706 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] - 2011/07/22 00:06:23.35 7bmJ/CHi0 1/15

15レスほど頂きますねん
ステイルとインデックス、ただしカップリング要素は(多分)無し
目指したのは原作七巻の空気のはずでした↓

元スレ
【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-31冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309616825/
707 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:08:19.95 7bmJ/CHi0 2/15


とある休日。
上条家の居候インデックスは、慣れ親しんだ我が家で家族以外の人間と珍しく対面していた。
部屋の主は例によって進級を賭けた補習に出向いて不在。
必然的に来訪者とインデックスは一対一で向かい合う事になった。


「…………また、とうまを巻き込みに来たの?」


その声には、微かなものながら敵意が見え隠れしている。
対する招かれざる客は、ハッと呼気を短く吐き出して皮肉気な笑みを浮かべた。


「そう喧嘩腰にならなくてもいいだろう、『禁書目録』?」


玄関口のフローリング部分に仁王立ちする彼女の猜疑の眼差しを受け取ったのは、イギリス清教の神父ステイル=マグヌスだった。
どこまでも平坦な声色でインデックスの疑念をいなしたステイルは、口元に手をやってトレードマークの煙草を指に挟む。


「心配せずとも、今回は君にだけ来てもらえればそれでいい。最大主教直々の指令だ。否とは言えないよ」

「とうまには、関係ないんだね?」

「…………ないね、あんな奴には」


少女は神父から顔を背けて、小さく安堵の息をついた。
元より『必要悪の教会』の一構成員に過ぎない彼女に正式な辞令を拒む権利など無い。
ただ、あのお節介な少年が傷つくような事態が避けられるのならインデックスはそれで良かった。


「それで、私は何をすればいいの?」


愛しい管理人に思いを馳せていた少女は、眼前の男――――いや十四歳の少年が、奥歯を強く噛みしめた事には気が付かなかった。

708 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:10:12.87 7bmJ/CHi0 3/15


「それは道すがら、話そうか」


インデックスから肯定の返事を手に入れたステイルは、こんな場所にもう用は無いとばかりに踵を返して、開け放したままだったドアを長身を屈めてくぐろうとした。
その背中に、制止の声。


「ちょっと待って。そのお仕事、どれぐらいかかるの?」

「そうだな、現地に着くまで一時間。仕事自体は三十分とかからないだろうね」

「二時間半、かぁ。とうま、帰って来ちゃうかも」


リビングまで引き返して、メモ用紙を手に取るインデックス。
次いでカレンダー脇のペン立てから黒のボールペンを抜き取ると、流麗な日本語で何事か書き始めた。


「『とうまへ。友達と遊びに行ってきます。晩御飯までには帰るので』…………」

「…………誰と誰が友達だって?」


玄関から相変わらず透明な、色も温度も無い声。
何時の間にか閉めたらしいドアに寄りかかって、ステイルは煙草をふかしていた。
くゆる紫煙がふわふわと風に乗ってリビングまでの短い旅程を終えるが、インデックスの許には一切の感情が届かない。
彼女は僅かに眉を顰めると、


「別に誰でもいいでしょ。嘘も方便、って日本では言うんだよ。それより、室内でタバコは止めて欲しいかも」


日本のみならず学園都市の、いや世界の常識を無視する少年の喫煙を咎めた。
彼が未成年も未成年、上条より年下の少年だと知った時には、彼女も魔道書には記されていない人体の神秘を感得せざるを得なかった。


「これは失礼」


癇に障る、と共に暮らす少年が評する笑みは、インデックスにも決して良い印象を与えてはいない。
彼が神父服の内を弄って携帯灰皿をパカと開くと、人体に百害のある白濁した空気が隔離された。


「…………そんなに吸ってて、よく背が伸びたね。昔から高かったの?」

「君の知った事ではないだろう。書置きが済んだならさっさと行って、さっさと終わらせよう」


彼女にしてみれば臭いとはまた別の要因で苦しくなる一方の呼吸を、少しでも楽にしようと振った世間話だった。
しかしステイルは灰皿を懐に戻すとすぐに鉄扉を押し開いて、外の世界へ身体と意識を向けていた。
ム、と頬を軽く膨らませるインデックス。
やはり好きになれない類の人種だ、と思った。

