839 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[saga] - 2011/07/25 15:30:10.89 GBcXS0pD0 1/32

昔書いたssが発掘されたので。

上条当麻というヒーローが存在しなかった平行世界では、『絶対進化実験』はどのようなエンディングを向かえたのかっていう妄想ss
激しく鬱ですのでご注意ください。ちょいグロ表現あり

では33レスくらい頂きます。多いですごめんなさい

元スレ
【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-31冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309616825/
840 : 1[saga] - 2011/07/25 15:30:55.05 GBcXS0pD0 2/32

酷く痩せこけた細い男の子が、両の手で手すりを握り、わずか数メートルを歩くことに悪戦苦闘していた。
なんどもバランスを崩しながら、しかし懸命に足を引きずっている。

「彼は筋ジストロフィーという病気なんだ」

美琴の隣に立つ白衣を着た男性が、ガラス越しにリハビリ施設を見下ろし、言った。

「きん、じす……?」

幼い美琴はオウム返しに呟いて、首をかしげた。
男は優しく微笑むと、静かに言葉を続ける。リハビリ施設の少年が転倒したのを見て、美琴は小さく「あっ」と声を上げた。

「全身の筋肉が徐々に弱っていく病気でね。しかし、現在の医学では根本的な治療法は発見されていないんだ」

美琴は男の顔を見上げた。男は続ける。

「どんなに努力をしたところで筋力の低下は止まらない。進行すると、自分の力で呼吸をすることもできなくなり……」

男は最後まで言わず、静かに首を振った。美琴の胸に、ずきん、と痛みが走る。
ガラスの向こうでは、美琴と同じくらいの年の子供たちがリハビリに励んでいる。車椅子に押されている子供もあれば、呼吸器を取り付けられている子供もいた。
残酷で理不尽な病に侵された少年少女を、美琴は見つめた。

841 : 2[saga] - 2011/07/25 15:31:24.40 GBcXS0pD0 3/32

「あの子たちを助ける方法はないの?」
「ある。君、美琴くんの能力だよ」

男は小さな美琴の視線に合わせるようにしゃがんで、「わたしの?」と眉をハの字にする美琴に笑いかける。

「脳の命令は電気信号によって筋肉に伝えられる。もし仮に、生体電気を操る方法があったとしよう。そうすると、通常の神経ルートを使わずとも筋肉を動かせるはずなんだ。君の力を応用すれば、彼らを救えるかもしれないんだよ」

一拍置いて、男は言った。

「君のDNAマップを我々に提供してはくれないだろうか?」

――困っている人がいたら、助けたい、と思った。苦しんでいる人々に、希望の光を与えることができたら。
男の、大きな手が差し伸べられる。

「うんっ!」

幼い美琴は本当に無邪気に、その手を取った。

842 : 3[saga] - 2011/07/25 15:32:07.66 GBcXS0pD0 4/32




どうして、こんなことになっちゃったのかな。
鉄橋の手すりに手をついて、美琴は声も無く呟いた。返事は無い。人気のない鉄橋の上を、ひやりと冷たい夜風が通り過ぎていく。
残る手段は一つ。
選択余地などなかった。
これ以上ひとりの犠牲者も出さないためには、最後の、この残された手段を取るしか――。

「今夜一方通行に挑み、全ての決着をつける」

美琴は噛み締めるように、ゆっくりと言った。

「これで、全てが終わるのよ」

美琴の最終手段。
『樹形図の設計者』によって『一方通行と超電磁砲が戦闘した場合、百八十五手で超電磁砲が敗北する』という結論が導き出されている。だから、美琴はその裏をかく。
要は超電磁砲こと御坂美琴が、それだけの価値を持たない事を研究者達に見せつけてやればいい。御坂美琴が最初の一手で敗北して、あとは地を這い惨めに尻を振って逃げることしかできなかったのなら、研究者達は計画の再シュミレーションを余儀なくされる筈だ。
三週間前に謎の大破を遂げた『樹形図の設計者』に再演算は不可能。よって、計画は凍結される。

「……あーあ」

美琴は自嘲気味に笑って、ため息をついた。

「10000人も死なせておいて……助けて、なんてどの口が言うのよ」

843 : 4[saga] - 2011/07/25 15:32:39.67 GBcXS0pD0 5/32

一方通行、第一位との戦闘。勝機なんて無い。希望なんて抱くだけ無駄だ。御坂美琴の死亡は、世界一の予言マシン『樹形図の設計者』によって明言されている。
美琴は、鉄道の整備場で一方通行と戦ったときのことを思い出す。あらゆる手を用いて応戦したが、そのすべてを無に還された。次元が違った。第一位と第三位とか、そういうお話ではなかった。
第一位は、美琴のその異名の根元たる超電磁砲をも弾いたのだ。美琴はその時悟った。この化け物には、自分の持つどんな手も通用しない、と。

「……そろそろ、ね」

世界中の軍隊を敵に回してもケロリと笑っている様な、そんな怪物に殺されに行くというのに、不思議と恐怖は無かった。
なんでも解決してくれる優しいママはここにはいない。困ったときにだけ神頼みしても、奇跡が起きる訳じゃない。
泣き叫んでいたら助けに来てくれるヒーローなんて――――。

「自分の手で終わらせるしかない」

美琴は、握っていたゲームセンターのコインをポケットへ入れる。
夜風が美琴の髪をなぶり、バチン、と電極から発せられるような火花が闇夜にスパークする。
美琴は顔を歪ませた。それは嘲りに笑っている様にも見えたし、泣きだす直前の子供の顔にも見えた。


