372 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」[saga] - 2011/06/18 23:31:42.85 X2gtDqmjo 1/12

ごめんなさい。しつこいですが最後にします。

>>211-225
>>279-300
の続きです。
今度はいくつかの指摘にあった台本抜きでやってみました。

個人的には>>279-300が一番書きやすかったのでそれでスレ立てしようと思いますが、
書いてしまったものは書いてしまったものなので、投下して何かプラスになるような指摘があったら嬉しいです。

10レスほど借ります。


【関連】

アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」
http://toaruss.blog.jp/archives/1033830110.html

アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」2
http://toaruss.blog.jp/archives/1033921379.html

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-30冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804796/
373 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」1/10[saga] - 2011/06/18 23:33:00.58 X2gtDqmjo 2/12

………………

 逡巡はおそらく、五秒ほど。

「立てるか?」

「ん……ありがと」

 アックアは恭しく手を差し出し、その 『魔神』 となりえる少女を立ち上がらせた。

 見た目は少々目立つが、ただの少女のように見える。

 銀髪に碧眼、そしてその華奢な身体を包むは、純白の聖衣。

 しかし、である。

「いや。倒れている者に手を差し伸べるのは信徒としてあるべき行動であろう? シスター」

「ふふ、あなた、見た目や内包する魔力の割には優しいかも」

 ――――そう、その少女の前では、アックアの本質など簡単に見透かされる。

「やはりお見通しか。ならば何故逃げない?」

「術式の痕跡からして、あなたは十字教系の魔術師。それも、かなり本質に近い」

「ふむ」

「そんな術式、十字教系の魔術結社でも使わない。だから、あなたはどこかの宗派の魔術師」

 少女は無邪気な目で、恐ろしいほど的確な推測を述べる。

「なら、警戒する必要はないかも。イギリス清教と戦争がしたいとか言わない限りは、ね」

 それがアックアには――――否、大多数の魔術師には、とてつもなく恐ろしいものに感じられるであろう。

「君の言うとおりである。多くは語れぬが、私はローマ正教の人間である」

 先ほどのケルト系の魔術師と女の聖人の目的が目の前の少女の回収であろうことは容易に想像がついた。

 ならば、アックアのすることなど決まっている。

「先ほど、イギリス清教の魔術師を見かけたのである。恐らく、君を迎えに来たのであろう」

「えっ……? それ、本当!?」

「ああ。まだそう遠くは行っていないはずだ。行って保護してもらうといい」

 ――――アックアの中に、少女を人質として利用すれば事が簡単に進むかもしれない、という思考はない。

 そんな思考がほんの一瞬たりとも生まれることはない。

 “真っ向から攻め、真っ向からたたきつぶす。無関係な者は、邪魔をしなければ捨て置く”

 彼の中で、少女はただ任務の遂行中に偶然出会った有象無象の一人にすぎない。

 たとえ少女が、『禁書目録』 と呼ばれる、この世でもっとも 『魔神』 に近い存在であったとしても、だ。

374 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」2/10[saga] - 2011/06/18 23:34:24.64 X2gtDqmjo 3/12

「あちらの陸橋の方である。走れば追いつけるかもしれない」

 アックアは少女に携帯していた軍用レーションを渡した。
 決して美味なものではないが、少女はよほど空腹だったのか、それを一瞬にして平らげてしまった。

「ありがとう! とっても助かったかも!」

 少女はレーションで汚れた口元を緩ませ、おおよそ 『魔神』 とはほど遠い無邪気な笑みで、アックアに礼を述べた。

「構わん。行け」

「うん!」

 トトト、と走り出し、裏路地を抜けるか抜けないかというところで、もう一度立ち止まる。

「どうかしたのか?」

「名前、聞いてなかったかも」

「何だ?」

「だから、名前」

 少女は無邪気な瞳で、アックアに問う。

「あなたのお名前、教えてほしいかも」

「名前、か……」

 少女のことを思えば、答えるべきでないことは自明の理であった。
 
 もしも少女が “アックア” という名を知ってしまえば、それはすなわち、
 “イギリス清教が管理下に置く 『禁書目録』 と、ローマ正教の幹部である後方のアックアとの間に非公式の接触があった”
 という事実を示してしまうことに他ならない。

 それだけは避けなければならない。

375 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」3/10[saga] - 2011/06/18 23:35:30.59 X2gtDqmjo 4/12