709 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:11:53.61 7bmJ/CHi0 4/15


第七学区の路上を神父とシスターが連れ立つ。
学園都市では珍しい職種の二人組に、しかし通行人の注目は全くと言っていい程集まらない。
前方を歩いて振り返りもせず滔々と事のあらましを告げる少年から、少女は魔力の滞留を敏感に感じ取っていた。


「御理解いただけたかな」

「術式を見て、発祥元を辿ればいいんだね?」


事務的な説明に終始するその姿は、二人が”ただ一度”協力関係を結んだ『法の書』事件から何一つ変じていなかった。
上条を巻き込むイギリス清教に少女が誹謗の言葉を浴びせても、彼は柳に風と受け流し――――


(………………そういえば)


一度だけ、激しい、とまではいかずともステイルが狼狽を見せた瞬間があった。
あれは確か、などと記憶を手繰り寄せるまでもなく、鮮明な『記録』がインデックスの脳裏で再生される。


「…………ねえ」

「なんだい、解らない事でも? すまないが僕も女狐から虫食いパズル状態の指令書を受け取っただけでね」




「あなたにとって、私って何?」




身長の割には小幅に抑えられていた歩みが止まった。
インデックスは彼から二メートル程の位置で、やはり脚を休ませる。
そよ風すら吹かない停滞した空間で、ステイルの咥えたシガレットだけがゆらゆらと大気を染めた。


「僕からも、同じ事を聞きたいね。よくもまあ、さんざ追いまわされた魔術師に着いて来る気になれたな」

710 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:14:37.27 7bmJ/CHi0 5/15


警戒感が足りないんじゃないか、と窘める声が、初めてインデックスに感情の揺らめきを伝えた。
苛立ち、焦燥、鬱屈、そして――――悲哀。
それにしても、言っている事が支離滅裂である。


「着いて来い、嫌とは言わせない。そう言ったのはあなただよ」


滅多に口にしない皮肉を返しながら、彼女は胸の裡で、この魔術師が己の身の安否を憂虞しているのだと確信した。
しかし彼の愁いの対象は果たして『インデックス』なのか、それとも『禁書目録』なのか。


「それもそうだったね、はは。重ね重ね失礼した」


そして、何故なのか。
自分を追跡し、回収しようとしていた事は知っている。
やはり『魔道図書館』の持つ価値を腕利きの術師として、あるいはイギリス清教の一員として重要視しているのか。


それとも。


「…………行こう。時間が勿体ない」


神父の右の脚がゆっくりと踏み出され、左も直ぐに追随する。
彼女にはその外面が形作った表情も、内心に仕舞いこまれた感情も、杳として知れなかった。


「そうだね。…………とうまが心配しないうちに、帰らなきゃ」


高々と晴天を突く長身の背を追って、インデックスも幾分か広がった歩幅に遅れぬようピッチを上げる。


結局、お互い質問には答えず終いだったな、と彼女は思った。

711 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:16:29.39 7bmJ/CHi0 6/15


「ここだ」


予定通りきっかり一時間後。
駅から電車を乗り継ぎ到着した先は、工芸や美術の盛んな第九学区のとある小物店だった。


「用意がいいんだね」


唇を尖らせて店舗の入り口からも神父からもそっぽを向くインデックス。
改札口を通過する際、券売機の前で冷や汗を流す彼女にステイルは『でんしまねー』とやらの入ったカードを渡してきた。
あの得意げというか、人を小馬鹿にしたような面は、邪気を感じさせなかった分だけ彼女の羞恥心を実に効果的に煽った。


「仕事だからね、当然さ。さて、最初の任務だよ。建物自体が既に術式を組んでいるようだが」

「ふーんだ…………特徴の無い術式だね。あっちこっちの理論から『アトリエ』の体を為すように象徴をかき集めてる」


とっくの昔に『お仕事用』に切り替わっている魔術師は彼女のささやかな憤慨など気に留めず、ふむと一息つく。


「特徴が無い、それが特徴とは言えないか?」

「少なくとも私の知る限りには存在しない組み合わせなんだよ。一つ一つの術式は教科書を写本したみたいに平凡なんだけど」

「…………ならそうだね、収束点はどのあたりだい?」


魔力の濃い地点を一つ、二つと大雑把に指差すと、彼女の思い描いた通りの座標にルーンのカードが飛んでいく。
思考を読んでいるかのような精密な動作に、何故だか不快感は湧かなかった。