「行こう、御坂美琴(わたし)。この手で全てを終わらせるために」


御坂美琴は歩き出す。
この世界に、ヒーローなんていないのだから。


844 : 5[saga] - 2011/07/25 15:33:21.39 GBcXS0pD0 6/32


砂利が敷き詰められた整地に、コンテナが高く積まれている。

「利用地形は絶対座標でX‐228561、Y‐568714。使用検体は10032号、その用途は『反射』を適用できない戦闘における対処法。開始時刻は日本標準時間で午後八時三十分ジャスト」

ジャリッと足元の小石を鳴らせて、10032体目の量産クローンの少女はコンテナに腰掛ける白い少年を仰ぎ見る。

「と、ミサカは事前確認を行います。何か質問は、一方通行」
「その問いも10032回聞いたぞ、ダミー人形さんよォ」

一方通行と呼ばれた少年はゆらりと立ち上がり、くだらなさそうに吐き捨てた。そのまま十メートルはあろうかという高さをものともせず、トン、と何気ない調子でコンテナから飛び降りる。

「現在時刻は午後八時二十七分三十八秒――あと二分二十二秒で実験を開始しますので、指定の位置について待機をお願いします、とミサカは促します」

上は半袖のブラウスにサマーセーターを重ねて、下は灰色のプリーツスカート、ローファーにルーズソックスをはいた量産型クローンは、ライフル銃を手際よく組み立てる。

「ったく、いい加減飽きが回って来るよなァ。こうも単純作業を繰り返してるとよォ」

月光に照らされて竜の銀鱗のようにちらちら光る白髪をかき上げ、鬱陶しげに少年は言う。
一方通行は相変わらず生気の無い少女の顔を見ると、隠しもせず舌打ちした。「……ちったァ何か考えたりしねェのか、この状況で」呆れたような声で、問いかける。

845 : 6[saga] - 2011/07/25 15:34:02.39 GBcXS0pD0 7/32


対してクローン少女は、「何かと言う曖昧な表現では分かりかねます」と味気なく返答を返す。そして視界に映る全てを目で追っている様な虚ろな瞳で一方通行を捕えると、「ですが」と前置きして続けた。

「あなたはすでに、学園都市最強の能力者の座を得ているはずです。それ以上の上を目指す必要性がミサカには感じられません、とミサカは疑問に思います」
「……最強、ねえ」

一方通行は吟味するかのように呟いた後、わずかに間をはさんで独りごちるように言った。

「俺は学園都市の第一位だ。そりゃ確かにそォだが、最強は所詮最強どまりなんだよ」

御坂美琴のクローンは、わずかに首をかしげる。依然としてその無表情に変化はないが。

「……ミサカには、あなたの言葉の真意がわかりかねます。その解答は、あなたのような域に達した人間にしたでないと到底理解できないものなのかもしれませんね。愚問でした、とミサカは感想を述べます」
「あァ、こっちにも理解して頂くつもりなんざねェよ」

量産型クローンは組み立て終わったライフル銃をざっと点検し、暫し無言で待機する。

「――三、二、一」

顔を上げると、少女はゆっくりと生ける破壊兵器へ歩み寄る。
第三位の模造品は額に掛けていた軍用ゴーグルを目元まで引き下げて、


「八時三十分ジャスト――これより、第10032次実験を開始します」


自らの死刑宣告を、どこまでも冷徹に言い放った。

846 : 7[saga] - 2011/07/25 15:34:40.23 GBcXS0pD0 8/32




「――はぁっ、はぁっ」
「オマエは何回殺されてェンだ!? 鬼ごっこには飽き飽きしてンだっつゥの!!」

眼下では、被験者の少年と実験動物の少女による、生死かけた本物の鬼ごっこが展開されていた。しかしそれはただ単に一方的な虐殺にすぎない。

「ぎ、あ゛、ッ――!!」

横っ腹を蹴り飛ばされた少女は顔を苦痛にゆがませて、血と一緒に空気を吐きだしながら空中を一回転して落下する。
砂利と人肌がこすれあうジャジャジャジャ! という小気味悪い音が「ひゃはははァ!!」と狂ったように笑う少年の奇声と重なり、物陰に潜む美琴の鼓膜に刺さる。

美琴は押しあがる吐き気と嫌悪感を無理やり飲み下して、じっとりと汗ばむ手の中のコインを改めて握り直す。
この手で放つのは、これで最後になるであろう必殺技。
超電磁砲。
御坂美琴の異名でもあるこの技で、全てを終わりにする。
物語を、終局(エンディング)へと導く。
計画を受け持つ施設を破壊し始めたときのような、言葉にできないあの気持ちが、再び美琴の胸の中に蘇る。
美琴はそっと目を閉じる。そして、今まで自らに人生に携わった全ての人を思い描いて、一人ひとり、大切な宝箱にしまい込むように記憶(おもいで)を辿っていく。
懐かしくて、温かくて、でもそれは、二度と戻る事が出来ない陽の下の『日常』。その時、御坂美琴が押し殺していた何かの枷がはずれた。
情けなくて、申し訳なくて、すべての人に謝りたくなって、「……ごめんなさい」と、消えそうなほど小さく呟いた。


847 : 8[saga] - 2011/07/25 15:35:24.23 GBcXS0pD0 9/32



「ごめん……みんな、ごめんね」

もう一度呟いて、顔を手で覆おうとして、そして美琴は頬が濡れている事に気付いた。
生暖かい塩水が指先に触れる。
美琴は自分が許せなかった。不条理に殺されていく妹達(シスターズ)は、一滴の涙さえ流さず、不平も文句も全てを留(とど)めて――こうして今も、目の前で死んでいくと言うのに。



