580 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[saga] - 2012/01/15 23:22:24.28 uY3LPmYw0 1/18

>>280 と>>399 と>>466 の者です
16レスお借りします

・超窒素禁書
・普通の小説に近い形式
・インさん周り捏造激しい
・禁書SSなのに熱くない不思議

今回で決着です


【関連】

超窒素禁書
http://toaruss.blog.jp/archives/1040856132.html

超窒素禁書2
http://toaruss.blog.jp/archives/1040941995.html

超窒素禁書3
http://toaruss.blog.jp/archives/1041031840.html

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-35冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324178112/
581 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:23:14.63 uY3LPmYw0 2/18


ホットパンツのポケットで携帯が震えた。

「……はい」

「絹旗ぁ、無事みたいね。それじゃぁ洗いざらい吐きなさい」

通話ボタンを押す前から、発信元は分かっていた。
ただ実際に慣れ親しんだ口調に絹旗は安堵した。
あの神裂と名乗っていた女の声が出なくて良かったと心から思う。
ステイルは去り際に神裂も退かせると言っていたが、それを鵜呑みにするほど絹旗は純真ではない。

「オイ、早くしろ。こっちは散々舐めプレイかまされてムカついてんのよ」

電話越しの声が苛立つ。
そうだった、麦野の無事が判明したところで自身の安全には何の保障も無いのだった。
むしろ致死率が上がっただけな気がする。

「分かりました。超突飛な話なのですが、取り敢えず最後まで聞いてもらえますか」

何をどこまで話したものだろう。
魔術だの原典だのの事は、ここでは話を混乱させるだけだ。

「さっきの奴は『外』からやって来たみたいです。えっと、その、私が超うっかり匿った子を追って」

「『外』だぁ? ……チッ、原石か?」

幸い麦野は科学の枠組みで話を捉えてくれたようだった。
二番目に面倒なハードルはこれで越えられたことになる。

「その子は所属していた組織で機密情報を握っていましてですね――」

誤魔化しを語ることはできた。
だが絹旗は魔術というファクターや固有名詞を除き、関わった出来事を詳細に告白した。
どうせ暗部組織のリーダーたる麦野が本気で調べればある程度は知られてしまうのだ。
何より、「アイテム」の隠れ家を漏洩し、同僚までも巻き込んだことへのけじめだった。

「――そう。絹旗。あんた自分のやったこと、分かってんの?」

ひゅっ、と息を呑む。
残されたハードルは自身の命だが、この温度の無い声音の前では風前の灯だった。

「……えぇ」

「――――――」

息遣いだけが聞こえる空白の時間。
その末にぶつけられた言葉は。

「――、二度と面倒は持ち込むな。知られた隠れ家二箇所については破棄。その分はあんたが補填すること。雑貨稼業にでも行ってきなさい」

「え」

「素直に話した分はまけてやる。次はねぇぞ」

それだけ一方的に告げると、通話はぷつりと切れた。
ツー、ツー、という無機質な音を聞きながら、絹旗は自分の耳を疑っていた。
事の重大さに対して破格の処遇。
何より、あの言い方では面倒さえ持ち込まなければ好きにして良い、とも取れる。

「超素直に話した分、ですか」

絹旗は、その意味するところを推測する。

582 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:23:46.30 uY3LPmYw0 3/18


「おかえり、きぬはた」

出迎えた舌っ足らずな声は一つ。
ワンピース型の寝巻きに身を包んだインデックスのものだ。

「ただいま帰りましたよ。熱上がったって聞きましたけど、平気ですか?」

「うん、ベッドに縛り付けられるほどではないかな。あ、滝壺はさっき行っちゃったんだけど」

「あぁ、それも電話で超言ってました」

本当は聞いてなどいないが、まぁ予想した通りだった。
麦野がこの隠れ家を捨てると言ったのだから「アイテム」の中核である滝壺に引き揚げ命令が下るのも当然だ。
そういえばインデックスの表情は平常通りで、滝壺は襲撃の件を伝えずにいてくれたらしい。
裂傷を隠す包帯も、今朝巻いたものを替えただけに見えるだろう。

