561 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga] - 2012/01/13 22:20:31.34 Tr0IPTQS0 1/7

ちょうど漫画禁書が法の書編クライマックスだったので
上条さんのターニングポイントに立ち合った、とある二人の舞台裏を5レスほど

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-35冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324178112/
562 : 風上[saga] - 2012/01/13 22:21:59.76 Tr0IPTQS0 2/7



「……別に。コンビニなんて、その辺探せばすぐ見つかるだろ」

「結構」


宵の口もとうに過ぎ、人気の失せた街並みに向かって、特徴的なツンツン頭が駆け足で闇に消えた。
何事かをふっきったようなその背中の大きさに、インデックスは小さな溜め息をついた。


「止めなくてよかったのかい? 奴の走っていった先は、相当に酷い向かい風だが」


インデックスの背後からそう問い掛けてきたのは、長身赤髪の神父服の男だった。
ほんの一月、二月前まで己を追い回しては苦汁をこれでもかと嘗めさせてくれた男の名を、“一応”インデックスは知っている。


「……あなたも聞いてたでしょ」


しかし、名前を呼んでやる気にはどうしてもなれなかった。
――――ステイル=マグヌス、と。


「止めはしたけど、無駄だった。とうまは結局、そういう人なんだよ」


いまインデックスにとって大事なのは背後の男ではない。
風上に向かって引き返してしまった、顔を思い浮かべるだけで心を芯からあたためてくれる、愛しい少年の存在のみが彼女にとっての唯一だった。

まったく、あれだけ「魔術サイドで片を付けるから」と口を酸っぱくしたのに。
やはり上条当麻はオルソラ=アクィナスを、彼が助けたいと思う誰かを助けるために闘いに身を投じてしまった。
しかしそれこそが、少女が愛した上条当麻という少年の本質なのだ。

563 : 風上[saga] - 2012/01/13 22:23:18.88 Tr0IPTQS0 3/7



「……この先に踏み込んでしまったら。アイツはきっと、もう戻れないだろうね」


上条当麻の信念、とでも言い換えるべき本質を、ステイルもいくばくか感じ取っているらしかった。
その事実が、なぜだかインデックスには少しばかり腹立たしかった。


「十字教最大勢力が抱える闇に一介の高校生が挑む、ねぇ。そんなことにかまけている暇があるのか、と言ってやりたいな」

「……あなたは、これからどうするの?」

「『イギリス清教の身内』が一人、ローマ正教の手に落ちた。仕方がないから救出に向かうよ」


独りごちるステイルに多くを語らず、インデックスは無感情に問う。
神父の背中側の宵闇に融けゆく白煙とともに、答えは抑揚のない声色で返ってきた。


「『禁書目録』を然るべき管理者の手に委ねてから、ね」


中国の故事成語に言う蛇足とはこの事だろう。
自らを『ヒト』として見てくれているとは思えない冷淡な物言いに、
さしものインデックスも多少鼻白んだ。

そもそもこの仕事の始まり方からしてインデックスは、ステイル=マグヌスという男に好感を抱けなかった。
有無を言わさず学園都市の外に引っ張ってこられたかと思えば、上条を呼び寄せるため撒き餌のごとく利用された。
その後は事務的な話題に終始し、あの一年間の鬼ごっこについては何一つ弁解も謝罪もなされていない。
腹に据えかねて罵言を浴びせても、「上の命令だ、是非もない」の一点張りである。

最大主教の勅に唯唯諾諾と従うだけの狗。
ステイルという男がインデックスの目にそう映ったとしても、無理からぬことであった。

564 : 風上[saga] - 2012/01/13 22:25:05.74 Tr0IPTQS0 4/7



「そう。仕事熱心なんだね、あなたは」


だから、そんな皮肉がつい口をついた。
ここまで生理的に気に食わないと感じた相手は、九月一日に地下街で出会った短髪のビリビリ少女以来だった。


「ああ、そうだとも。仕事でもない限り、誰が好き好んで君らと関わり合いになどなるか」


パチリ、と敵意が弾けるような火花を生じて空気を焦がす。
しばし剣呑とした沈黙が続いた。

上条が指摘した通り、建宮との交戦に際して自分を庇ってくれたと思える節が、ないでもない。
だがその一連の行動は、目の前の非友好的な態度とまるで噛み合わないのだ。
どうにもこの男の真意が掴み切れない。
ゆえにインデックスはステイルを、油断のならない、信用のおけない相手と認識せざるを得ないのだった。