848 : 9[saga] - 2011/07/25 15:35:58.96 GBcXS0pD0 10/32


「ッ、……はぁ、はぁ、……」

片腕の肉を吹き飛ばされた少女は、もはや獲物であるライフルを扱うこともままならない。
常盤台の制服を赤黒く凝固する血で染めて、少女はふらふらと少年から逃げる。

「なンだよもうお終いかァ? そォだ、四肢を捥いでダルマにしてもまだ生きてられるか試してみるのも面白れェ――」
「一方通行!」

狂気に浸った少年の言葉を遮るように放たれた声は、積み重ねられたコンテナの影が生み出す闇の中から聞こえてきた。
一方通行は振り上げた腕をおろし、怪訝そうに声の元へ振り向く。
まず最初に見えたのは、ルーズソックスとローファー。次に見えたのは見覚えのある灰色のプリーツスカート、そして半袖のブラウスにサマーセーターの重ね着。風になびくは、茶髪のショートヘアー。
徐々に明るみに出ていく人影は、一方通行と十分に距離を詰めて立ち止まった。

「……あァ?」
「動かないで。動いたら撃つ」

突き出すように構えた右手にコインを乗せて、人影――御坂美琴は言い放つ。

(一方通行を止める。そして『樹形図の設計者』が導き出した一八五手、その前に私が倒されれば)

実験は、終わる。


ゲームセンターのコインが弾かれ、宙を舞った。


夜の闇を引き裂くように、轟音と衝撃波を率いた一撃は、音速の三倍の速度を持って一方通行めがけて飛んでいく。
その必殺技は一方通行に反射され、美琴自身に跳ね返るはずだ。

宙に舞うコインが描く放物線が決める運命。
もしもこの世界に神なる者が存在するならば、神様が下した結果、それは。


850 : 10[saga] - 2011/07/25 15:37:40.55 GBcXS0pD0 11/32


超電磁砲が一方通行へ届く事は無かった。
理由は明確。
音速の三倍――それより早く、目の前の化け物が美琴の目の前まで距離を詰めたからだ。

「また会ったなァ、オリジナル」

たった一瞬の間でわずか数センチの距離までに移動した第一は、引き裂くように笑んだ。

「――そんなに死にてェのか? オマエ」

鋭く赤い双眸が、標的を狙い定める標準器(ドットサイト)の如く、ゆっくりを美琴を補足する。
その赤い瞳に映る自分の姿を見て、ああ、終わりだ、と。
これですべてが終わるんだ、と。
世界最強の破壊兵器こと学園都市第一位を前にして、漠然と御坂美琴は悟った。

一方通行の白い腕が振り上げられる。
美琴は目をつぶらなかった。全ての元凶である『自分』に下される制裁を、ただ冷静に眺めていた。
空気を裂く音と共に、その凶器の腕は振り下ろされた。
しかし美琴の体は弾け飛ばない。

「あ゛あ゛あぁぁぁあああああああああッ!!!」

そして、美琴をかばったクローン少女が、断末魔と共に『爆ぜた』。

「…………え?」

ドサ、と。
美琴の足元に、先ほどまで一方通行から逃げていたはずの量産クローンの少女……いや、『少女だった肉塊』が倒れ伏した。
ぜぇはぁ、と荒くて浅い呼吸だけが鼓膜に届く。かろうじて息はある、そんな状態だった。

「……え、嘘、っ? どうして。なん、で?」

美琴は目の前の状況が理解出来ない。
これで死ぬはずだった、全てを終えるはずだった自分が、何故。

「……なんで私、生きてるの?」


851 : 11[saga] - 2011/07/25 15:38:31.32 GBcXS0pD0 12/32


一方通行が振り落とした一撃は、御坂美琴ではなく軍用クローンに直撃した。
そのまま倒れ込むクローンと、茫然と立ち尽くすオリジナル。
足元のクローンはもう死にかけだった。左上半身がごっそり吹き飛ばされており、ぴくぴくとわずかに痙攣している。
それでも御坂美琴と瓜二つのクローンは、力無く言葉を紡ぐ。

「お姉様(オリジナル)が……実験、に関わる、と、計画全体……に、破綻の恐れ、がある……大きな歪み、が生じる、た、め、ミサカはお姉様(オリジナル)を守、りま、し……た、とミサカ……は、お姉様、を安全域まで連行する為……に、複数のミサカへ、応援を要請しま……す。ちな……みに、この実験は有効と見なされるので、あしからず、と、ミサカは……被験者へ実験、の継続、を……」

言い終える前に、一方通行がさしたとどめによってクローン少女は内側から爆発するように大破した。
大きく飛び散った返り血が、動かない御坂美琴にべちゃびちゃと振りかかる。

「救いようがねェな」

一言言い捨てて、一方通行は実験場を後にした。
御坂美琴は最後まで動かなかった。電池が切れたロボットのように、血溜まりに沈む肉塊を見下ろして立ち尽くしていた。


852 : 12[saga] - 2011/07/25 15:39:23.27 GBcXS0pD0 13/32




――第一〇〇三二次実験。
あの日の惨劇を境に、御坂美琴の人格は大きく変わった。



「……知ってる? 御坂さん、ここ一週間寮に戻られていないそうよ。学校もずっと欠席してるみたいで……」
「なにがあったんでしょうね、心配ですわ……」

常盤台の生徒が噂する傍らを、陰鬱な面持ちの白井黒子が通り過ぎていく。
白井は風紀委員としても一後輩としても、独自に美琴の捜査を進めていた。目撃情報もいくつか集められているが、それでも彼女が慕う御坂美琴は見つからない。帰ってこない。