 無論、それは自分自身のためではない。
 おそらくはあの二人の魔術師に回収されるであろう目の前の少女のためだ。

 自分と関わったことによって、少女がローマ正教との内通などあらぬ嫌疑をかけられてはいけない。
 それは、アックアにとって当たり前の思考だった。

「――――――――ウィル……」

「……?」

 だから、アックアは短く、そう答えた。

「本名は明かせぬ。“ウィル” 。幼い頃の愛称であるが、それを記憶しておくといい」

「ウィル……」

「ああ。私はローマ正教のウィルという一魔術師だ。合流した仲間にはそう伝えろ」

 少女がその名を記憶し、仲間に話す。
 仲間たちは当然のことながら “アックア” を連想するであろうが、それは確信とはなりえない。

 恐らくはあの魔術師たちとは再度相まみえることとなるだろう。
 そのときに尋ねられれば、銀髪碧眼の少女の存在など知らないと答えればいい。
 それだけで、『禁書目録』 と 『後方のアックア』 との間の関係はなくなる。

 少女が他の宗教勢力の幹部と接触したという事実は消えてなくなるのである。

「ウィル……うん、しっかり覚えたかも!」

「ああ」

 そして少女は今度こそ、

「また、いつか会えたら、お礼がしたいかも! それじゃあ、また! ウィル!」

 走り出し、裏路地を抜け――――――――


                パパパパパパパシュッッッッッ

「はぇ……?」

「ッ……!!?」

 ――――――――その華奢な身体が、大きく傾いだ。

376 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」4/10[saga] - 2011/06/18 23:36:24.20 X2gtDqmjo 5/12

 その瞬間、アックアは同時にいくつかのことを実行に移した。

 第一に、状況判断。
 聖人としての圧倒的な身体能力の一つ、動体視力を駆使し、少女がどんな状況に陥ったのかを精査した。

 結果として、少女が何十発という弾丸をその身に受けていたということが分かった。

 第二に、術式行使。
 瞬間的に己の生命力を魔力に変換し、簡易的な防御術式を身体に施す。
 同時に、探査術式を行使する。

 結果として、裏路地の外を、明らかに一般市民ではない人間たちが取り囲んでいることが分かった。

 第三に、大きくよろめいた少女に駆け寄り、その身を倒れる寸前で抱えた。

 結果として、少女がまだ息をしているということが分かった。


(………………)


 アックアは驚くほど軽い少女の熱を感じながら、激しい怒りに震えた。
 それは謎の襲撃者に向けられたものではない。
 あまりにも無防備すぎる少女に向けられたものでもない。

「――――――この私がッッッ!!!! 破られた探査魔術を放っておいたというのかッッ!!!!」

 それは、己のあまりにも浅慮で至らない思考。

 恐らくはあの少年に打ち破られた数多の術式。

 かけ直そうと思えばいつでもできた探査術式。
 それを今の今までしていなかったのである。

 それは戦士としてはあまりにも甘く、
 傭兵としては失格であり、
 魔術師として恥ずべきことであった。

 そんなことを、

「なんという愚かなことを……!!!!」

 ――――そんなことを、後方のアックアを名乗る男が、許せるはずもない。

377 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」5/10[saga] - 2011/06/18 23:37:10.58 X2gtDqmjo 6/12

「おーいおい、勘弁しろよ。なんだってターゲット以外の人間が出てきやがるんだ?」

 汚い声だと、アックアは認識した。

「あ、いえ、その……た、ターゲットが忍び込んだ時点で、すでにいたよう、で……」

 弱い声だと、アックアは認識した。

「ちゃんと誰もいないか確認しとけよ馬鹿野郎」

「すっ、すす、すみません……!」

「あー……ま、べつにいい。どうでもいいしな」

「は、はい! あ、ああ、ありがとうございます……!」

 少女を抱えたまま、アックアは顔を上げた。

「でもさぁ、何でお前らボーッとしてるの?」

「え……?」

「たかがガキ一人間違えて撃った程度で放心してんじゃねぇよクソ野郎」


       ズドン……!!!!