「中には一人、か。お誂え向きだな」

712 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:17:40.25 7bmJ/CHi0 7/15


それだけで彼は魔術師の『アトリエ』を制御権を握ってしまったようだ。
若干十四歳でルーン魔術を極めた天才。
既存の二十四に加えて新たに魔術史に刻んだ六文字。
いかにインデックスの書庫があらゆる原典を収めていようと、十万三千冊を記録して以降に生み出された要素まで完全には把握しきれない。
一体なにが、この少年をそこまで突き動かしたのだろうか。
よくよく考えれば逃亡時代からの長い付き合いであるにも関わらず、彼女はステイル=マグヌスを殆ど知らない自分に気が付いた。


「僕が中の敵を無力化するから、君は少し此処で」

「私も一緒に行く!」


魔力錠がつい先ほどまで施されていたドアノブを、事もなげに回しながら放たれた戦力外通告に、インデックスは思わず声を張り上げてしまった。
年相応にきょとんと振り返った顔つきが意外に幼いな、と頭の片隅で呟きながら、彼女の瞳も己の一言に丸く見開かれていた。


「…………え、と。今の口ぶりだと、魔術師は集団なんだよね? だったら仲間が帰ってくるかもしれないし、心細いかも、なーんて………………」

「……………………ああ、ご、御尤もだ。それは失念していたね」


揃って口も身体もぎこちなく動かしながら、扉がギギ、とゆっくり開かれる。
インデックスはその光景を別世界の事のように焦点の合わない目で見やりながら、自失していた。


(い、今の言い方じゃあ……)


まるで自分が、彼を信頼しているようではないか。
心のアルバムの大半のページで、自分を脅かした画に映っているこの魔術師に、守ってもらえるなどと。
そう、信じてしまっているようではないか。


(私が、この人を?)

713 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:18:39.03 7bmJ/CHi0 8/15


ボウッ!!!


「え?」


思案に耽っていると、黒衣が炎を上げた。
飛び散る火の子に身を一瞬引いてからようやく、何が薪炭にされたのか悟った。


「あ、あ……だいじょうぶ!?」


慌てて駆け寄ろうにも火勢が強力に過ぎる。
しかしインデックスが手間取れば手間取るほどステイルの命は危険に晒される。
八方を見回して水でもないかとあたふたしていると、


「やはり、欧州系の術式ではないな……」


火炎が呆気なく四散して、燃え炭にされたはずの神父が呑気に術の考察などしながら姿を現した。
五体満足の様子を目に入れると、インデックスの胸が締め付けられるように痛む。
はあ、と肺の奥から空気が漏れ出た。


「ん、では行こうか…………おや、まだ不安かい? 中の術師は呪詛返しでのたうちまわってる筈だから、御懸念には及ばないよ」


そういう事ではない。
顔を蒼くしたインデックスにちらと視線をやって何を誤解したのだろうか。
的外れにこちらを安堵させようとするその不器用な横っ面を、引っぱたきたくなってしまった。

714 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:20:17.64 7bmJ/CHi0 9/15


「この魔法陣のようだね。どう見る、『魔道図書館』?」


上階のとある一室でのたうち回るどころか失神していた魔術師を拘束すると、その隣に明確な宗教的指向性を孕む円陣。
迂闊に触れないように長身を屈ませて、ステイルは魔術界最高峰の頭脳の見解を仰ぐ。
一目で構成を看破したインデックスは彼の隣にしゃがみ込んで、講釈を開始した。