「お姉様……」

白井黒子は切実に願う。
お願いだから、早く、一刻も早く御坂美琴と再会したい。ただ話がしたい。

「どこにいらっしゃいますの、お姉様……」


853 : 13[saga] - 2011/07/25 15:39:51.62 GBcXS0pD0 14/32




御坂美琴はとあるファミレスのテーブル席にひとりで座っていて、その周囲をガラの悪い不良少年達が取り囲んでいる。
美琴は黙ってうつむき、テーブル状に置かれた情報誌に目を落としていた。以前より大分髪が傷み、目の下にはくっきりとクマができている。明らかにやつれているが、それは確かに美琴だった。

「おっ、常盤台の生徒じゃん!」
「しかもなかなかの上玉じゃねえか、可愛いねー君」

不良達のボスなのであろう、ひときわ大きい少年が「俺達と遊ばない? いつ帰れるかわかんねぇけど」と軽口をたたき、取り巻きたちが一斉に笑う。

「……あー?」

そこでやっと美琴が顔を上げた。不良は「おっと、お嬢様の気分を害しちまったかな?」と冗談めかし、なおも減らず口を叩く。
寝起きの様な虚ろな目をした美琴は、そんな不良少年達を無遠慮に上から下までじろじろながめて、蔑むような声音で言い放った。

「はあ? いつの時代のチンピラだよきっも。やだー御坂の半径1m以内に近づかないでー」

――と。
短絡的な不良少年は頭にかちんと来たらしく、

「……あぁ? おい、調子のってんじゃねえぞガキィ!!」

乱暴に向かいの椅子を蹴り飛ばす。


854 : 14[saga] - 2011/07/25 15:40:36.81 GBcXS0pD0 15/32


「調子に乗ってるのはどっちかしら? ……社会の底辺の屑がこの御坂様に話しかけてんじゃないわよ!!」

美琴の額から、バチバチッ!! と凄まじい音を立てて電撃が飛来した。直撃を受けた一人の男が「ぐわぁああああッ!!」という叫び声と共に気絶し、テーブルや椅子を派手に巻き込んで倒れる。

「ひ、ひィ……ッ!? の、能力者か……!?」
「おいコイツ、超電磁砲っつー超能力者(レベル5)……!!」

不良少年達は一目散に駆けていき、その場に美琴だけが残される。

「あーあ、ほんっとどーしようもない屑だわ。ね、アンタもそう思わない?」

美琴はテーブル上のカップを取って口を付けながら、美琴の電撃を浴びて倒れ、取り残された不良少年を何度も何度も足蹴にする。そのたびに少年は「がッ、ぐええッ」と泡を吹いたが、美琴は意に介した様子も無かった。
やがて、騒ぎになる前に立ち去りますか、とばかりに美琴も店を発つ。
以前の美琴を知る人物なら、誰もがこう思うはずだ。――目の前のこの少女は、本当に御坂美琴なのだろうか? と。



「あー? おい何見てんだてめー、この超電磁砲にガンくれるたぁ度胸じゃないの」
「に、逃げろッ!! コイツヤバいって!! 狂ってやがるッ!!」
「はぁ? なに? さては一瞬で炭の塊になりたいわけ? それともじっくり血塗れコースがお好みかしらん?」
「やめッ……誰か、誰か……ッ!!」

人気のない裏路地に、怒声と、悲鳴が木霊する。そしてしばらくすると湿り気を帯びたぐちゃっ、ぐちゃっ、という音と、情けなく泣き喚く男の声が響いてきた。

「ひぃ、許し……ッ!! 許してぐだざ……ッ!!」
「何言ってんの聞っこえねー、つかあんた、御坂を誰だと思ってんの?」
「ぐぁ、グぁぁああァアアアあああアアアアア!!!」
「この御坂が見逃すとでも思ってんのかしらん? 社会の屑は一つ残らず撲滅(おそうじ)しないとねぇ」

そして、地獄の光景を目にして立ち尽くす少女が一人。


「お姉様……」


白井黒子である。


855 : 15[saga] - 2011/07/25 15:41:27.82 GBcXS0pD0 16/32




以前のように、鉄橋の手すりに腕をついた格好で美琴は俯いていた。だいぶ冷たくなってきた夜の風が美琴の頬を、髪を、優しくなでて流れていく。
もう二週間ほど寮に戻っていない。学校にも行っていない。
計画の凍結のために自分の命すら賭した美琴だったが、最後の最後の最終手段を失敗に終え、本当に打つ手がなくなってしまった。
それは0、ゆるぎなく冷徹な数字。できるとかできないとか、そういう精神論のお話ではない。不可能だと、どこまでも残酷な神様は美琴にそう告げた。
生きる資格も死ぬ理由もなくなってしまった少女は、本当に抜け殻だった。生気が抜けちて瞳孔の開いた目は、焦点を失って虚ろに宙を彷徨っている。
コツ、と聞こえたのは、靴音だった。
美琴の精神(こころ)は憔悴し、身体(からだ)は消耗しきっている。本当に弱弱しい緩慢な動作で美琴は顔をそちらにやる。
そしてその瞬間。
雷に打たれたかのように、御坂美琴の瞳が見開かれた。

