72 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage] - 2011/12/22 01:00:59.09 XzH1S/0vo 1/8

通行止めで未来設定のアホな小ネタ、6レスほどお借りします。

以下注意点。
・10年以上先なので一方さんがだいぶ性格が丸い。
・既婚者。
・嫁が好きすぎる。
・なんかもう嫁が好きすぎる。
・嫁の話しかしない。
・愛妻家とか嫁バカとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗をry


元ネタはヤッホー知恵袋の『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています』より。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-35冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324178112/
73 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(1/6)[sage] - 2011/12/22 01:01:40.06 XzH1S/0vo 2/8


家に帰ると嫁が必ず死んだふりをしている。


何だそれは、と言われるだろうが実際そうなのだからどうしようもない。
俺の嫁は明るく柔らかい性格をしている料理上手の美人という一見非の打ちどころがない女だが、その高スペックを打ち消して余りあるほど妙なところのある女でもあった。

そのうちの一つは、彼女のアイデンティティと化している面倒極まりない口調。(まあ、愛嬌だと言ってやれなくもない)

もう一つは、元保護者の影響で、料理を全て炊飯器で作るようになってしまったところ。(おかげで我が家には炊飯器が七台存在するが、先日もう一台欲しいと恐ろしい独り言をしていたのを聞いた。これ以上何に必要なのかは謎だ)

そして最後の一つ。


彼女は俺の帰りを死んだふりをしながら待っているのだ。

ここ十年ほどずっとである。


74 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(2/6)[saga sage] - 2011/12/22 01:02:19.45 XzH1S/0vo 3/8


今でこそ慣れたが、最初に見た時はそれこそこっちの心臓が止まって死ぬかと思ったものだ。
何しろ、俺の嫁は実際に死にそうになったことが一度や二度ではきかない。
加えて、あの遺伝子情報を持つ身体がぐったりと地に伏せている光景は身に覚えがあり過ぎて。
トラウマをこれでもかと刺激されまくりだ。


嫁が死んだふりをやりだした日のことは、まるで昨日のように覚えている。
いつも通り面倒な仕事を片付けて帰宅し玄関を開けると、そこで血の海に沈んだ彼女(なお、当時彼女はまだ嫁ではなかった。何しろ中学生だったので)が倒れていて。
冷静さなんてものは一瞬で消し飛んだ。


鮮烈に残る記憶の中の光景がフラッシュバックする。
当時の嫁は、あの時の少女たちと丁度同じ年代で。
彼女らよりは華奢で小柄な体つきをしていたが、それでも俺の呼吸を止めるには充分に過ぎた。
あの顔の少女が、血を流して倒れている。その事実は容易く俺の精神を揺さぶる。

実際のところそれは血のり……ですらなくケチャップの海に沈んだ嫁だったわけだが、気づく余裕すらなかった。
抱き起こし、傷口を探ろうと電極のスイッチに伸ばした手も呼びかける声も無様に震えた。
そう、正直に告白するが、俺は彼女がこの世からいなくなることが他の何より恐ろしい。


結局、俺が心底驚愕し怯えた事に気づいた嫁がさっさと目を開けてくれたので事なきを得たのだが、もう少し粘られていたらつい羽根が出ていたかもしれない。無論黒い方だ。
……話がそれるが感情が高ぶると羽根が出る癖は我ながら相当アレだと思う。当時ならまだ若気の至りで許されたかもしれないが、今は完全にアウトだろう。
三十路手前の男に羽根が生えるのは悪夢でしかない。現実ってやつはいつも非情だ。


俺は彼女が無事だったことに安堵し、同時にこんな趣味の悪い真似をしたことに腹を立てた。
まさかケチャップに気づかないなんて思わなかったのだと弁解されたが、そこは都合が悪いので華麗にスルーだ。
玄関はケチャップ臭が充満しており、なるほど気づかない方がどうかしている。俺は余程動転していたらしい。

そんな訳で、みっともなく狼狽した事に対する照れくささもあり、俺は大人げなく自室に引きこもった。
ケチャップにまみれたままの嫁が追いかけてきたのでベットは酷い有様になるわ、やってきた保護者二人と性悪末っ子に笑われるわでその日は大騒ぎだった。

だからどうして死んだふりなんてしようと思ったのかを、俺は聞きそびれてしまっていた。
今でも、彼女の真意は分からない。

それが、最初の一夜だった。


75 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(3/6)[saga sage] - 2011/12/22 01:02:54.00 XzH1S/0vo 4/8


あわや自宅で黒ファサモード(ちなみにこれは末っ子の命名だ。やめろと何度も言っているのだがあの性悪には効果がない)を展開しそうになったのを反省したのか、嫁はそれ以来死んだふりをやめ……る訳ではなく明らかにふりだと分かるやり方でやるようになった。

例えば、なにやら緑色をした粘着質の生物のようなものと相討ちになっていたり。
例えば、どこから購入したのか謎な童話調ドレスに身を包みリンゴを片手に倒れていたり。(余談だがこの時は矢印で『Help me!』と口元を指したアホ丸出しな立て看板も付いていたので、腹いせに濃厚な奴をかましておいた)


