335 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[saga] - 2011/06/18 19:38:51.09 gMg6/D8W0 1/8

通行止め前提の電磁通行。
ハードカバーのラブストーリー調に挑んでみた結果、死ネタ注意になったので苦手な方は避難して下さい。
6レスほど頂きます。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-30冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804796/
336 : 愛してる、って言ってみる。 1/6[saga] - 2011/06/18 19:39:56.42 gMg6/D8W0 2/8






最後のデータを算出し終えるとフルマラソンを完走したマラソンランナーの様に倒れこんだ。
そんな一方通行を、苦笑しながら御坂美琴が助け起こす。
すると、




「――――――――………一方通行、?」





彼の急速な息遣いだけが、無機質な部屋にやけに響いた。








337 : 愛してる、って言ってみる。 2/6[saga] - 2011/06/18 19:41:04.73 gMg6/D8W0 3/8




*****





妹達が次々と天に召され始めたのは、2年半前の事だった。



一人、また一人と世界各地で消えていく命に一番焦ったのは妹達当人より、姉たる美琴より、製造者である芳川より、誰よりきっと、一方通行だった。

出来ることなら代わってやりたい。しかし何も出来ない無力感。
本当に何も出来ないのか?続く自問自答。
無駄。間に合わない。だが出来なくて何が超能力者だ。



彼が延命の研究を開始したのはかなり早い段階だった。

『普通の生活』に徐々に溶け、睨み合った人間とも冗談を交わすほどでなくとも会えば話すほどの間柄となり、これまでの身内以外にも親しい人間を職場や生活環境に作り始めた人生を全てかなぐり捨てて、彼は再び『此処』に戻った。


―――――超能力者、『第一位』だけが必要とされる世界。


『一方通行』個人でなく『第一位』の頭脳と価値観だけが要される此の場所に、彼は再び帰ってきた。
それを美琴が追いかけたのは、彼でなく自分こそが彼女達を守るべきという意地やプライドだったのだろうか。

美琴にもそれは分からない。
それでも現に御坂美琴は此処にいる。
憎み殺してやると恨んだ14歳の少女から酸いや甘いを知り始めた20代も半ばの女として、御坂美琴は一方通行の隣にいる。
自分でも煮え切らないその理由が、愛する妹の為という姉の責務だと、せめてそう思いたかった。






338 : 愛してる、って言ってみる。 3/6[saga] - 2011/06/18 19:42:05.91 gMg6/D8W0 4/8





問題が発生したのは奇しくも9月30日。
残存する妹達が製造当初の4分の1になったその頃、一方通行に限界が来た。

精神的な場面もさる所ながら物理的な、しかし連日の徹夜や不摂生が祟った故の限界ではなく、症状的にも彼本人の心境的にもより高度でより複雑な、そんな限界だった。



「もう能力は使わない方がいいね」



命を懸けて護ると誓った少女達(見た目がいくら大人びても、彼らにとって彼女達は永遠に儚い少女だ)を救うため戻った此の世界。
果たしてその言葉は、『第一位』だけが求められた場所に帰還した彼にどれほどの衝撃を与えたのだろうか。


「君が自分を検体として差し出す代わりに妹達の研究機関を用意したのは知っているよ。無論、君が検体提供を続けるにも君自身が延命研究を続けるにも能力使用が前提なのは百も承知さ」


アニメや漫画でデフォルメされた様なカエル顔で真面目腐った事を言うものだ。
何処となくアンバランスだなぁ、と思ってしまうのは美琴の明らかな現実逃避。


「その上で君の担当医として言わせてもらう。もう能力は使わない方が良い。2年前から言っていただろう、君の脳は限界だ。―――――――それ以上酷使すれば、必要器官に作用する箇所にも支障が出る」


研究費用も研究施設もタダで用意できる訳ではない。
一方通行のポケットマネーでも十分な研究資材を準備するには聊か足りず、コネを集めても施設を確保することも出来ず、元研究者の芳川桔梗をツテにしても、潤沢な研究資材と研究施設を物々交換で用意するのが手一杯。

『一方通行』を差し出すしかなかった彼は、2年前のその当時、自身の結末も知っていたのだろう。
彼を追いかけて『超電磁砲』として隣に立った、私なんかには何も告げずに。





医者から受けた宣告の後も、彼は研究の最前線に立つことを止めなかった。
こうしている間にも次々と消えていく少女達を一人でも多く救う為には、悔しい事に彼に頼らざるを得なかった。

心成しか日に日に彼もやつれていっているように感じる。
日常から戦場へ。研究に際してチョーカーのスイッチを切り替えた直後はいつだって指先がおかしな方向へ震えていた。



少女も彼も、現状は全て、限界を迎えつつあった。







339 : 愛してる、って言ってみる。 4/6[saga] - 2011/06/18 19:43:01.76 gMg6/D8W0 5/8




*****





約1年後。最後のデータを算出したとき。
残っている『少女』は打ち止め、一番無理をしないで製造された少女であり、一番彼が護りたかった少女。
体の自由が利かなくなり、話す事も起き上がる事も出来ず、毎日の生活を病院で送るようになった彼女がそれでも今日まで生き残って居た事を、

人はこれを奇跡と呼ぶのだろうか。必然と呼ぶのだろうか。
それとも、――――――――





そして話は冒頭に戻る。
最後の最後で気が緩んだのか突如意識を失った彼は例の医者が居る件の病院へ、美琴の付き添いで救急搬送された。

一方通行に血縁はいない。
学園都市を出れば彼の親が名乗り出てくる可能性も無きにしも非ずだが、本人がいないと認識している限り、こちらもいないと考えていいのだろう。
よって美琴は彼の家族として、彼の昏睡を黄泉川愛穂や芳川桔梗、打ち止めに伝える事にした。


