980 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] - 2011/07/29 13:19:54.71 OyzbZpPg0 1/10

んじゃ軽いネタで埋め
原作数年後の上イン←ステで10レス、も要らないかな? 
とりあえずいただきます
>>793の続きかと言われるとそんなことはない、かも↓


※関連(>>793)

アッシュトレイの中の懺悔室
http://toaruss.blog.jp/archives/1035766717.html

アッシュトレイの外の懺悔者2
http://toaruss.blog.jp/archives/1035946348.html

元スレ
【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-31冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309616825/
981 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:22:03.81 OyzbZpPg0 2/10



鐘が鳴る。
平和を象徴する鳩が屋根から一斉に飛び立つのを、ステイル=マグヌスは目を細めて見送った。


「いい天気だ」


雲一つない、お日柄もよくという決まり文句の実に良く似合う晴天。
学園都市、第一二学区の小さな教会裏でステイルは一人佇んでいた。
口許に、トレードマークの煙草は無い。
彼は数年前からすっぱり喫煙を止めていた。


「ステイル、おはよう」


ボウとする彼に後ろから声を掛けたのは、これからこの教会で行われる催しの主役の片割れである。
隣に誰一人伴わなずに現れた女性は、決して喜色満面、という風貌ではなかった。


「早いね、インデックス。あいつと一緒じゃないのかい?」


インデックス。
何の気なしに呼ばれた名前こそ、ステイルにとって聖書の文言より大事な大事な一節だ。


「あなたが先に来て準備してくれてるって、かおりが」


肩を軽く竦める。
まったく、この期に及んで誰かの心配とは困った聖人だ、とステイルは思った。
彼女とて今日、胸の中で密やかに育ててきた想いに別れを告げるというのに。


「そう言えば、個人的な祝福はまだしていなかったね」

「べ、別にこれからしてくれるんでしょ?」

「それとこれとは話が別さ」


顎に手をやって、髭の剃り残しが無いか確かめながらステイルは笑った。
ニコチンを摂取しなくなった口寂しさを紛らわすために身に着いた癖だろうか、と彼は自己分析していた。

982 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:23:00.73 OyzbZpPg0 3/10











「結婚おめでとう、インデックス」











983 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:24:11.39 OyzbZpPg0 4/10


束の間の沈黙を挟んで、インデックスも笑みを浮かべた。


「ありがとう。私、幸せになるね」

「そう、それでいい。それこそが、僕の望みなんだ」


インデックスは今日、愛する人と結ばれて永遠の幸福を得る。
そして、永久にステイルの手の届かない場所で生きる。


「だというのに…………何て顔をしているんだい」


彼女は人生をとうの昔に預けたパートナーと、これからヴァージンロードを歩くのだ。
幸せでない筈がない、そうに決まっている。
なのに。


「どうして、泣くんだい」


清潔な無地のハンカチを差し出して、ステイルが笑みを苦笑に変じさせた。
その涙を止める資格も権利も、もう彼には無かった。


「だって、だって………………!」


やっとのことで布地を受け取ったインデックスが、嗚咽を漏らして言葉に詰まる。
言いたい事は山ほどあるのに、空気に触れた瞬間別の何かに変容してしまいそうで。
そんなところだろうか、と推量した。
同じような経験はステイルにもあった。


「無理に思いを言葉に乗せる必要は無い。君の心なら僕が」


小さな左手と、そこに流れる脈動を両の掌でそっと包む。
彼女の夫になる男に目撃されたら、間違いなく右手でぶん殴られるような光景だろうな、と思ってステイルは可笑しくなった。


「どんな小さな波紋だろうと、受け止めてみせるよ」


今日限り、そして今日で終わりだがね。
そう、内心で付け足した。

984 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:25:21.79 OyzbZpPg0 5/10


「お願いだから」

「ん?」


穏やかに慈しむように、ステイルは余人には決して披露しない貌で優しく続きを促す。
とはいえ、インデックスの言いたい事は彼にはおおよそ読めていた。
一文字目を耳にする前に早くも笑いが零れる。
彼女らしいな、と思いながら。




「お願いだから、ステイルも幸せになって? そうでなかったら、私も、わたしも」




皆まで言わせず、手に少しだけ熱と力を籠める。


「約束するよ」


本当は、約束の必要などありはしなかった。
今日この日を境に、ステイル=マグヌスの生涯に不幸の二文字は現れ得ないのだから。


「本当の、ほんとうに?」

「ああ、なんなら教会の中で主に対して誓っても」


ステイルが突然口を噤んだ。
表に人の気配。
探知魔術に頼る必要もなかった。
その男に、魔術はおろかこの世のあらゆる異能は通用しないのだから。


「さて、君の片翼がようやくおでましのようだ。行っておいで」

985 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:26:38.56 OyzbZpPg0 6/10


握った手を、未練もなくあっさりと離す。


かつて、少年の手からするりと零れ落ちていった柔らかな体温。
もう二度と、青年が掴む事を許されない暖かな鼓動。


「…………じゃあ、また後でね」


尚も物言いたげな碧をステイルの脳裏に焼き付けて、インデックスは恋人の元へ。
後ろ姿に背を向けた青年は神父服の内側に手を伸ばそうとして、ピクリとその動きを止めた。
軽く首を左右に振って腕を組み、修道女が間違いなくこの場に居ない事を確認してから声を上げた。