「……インデックス、落ち着いて聞いてくれますか」

だから、それらを裏切ってインデックスを傷付けることがひたすら胸に圧し掛かる。

「――、どうしたの、何かあったんだね?」

言わなければ。
本当の意味でインデックスを助けるために。

「今日、あの炎の魔術師と話しました」

「!」

色を失ったインデックスの表情は、やっぱりだ、思った通り追手の恐怖より心配が勝っている。
絹旗の頭から爪先まで素早く視線が滑る。
怪我は上手く隠せているだろうか。

「あなたを斬った女にも会いました。……インデックス。もし二人が超本当は敵じゃないかもしれないと言ったら、信じてくれますか」

「何を、言ってるの……?」

困惑が浮かぶ表情に竦みそうになる。
――言わなければ。

「あなたの昔の記憶が無いのは、心因性の物だと超思い込んでました。聞いてきたのは記憶が無い――いえ、記憶を消された本当の理由です」

「けさ、れた?」

「あくまであの追手から聞いた話です。ですが、信憑性は低くないと判断しました」

インデックスに仕組まれた「もの」を本格的に調べるには本人の協力が無いと厳しい。
相手が断れないのを承知で、絹旗は頭を下げる。

「お願いです、私を信じてください」

「――――きぬはた。分かったんだよ、全部教えて。だからそんな声出さなくても大丈夫なの」

助けるためだと言いらがら優しさに甘えなければいけない。
滲んだ涙が流れない内に絹旗は口を開いた。

583 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:24:33.04 uY3LPmYw0 4/18


麦野にもほぼ全ての出来事を話したばかりなので、伝えるべき内容は整理できている。
絹旗に分からないのは、どう言葉にすればインデックスがショックを受けないかどうか。
そんな都合の良い言葉があるはずもない。
信じていたものを否定される苦しみは、さっき間近に見てきた。

どう言っても変わらない真実をつっかえつっかえ話した。
言葉にするだけのことに何度も詰まった。
そのせいで引き伸ばされた時間中、インデックスはずっと静かに聞いていた。

「……そっか、私、忘れちゃってたんだね。二人のこと」

かんざきかおり、に、ステイル=マグヌス、かぁ。
教えた名前をインデックスは唇に乗せる。
その音は驚くほど感情が篭らずに響き、口にした本人は寂しそうに笑んだ。

「悪い魔術師だって思ってた。怖くて辛くて。でも、……先に傷付けたのは私だったんだね」

「っ、インデックスは悪くないです」

「でもあの人達はもっと悪くないの」

「だったら! 誰も悪くなんてないんです! インデックスが悪いなんて超有り得ないんです!」

声を張り上げた。
どうしてそんな風に思うんだ、教会の、上の都合で弄ばれているのはインデックス自身なのに。
記憶を消したのだって、直接手を下したのは彼らなのに。

「それでも、私が、」

「ばかっ!! あなたは超ばかです!!」

絹旗はついにインデックスを掻き抱いた。
抑えきれなかった涙がぼろぼろ零れて、インデックスの寝巻きを濡らした。
苦痛のためか怒りのためか泣いている理由も曖昧なまま。

「あなたのせいじゃないんです! ステイル達だってあなたを恨んでなんかいないです!」

インデックスは悪くない。
何度も何度も一つ覚えに繰り返す。
それしか言えなかった。
翻弄されて蹂躙されてそれでも自分が悪いなんて、世界に一人だけでいるみたいじゃないか。

どこまでも他人のことばかりで、一人ぽつんと立っている。
インデックスの地獄。

毒を帯びた魔道書もイギリス清教の闇も本質ではなかったのだ。

「もう記憶を消させたりしません! 絶対方法を見つけますから、だから、」

記憶を守るだけじゃなく、傍に居る。

「あ、」

「だから……みんなで超幸せになりましょう……っ」

荒野のような世界を変えたいと思う。

「、ふ、ぇ……」

力無く嗚咽を堪えるインデックスを抱きしめながら絹旗は胸に刻む。
抑えきれない震えとしがみついてくる腕のか弱さ。

初めてその世界に踏み込ませてくれた気する。

その夜は、大事に大事に抱き合って眠った。

584 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:25:11.58 uY3LPmYw0 5/18