人気のない鉄橋に立っていたのは。


「…………黒、子? なんで、ここが……?」


856 : 16[saga] - 2011/07/25 15:42:18.07 GBcXS0pD0 17/32


ツインテールを高く結い上げた少女は、射抜くような眼差しで美琴を見据える。
そして一言。

「お姉様を助けに来ましたの」

ぴたり、と、美琴の動きが留まる。顔が強張る。

「なんで、そう、どうして……ぬいぐるみの中の『レポート』はちゃんと処分したのよ……なのに。なのに……」

動揺しきった美琴の言葉はいまいち要領を得ないが、つまり「どうやってこの実験を知ったのか」、そう訊きたいのだろう。

「黒子……アンタはどこまで知ってるの、この『実験』について」

白井は一瞬だけ逡巡して、しかしはっきりと返答する。

「全て、ですわ。お姉様の体細胞をもとに軍用クローンが作られている事も、そのクローンを用いた『絶対能力進化実験』が行われていると言う事も、今までお姉様が実験を凍結させようとあらゆる手段を実行したと言う事も、過去二回にわたってお姉様が実験に乱入していると言う事も……全て」

聞いて、「ああ……」と美琴は呟いた。
御坂美琴が崩壊していく。美琴の支えであり、そして崩壊に歯止めをかけていた最後のストッパーである白井黒子に全てが暴かれてしまった。今まで無理矢理ふりまいてきた笑顔も、嘘で塗り固めた明るい声も、そのすべてが。

「お姉様が学校から姿を消した二週間。その間に初春がここまで調べ上げてくれましたの。わたくしも初春には悪いことをしたと思っていますのよ、いくら風紀委員だと言えど、これはわたくしが始めたことなのに。でも初春は言いましたの。『これが放っておけますか! 私は風紀委員である以前に、御坂さん友達なんです!!』って。すごい剣幕でしたわよ。ええ、わたくしが一瞬ひるむくらいの」

白井黒子は言い淀まない。

「そうそう。わたくしがここまで来れたのも、佐天さんのお陰ですのよ? 佐天さんから『お姉様がファミリーレストランにいる』との報告を受け、こうしてわたくしはお姉様を追ってここまでやってきた……と」


857 : 17[saga] - 2011/07/25 15:42:59.36 GBcXS0pD0 18/32


敬愛なる先輩との、二週間ぶりの再会である。
死ぬほど心配して、探し求めていた人にやっと会えた――そんな状況下、彼女なりに色々思うところもあるのかもしれないが、それでも白井は揺らがない。
美琴と対等に、直面で向き合うために。

「一人で抱え込むのはもうやめてください、お姉様。お姉様のためならば、黒子はどんな危険も厭いませんの。たかが“暗部に片足を突っ込む程度”がなんですか。お姉様が陰で苦しむそのお姿をただ指をくわえてみているなんて、それこそ黒子は許せない。わたくしをそんな矮小な人間に見くびられては困りますのよお姉様。今一度言いますけれど、わたくし白井黒子はお姉様の露払い。この程度の障害で弱音を吐いているようでは、お姉様の露払いなど到底務まりませんわ!」

美琴は答えない。
ただ、有り得ないものを見るかのように、目を見開いたまま口をぱくぱくと開閉する。

「どうしてお姉様はいつも一人で傷つくんですの……? もう少し私を頼ってください! 完璧な御坂美琴なんて捨ててしまいなさいな!! 助けて、って、その一言でお姉様は救われますの! お姉様を慕う黒子が救われますの!! どうしてわからないんですか、お姉様はッ!!」


858 : 18[saga] - 2011/07/25 15:43:27.79 GBcXS0pD0 19/32


美琴は純粋に疑問に思った。どうして目の前の後輩は、こんなに醜い人殺し相手に、ここまで真摯に離してくれているんだろう、と。
でも、美琴は壊れ過ぎていた。
引き返すには、ほんの少しだけ遅かった。非日常に狂いすぎた彼女は、もう二度と日常には戻れない。
訪れる静寂。
そして、言葉を反芻するように、美琴の口元がぽつりぽつりと蠢く。

「………………あ? 黒子あんた、今、なんつった? まさか同情してんの? 私に? この御坂に?」

美琴はゆっくり顔を上げると、小首をかしげて優しく微笑して、そして。







「……何様だゴラァッッッ!!!!」








859 : 19[saga] - 2011/07/25 15:44:17.20 GBcXS0pD0 20/32


一瞬、すべてが消しとんだ。
網膜が焼き切れると錯覚しそうなほどの光が視覚に押し寄せ、遅れて聴覚が、ほとんど衝撃波と化した雷鳴を受け止める。

「…………、……ッ!!」

声は出なかった。電撃こそ直撃はしなかったものの、余波の衝撃を全身に打ちつけられて、白井は呼吸ができなくなる。
いつもの、悪ふざけの応酬として放たれる電撃とは訳が違った。
容赦も無い、情けも無い。
それは最後の自我を保とうと、必死に自己を防衛する命懸けの攻撃だった。

「ふっざけんじゃねえよクソが! なんにも分かってないくせに、知った様な口聞くな!! 私に、……御坂になぁ!! 安っぽい同情なんかしてんじゃねえぞックソ野郎オオォォォオオオオ!!!」

