――画家になりたかったンだ。
俺がそォ言うと大概のヤツは目を丸くする。
今俺の隣で浴びるよォに酒を飲んでたクソアマもご多分に漏れず驚いてやがる。
随分マヌケなツラだなァ、オイ。
「……鈴科先生、今何とおっしゃいました?」
――あァ? 俺は昔、画家になりたかったンだよ。
何度も言わせンじゃねェぞ、後輩の分際で。
「………………プッ」
――?
「プ、ププッ」
――テメェ。何笑ってやがる。
「あ、アハハハハッ! だってだって、鈴科先生が画家ぁ!? ククッ、に、似合わなさすぎる……っ!」
――なァるほど。とりあえずオマエが今すぐ愉快なオブジェになりてェのは分かった。
言いながら指をポキポキと鳴らす。烏龍茶がなみなみと注がれたジョッキはひとまず後回しだ。
「わっ、ちょ、落ち着いてください。私か弱い無能力者なんでホントに死んじゃいます」
――そォか。じゃ、死ね。
「なんと血も涙もない対応!?」
ぎゃあぎゃあ騒ぎやがって。声量が普段の三割増ぐれェだな。アルコールが回ってンのか。
「でもでもー、鈴科せんせぇー」
――うるせェ。いちいち名前で呼ぶンじゃねェ。首に腕を回すな。
「むう。この私の色仕掛けに無反応ですか。ひょっとして枯れてます?」
――その無駄な脂肪の塊、引きちぎってやろォか?
「ええー。挟んだりできるんですよ?」
――オマエはストリップバーにでも入り浸ってンのか? 今多分マジで引いてンぞ、俺。
「前のカレには好評だってんですけどねえ」
誰も聞いてねェよ、オマエの経験とか。
「あ、鈴科先生は結構遊んでそうですもんね」
――……チッ。
「あれれ? ひょっとして図星ですかあ?」
――その口閉じろ。
「イーヤーでーす」
――塞ぐぞ?
「唇で、ですか?」
どンなロマンチストだ俺は。
――誰がするか、ンな頭沸いたこと。オマエの口なンざ石で十分だ。いや、その無駄になげェ黒髪の方がいいな。
「これはダメです! 髪は女の命なんですから! ロングはロングで手入れが大変なんです」
――キューティクルってヤツか?
「キューティクルってヤツです」
どォでもいいことを。
「それを言ったら鈴科先生も綺麗な髪ですよね」
――あァ?
「男のくせに一つに縛るぐらい長いんですよねー」
――さわンなうぜェ。
「うわ、ホントにサラサラ。白髪だけど別に歳じゃないんですね」
当たり前だ。ジジイなワケねェだろ。まだ三十路前だっつゥの。
「………………」
――………………。
急に黙りやがった。ワケ分かんねェ。そのクセして髪はさわりっぱなしにしてやがる。
新手の嫌がらせか? けど、払いのける気になれねェ。
「……鈴科先生は」
――?
「……画家になれなかったから、美術教師になったんですか?」
――まァな。
「……絵を描くことは、好きですか?」
――……好き、だった。
画家になろォとしても、どうしても無理だった。
何度絵を描こうとも、赤を見る度に俺が踏み潰したあのクローン共が頭に浮かンじまう。
そうなっちまえばオシマイだ……まともな絵が描けねェ。
いや、描く資格がなかった。
絵っつゥのは描くヤツの心の中をキレイに映しちまう。
俺は極悪人だ。俺が描いたキャンパスは真っ暗闇だ。
一度、クローンの死骸を描いたことがある。恐ろしいほど筆が進み、速攻で書き終わっちまった。
自分が怖くなった。
――見本用なら描ける。けど、自分の絵は、描けねェ。描こうとも思わねェ。
「……………………」
オイオイ。何マジに語っちゃってンですか俺は。
バッカじゃねェの?
「……けど」
――ン?
「見本用でも……キャンパスに向かってる鈴科先生は……」
やけに溜めやがる。さっさと話せ。
「――楽しそうでしたよ」
――……ッ。
「やっぱり……きっと鈴科先生は……」
…………。
「絵を描くことが……好き、なんですよ……」
………………。
このアマ。
酔っ払いのクセにそれらしいことを語りやがって。
ああクソッタレ……このクソ新任のせいで。
マジに俺が絵を描くことが好きだって、思えてきちまうじゃねェか。
「……すぅ、すぅ」
――チッ。
コイツ、いつの間にか寝てやがる。
俺が酒飲ンでねェからいいものを、どォやって帰るつもりだったンだ。
――オイ。
「へい!」
――会計だ。ツリはいらねェ。
「は、はあ……」
つっても会計の八割はクソ新任の分だがなァ。
居酒屋で万札使うのは久々だ。
どォせ起きねェし、家も分かるし、送るか。
その前に打ち止めに連絡しなきゃなァ。こンだけ待たせておきながら帰らねェとか言ったらさすがに怒りそォだな。
いや、泣くか。
いい加減親離れさせねェと。家はともかく、学校でもベッタリだからな。
新任を背負う。外に停めてあるコペンまで歩く。
――このアホ数学教師が。
文句を垂れながら助手席にぶちこみ、俺は運転席へ。
キーを差す。
――絵を描くことが好き、か。
頭の中にコイツの家までのルートを浮かべる。
――なァ、笑えよ。
チラリとクソ新任を見た。なンとも安らかな寝顔だ。
――俺はまだ、何かを好きになれるみたいだぜ……クソ親父。
エンジンを噴かす。アクセルを踏み込むと同時、軽いGが体を圧す。
人工の光がまぶしい都市を走る。
その後、新任さンは鈴科先生(スタッフ)が美味しくいただきました。
13 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/04/14 20:50:06.02 G95MsLvM0 6/7だwwwいwwwなwwwしwww
14 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] - 2011/04/14 20:52:03.53 C37MEUhd0 7/7正直最後の一行が書きたいがためにやらかした。
「――画家になりたかったンだ」
が俺の脳内タイトル。
新任さンは鈴科先生より年下・黒髪ロング・きょぬーという点から推測してくれ。
最後に出てきたクソ親父は木原くンだったりする。鈴科先生の絵の師匠とか誰得裏設定。