「前置きは超無しで良いですね」

「あぁ、無駄話に興じている余裕は無い」

「『期限』は二十八日零時、事の難しさを考えれば一刻を争いますね」

七月二十二日、午後二時。

始めにインデックスを匿った隠れ家に絹旗は居た。
それに、長刀を脇に立て掛けた神裂と眉間に皺を寄せ煙草をふかすステイル。
以上三名が情報交換のために集まったメンバーである。
インデックス自身が居ないのは絹旗が二人をもう少し見極めたかったからだ。

「昨日、インデックスに事情を話しました」

今回絹旗が言える最重要事項はそれだ。
耳にした魔術師達は瞬時に色めき立った。

「なぜ話した! 言って何になるんだ、あの子が苦しむだけだろう!」

「インデックスは魔術の知識の超宝庫なんですよね。仕掛け――『首輪』を調べながら隠し通せるとは思えません」

「……。いっそインデックス自身にも協力させようということですか」

神裂の硬い声に頷きを返す。

「お二人も、この異国の地で短時間で、かつ組織にバレないように調べられることは限られるでしょう」

魔術の知識についてだ。
絹旗が科学を知るように二人は魔術に親しんでいるのだろうが、普通の人間の知識に「完璧」は有り得ない。
その点インデックスは魔神と称されるレベルであり、文字通り桁が違う。

「……『魔道図書館』に勝るソースが無いのは知っている」

それが身に沁みて分かるのだろう、ステイルは忌々しそうな表情をしている。
インデックスを苦しめたくないという共通の思いが分かるから、絹旗も一度口を噤んだ。

「私の方はイギリス清教の上司にそれとなく探りを入れてみましたが、目ぼしい情報はありません


沈黙を払うように神裂が報告する。
成果は無いようなものだが仕方ない。
この状況で表立って組織と袂を分かつのは、インデックスの身柄含めリスクが高すぎるはずだ。

「あの女狐はどうせ全て把握しているんだろうがね」

ステイルが吐き捨てる。
なるほど、裏仕事の元締めの性質など魔術の世界でも変わらないようだ。

「それなんですが、学園都市側の上層部もインデックスのことを超感付いて黙認してるみたいです」

「……そうか。事前に許可を取っていない彼女が侵入できたこと自体、掌の上、か」

麦野が電話で最後に言っていた意味は多分そういうことだ。
大方「アイテム」に指示を出してくる電話の女が、絹旗最愛が匿う少女には不干渉でいろとでも言ったのだ。
都市内で開発されるものとは別系統の異能の結晶を、あわよくば手中に収めたいのか。

「まぁ上の真意なんて超理解できませんけどね」

「……『首輪』を解除したら、政治的な駆引きからもあの子を守らなければいけませんね」

インデックスの小さな身体に降り掛かるものは多い。
それでも手を引こうと思う者はここには居なかった。

585 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:25:39.85 uY3LPmYw0 6/18


ともあれ、絹旗は自分の立場で言えることをさっさと述べることにする。

「他に超現時点で私ができるのは可能性の提示くらいです。例えば期限間際にインデックスが陥る不調について、医学的に診察してもらうとか」

「科学の方法で……ですか」

神裂は微妙に苦い表情を見せた。
その心情は納得できる。
魔術師達にとってこの街の最先端科学は得体の知れない技術だろうし、「首輪」は魔術の方法で構成されているはずだ。

「原因が魔術的なものでも科学からのアプローチが全く無効な訳ではないと思います。呪文で出した超高温の炎だって、防げる断熱素材はありますよ」

「当て付けか、能力者」

「耐え切れなくて火傷しましたけどね今も痛いですけどね」

視線も合わせずに短く応酬。
神裂が横目に眉を動かしたので打ち切ったが。

「医者でしたら超良心的なのを知ってます。もしくは精神面の問題ならそういう能力者を当たるのもありかと」

ただ精神系能力者には個人的に信頼できる者がいない。
その分野の最高峰たる第五位「心理掌握」は癖が強い人物らしく、連絡が付いたとしてもインデックスをおいそれとは任せられない。