「こっそり覗き見とは、さすが聖人サマはやること為すこと御立派だね」



「……………………も、申し訳ありません。どうしてもあなたの様子が気になったので」


辛辣ここに極まれりの台詞とは裏腹に、ステイルは呵々大笑した。
ばつが悪そうに姿を見せたのはステイルとインデックスに共通の友人、神裂火織だった。
常の凛とした居住まいはどこへやら、しょぼくれた面構えを見て青年はまた腹を抱える。


「わ、笑い過ぎです! これでも一応心配してあげたというのに! 
 …………それにつけてもあなた、どうしてこう損な役回りを引き受けてしまうのですか」


終いにはてんで的外れな事を言いだす始末だ。
これを笑わずにどうしろと。
一分ほどののち、くつくつと鳴る喉をようやく収めてステイルは声を絞り出した。





「損? 馬鹿を言うな、役得だろう。彼女が至福を掴み取る瞬間を、この世で二番目に近い席で観られるんだからね」






986 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:28:01.78 OyzbZpPg0 7/10


見知った顔と、見知らぬ顔。
1対9ぐらいか、と壇上でステイルは何となくその比率を計算していた。
狭く小さな、申し訳程度の教会にひしめく程度の頭数。
さざめく正の感情も、神父の隣で緊張しきりの“この男”が世界に齎したそれに較べればささやかなものだろう。


「あまり無様を晒されると、僕まで恥を掻くんでね。笑いをとるなら程々に頼むよ」

「うるせー」


嘗て拳と炎で語り合った者同士――拳を振るった方はもう何処にもいないが――とは思えない軽口。
主役たる“二人”の友人が、恩人が、家族が作り上げたこの空間は、どこまでも温かかった。


やがて、密やかな声が徐々に徐々に鎮まっていく。
静寂が完全に場を支配したその時、遂にステイルの正面の大扉がギ、と耳障りな声を上げた。
純白の、いつもの修道服ではなくウエディング・ドレスを纏って、“父親”に手を引かれて。


花嫁が教会に足を踏み入れた。


(上条刀夜、だったかな。あの位置に立てたなら、それはそれで良かったかもね)


一歩、また一歩。
花嫁が花婿に引き渡されるべく、溢れんばかりの好意を、善意を浴びながらブルーカーペットを進む。
瞬きする暇も惜しい。
一秒でも、一瞬でも長く、目映いその姿を己の根源に刻みつけたかった。


「――――――――」

「――――――――」


目と目が、合った。
ベール越しだというのに、合ってしまった。
インデックスは自分のすぐ手前にいる五分後に生涯を誓う相手ではなく、ステイルを、確かにその美しい翠玉で見つめた。
神父はただ、一瞬目尻を緩ませるだけで逸らした。
あの薄布は、夫になる男が最初に捲らなければならないモノだ。
やがて女は先導する父親から、共に歩む男に委ねる手を移した。


さあ、出番だ。


「新郎、上条当麻。あなたは新婦となるIndex-Librorum-Prohibitorumを妻とし――――」

987 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:29:13.10 OyzbZpPg0 8/10







湧き上がる拍手は、いつまでも鳴り止みそうになかった。
退場する新郎新婦への、世界中からなのではないかと錯誤しそうになる熱い篤い祝福。
薄暗い建物の中から光に消える二人が最後に、祭壇に立つステイルを振り返って頭を下げた。


(それを受けた僕に、どうしろって言うんだ)


苦笑。
それにしても今日は頬あたりの筋肉が緩みきって困る。
続いて親族、友人が次々に席を立っては外で行われるイベントに備えて退出して行った。


その中に、小学生と見紛っても無理のない女教師。
珍しくサングラスを外したアロハシャツの金髪。
長髪を流して後ろで結わえた戦友。
知った顔は皆一様に去り際、ステイルに一度だけ視線を向けて去っていく。


バタン。





そして、誰もいなくなった。





シュボと音を立てて、ステンドグラスの聖母と向かい合った神父の爪先に幽かな火が灯る。
もう片方の手で取り出したるは、懐かしい懐かしい味。

988 : とある教会の喫煙時間(ビタースウィート)[saga] - 2011/07/29 13:30:43.10 OyzbZpPg0 9/10


上条当麻と恋人同士になった、と彼女が電話越しに報告してきたあの日。
即座に日本に飛んで、憎い男を思うさまぶん殴ったあの日以来。


何年ぶりかにステイルは、一本だけ懐に忍ばせていた煙草に火を付けた。


厳粛でなければならない神の御前で、罰当たりな白煙がゆらゆらと揺れる。
聖母の微笑みは動かない。
どうやらこの日この時くらいは、慈悲深い母が子羊に情けを掛けてくださるようだ。


「…………苦い、な」


指に挟んで一旦離したシガレットにそんな感慨を抱いたのは、初めて吸った少年時代以来だった。
教会の外から、ひと際大きな歓声が上がる。
花嫁のブーケは果たして誰の手に渡ったのだろうか。
再びタールが恋しくなって、二十秒前へとその動作を巻き戻す。


吸う。
紫煙が肺の隅々まで行き渡る。


吐く。
広い空間に靄が霧散してあっという間に消える。



「やはり駄目だ。止められそうにないね」








これこそが己に相応しい幸福の味わいなんだろうな、とニコチンとタールに満ちた天国に堕ちゆく男は思った。





989 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] - 2011/07/29 13:32:00.13 OyzbZpPg0 10/10


「上イン結婚式で牧師役ステイルにやらせたら血涙流しそうじゃねww」
的なのを割とあちこちのスレで見かけるんでついつい
こんなおいしいネタに何故誰も食いつかないんだろうと思ってやってみました
次こそステイルが報われるといいね!