Prrrrrrrr………、Prrrrrrrr………


コールすること十数回。
自宅に掛けても携帯にかけても、通話中のまま彼女達は一向に出ない。
焦りが更なる焦りを呼んで、ミミズの様に嫌な汗が背中を這いずる。

はやく、はやく。

医者に告げられるまでもなく分かる。
これでも医療科学を専門分野にしてきた研究者の一端であるし、何より彼は2年も前から今日という日を予告されていた。






繋がらなかった電話は、相手からの通信によって繋がった。

搬送される一方通行の周囲に転がった彼の手荷物(と言っても白衣の内ポケットに入る程度の日用品だが)を咄嗟に掴んできた美琴の手元にあった、彼の携帯。
美琴の手の内に収まった小さなソレがブルブルとバイブレーションを振動させる。


着信:黄泉川愛穂


「………はい」と答えたとき、声は震えていなかっただろうか。
彼の状態を伝えようとした自分の声を遮った相手方の静かな声に、悲鳴を上げたりしなかったろうか。





340 : 愛してる、って言ってみる。 5/6[saga] - 2011/06/18 19:44:36.52 gMg6/D8W0 6/8



のろのろと一方通行が目を開ける。
だが、その瞳の焦点は揺らいだまま、濁った様に輪郭しか映さない。


「――――――――――打ち、止め?」


だからなのか、同じ顔を成長させた美琴を見て、彼は真っ先に彼女を呼んだ。
4つも若い妹に間違えられた気恥ずかしさより、間違えられた大きな悲しさが美琴を襲う。


「…………御坂の野郎、間に合った、ン、だな………もう、普通に、歩き回れンのか?」


込み上げる熱いモノを押さえつけてコクリと頷く。
そっと手を握るのは、声帯の負荷で喋れなくなった彼女が使っていた『ありがとう』のサイン。


「手ェ、……震えてンぞ、馬鹿。俺の事、なンて気にして、ンじゃねェよ………俺が好きで、やったンだ」


息も絶え絶えに話す彼の声は、枯れ果ててとても聞き辛い。
電極を通常モードからOFFモードに切り替えれば彼の時間も少しばかり伸びるのだろうが、今は彼の言葉を一語一句聞き逃したくなかった。


「…………そォだ。俺が、好きでやったンだ。妹達が、オマエらが、」


語って、語って、語り尽くして。
生きた証を残そうとする彼の、立証人になりたかった。せめて。


「オマエ、が、――――――――」


痰が詰まった様に声が途切れる。
不思議そうに喉に手を当て、納得したように悲しげな眼を向ける彼。
限界点は、あと数分。

代弁者になりたかった。
彼女の?彼の。

少女達を救う為、嘗て憎み合った彼と研究を始めて3年と半年。
その期間だけは誰より彼の隣に居た。
黄泉川よりも芳川よりも番外個体よりも、打ち止めよりも。


「大丈夫」


(私の声が、妹に似てればいいな)
少女達が普通に同腹から生まれた妹だったら良かった。
そう思っていた筈なのに、今日だけはあの子がクローンであったことに感謝した。


「ミサカも、あなたと同じ気持ちだよ」


堰を切った様にとうとう熱いモノが頬を伝った。
そして、漸く気づいてしまった。

私はきっと <  > だったのだ。
3年半を共にして、知ってしまった彼の表情。
彼女達を、彼女を護ろうと泥に塗れる彼の事が。
彼女の為に命を削って戦う彼の事が。
彼女を愛する彼の事が。


「―――――――    、ってミサカもミサカも言ってみる」


私はきっと、<  > だったのだ。


心音計の甲高い音が木魂した。
安心しきった彼の目を濡らす小さな雫を指先で拭う。
子供の様に優しい寝顔が安らかで、嬉しくて、非道く残酷で愛おしかった。


341 : 愛してる、って言ってみる。 6/6[saga] - 2011/06/18 19:45:38.57 gMg6/D8W0 7/8




*****





背景、打ち止め様。

あなたが愛したであろう彼は、あなたが言ったであろう言葉で安らかな眠りにつきました。
私が存在したことで、あなたは彼から欲しい言葉が得られたでしょうか。
私が存在したことで、彼はあなたに伝えたい事を言えたでしょうか。



『―――――打ち止めが、さっき眠りについたじゃんよ。本当は連絡したかったけど通話中のまま繋がらなくて、………
 …………間に合わなくて、残念だった。あの子は、後悔してなかったみたいだったけど』



私の気持ちも私の想いも、全部全部、二人の為に存在したのだ。
互いが互いを想う二人が眩しくて、私は彼を <  > になったのだ。



『最期は、ミサカの為に頑張る姿が一番励みだったなあ、って―――――――』



二人の築いた物語を、果たして人は何と呼ぶのか。
奇跡だろうか。
必然だろうか。
それとも、―――――――愛、だろうか。







病院を出た御坂美琴は照りつける太陽を眺めながら瞳を細めた。
目頭から溢れ出る汗を手の甲で拭いポツリと呟く。


「………熱いなあ。本当に、何処も彼処も熱いなあ」







8月31日。
燃え盛る世界の中で、暖かな温もりを感じながら。
彼女が最も愛した二人は、その物語の幕を閉じた。






342 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[saga] - 2011/06/18 19:46:14.86 gMg6/D8W0 8/8

以上です。
女は恋をすると輝くと言いますが、男もそれなりに輝くもんです。
『誰か』の為に我武者羅になる男を見て『誰か』の存在を知りながら心奪われる女性も居るとか居ないとか。………まあ自分には縁のない話ですが。
何年経っても上条さんを好きでいる美琴嬢も可愛いですが、オトナになって何気ない日常の中に何かを見つける美琴嬢も美味しいです。