「そうですね、……あくまで選択肢の一つとして考えましょう」

「えぇ。魔術の方から解決できるならそれが超ベストです」

科学と魔術ではフォーマットが違い過ぎて噛み合わせが悪い、というより結果が予測できない。
さっきはああ言ったものの、魔術で「何でも燃やす炎」を作ったとしたら、それは断熱素材で防げるのか。
ことによっては低温のまま燃焼のような現象を起こすかもしれない。

「後は……万が一の時に期限を延ばすために探してきたのですが」

絹旗はそう言いながら太めの万年筆のようなものをテーブルに置いた。
午前中、新しい隠れ家を探すのと一緒に調達してきた物。

「体内に小型の機械を埋め込んで、特殊な電気信号で臓器の働きを制御するものです」

「臓器、を制御……ですか?」

神裂もステイルも要領を得ないという顔をしている。
本来これはあらかじめ仕込んだ相手を遠隔的に殺害するためのものだ。

「この場合は人工的に仮死状態を作ると思えば良いです。それで『首輪』のカウントダウンが止まるかは超確実じゃないですけど」

「ふざけるな、そんなものにインデックスの命は賭けさせない」

「選択肢の一つです。独断で使うつもりもありません」

ステイルの低く獰猛な声に、素直に頷いておいた。
神裂は動きこそしないが嫌悪感を隠しきれていない。
魔術師の男は表面的に引き下がったものの、皮膚からピリピリした気配を放っている。

「正直、科学側の考えることは――私達とは相容れないですね」

「超お互い様です。インデックスのためなら手段を選ぶ気はないのも同じでしょう?」

586 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:26:18.09 uY3LPmYw0 7/18


ふぅ、張り詰めた空気に息を吐いて口を開いたのはステイルだった。

「――こちらの見解も話そう。『首輪』はインデックスの身体に直接、永続的に掛けられている可能性が高い。もしかしたら僕のルーンのような分かり易い実体があるかもしれない」

「遠くから呪いみたいに飛んできてるっていうことはないんですか」

門外漢なりに念動力能力者のようなものをイメージして聞いてみた。
もしそうならステイルとやり合った時のように、大元の魔術師のところまで赴いてブン殴る覚悟はある。

「いや。過去に『首輪』が発動した時もインデックスは『歩く教会』を着ていた。外部からの攻撃ではないはずだ」

「『歩く教会』に仕込まれている可能性も考えましたが、本人の意思で脱げるものに掛けるのは危険でしょう」

絹旗には「歩く教会」の強度は測れないが、ここは二人を信用するしかない。

「ではインデックスの身体をチェックしつつ、超魔術的に検診してみる方針ですか」

どんな風に調べるのか私には見当が付きませんが、と呟く。
流石に次はインデックスと彼らを会わせなければならない。
インデックスを助けるという意志に関して、もう二人に疑いは抱いていない。
それにしても今までの所業、それに知らせてしまった真実を思うと快くはなかった。

「そうですね、術式が発見でき次第、解析に入りましょう」

「見付けたらすぐ解けるんじゃないんですね」

零れ出た疑問に神裂は申し訳なさそうな顔をする。

「魔術は象徴や解釈といった、複雑な構造でできています。読み違えればどんな影響が出るか分かりません」

「病状の上っ面だけ見て薬を飲ませたら大変なことになるのと同じだ、君達の方に例えるならね」

インデックスを治療した時の訳の分からない儀式を思えば、そういうものかという気もする。
いずれにせよ魔術自体への対処で絹旗にできることは無いのだ。

「済みません、少し急いてしまいました。ただし、もし解けなかったら病院に超連行しますから」

「大丈夫です。インデックス自身の知識も合わせれば必ず解除できますよ」

苦々しくも力強い言葉。
絹旗は何も言わず、ただ頷いた。

587 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:26:53.09 uY3LPmYw0 8/18