「ソマリア砂漠に伝わる民俗宗教の儀式だね、これは」

「アフリカか。かの地の宗教模様は複雑怪奇だからな…………十字教的要素は?」

「エチオピア青教が地理的には近いけど、そういう様子は見られないんだよ」

「しかし自然のスケールに意味を見出すことの多い民間信仰にしては、やや偶像の配置が恣意的に過ぎないかい?」

「それは見方が間違ってるからかも。彼らの着想では頂点の位置が私たちの解釈とは異なってて」

「あ」

「え? ……………………あ」


そこでようやく二人は、自分達が肩が触れ合うほどにその距離を縮めていた事に気が付いた。
流れるようであった魔術談義が途切れ、どちらからともなく、お互い視線を合わせずに身を離した。
このアトリエに辿りつくまでの道中より、遥かに気まずい沈黙。


「……仕事をしようか」

「…………うん。結局この人、何をするつもりだったのかな?」

「それは僕が聞きたいね。結局どういう魔術、っ」


突如として、ステイルが口を噤んで部屋の入口を鋭く睨みつけた。
インデックスがその意味を察して行動に出る前に、


「君の出る幕は勿論ない。この部屋で大人しくしてるんだね」


その小さな身体を部屋の隅に鎮座する鏡台の陰に押しこみ、足早に姿を消す神父服。
クレームをつける暇も無く、魔陣が悄然と佇むのみの空間にインデックスは取り残された。

715 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:21:56.16 7bmJ/CHi0 10/15


時間の感覚が不明瞭になっていく。
五分か、十分か?
それとももう一刻を過ぎてしまったのだろうか。
だとしたら、あのお人好しの少年は心配して自分を探しているかもしれない。
良い気味ではないか。
常に待たされる側の自分の立ち位置に、偶には身を置いてみろというものである。
待たされる、と言えばこの状況は――――


思考の闇の中で上条当麻のことだけを只管に巡らせていると、眼前に分岐点が照らし出された。
愛しい男性(ひと)を想っていれば満足だと、少女は当然の如く幸福な環状線に戻るルートを選ぼうとする。




『上条当麻ッ!! いま以上に強くなれ! この件が尾を引いて彼女が斃れたら――――ッ!!』




不意に耳を突いたいつかの声。
選ばれたレール。
インデックスはほぼルーン魔術の発動痕跡しか感知できない階下の様子を窺うべく、自然と立ち上がっていた。


彼女は己が内に巣食う不可解な感情を認めた。
いま現在、自分は己ではなく、もう一人の少年が心配だと。
心の鼓動を不規則にして誰かを待つ今の自分は、上条当麻へのそれと同質の憂患を、ステイル=マグヌスに抱いていると。

716 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:23:34.84 7bmJ/CHi0 11/15


ドアをそっと、目だけは出せる程度に開く。
二、四、六、七人。
濃紺のローブを身に纏う、ソマリアの魔術師。
うち四人は既に地に伏し、残る三人の間を盛る焔の獣が駈け抜けて躍動する。
使役する神父の姿は数分前――壁時計は彼女の彷徨の時間を正確に教えてくれた――と変わらず黒く、赤かった。


(心配、いらなそう)


取り越し苦労だったと扉を音を立てないよう閉めるインデックスの視界に、倒れ伏した筈の男の手がピクリと動くワンシーン。
そこはまさにステイルの死角。
煤に染まった腕が、散らばった霊装らしきものに、じわりじわりと伸びて、


「後ろ!」


戦場に在る者の注意が、一斉に階上の修道女に集中した。
明らかな非戦闘員を発見して、劣勢の青ローブたちが好機到来と色めき立ってインデックスに殺到する。
刹那、黒衣の魔術師の相貌が阿修羅のそれと化し――――




「Fortis931」




――――焔の巨魁が現出した。





717 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:25:36.54 7bmJ/CHi0 12/15


「じゃ、もう用はないよ。気を付けて帰るんだね」


炎が未だプスプス燻る建築物の後始末はイギリス清教の誰かがするのだろうか。
魔術結社とそのアジトの壊滅をもって、本件は落着と相成ってしまったらしい。
魔法陣の解析結果を耳にすることなくステイルは任務の終了を告げてヒラヒラと手を振った。


「送ってくれないの?」

「必要性を感じないね」


彼の目線は少女ではなく、その遥か後方に落とされている。
戦闘中に取り落としたのか投げ捨てたのか、新たなニコチンを欲した神父が鮮やかな手際で瞬く間に烟草を口に咥えた。
行きの道中では何も言わなかったインデックスが見咎める。