毎度毎度よくもまあ思いつくもんだと感心するようなぶっ飛んだシチュエーションで死んでいる。
だから俺は、そのうち彼女が倒れていても過去を想起することがなくなっていった。


呆然とする日があった。
腹を抱えて笑いたくなるような日があった。
どの部分が苦労したのかを楽しそうに話す嫁と一緒に、中々落ちない血のりを拭いた日もあった。
そんな奇妙な習慣は、結婚してからもずっと続いている。


十年。
……そろそろ、嫁の死亡回数は三千五百回を越える。


76 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(4/6)[saga sage] - 2011/12/22 01:03:19.70 XzH1S/0vo 5/8


玄関を開ける。
倒れている嫁がいる。……お手製のワニに喰われながら。
ああ、ナイルワ二な。そういえば昨日テレビでやってたな、などと思いながら玄関を閉める。

つまりこれは、半日で作ったのだろうか。うちの嫁が半日でやってくれましたとか言うところなのか。
彼女は工作や裁縫の神様とやらに愛されまくっているらしい。
ある意味感心しながらネクタイを引きぬき、かばんを壁に引っ掛ける。

それから、床に倒れている嫁の脇の下に手を差し入れて持ち上げた。
ずるん、と下半身がワニの口から出てくる。シュールだ。


今日は掃除しなくていいから楽だな。感想を述べると、嫁は楽しそうに嬉しそうに、笑う。
笑って抱きついてくる。
死んでたくせに随分生きが良い、とからかえば彼女はますます嬉しそうだった。




何となく降ろす気にならなかったので、嫁を抱えてリビングに移動した。
ワニは彼女が尻尾を持っているから、そのままずるずる引き摺られて付いてくる。

客観的に見てどれだけ妙だろうが全ては今更だ。
エイリアン(?)の体液にまみれた嫁を風呂場へ放り込んだ時に比べればどうということはない。
あの時は本当に大変だった。
久々の能力解放モードが掃除のためだなんて、何の冗談かと思ったものだ。

平和利用だと、嫁は笑った。




嫁は何年経っても子供っぽい所の抜けないヤツだが、改めて思えば幼かった頃とはだいぶ違う。
他の姉妹より小柄ながら身長は伸びたし、髪も伸ばしはじめた。
たゆまぬ努力の成果かはたまた炊飯器料理の効果か(俺は後者だと踏んでいる)、胸囲は他の姉妹を大きく越え末っ子に迫るようになった、らしい。

あの頃とはもう違うのだ。
彼女と出会った十四年前とも。

彼女が死んだふりを始めた、十年前――十四歳の頃とも。


77 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(5/6)[saga sage] - 2011/12/22 01:03:46.23 XzH1S/0vo 6/8


どうして彼女が死んだふりをするようになったのかを、俺は知らない。
知らないながら、ひとつの仮説を立てている。

だから。
仮説を信じるなら、もういいと言ってやるべきなのかもしれなかった。
もう大丈夫だと言ってやるのが正しいのかもしれなかった。

逃げはしない。
怯えはしない。
忘れはしない。それでも、過去を重ねてお前から目を逸らすような真似もまた、する気はないと。

言わずにいるのは、そのたびに彼女が浮かべる表情が脳裏をちらつくからだ。
溜息をついたり呆れたり、笑いそうになったり。
そういう俺の反応を、酷く満足そうに見ているのを思い出すからだ。







玄関の前に立つ。
周辺住民に見られたら洒落にならないので、左右を良く確認する。
妙な噂が立つだけならまだしも、シチュエーションによっては目撃者に卒倒されかねない。

嫁の死に方はどんどん手が込んできている。
手を変え品を変え、飽きもせず飽きさせず。そしていつも、最高に嬉しそうに笑う。

人影は、ナシ。
無意識に釣りあがっていた口元を引き締めた。

78 : 一方通行「家に帰ると嫁が必ず死ンだふりしてるンだが」(6/6)[saga sage] - 2011/12/22 01:04:19.44 XzH1S/0vo 7/8



家に帰ると嫁が必ず死んだふりをしている。



今日はどんな死に方をしているのかと想像するのを、いつの間にか楽しみにしている自分が居る事に気づく。



そう思えるようになったのは嫁のおかげで、

今の自分がいるのも彼女のおかげで、

その彼女が今は純粋に楽しんでいるというのなら、毎日玄関先で脱力するのも悪くない。


こういうのも、そう、愛のカタチというやつなのだろう。……たぶん。


昔の自分が聞いたら舌打ちするような沸いた思考だった。
諦めろよ、なあ。お前もどうせ近いうちにこうなるから。彼女に敵いやしないのは、それこそ最初からだったろう。



誰にともなくそんな言い訳しながら、俺はゆっくりと扉を開けた。







79 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage] - 2011/12/22 01:05:11.34 XzH1S/0vo 8/8

以上です。

ハワイ到着した矢先に打ち止めに電話しよっかなーとか考えてる一方さん見て
この人ほんと打ち止め好きすぎるだろ…と思ってたらこんなあほな話ができた。
十年くらいのほほんといちゃいちゃしてたら、脳内ならこれくらいデレてくれるんじゃないかなあ、とか…。

お邪魔しました。