七月二十二日、午後七時。
第三学区の個人用サロン。

解析用の魔術を組むのに広い場所が欲しいと言われたため借りた一室だ。
一室といっても内部は様々なレクレーションルームに分かれており、ホテルのスイートルームなどより余程大きい。
メインの部屋は天井がガラス張りで、更けかける空が鮮やかに広がっている。

「ではインデックス、失礼しますね」

そう言って身体に手を伸ばしたのは神裂だ。
触れる指先も、触れられるインデックスも、どちらも緊張して見える。

「手、ひんやりして気持ち良いかも」

交わす小さな笑みもどことなく硬い。
それでも二人は、傷付け合うだけの関係から踏み出そうとしている。

魔術師達と引き合わせた時。
インデックス自身が、絹旗に席を外してくれと頼んできた。
逡巡の末隣室に待機している間、彼らが何を話したのかは分からない。

(でも、あなたは二人を超許したんでしょうね、インデックス)

誰も吹っ切れたような表情にはなっていなかった。
それでも、それぞれの心の中で区切りを付けのだと思う。
ぎこちなく話すインデックスも神裂も、今は別室に居るステイルも。

「頭には見当たりませんね。……次は背中を見せてくれますか」

「ちょっと恥ずかしいんだよ……」

一度は斬り付けられた相手に無防備な背を見せるインデックスを、絹旗は心底強いと思う。

588 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:27:20.08 uY3LPmYw0 9/18


「……ありました」

絹旗が見守る中、全身を隈無く調べ三十分。
目に見える形には現れていないのではと思った矢先だった。
天井の外は完全に夜空に変わっている。

「喉の奥に刻まれているとは超思いませんでしたね」

神裂の写したスケッチを囲み、四人は頭を付き合わせる。
不気味で複雑な紋章。
ここからは完全に魔術師達の仕事なのだが、絹旗も離れる気にはならなかった。

「ルーンの系統ではないな。オリジナルの文字だとしてもこの配列はおかしい」

「私の知識にもありませんね……十字教の基本教義、仏教や神道を下敷きにしたものではないでしょう」

ばっ、とインデックスに視線が集中する。
魔術についてのあらゆる知識を掻き集めた少女。
彼女に掛かればこんなものはすぐに解読できると皆が信じている。

「わ、から、ないんだよ……」

その中で、インデックスは一人蒼褪めていた。

「何で! 私は一〇万三〇〇〇冊なんだよ!? どうして見たこともない術式があるの!!」

「インデックス、落ち着いてくださいっ!」

子供がいやいやをするように激しく頭を振るインデックス。
絹旗は為す術も無く、ただその身体を抱きしめる。
絹旗の胸に押し付けられてなおインデックスはくぐもった叫びをあげた。

「どうして、どうして……っ!」

「……おそらく、だが。故意に『首輪』に繋がる知識が欠けているんだろう。そもそも今まで君が存在に気付かないでいたのがおかしいんだ」

絹旗は知らないことだが、インデックスの魔術に対する察知能力はずば抜けて高い。
普段ならともかく年一度の発動時に気付かない訳がない。
『首輪』について、また知識が一部欠けていることについても意識が向かないようにされていた可能性がある。

「っ、忘れたく、ないんだよ……。世界の全てを捻じ曲げる、なんて。私にはこんな術式も解けないのに……」

「インデックス……」

名を呼んだ神裂は、それ以上言葉を継がなかった。
何も言える訳が無いと絹旗は思う。
教会に裏切られて、信じていた知識も土壇場で助けてはくれない。
完全に「上」に都合が良いだけの図書館として――、

(あ、)

その時、脳裏に小さな違和感がよぎった。
一〇万三〇〇〇冊、魔道図書館、世界の全て、魔神。
そこに欠けたわずかな知識。

思うまま絹旗は口にする。

「――インデックス。あなたは、超本当は知っているんじゃないでしょうか」

589 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:27:50.81 uY3LPmYw0 10/18