「学園都市の路上はシュージツゼンメンキンエンなんだよ」

「知ってるよ、というか意味をわかって言ってるのかい?」


溜め息をついてあっという間に役目を終えた煙草を未練がましくちびってから、ステイルは携帯灰皿に出番を与える。
齢十四で肩身の狭い喫煙族ピラミッドの上方に位置する少年に、やや固い声の説法。


「煙草なんかで寿命を縮めたら、あなたを大切に想う誰かが悲しむんだよ?」

「…………余計な御世話だ」


付けたばかりの火煙を再び灰皿に投げ込むと同時に、背を向けてステイルはどこへともなく歩き出す。
間髪いれずの動作は、表情を隠す為、とも受け取れた。


「では健勝であれ、『禁書目録』。二度とお目にかからない事を願うよ」


慇懃無礼極まりない言い草に、しかしインデックスは憤慨ではない何かから言葉をひねり出そうとする。


「待っ……」

718 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:26:31.58 7bmJ/CHi0 13/15


その時。


「おーい、インデックス!」

「と、とうま? なんでここにいるの?」


耳慣れた声に振り向けば、通りの果てに見慣れたツンツン頭。
ステイルが目を向けていたのは、遠くからでもすぐそれと解る上条当麻の姿だったのだ、と彼女は直感した。
通学カバンをぶら下げて駆け寄ってきた上条は、インデックスが誰と一緒にいたのかまでは気付いていない。


「いや、補習の課題で彫刻造れとかムチャ言われてさ、何か参考にならねーかなって。お前こそ何してたんだ? 一人でこんな食い物の匂いがしない所に来るなんて上条さんには信じられませんよ」

「…………と・う・ま?」

「あ、いやいやいや! 今のは決して敬虔なシスターさんを侮辱したわけじゃあ!」

「カ・ミ・ク・ダ・キ・か・く・て・いなんだよ!」


ワンパターンだが愛しい、日々通りのじゃれあい。
ウニ頭にデリカシー欠如罪の制裁を下しながら、インデックスはもはや影も無い神父の去り際の手つきを思い出した。
煙草を咥えて、火を付けて。
直ぐに消して、狭い狭い銀のケースに閉じ込めた。




あのアッシュトレイの中に少年が仕舞いこんだものは、青空に浮かべれば我先に霧散してしまう白煙だけだったのだろうか。




719 : アッシュトレイの中の懺悔室[saga] - 2011/07/22 00:27:51.64 7bmJ/CHi0 14/15


(………………最後まで、私の名前、呼ばなかったね)


彼だけを責める筋合いではない。
彼女とて同罪――これを罪と呼ぶのなら――であった。


お互い名前は知っているのに、口をつくのは“君”と“あなた”。


(なんて)


会話も視線も、本当の意味では一度たりとも交わらなかった。


(なんて、虚ろな関係なんだろう)


この関係に、目の前のヒーローなら、なんと名前を付けるのだろう。


「ってぇ…………で、ホントお前何の用があったんだよ?」

「別にいいでしょ。それよりとうま、今日の晩ご飯はなーにかなっ?」

「人に噛みついた後で罪悪感なく飯の心配できるとは素晴らしいシスターさんですこと」


往路とは同伴者を変えて、インデックスは弾む足取りで帰路に着く。
別れの言葉も言わせてもらえなかった神父が帰った方向(せかい)とは真逆。
誰よりも魔術の深みに嵌まり込んだ少女が手に入れた、帰るべき優しい世界(ほうこう)へ。





そうしてインデックスは目に染みる煙の匂いも、肌を焦がす焔の香りもしない、暖かな日常に戻っていった。





720 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] - 2011/07/22 00:28:52.21 7bmJ/CHi0 15/15

ひたすらツンデックスとツンステイルが殺伐としてるお話のつもりだったのにどうしてかこうなりました
ステイルってインデックスのフラグを万が一立てても攻略しなさそうだよねヘタレ的な意味で
次はデレックスとデレイルになるよう頑張ります