666 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga] - 2012/01/18 23:30:42.77 ka8EpCAk0 1/7

>>562の視点変更で5レスほどいただきます
一応言っとくけど上×ステじゃないからね!

風上
http://toaruss.blog.jp/archives/1041121054.html

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-35冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324178112/
667 : 風下[saga] - 2012/01/18 23:32:04.95 ka8EpCAk0 2/7



「……別に。コンビニなんて、その辺探せばすぐ見つかるだろ」

「結構」


宵の口もとうに過ぎ、人気の失せた街並みに向かって、特徴的なツンツン頭が駆け足で闇に消えた。
何事かをふっきったようなその背中の大きさに、ステイルは盛大なため息をついた。


「止めなくてよかったのかい? 奴の走っていった先は、相当に酷い向かい風だが」


問い掛けの宛て先は、純白の修道服の背中だった。
少年が人生のすべてを捧げると誓った少女の、見飽きるほどに見つめて、見守ってきた後ろ姿そのもの――――


「……あなたも聞いてたでしょ」


――――その亡骸に宿った、新たな息吹。
たった今ステイルの目の前にいる少女を説明するのに、これ以上の言葉はなかった。


「止めはしたけど、無駄だった。とうまは結局、そういう人なんだよ」


インデックスの声音は柔らかく、途方もない愛おしさに満ちあふれていた。
風上に向かって引き返してしまった、向こう見ずで無鉄砲な少年(ヒーロー)の存在だけが、今の彼女にとっての唯一なのだろう。

『勢力均衡』という言葉を脳内辞書に登録し忘れたとしか思えない、愚かな男の顔をステイルは思い浮かべる。
まったく、あれだけ「魔術サイドで片を付けるから」と口を酸っぱくしたのに。
やはり上条当麻はオルソラ=アクィナスを、彼が助けたいと思う誰かを助けるために闘いに身を投じてしまった。

668 : 風下[saga] - 2012/01/18 23:33:05.86 ka8EpCAk0 3/7


しかし上条当麻という少年の本質が“そう”でなければインデックスは、現在身を浸しているような、まがい物の平穏すら手にすることはできなかっただろう。
それもまた、動かぬ事実だった。


「……この先に踏み込んでしまったら。アイツはきっと、もう戻れないだろうね」


上条当麻の信念、とでも言い換えるべき本質を、ステイルもいくばくか感じ取ってはいた。
理解できてしまうという事実が、ステイルとしては少々――――否、すこぶる腹立たしかった。


「十字教最大勢力が抱える闇に一介の高校生が挑む、ねぇ。そんなことにかまけている暇があるのか、と言ってやりたいな」

「……あなたは、これからどうするの?」

「『イギリス清教の身内』が一人、ローマ正教の手に落ちた。仕方がないから救出に向かうよ」


独りごちるステイルに多くを語らず、インデックスが無感情にそう問うてきた。
シスターが見つめる、己の背中側の宵闇に融けゆく白煙に乗せて答えを抑揚のない声色で返す。


「『禁書目録』を然るべき管理者の手に委ねてから、ね」


最後の最後に『余計な一言』を付け加える事だけは忘れずに、だ。
さしものインデックスもこの言い草には多少鼻白んだのか、白眉を吊り上げてこちらを睨んできた。

言葉を尽くす、その努力を怠っているという自覚はあった。
パートナーという立ち位置を自ら投げ捨て、上条当麻に譲ったからといって、たとえ今、インデックスがどれほど上条当麻の隣で幸せそうに笑っているからといって、ステイルがこの一年で彼女の心に刻んでしまった傷が消えるわけではない。
跪いて赦しを請うべきだった。
心優しいインデックスは、事情のすべてを詳らかにしさえすれば、まず間違いなくステイルを許すだろう。
しかしそんな容赦の有無になど拘わりなく、ステイルの罪は裁かれるべきで、ステイルは罪を贖うべきなのだ。