「知らないよ、見たことない。術式全体だけじゃない、構成要素の一つだって分からない!」

弾けるようにインデックスが叫んだ。
魔術に疎いくせに不用意な発言をした絹旗を、神裂とステイルが睨みつける。

「分かってます、インデックスは嘘なんて吐かないです! ただ、知っているのに見えないようにされてるんじゃないでしょうか」

一〇万三〇〇〇冊。
膨大な数だ。
それだけのものをインデックスに記憶させた、魔道図書館なんてものを作ろうとした偏執的な人間が、知識の欠落を許すだろうか。
インデックス本人には隠しながら、保管させようとは考えないか。
実際に絹旗はインデックスの人格を通さずに「蔵書」が引き出される様を目撃している。

「もしそうだとしても、私に分からないんじゃ意味がないんだよ……」

一転して打ちひしがれたように弱弱しくなる声。
暗い熱を瞳に灯し、杖を突いたステイルがゆらりと立ち上がる。

「もう止めろ。これ以上続けるなら――」

「分からなくても、推測はできませんか。今までは知らない魔術があること自体に気付かなかった。でも今は、欠けている部分の形を超知っています!」

「っ――――!」

勢いよく顔を上げたインデックスを真っ直ぐに見詰める。
潤んだ目が突き刺すような真摯さをもって絹旗を見る。
静止を遮られたステイルも目を見開いた神裂も、動きを止めている。

「――やるんだよ。私、突き止める」

インデックスの透き通った、それでいて芯のある声が響いた。

590 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:28:14.95 uY3LPmYw0 11/18


がりがりがり、と乱雑にペンが走る音の中、今度こそ絹旗は蚊帳の外にいた。
インデックスはテーブルに向かい何かを書き散らしては投げ捨てる。
その時々に二人の魔術師に声を掛けては、答えを聞いてまた紙と向き合う。

(ごめんなさい。ごめんなさいインデックス――)

絹旗は一人離れたソファに凭れ、携帯端末を操作している。
インデックスが魔術を解読できなかった時、頼る病院などの都合を付けておくために。

「解読できなかった時」。
絹旗は、インデックスにやるべき事を与えたようでいて、もっと深い絶望に突き落とすかもしれないと分かっている。
一度希望を抱いたインデックスがもし失敗したら、一体何を思うのか。
膝の間に顔を埋める。

自分の推測が的外れだとは思わない。
しかしインデックスが答えに辿り着けるかは、確率の計算もできない未知数だ。
本当は「私達が必ず何とかする」と言えば良かったのだ。

(インデックスは「忘れたくない」と言いました。――どんな手段を使ってもそれを叶えたいと思うのは、私の超我侭なんでしょうね)

奇跡なんて起こらない。
一発で何もかも解決できるような切り札は無い。
それでも絶対に忘れて欲しくなくて、絹旗はあらゆる可能性に縋るしかない。

そうして一時間と数十分経った頃。

パァン!! と部屋中に音が響いた。

全員が、音の源に振り向く。
インデックスが呆けたように宙に視線を漂わせている。
その手は強張ったままテーブルに置かれ、インデックスがテーブルを叩いたのだと知れた。

「わかった、解けたんだよ」

声もどこか茫洋として、見えない本を見ているようだ。
誰もがしんとしてインデックスの言葉を聞いている。

「あの術式は年の循環の中に強制的に『区切り』を付けるもの。紋章は十二宮の記号を十字教とケルト神話で無理矢理変換して、――」

そこまでだった。
すらすらと読み上げるような声が突然途切れ、首がかくりと前に垂れた。

「インデックス!?」

呼びかけたのは誰だろう。
全員が慌てて周りに駆け寄る。

インデックスは黙ったままゆっくりと立ち上がり、

「――警告、第四章第十二節。司書《interface》の閲覧禁止区域への侵入を確認。防壁を再構築します」

それは既にインデックスではなかった。

591 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:28:53.49 uY3LPmYw0 12/18