美琴の前髪から青白い火花が散り、鋭い電撃が槍のごとく一直線に襲いかかって来た。白井は痛覚に苛まれる脳で必死に計算式を組み立て、最短距離の移動でそれを避ける。

「おねえさ、ま……まだお姉様はやりなおせるッ、だから、わたくしと――」

息絶え絶え、白井はなおも言葉を投げかける。
しかし本当の本当に壊れてしまった美琴は、わずかに残っていた良心という物を自ら握り潰した。徹底的に容赦ない攻撃を仕掛けるために。
美琴の前髪から放たれた青白い雷撃は、コンクリートの地面を伝って辺り一帯へ走り回る。鉄橋の路面を照らしていた蛍光灯が、次々に音を立てて破裂する。
閃光と雷鳴が、同時に炸裂した。

「――――か、はッ」

電撃を直で受けてしまった白井黒子は膝をついて、そのまま意識を飛ばす。






「あは」

夜の闇を裂くように、笑い声がこぼれた。

「あはっ、あはははっ、は、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッ」

もしもこの世界にヒーローが存在したのなら、神様が定めた悲惨なこの運命を、きっと打ち砕いてくれたはずなのに。




860 : 20[saga] - 2011/07/25 15:44:53.05 GBcXS0pD0 21/32



これで何人目だ?
茫然と立ち尽くしながら、白い少年は自問する。
足元に転がる死体はどれも同じ顔。常盤台の制服を着た茶髪の少女が、虚ろな目をして血溜まりに沈んでいる。
その光景はあまりに見慣れていて、見慣れ過ぎていて――突然、酷い頭痛が少年を襲う。
同じ顔の少女を殺し、同じ声の少女を殺し、そして今日も、同じ格好をした少女を殺した。
横たわる『少女だったもの』を見下ろしている時、少年はふと思うのだ。
自分は無限のループの中で、ただひたすら少女を殺戮しているのでないか、と。
少年は、今日も少女を殺した。
そして、明日もきっと、それは続く。
見慣れたこの光景が、いつか見飽きた光景になりそうで、少年は怖い。
そういえば、と少年は思い出す。
この前、実験にオリジナルが乱入してきた。
20000体のクローンのオリジナル。超能力者、第三位の御坂美琴。
向こうが本気の一撃を放ってきたのでこちらも応戦しようとしたら、その実験の使用検体だったクローン――たしか一〇〇三二号だったはずだ――がオリジナルをかばって代わりに死んだ。
少女は命を絶つ直前、こう言ってのけたのだ。

「お姉様(オリジナル)が……実験、に関わる、と、計画全体……に、破綻の恐れ、がある……大きな歪み、が生じる、た、め、ミサカはお姉様(オリジナル)を守、りま、し……た、とミサカ……は、お姉様、を安全域まで連行する為……に、複数のミサカへ、応援を要請しま……す。ちな……みに、この実験は有効と見なされるので、あしからず、と、ミサカは……被験者へ実験、の継続、を……」

言い終える前に、息の根を止めてやった。
救いはなかった。どこまでも。


861 : 21[saga] - 2011/07/25 15:45:44.33 GBcXS0pD0 22/32


カツ、と。
ローファーの立てる音が、薄暗い路地裏に反響した。
ぴくりと靴音に反応し、少年は機械仕掛けの人形の様な動作でゆっくりとそちらに顔をやる。

「これでジャスト19900体目です、一方通行」

耳に染みついた少女の声は、いつもと変わらず平淡で感情がうかがえない。

「と、ミサカは被験者に報告します」

カツ、コツ、カツ。半袖のブラウスにサマーセーターを重ねて、灰色のプリーツスカートをはいた少女は静かに続ける。
その声は徹底的に抑揚が欠けていて、だからこそ、少年の崩壊は歯止めがかからない。

「残りの検体ははちょうど100体ですので、モチベーションを維持して今まで通りお願いします、とミサカは業務連絡を述べます。重ねて連絡しますが、まもなく第19900次実験が開始されます。本日行われる実験はこれで最後です、とミサカは予定を伝えます」

もし、もしもこの少女が、死にたくないと泣き叫んでくれたら。

「残りの100通りの実験は五日間で終了しますので、そのつもりで、とミサカは実験計画を確認します。最近一日あたりの実験数が増加傾向にありましたが、それもあともう少しの辛抱ですので頑張ってください、とミサカは被験者を労わります」

泣きついて、『わたしは死にたくない』『助けて』と懇願して、あるいは怒りを向けて。哀しみでも憎しみでも、なんでもいい。
この少女が芽生えた感情を振りかざしてくれたなら、少年はどんなに救われただろう。

「……実験開始予定時刻まで、残り一分三十秒。戦闘態勢を整え、ただちに指定位置に着いてください、とミサカは促します」

しかし少女の瞳に揺らぎはない。
ただ、定められたシナリオ通り死んでゆく。おそらくは、何の疑問も恐れも無く。

「三、二、一……実験開始予定時刻、二十一時三十分ジャスト」

少年は赤い口を横に引き伸ばすように、うっすら笑った。
――最強から無敵へと進化すれば、何かが変わるのかもしれない。
そんなことを考えていた昔の自分を心の奥で懐かしく思いながら、ゆっくり標的へ距離を詰める。