「がッ……!」

 アックアの視界は、先ほど知覚した明らかに一般市民ではない人間たちをとらえていた。

 そしてその中央、白衣を身につけ、顔に刺青を入れた “汚い声” の男が、
 その部下であろう武装した “弱い声” の男を思い切り殴り倒す瞬間を見た。

「ひっ、あ……」

「本当に使えねぇな。ターゲットが出てきたらこうだろうが」

 そして、その白衣の男がアックアの方を見もせずに拳銃を構え、引き金を引いた。

「………………」

「……おうおうおう。なるほどな。これは俺が駆り出されるわけだぜ」

「貴様、学園都市の人間だな?」

「化け物じみてやがる。ただの警備員じゃ粉砕されて終わりだな」

「なぜこの少女を撃った?」

「学園都市製最新式演算銃器の弾丸を素手で受け止めるたぁ……どういう身体の構造してんだ?」

「問いに答えろ。なぜこの少女を撃った?」

「………………」

 白衣の男は、まるでその顔の刺青を歪ませるように嫌そうな顔をして、

「――――――お前と間違えたからに決まってるだろうが」

「なるほど」

 その瞬間、

「なるほど」

 アックアの行動指針が決定された。

378 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」6/10[saga] - 2011/06/18 23:38:19.71 X2gtDqmjo 7/12

 後方のアックアは多くを語らない。

 後方のアックアは言い訳など絶対に口にしない。

 後方のアックアは、意味のない謝罪など死んでも口にしない。

 そして、後方のアックアは、

「全てを了解したのである」

 失して、迷わない。

「んあ?」

 白衣の男にとって、それは想定外の行動だったのかもしれない。

「何だお前? 自分から捕まってくれるって?」

 なぜなら、アックアが少女を担ぎ上げ、自らへと向かってきたからである。

 白衣の男が指示するまでもなく、今まで扇状に展開していた武装員が統率の取れた動きでアックアを囲む。

「いいよ。さっさと撃てよ」

 後方のアックアが迷わないのと同様に、白衣の男にも迷うようなファクターはなかったのだろう。

 その瞬間、アックアの周囲を取り囲んだ全ての銃口から、一斉に弾丸が発射された。
 

「――――――笑止である」


 しかし両者には決定的な違いがあった。

 白衣の男はまだ、後方のアックアの本質を理解していなかった。

 しかし、アックアはこの時点ですでに、“相手が何であろうと慢心はない” ことを心に誓っていた。

「……へぇ」

 だからこそ、弾丸が己に到達する前に、アックアが全長五メートルにも及ぶメイスを取り出し、
 目にもとまらぬスピードで振り回し、武装員ごと弾丸をなぎ払うことなど、木原数多に想像しうるはずがなかった。

「すげぇな。これは俺も優秀と認めざるを得ない。立派な傭兵だ」

「残念だったな。私は傭兵くずれのごろつきである」

 そしてアックアは少女を抱えたまま、己の両足で飛び上がり、夜の学園都市に消えた。

379 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」7/10[saga] - 2011/06/18 23:39:28.61 X2gtDqmjo 8/12

「すっげぇな。力のモーメントを計算するのすら馬鹿らしく思えてくる」

「奴の総合膂力を考えるだに恐ろしい。人間の身体なんぞ十人縦に並べても潰すだろうな」

 その時点で、木原数多は完全に後方のアックアに対する認識を改めた。

(……ありゃ正真正銘、本物の化け物だ。俺が直接手を下すより仕方がねぇな)

 事実、彼の部下である 『猟犬部隊』 の武装員しめて10人がほんの数秒の間に撃破されている。

(現状の軽装備じゃ奴の殺害はおろか足止めすら不可能だ)
(ッ……胸くそ悪いが、クソッタレの変態野郎共に頭を下げるか……)

 対象を取り囲むようにして弾丸を放ったのだから、味方の弾丸に当たっても問題はない程度の装備は支給している。

 しかし、その程度の防弾装備は、あの化け物の前では意味をなさなかった。

(圧倒的な質量ってのはそれだけで圧倒的な武器になる……ふん、原始的だが効率的だ)

 無論、それはその “圧倒的質量物体” を自在に振るえるほどの膂力があるという前提で成り立つことであるが。

(弾丸を素手で受け止めるような奴だ。それに加えて、生身で防弾ぐらいはできると考えた方がいいな)
(戦闘機……戦車……いや、学園都市製のパワードスーツを相手にしているくらいの気概でかかるべきか)

「くく……」

 生死も定かでない部下たちを目の前に、こみ上げてきたのは愉悦である。

「おもしれぇ……おもしれぇじゃねぇか化け物さんよぉおおお!!!」

 笑いが止まらない。愉快な気持ちが止まらない。脳内麻薬が止まらない。

「その化け物じみた身体……ぶっ殺してアレイスターに首差し出した後で、隅から隅まで調べ尽くしてやんよ!!!」

「ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!! ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 その奇声のは、しばらくやむことはなかった。

