず受けた。
当然先物取引にも手を伸ばしている。先日もコーヒー豆で一儲けしたところである。
更には隣人との関係性の希薄さが嘆かれる昨今にしては驚くべきご近所、町内付き合いをすることで、おすそ分けを得るなど、食費の節約にも余念がなかった。
それら全てが、その為であったのだ。


呆然唖然とする打ち止め。

それらの苦労がやっと実を結ぶのだと、感無量に浸る一方通行。


「だがな…打ち止め。一つだけ言っておく……」


目元と鼻を赤くしながら、一方通行がきりりと顔を引き締めると、おもむろに言う。


「結婚するなら相手は三下レベルが最低条件だからな?あと出来れば公務員が良い。収入も安定してるしよォ。長男は避けた方が良い。後々苦労するからってお隣の安田さンも言ってたしな」




                                 ―…***…―





「……グス……一方通行の馬鹿…」

「ぎゃははは!上位個体ザマァ~~!!」

「嬉しそうですね。自分と同じ目にあったのがそんなに嬉しいのですか?この嘘カレ宣言をしたら素で『今度連れてきなさい』とお父さんなリアクションをされて自棄酒を煽っていた番外個体を思い出しますとミサカ10032号は説明セリフを口にします」

「うるさい、うるさい、うるさい!!うわーーん!!」






267 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[age] - 2011/04/02 10:20:43.83 cqknwUJM0 5/5

以上で投下を終了します。