「じゃ、行くよ」

「……え?」


終わりの見えない思索にふけっていると、ふいにステイルが“踵を返した”。
唐突な行動の意味を見透かすこと叶わず、インデックスは思わず間の抜けた声を上げた。


「何を呆けてるんだい、インデックス」

「学園都市は、そっちじゃないかも」


565 : 風上[saga] - 2012/01/13 22:26:13.41 Tr0IPTQS0 5/7



「言ったろう、『君を管理者の手に委ねる』とね。あの馬鹿、コンビニ一つ探すのに果たしてどこまで突っ走っていったのやら。要らん手間をかけさせてくれるよ、まったく」


肩を大きくすくめる長身の後ろ姿を眺めながら、インデックスはポカンと口を大開きにした。
その発言の意味するところは明白だった。


「飼い主が見つかったら、身の安全は奴に確保してもらうんだね。あるいは自衛するかだが……どのみち、僕はそこまで面倒を見切れないな」


神父はゆったりとした歩調で一歩、足を踏み出しながら言った。
慌ててインデックスは、急ぎ足で無駄に馬鹿でかい背中へと追随する。
相も変わらず失礼な言い草にカチンときて、しかし同時に不思議な高揚感を覚えて、インデックスは興奮気味に口を尖らせた。


「あ、甘く見ないでほしいかも! これでも私は一〇三〇〇〇冊の」

「よーく存じ上げているとも、『魔道図書館』殿。敬虔なるアニェーゼ部隊の面々に対しては、『魔滅の声』あたりがさぞかし有効なことだろう」


見ずともわかった。
なぜだか理解できた。
後を追うインデックスからは決して窺い知れぬその表情は、まず間違いなく嫌味ったらしい皮肉げな笑みに染まっている。
そうだ。
考えてみれば、彼は知っているのだ。
インデックスがその身に宿す『禁書目録』の真価について、上条よりよほど深く知り尽くしているのだ。
なにせ少女の短い生涯で付き合いの長い相手と言えば、いの一番に彼と神裂火織の名が上がるのだから。


566 : 風上[saga] - 2012/01/13 22:28:40.87 Tr0IPTQS0 6/7


心なしか歩幅を緩めた神父に、シスターが追いつくか追いつかないかというその時。
ごくごく微小なつぶやきが、夜の街路にポツリと落ちた。


「………………それにあのシスターどもは、やってはならない事をしでかしてくれたからな」


底冷えするような殺気に、インデックスは我知らず身震いしていた。
ステイル=マグヌスがこれほどまでに凶悪な殺意を放つ様を、己を追い詰める姿にさえインデックスは見た記憶がなかった。
黒衣の背にかかる燃えるような赤髪が、かすかに怒気を帯びて揺らめいている。


「な、なにか言った?」

「さあね。さて、ローマ正教が処刑場に選ぶとすればさしずめ、オルソラ嬢の名を冠した教会などが妥当なところか」

「………………変な人。『卑怯者』のくせに」

「なにか言ったかな」

「さあね」


男が再び歩調を速めると、紫煙が夜風にゆるりと流れた。
二人の聖職者が歩む先駆けとなってのち、ニコチンの溶けた呼気は果ての空と同化する。
言葉少なに煙草をふかすその後ろ姿を見やりながら、インデックスはぼんやりと考えた。


そういえばこの人は、ずっと私の風下に立っていたな――――と。



567 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga] - 2012/01/13 22:29:41.24 Tr0IPTQS0 7/7

フラグを立てるチャンスはそこかしこに転がってたというのにこのヘタレ神父ときたら
彼のスタンスに直接触れてる大覇星祭編よりも、挙動の一つ一つから信念を窺える法の書編の方が個人的に好きです
ステイルとしては、インデックスにとって『どうでもいい人』でありたいんでしょうけどね