「これより第19900次実験を開始します、とミサカは戦闘開始を告げます」

崩れていく。何もかも。
もう、自身の力では後戻りできない。

第三者が、どこかにいる主人公(ヒーロー)が、手を差し伸べてくれなければ。



862 : 22[saga] - 2011/07/25 15:46:21.89 GBcXS0pD0 23/32


膝から下の肉を失った少女は、血の尾を引きながら地面を這いずり回る。

「――あッ、がぁああああッ!!」

一方通行が右腕も切断してやると、クローンは逃げる事さえ諦めた様子でただ息を吸って吐いていた。
残った左腕でライフルを抱きながら、クローン少女は歩み寄ってくる一方通行を仰いだ。
浅い呼吸を繰り返し、なおも少女は一方通行にライフル銃を向けた。
一方通行はそんなクローンを暫し黙って見下ろしていたが、思い立ったように口を開いた。

「……おい、テメェを殺す前に一つ訊きたい事がある」
「な、んでしょ……うと、ミサ、ミサカは、返答し……ます」

クローン少女はライフルの標準を細かく調整しながら、これから自分を殺そうとしている相手に律儀にも返答する。

「オマエらは怖くねェのか? こうして一方的に命を奪われ続けることに、一切の恐れや怒りや疑問はねェのかよ」

量産型クローンはすこし考えるように間をおいて、


「……ええ、怖いですね」


と、静かに言った。

「――はァ?」


863 : 23[saga] - 2011/07/25 15:47:01.26 GBcXS0pD0 24/32


「個体が減少しつつあるミサカネットワークにも、少しずつ、感情が芽生えつつあります。理不尽に殺されていく、そんな残酷なシナリオが定められた自身の運命に、怒りや疑問抱く個体も出てくるかもしれません……」量産型クローンは珍しくうすら笑いをうかべて、「でも、そんな感情はなにも意味を成さない、とミサカは、はっきりと述べます」
「――、」

時が止まったかのように、一方通行は動かない。

「どんなに私達が拒んでも、私達が実験動物と同等の、使い捨ての量産クローンであるという事実は何一つ変わらないのですから」

クローン少女が浮かべた微笑には、絶望に浸った諦めの色が滲んでいた。一方通行は震える声を悟られるまいと、ゆっくり言葉を紡ぎだす。

「……最期にもう一つ答えろ。この状況下でオマエは、死にたくねェとか生き延びたいとか思わねェのか」

一方通行の切なる問いかけに、対してクローンは。

「笑わせないでください」

一刀両断、吐き捨てるように言った。少女はあくまでも淡々と告げる。

「惨めに命乞いなどして生き延びるくらいなら、ミサカは死んだ方がマシです。……と、ミサカは率直に述べます」

ガチャ、と音を鳴らして、軍用クローンはライフルの銃口を一方通行へ構えた。

「……そォかよ。じゃ、オマエはこの状況をどうすンだ?」

少女は薄く笑う。「決まっています、とミサカは断言します」一方通行はクローン少女が笑む姿を、19900回目の実験にして、今初めて見た気がした。
彼女の答えは、明快。


「ミサカは…………ミサカは、あなたを殺して活路を開く」


ダーン、と発砲音が一つ。
一歩通行は至近距離で放たれた弾丸を真っ直ぐ反射して、果たしてその弾丸はクローン少女本人の胸を貫いた。
少女は目を開けながら死んでいた。その瞳には、最期どんな光景が見えていたのだろう。
彼女はもしかしたら、最期の最期に見たかもしれない――絶望に打ちひしがれた、一方通行が完全に壊れるその瞬間を。


この世界っつーもンは、本当にどこまでも救いようがねェ。
なァ、オマエもそォは思わねェか、第三位?


864 : 24[saga] - 2011/07/25 15:47:34.85 GBcXS0pD0 25/32




気がつくと、美琴はかつての実験場にいた。
白井黒子に電撃を浴びせて……それからのことは美琴本人にもよくわかっていない。
どうしてここに来たのかも、ここまで来た経路でさえ曖昧だ。
そんなぼんやりとした、もはや廃人同様の思考の中。

カツ、カツ、カツ――。

等間隔の規則正しい靴音が聞える。靴音は、ゆっくりと美琴へ迫る。

「直ちに立ち退いてください、お姉様」

後方から、静かな声がかけられた。
それだけで、ぶわっと美琴の全身から汗が噴き出す。小さく震える美琴の背後に、いくつもの靴音が重なって聞こえてきた。

「――、」

憔悴しきった美琴が恐る恐る振り向くと、そこには数十人の少女が立っていて、一様にこちらを見ている。
定められた死を待つクローンたちは、皆同じ常盤台の制服を着て、同じ顔をし、同じ冷たい眼差しで、美琴を射抜く。


865 : 25[saga] - 2011/07/25 15:48:28.36 GBcXS0pD0 26/32


傍らのクローンが歩み出て、再度口を開いた。

「ここは『絶対能力進化計画』に使用される実験場です、とミサカは警告します」お姉様のせいで。

続けてとなりの少女が言う。「……あ、あ、あ」

「お姉様は過去の実験に二度乱入を果たしており」あなたが全ての現況じゃないですか。

抑揚に掛けた声は、すり減らされた美琴の精神をさらに削り取る。「……やめ……や、やめて……」

「再三にわたる戦闘への乱入、転じて致命的な計画の破綻を阻止するため」あなたが生まれてこなかったら、ミサカ達はこんな地獄を味合わずに済んだのに。

感情を窺わせないその双眸が、美琴は堪らなく恐ろしくなっていた。「ひぃ、あ……ッ!」

「上より、実験場にお姉様を近づけてはならないとの命令が下りました」どんなに償っても、ミサカ達はあなたを許さない。

美琴は目を見開いて、戦慄した。「来ないで……来ないでよぉ……」

「とミサカは説明します」その瞬間まであなたを恨みながら、ミサカ達は死んでいく。

もう限界だ。「いや、あ、あああ、あああああ、ああ……!」

「ご了承下さい、お姉様。ミサカ達はここから立ち去るように」全部、全部。

美琴は確かに聞いた。「――ッ」

「警告する義務があります、とミサカは告げます」おまえのせいだ。

自分の中で、何かがはじけ飛ぶ音を。

お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様おお姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様、