380 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」8/10[saga] - 2011/06/18 23:40:16.00 X2gtDqmjo 9/12

 探査魔術に不全はない。

 周囲の警戒は完全である。

「あれ? わたし、どうしてまだウィルと一緒にいるの?」

 そして、少女の体調もまた完ぺきであった。

「失念していたのである」

 そう。

「?」

 目の前で首をかしげる少女は 『禁書目録』 。

 そして、彼女が身にまとう修道服は、『歩く協会』 。

 物理的、魔術的問わず、あらゆる攻撃から対象を守り抜く、教皇級の鉄壁の霊装。

 そんなものが、たかだか何十発という銃弾程度で揺るぐはずがない。

「………………」

 先ほどから己らしからぬことばかりしている気がする。

 これがもっと過酷な戦場であれば、おそらくアックアは生命を落としていただろう。

「あ、そういえば、なんか変な人たちにてっぽー? っていうので撃たれたかも」

「………………」

「目の前にてっぽーの弾がきたから、びっくりして気絶しちゃったのかな?」

 尋ねられても困る。
 そもそも少女が気を失ったりしなければ、アックアもあそこまで取り乱すことはなかっただろう。
 全て己が悪いのだとはいえ、アックアとて人間で、少女が少しだけ憎たらしい。

381 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」9/10[saga] - 2011/06/18 23:41:41.11 X2gtDqmjo 10/12

「もういい。ここに連中はいない。行け」

「どこに行けばいいの?」

「………………」

 その場は、聖人であるアックアが、先の場所から全力で五分ほど駆けた場所である。
 元の場所の面影が残っていようはずもない。

「あんな危険な人たちがいる街で、わたしにひとりでイギリス清教の魔術師を探せっていうの?」

「………………」

「………………」

 無垢な瞳で、頬をふくらませて、じとーっと見つめられれば仕方がない。

「分かった。君は責任を持って私がイギリス清教の魔術師の元へ送ろう」

「本当に!? ありがと、ウィル!!」

「………………」

 少女はこの通り、目立つ格好をしている。
 先の白衣の男は、間違いなくこの少女の外見を覚えただろう。

(科学程度でこの 『歩く協会』 を破れるとは思えぬが)

 それでも、万が一、『禁書目録』 が学園都市によってなんらかの被害を受けるようなことがあれば。

(間違いなく、イギリス清教と学園都市の間に溝が生まれる。それは私の本意ではない)

 面倒なことになった。

 しかし、

(さて、そろそろ次のターゲットを狙う算段をつけるか)

 後方のアックアが退くことはない。

 と――――、

「ねぇねぇウィル」

「む? 何だ、『禁書目録』 の少女?」

 袖が引かれる。アックアの胸にも届かぬ上背の少女がキラキラした瞳で己を捉えている。

「む……そんな変な呼び方じゃなくて、インデックスって呼ぶといいんだよ」

「………………」

382 : アックア 「必要悪の魔導書図書館であるか……」10/10[saga] - 2011/06/18 23:42:16.46 X2gtDqmjo 11/12

「それでそれで、ウィル、あのね!!」

「……何だ?」

「おなかが減ったから、何か食べに行こう?」

「………………」

「レーションは嫌かも! 味気ないかも!」

 少女――――インデックスが、無言でレーションを取り出そうとしたアックアの機先を制す。

 ……先ほどは満足げに食べていたくせに、などとは思っても、アックアは口には出さない男である。

「せっかく日本にいるんだから、日本食が食べてみたいかも! スシ! テンプラ! ゲイシャ!」

「……最後のは食物ではないのである」

 仕方がない。

「分かった。行くぞ」

「本当に!? とっても嬉しいかも!」

 さすがに表だって指名手配をされているわけではないだろう。
 とりあえずインデックスの腹を満たすべく、アックアは歩き出した。

 純粋無垢な少女を引き連れる救済の天使のごとき一面と。

 天真爛漫な少女の全てを奪おうとした悪魔のごとき一面と。

 それを内包し、彼はこの街のレベル5を潰すために、ただ進む。

「――――――第三王女……」

「……? 何か言った? ウィル?」

「否。気のせいである」

「そう?」

 乱れた世に翻弄された、かの女性の如き哀れな人々を救済するために。

383 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage] - 2011/06/18 23:43:07.86 X2gtDqmjo 12/12

長々とすみませんでした。

何か気づいたことなどあればよろしくお願いします。


次はスレ立てしたときにお会いしましょう。