720 : self-deception 0/6[] - 2011/06/27 02:00:08.91 laDYph6AO 1/7上←インで6スレほど頂きます、上条さんは出てこないです。
ネガティブインさんの捏造一人称なんで、お気をつけ下さい。
よし点検を始めようじゃないか、私。
右手の袖をグイッと引き上げ、真っ直ぐに人差し指を伸ばす。
「食パン!牛乳!イチゴジャム!」
「にゃー!」
「大丈夫、この私がスフィンクスのご飯を忘れるわけないんだから」
そうやって笑って、キャットフードを彼専用の皿に置く。
世界でも数えるくらいにしかいない、いわゆる染色体異常の私の家族は「待ってました!」と言わんばかりにそれを食べ始めた。
「よし、できたー!」
明るく言ってみるのは、ちょっとだけ現実逃避をしたいから。
私の目の前にあるのは粗末な……と言うか、小さい子でも用意できそうな朝ご飯だった。
トーストは焼きすぎてちょっと焦げてるし、むしろそれぐらいしか手をかけていないかも。
それでも飢えには勝てない。
ジャムをかければ大概は食せるという当麻の言葉を私は信じ、一口だけかじった。
ぱくり。
「……イチゴジャムってスッゴく偉大なんだよ……!」
焦げが気にならないもん!
発ガン性は気にするべきだけれどね!
その後もパン生地3のジャム1ぐらいの割合でむしゃむしゃと4枚食べてしまった。
「マズいかも……ジャムが終わってしまったんだよ」
「にゃ?」
「うん、食べ過ぎちゃったかも……とうまが入院から帰って来たら……怒るんだよ」
私の食費に生活費に彼の入院費にと上条家の財政は破綻寸前らしい。
せめて私の維持費ぐらいは支払ってもらえないかとは思ってみるのだけれど、なかなかステイル・火織を初めとする必要悪の人と話す機会がない。
元春には「また今度だにゃー」と笑顔ではぐらかされちゃう。
「舞夏に言っちゃうもん……」
なんて言ってみるだけなんだけどね。
じゃあ、私の食費を抑えるために。
手っ取り早いのは103000冊を消去してしまうことなのかな。
消去出来るかなんて勿論、知らないけれど。
「でもね、そうすると困ったことに私が生きてる理由が無くなっちゃうんだよ」
図書館が無くなってしまったら司書さんはお仕事を失う。
だいたい同じ事だ、私だって。
スフィンクスの肉球をぷにぷにと押してみれば、ちょっとざらざらな感覚。
生の体温がとても暖かい。
「水飲めば良いのかな?」
「ふがー」
「それは肯定?それとも否定?」
「ぷしゅっ」
「くしゃみか……、よし、換気が必要だね」
9月の朝というと四季折々の中で1番快適かもしれない、まあ経験は少ないから断言はしないかも。
白いレースのカーテンまで開けると、日光はダイレクトに照射してきた。
光に浮かぶ、埃とかスフィンクスの毛。
ガラガラガラ。
ピョーン。
「若いっていうのは良いね……」
即座にベランダへと飛び込んでいく彼を見送り、私は目を細めた。
そういえば私って何歳なんだろうか。
15くらい……、いや、外人って大人っぽく見えるって言うからほんとは8歳とかかも。
あ、お母さんお父さんって居るのかな。
会って……みたいようなそうでもないような。
インデックスって本名……まあ、違うって言われても今更困っちゃうんだよ。
そうして辿り着く、お馴染みの結末。
「――やっぱり私って、自分のこと」
記憶喪失だからかな、それに、今回がたまたまかもしれないんだけど。
「何にも知らないや」
頬を風が撫でていく。
ああ、早く食器片づけなきゃと思う気持ちはあるけど動かない、動けない。
この部屋にも1人きり。
いつか本当に誰も居なくなって、そしたら私はまたここだって忘れてしまうのかもしれない。
忘れちゃうのも嫌だけど、忘れられてしまう方を思うと更に胸が詰まる。
だけれど、これが今まで誰かに押しつけてきた痛みなんだよね。
それを思うと、1年毎に死んでいった禁書目録らが大分恨めしい。
何で無責任に忘れちゃうのか、それでその事を知らないなんて酷いかも。
「なんて、私だってとうまのこと忘れちゃうところだったんだから偉そうに言えないんだけれど」
だから私は、いつまで経っても面と向かってステイルの名を呼べない。
彼の守りたかった彼女は私にはもう欠片も残って無いから。
酷い夢を敢えて見せる趣味は無い、もう私はステイルの人生に関わるべきじゃないんだ。
そして彼女と重ねられたときに、今の薄っぺらな私を自覚してしまうから。
この狭い一室で完結しちゃって、そしてただうずくまるしか出来ない今の虚しさを。
唇の端を舐めると、さっきのイチゴジャムの味がちょっとだけした。
「……とうま」
そうして初めて、私は帰属感を得るんだろう。
当麻の隣のみで私は生きていると心から認識しちゃうんだ。
どこまで利己的で排他的で居れば良いのかな、なんて自嘲するしかないけれど。
「……本当にどうかしてるよね」
玄関のノブはまだ開かない。
726 : self-deception 6/6[] - 2011/06/27 02:10:37.98 laDYph6AO 7/7上条さんが好きすぎて全然書けなくて……夏。
それと、インさんの心中と実際の喋り口調が乖離してたら個人的にはちょっと萌えた。
ここまでお読み下さりありがとうございました。