「な、これは何だ……っ!?」

「『自動書記』――!」

ステイル達は知らないこの人格の名を、絹旗は呼んだ。

「――、構築完了。現時点までの記憶を検索……完了。共犯者を三名検出」

「な、何でこの子が魔術なんて使えるんですか!」

ばらばらばら、と。
インデックスを中心に風が起こり、不可解な紋様が書き殴られた紙を巻き上げた。
あらゆる知識を従えるように。

「――一〇万三〇〇〇冊の保護のため、侵入者を迎撃します」

「馬鹿なッ、インデックスの魔力はこのために!?」

インデックスの目前に、空間に直接インクを流したような図形が出現する。

「――現状、最も難度の高い敵兵『神裂火織』の破壊を最優先します」

直後、インデックスの瞳が鮮烈な赤に染まる。
図形――魔法陣が呼応して銀に輝く。

「――対聖人用の特定魔術の組み込みに成功しました」

「ッ、Salvare000!」

ボゥンッ!! と黒い線が神裂に向かって発射される。
その時には神裂の姿は無い。
フローリングを抉る程の踏み込みで跳躍している。

「超迎撃機能……! インデックスを傷付けずに止めるには!?」

「分かるはずがないだろう! Fortis931――魔女狩りの王ッ!!」

空気を喰らう巨人がインデックスに襲い掛かることはない。
インデックスと他を隔てるように立ち塞がるだけ。

「――各個撃破は非効率的と判断。対集団用の特定魔術を組み込みます」

魔法陣の色が純白へと移り変わる。
空間を引き裂く音がする。

「――これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

異界の音階が響く。
無慈悲な白光が三人に襲い掛かる。

592 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:29:20.80 uY3LPmYw0 13/18


視界を輝く白が埋めた瞬間、絹旗は強い力で引かれた。
熱い体温が押し潰すように真上にある。

「大丈夫ですか」

押し殺した声は神裂だ。
少し外れた位置に居た絹旗は、攻撃が当たる直前に魔女狩りの王の後ろに投げ飛ばされたのだ。
だがそのせいで神裂自身が脚に火傷を負っていることに気付く。

「! 今は私よりも、」

「私は名乗りました。――もう誰も見捨てません」

互いの戦力を考えた台詞は遮られた。
囁きは一瞬で、神裂は再び跳躍している。

呆然とするしかなかった。
インデックスの放つ光線は余波だけで室内を破壊していく。
魔女狩りの王で受け止め切れなかった光がその上を蹂躙する。
正体の知れない攻撃は家具や壁を等しく破壊し、後には嘘のように白い羽根が舞う。

「こんなの、麦野より、」

最後まで言葉にならない。
超能力者よりも凄まじいモノに相対して、一体何ができるだろう。
何ができる。

違う。

(自分は無力だなんて、超泣き言吐いてる場合ですか!)

何かできる。
神裂が攻撃範囲の外から足場を崩そうとしているが、戦況は明らかに劣勢。
こんなところでお荷物になってはいられない。

絹旗にできること。
窒素の制御。
駄目だ、この攻撃はそんな物では防げない。
自分が盾にはなれない。
接近できないから剣にもなれない。

絹旗が知っていること。
インデックスの純粋さ。
一〇万三〇〇〇冊。
脳の容量の嘘。
……違う、そうじゃない。

絹旗だけが知っていることがある。
「自動書記」。
治療をした時の記憶。
その性質。
科学の世界の何よりも機械的な、

「――――」

絹旗は「それ」を握り締める。

593 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:29:55.97 uY3LPmYw0 14/18


「ステイル=マグヌス」

絹旗は苦しそうに片膝を突く魔術師を呼んだ。
ステイルは視線だけで促す。
その視界にきちんと入るように、予備の「それを」二本転がし渡す。

「これは……おい! どういうつもりだ!?」

「……賭けです。試すのは私がやります。もし上手くいったなら、超乗ってくれませんか」

最後に自分の分を弄り回し設定を済ませる。

「駄目だ。そもそも近付けないんだ、意味も無い」

「そういうことじゃありません。今のインデックスはオートで動く機械のようなもの。だから、もしかしたら、」

そこまで言って、絹旗は「それ」の先端を脇腹に押し付けた。

賭け。
それも一度勝っただけでは駄目だ。
何度もダブルアップを繰り返すように、可能性の網を潜り抜けなければインデックスは守れない。

(――でも、私がするのは一戦目の超試金石に過ぎなくても、)

