108 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage] - 2011/05/05 14:57:44.96 a540hiy7o 1/53レスほどいただきます。
タイトルは「ミサカの卵」
欠陥通行ですので、お嫌いな方は回避願います。
とある小さなアパートの一室で少女は目を開いた。
あらかじめ設定された時間が来ると動き出すからくり人形。口の悪い者が見ればそう表現するであろう仕草で上半身を起こす。
隣で微かに寝息を立てている少年に気を遣うように静かに、丁寧に、くるまっていた毛布から下着すらつけていない姿で抜け出す。
毛布に残されたのは少年の細い身体。そして彼女の温もりと微かな残り香。
少年が眠りから覚める気配はない。
少女はふと、その細い指で少年の喉に触れてみる。そして、想った。
この少年の無防備な姿。それを、一体どれほどの人間が見ることができるのだろう。しかも、自ら進んで無防備になった姿など。
わき上がる小さな優越感。同時に少女の脳裏には、二人のよく見知っている子供の姿が浮かぶ。
きっと、自分などとは比べものにならないほどに、無防備な少年の姿を見ているだろう子供の姿が。
「……っ」
小さく舌打ち。
くだらない嫉妬……いや、違う。
嫉妬という感情を無理に立ち上げて、辛うじて絞り出した僅かな欠片をひたすらに弄んでいるだけだ。
自分にまともな感情など無い事は知っている。
何度身体を重ねようとも、その行為に相応しい愛情など生まれない。嫌悪感ですら存在はしない。
そこにあるのは――
もしかすると、母性。
もしかすると、庇護欲。
もしかすると、優越感。
わかっている。そのどれに対しても言葉が足りないのだと。
例えどのような感情だとしても、そこには「歪んだ」という前置きが必要なのだろう。
ならばもっと単純に。
少なくとも、少年の側にあるのは単純な性欲。
段階を踏んで、緩やかになだらかに訪れるはずだった「雄」としての極めて当然な欲求。
ただし、成長段階に封じられていたそれを一気に解き放った結果、少年は雄としての欲求に苦しんでいた。
本来訪れるはずの目覚めではなく、強引に押し付けられるように与えられた欲求は、少年の精神をかき乱していた。
自分はそこに手をさしのべただけ。いや、生贄となっただけ。
つまり、もっと単純に言えば。
性欲の捌け口になっただけ。
わかりやすい。わかりやすすぎて吐き気と薄笑いが込み上げてくるほどに。
単価十八万円の自分には、その程度の簡便さがお似合いなのかも知れないが。
だから、自分は最初にこう告げたではないか。
「成熟した個体ではありませんが、上位個体よりは目的に適しているでしょう。
とミサカは一方通行がペドフィリアである可能性を危惧しながら事実を述べます」
それでいいと。
彼が吐き出す方向を間違えないように、自分は身を差し出しているのだと。
そう信じていれば、救われるから。
上位個体のため。
ひいては、妹達全ての安寧のため。
ひいては、お姉様(オリジナル)のため。
これは、エゴなのだ。
一方通行のためですらないのだ。
衣服をつけたところで、一方通行が起き出す気配。
目をやると、不機嫌を通り越して殺気すら感じる視線が自分に向けられていた。
「もォ、来るな」
「同義の言葉は、これが十六回目だとミサカは指摘します」
「だったら、なンだってンだ?」
「お望みなら、他の個体と交代しますが? とミサカは提案します」
望む個体もいるだろう、とは口に出さない。
決して気付かれてはいけないこと。一方通行との接触を望む個体など、いてはならない。
それは、一方通行の望みでもあるのだ。
『一万人の姉妹を殺した狂人に触れたがる個体など、存在してはならない』
『唯一の例外は、打ち止めただ一人』
『それは無知故の無垢に過ぎない』
まだ見ぬ第三次製造計画の個体が知れば腹を抱えて笑い死にかねない欺瞞でも、それを指摘する者は未だいない。
育ての親は同じく狂笑するだろう。
別の科学者は呆気にとられるだろう。
甘さを自認する科学者は俯くかも知れない。
まだ若い科学者は特徴的な目をさらに見開いて驚くかも知れない。
そして一様に言うだろう。
「それは貴方(てめえ)の思いこみだ」と。
それでも、幻想は壊されない。
この幻想だけは、ヒーローの右腕でも壊せない。
壊すことが出来るのは、一万人を殺した狂人だけ。
あるいはその狂人に抱かれる、一万人の姉妹を殺された少女だけ。
「来るなって言ってンだ」
「それでも、私が来ればまた同じ事をするのでしょう? とミサカは推測します」
抱かれてやる。
いや、抱かせてやる。
自分の身体で貴方の、その狂人の身体を受け入れてやる。
狂人の精を受けてやる。
貴方が殺した一万人と、寸分違わぬこの身体で。
貴方が一万人を殺したのなら、私は一万回抱かれてやる。
「……なンでだ」
少女は答えず、ただ想う。
狂人を作ったのは、ミサカなのだから。
抗えない指示の元であろうとも、一万人を殺させたのはミサカなのだから。
一万三十一体の血肉で、この狂人を完成させたのだから。
一万三十一体のミサカで温めた卵なのだから。
一万三十一体の命によって孵した雛なのだから。
一万三十一人の少女と一人の少年で作り上げ育てた一方通行なのだから。
だから、ミサカは母であり、恋人であり、贄であり、復讐者であるのだから。
それ以上の言葉のやりとりはなく、少女は少年に背を向ける。
そして小さな声で呟いた。
「それに気付いたミサカは、ミサカ……私だけなのですから」
112 : ミサカの卵[sage] - 2011/05/05 15:00:25.25 a540hiy7o 5/5以上、お粗末様でした。