669 : 風下[saga] - 2012/01/18 23:34:37.28 ka8EpCAk0 4/7



「そう。仕事熱心なんだね、あなたは」


だと、言うのに。


「ああ、そうだとも。仕事でもない限り、誰が好き好んで君らと関わり合いになどなるか」


歯列のすき間を縫って飛び出すのは、斯様な憎まれ口ばかりだった。
それは臆病者の逃避行動以外の何物でもなかった。

要するに、ステイルは怖かっただけだ。
自分達の間に横たわる過去という名の死体を解剖されて、胃の内容物を知られるのが恐ろしかった。
すべてを知られた挙句、惨めな失敗者に向けるがごとき憐れみの眼差しを注がれたら、正気を保てる自信がなかった。

だからステイルは誰も納得できず、誰も幸せになれない、“この距離”で妥協することに決めたのだった。


「じゃ、行くよ」

「……え?」


ステイルが踵を返した理由は単純だった。
彼女を守ることのできる男へと彼女を預けるべく、彼女から心を背けて逃避行に走る。
突き詰めれば、ステイルの行動の意味はどこまでも利己的なものだった。


「何を呆けてるんだい、インデックス」

670 : 風下[saga] - 2012/01/18 23:36:02.09 ka8EpCAk0 5/7



「学園都市は、そっちじゃないかも」

「言ったろう、『君を管理者の手に委ねる』とね。あの馬鹿、コンビニ一つ探すのに果たしてどこまで突っ走っていったのやら。要らん手間をかけさせてくれるよ、まったく」


肩を大きくすくめながらステイルは、この期に及んで口をついたおためごかしに自嘲する。


「飼い主が見つかったら、身の安全は奴に確保してもらうんだね。あるいは自衛するかだが……どのみち、僕はそこまで面倒を見切れないな」


ゆったりとした歩調で一歩、足を踏み出しながらそう告げた。
慌てたシスターが急ぎ足で追随する気配を、微かな大気の揺らめきでステイルは感じとった。
インデックスはなぜだか、興奮気味に口を尖らせていた。


「あ、甘く見ないでほしいかも! これでも私は一〇三〇〇〇冊の」

「よーく存じ上げているとも、『魔道図書館』殿。敬虔なるアニェーゼ部隊の面々に対しては、『魔滅の声』あたりがさぞかし有効なことだろう」


見ずともわかった。
当然理解できた。
先を行くステイルからは決して窺い知れぬその表情は、まず間違いなく可愛らしい憤怒の朱に染まりきっている。
そうだ。
よくよく考えるまでもなく、ステイルは知っている。
どんな嫌味を投げかければ彼女が見事挑発に乗って、ステイルの思うがままの行動をとってくれるのか、よく知っている。

671 : 風下[saga] - 2012/01/18 23:37:56.68 ka8EpCAk0 6/7


心なしか歩幅を緩めた神父に、シスターが追いつくか追いつかないかというその時。
ごくごく微小なつぶやきが、夜の街路にポツリと落ちた。


「………………それにあのシスターどもは、やってはならない事をしでかしてくれたからな」


無意識だった。
腹の底で一度は冷えたはずのマグマが、唐突にグツリと煮立った、ただそれだけだった。
背後で少女が耳をそばだてていることにも気づかぬまま、少年は身を焦がす殺意で仕舞いこんだ牙を砥ぐ。
あの女(アマ)どもは骨まで焼こうが焼き足りない。


「な、なにか言った?」

「さあね。さて、ローマ正教が処刑場に選ぶとすればさしずめ、オルソラ嬢の名を冠した教会などが妥当なところか」

「………………変な人。『卑怯者』のくせに」

「なにか言ったかな」

「さあね」


少年が再び歩調を速めると、紫煙が夜風にゆるりと流れた。
守りたかったものから目を背け、風下へ遁走しようとする臆病者の背中。
かつて失敗を恐れ、己にとって楽な方へと流されてしまった愚か者の、無駄に高い上背を追い風が後押しする。


――――逃げたくば、どこまででも逃げるがいい。


吹く風にさえそうやって、逃避を責められているような気がした。


――――END

672 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga] - 2012/01/18 23:39:24.71 ka8EpCAk0 7/7

以上、地の文を入れ替えただけのザ☆手抜きでした