これが自分にできることだ。
自分の役割だ。

眼を閉じ、「それ」を作動させ――絹旗の意識は暗い、暗いところに堕ちていった。

594 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:30:22.92 uY3LPmYw0 15/18



「――敵兵『神裂火織』の生命活動停止を確認。全侵入者の破壊を完了し、『自動書記』を休眠します――」

 

595 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:30:52.52 uY3LPmYw0 16/18


そうして、絹旗は長い手紙を読み終えた。

開け放った窓から、暑さを和らげる涼風が吹き込む。
暖色の薄いカーテンが膨らみ、また引いていく。

絹旗の知人には三文小説家とC級映画監督が居るらしい。
普通ならそう思う。

「どうして、『インデックス』って名前がこんなに気になるんでしょう……?」

あくまで淡々と綴られた手紙の最後には、物語の登場人物である二人からメッセージが添えてあった。
そこにだけは剥き出しの思いが滲んでいる。

『お詫びはするべきではないのでしょうね。私達が気付けなかったことをあなたは教えてくれた。本当にありがとうございます。 神裂火織』

『言いたいことは沢山あるが、先に養生すると良い。あの子は今だけ預けておく。 ステイル=マグヌス』

彼らは文字の中の「魔術師」であり、この手紙の筆者でもある。

絹旗は自分のことを知りたいと言った。
どんな過去でも知っておきたいと。
そうしたら、妙に蛙に似た医者は本当に色々な物を用意してくれた。
過去にあったという実験の記録。
能力の測定値。
シンプルな名前の組織で活動していたというレポート。

最後に読んだのが自分を病院に連れてきたという二人からの手紙。
他の記録だって自分のこととは思えないのに、この手紙は輪を掛けて夢物語のようだ。

596 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:32:31.84 uY3LPmYw0 17/18


こん、こん、と音がした。
蛙の医者だろうか。
絹旗は何の気なく答える。

開いたドアの先には、純白の修道女が立っていた。

「きぬはた……」

「あなたがインデックス、ですか」

自分には役者の知り合いも居たらしい。
そう思うのに、喉が勝手に息を呑んだ。

「きぬはた。私、解いたよ。もう忘れないんだよ」

「首輪」のことだ。

「……きぬはた。かおりとステイルがね、これからのことは大丈夫だって」

イギリス清教を出し抜いてでも身柄は守る、と手紙にも書いてあった。

「…………きぬはた。嬉しかったの、幸せになろうって言ってくれて」

それは知らない。
どの記録にも載っていないことは、絹旗は知らない。

「きぬはた、覚えてない?」

なのに何故。
知らない少女が泣き笑いの表情を浮かべているだけで、こんなに苦しくなるんだろう。

「インデックスは、きぬはたの事が大好きだったんだよ?」

何もかも押し殺そうとして少女は笑う。
何も押し殺せていない顔を見て、絹旗は疑念も迷いも捨てた。
「絹旗最愛」は心なんて信じる人間だったのだろうか。
分からない。

「――インデックス。あなたが泣いていると、私も泣きたくなるんです」

絹旗は「絹旗」を恨む。
目を醒まし、仮死状態に陥った三人を見て、インデックスはどれだけ衝撃を受けただろう。
その上インデックスを置いて自分だけ行ってしまった。

「きぬはた……」

「出来事は覚えていなくても、私はあなたを覚えている」

「きぬ、は、……う、ふぇぇ」

もう駄目だった。
ぽろぽろと涙を落とす矮躯を抱き締めた。

「インデックス」

インデックスが泣いているのは「絹旗」を失って悲しいから。
絹旗の言葉に喜んだのではない。

お互いに辛い思いをするのは分かっている。
それでも、距離を取るという選択はできなかった。
傍で守りたいと思った。

「――一緒に、幸せになりましょう」

597 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage saga] - 2012/01/15 23:33:19.64 uY3LPmYw0 18/18

以上です
インデックスがチート気味なのは俺が図書館フェチだから

SSって難しいですね
本当は2巻分まで書きたいんだけど、その前に色々見直そうかと思います
心理描写とか文体とか

拙い文章だったけど、読んでくれた人ありがとう!