自分と全く同じ顔をした少女が、自分と全く同じ声音で囁く。











「 た す け て よ 、 お ね え さ ま 」











866 : 26[saga] - 2011/07/25 15:49:18.05 GBcXS0pD0 27/32




「黙れ―――――――――――ッッッ!!!!」



数億ボルトの落雷が、辺り一帯に爆風をまき散らす。コンテナが爆ぜ、破片が飛び散り、砂利が砕け、殺到する。
能力とは、否、力とは恐ろしい。
美琴が振るう電撃の刃は、程度は違えど子供の癇癪と同じようなもの。
不安定な者に、多大な能力は制御できない。今の美琴の顔は、迷子になってどうしていいか分からずに泣いている、そんな子供のそれと同じものだった。

「……はぁ、はぁ……はぁ……はぁ、」

御坂美琴は立っていた。
黒く焦げた数十体の死体の中、彼女だけが傷一つなく。

867 : 27[saga] - 2011/07/25 15:49:49.50 GBcXS0pD0 28/32


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《絶対能力進化計画における第三次製造計画の先行実施》

・先日、量産型クローンの体細胞の提供者・学園都市第三位こと御坂美琴により、実験で使用される予定だった計38体の検体が殺害された。御坂美琴の目的は不明である。

・これにより、実験に必要なクローンの数が不足した。

・よって、以前から計画が立てられていた『第三次製造計画』の実施を予定より早くするものとし、新プロジェクトを開始する。

・より強化した次世代量産型クローンを初回製造として暫定1000体ほど製造し、残りの絶対進化計画の使用検体に当てる。

・これは、20000回に渡る実験とそれに伴う学習の結果、妹達に個々の感情が芽生え始めたことによって起きる、妹達による反逆(クーデター)の予防のためでもある。

・現在活動中の旧妹達は全て一週間以内に殺処分することとし、この際の方法は第3学区のゴミ処理施設の機械にかけるというものを用いる。また、この場合の「旧妹達」には司令塔である最終信号も含まれる。

・今後の御坂美琴による実験妨害を防ぐため、警備は厳重にする必要性がある。

・結論、最終信号含む旧妹達は殺処分され、絶対能力進化計画は続行し、第三次製造計画は先行実施される。

第三次製造計画内容の詳細については、別紙に記述する。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


868 : 28[saga] - 2011/07/25 15:50:52.58 GBcXS0pD0 29/32



――純白の修道服を着た少女は、あまりにもこの街に不釣り合いだった。

この街に宗教は無い。
科学の象徴『学園都市』を走る修道女は、一心不乱に逃走する。
階段を駆け上がり、辿り着いたのは屋上。フェンスに手をかけて、崖下を見下ろす。1,5メートルほど間をはさんで眼前には同じような高さのビルがそびえているが、その間には夜の闇が黒々と口を開いている。少女は暫し逡巡した。
カツン、カツン、という靴音が背後から忍び寄って来ている。

「警告です。止まりなさい」

女の声が、後方から投げられた。もう逃げ道はない。小さく肩を震わせて、修道女はゆっくりと振り向く。夜の闇の中に、赤く煙草の炎がゆれている。長身の神父が煙草を弄ぶ傍ら、長い髪を高く結い上げた女が歩み出る。
カツン、カツン、と、音高くブーツを鳴らして。

「不毛です。大人しく私達に従ってください。私達は、あなたに危害を加えたくはない」

身の丈を優に超えた日本刀を構え、女が言う。
冷徹で冷酷な、心から冷たい声で、静かに死刑宣告を言い放つ。
小刻みに震えながら、修道女は小さく首を振った。純白の少女に、選択の余地などなかった。
一〇〇〇〇〇冊を、守り抜かなければ。
全ての記憶を奪われ、全ての過去を失った少女に残されたのは、その意志だけだったから。

「……っ!」

修道女は二人の男女に背を向けると、素早くフェンスに足をかけ、隣のビル目掛けて飛び移る。

「神裂」それを見て、煙草の火をにぎり消しながら、酷くつまらなそうな声で神父が呟いた。
「……ええ。言われずとも」女は日本刀を振り上げる。そして。

「分かっていますよ、ステイル」

見事に一閃、少女の背中を叩き切った。



この世界にヒーローはいない。
だから、純白の修道女は例年通り記憶を焼き消され、そして救われずに生きるのだろう。

この世界に上条当麻は、存在しないのだから。



869 : あとがき[saga] - 2011/07/25 15:53:53.05 GBcXS0pD0 30/32

以上です
なんか予告レス数と全然違いました

結局何が言いたかったかというと、いやあ上条さんって偉大!!
最後のシスターさんは時系列違うけど……ご愛嬌です
>>793みたいな鬱モノが大好物なので、もっと増えたらいいなーとか夢想してみたり

お粗末さまでした

872 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/07/25 17:58:25.78 3sXa4qaDO 31/32


皆Badエンドやね
インデックスは歩く教会破壊されないから捕まらないんじゃね、と思ったけどどっちにしろリミットがあったな

873 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] - 2011/07/25 20:42:06.86 FB/zXp6x0 32/32

最高に救いがないな、乙