420 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県)[sage saga] - 2012/02/27 19:25:26.75 OwYRatfeo 1/5

インデックスが原典の負担に耐えられず亡くなってからの上条さんのお話
4レス程いただきます

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-36冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1328256460/
421 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県)[sage saga] - 2012/02/27 19:26:40.37 OwYRatfeo 2/5

 晴れた月夜だった。
 黄みがかった光は、しかし熱を与えることなく冴え冴えと刺す。女神の微笑のように鋭いその下弦を見上げる。
 わざと街灯の少ない区画。空を光源とする街は静かに今日を終えようとしていた。霧の街が夜に沈む。

 彼は屋根の上にいた。飾りの出窓から這い出、鳥を恨むような急な屋根に腰を掛けている。昼間であれば咎めた者もいたかもしれない。しかしこの闇、黒い外套をまとう彼を見つけられるのは猫か、常人の上をいく視力の持ち主くらいだろう。

 揺れる足が地面に着くまで何秒かかるか。ここから落ちて無事に済むほどの身体能力は彼にない。けれど恐れは見えず、まず地面があることすら覚えてもいないようだった。それ自体が博物館のような街並みを全て下に見、ただ無心に夜に住む。
 ロンドン、イギリス清教は第零聖堂区。石の街はしみじみと冷え、それは彼にも平等だった。昼をぬぐう月光へ、その温度を預ける。

 いつからか、こうして夜を過ごすのが習慣となった。
 日は昇らず、月は沈まなくなってしまってからのこと。



「ここにいましたか」

 日が暖かいと笑った彼女はいない。

「報告書も上がっていませんし、部屋にもいないようでしたから。明日はまた上層部からの喚問ですよ?」

 月が綺麗だと泣いた彼女はいない。

「申し開きも出来ませんよ。あなたにしか出来ない所業なのですから」

 真昼の星のようにたおやかだった彼女。
 聖女は毒され儚くなった。

「それでも上はあなたを切れないでしょうね。今や必要悪の教会最大の切り札となったあなたのことは」

 第零聖堂区『必要悪の教会』所属が魔術師、神裂火織。
 始末書業務を量産する同僚をたしなめに、音もなく屋根に立つ。闇を見通すその瞳、地面より一足に飛んだのだろう。
 始末書、喚問。上条当麻が上に呼ばれる理由はいつも一つに限られていた。

「今回の任務は、原典の奪還でした。破壊ではない」

422 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県)[sage saga] - 2012/02/27 19:27:32.16 OwYRatfeo 3/5




 世に現存する魔導書、その原典。彼の介入する事案に関わっていた原典は、漏れなく消滅させられている。誰も壊せぬ魔の泉。しかし彼の右腕にだけは赦される。
 魔法名を持たぬ、魔術師ですらない彼。魔導書図書館亡き今、彼こそがイギリス清教の隠し刀にして鬼の子。

「あと何冊だ?」

 彼の瞳は、静かな夜だった。たしかに星があった。それが何を燃やして輝くかを想うとき、彼の痛みは神裂の痛みだった。

「そろそろ十万を切ります」

 人の身ひとつを以って三千冊を泡に帰した。英雄と呼ぶ者もいる。蛮勇とも。

「次はどこ行きの任務に乗ればいいんだろうな」

 かたくなに夜に住む彼を、たくさんの人間が昼に戻そうとした。
 本当に、たくさんの人間が。

「変わりましたね、上条当麻」

 けれど、それは誰にも成せなかった。

「原典を破壊し尽くし、そしてどうするのです?」

 成し得た唯一が逝ってしまった。

「インデックスは、あなたにそんな生き方を望みはしなかったでしょう」

 墓無い彼女は喋らない。

「聖人は死人の代弁もこなすのか」

423 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県)[sage saga] - 2012/02/27 19:28:14.34 OwYRatfeo 4/5




 十万と三千を身に仕舞い、そして夜に歌われた彼女の代理は誰にも務めることが出来ない。誰にも彼を帰せない。彼の帰る場所はもうどこにもない。悟った者から順に彼の元を去った。誰も諦めたわけではない。半身を喪う意味を彼から学んだだけ。手は差し出され続けている。上条当麻はどれも選ぶことはない。

「すべて壊したその先に、何があるのですか」

「なあ、神裂」 

 今ここでも伸ばされる腕がある。
 掴まれないことを知りながら、それでも伸ばされ続ける腕がある。
 
「未来を変えれば、過去は変わるか?」

 かつて、虚無にも曲がらぬ光があった。
 
「もう遅い。明日のお灸は最大主教直々だそうですから、覚悟されるのがよいかと」

 語れないなら、黙するべきだ。
 そして現れた時同様、音なく消えた。







 すべて壊したその先を想う。曲がる未来が編じる過去を夢想する。

「未来を変えれば、過去は変わるか?」

 空に問う。
 月は答えずただ照らす。その温度は死人の冷たさに似て。
 
 右腕を天に伸ばす。あれは触れれば消える幻想か。
 かたくなに夜に住み、起きたままに夢を見る。
 筋張った手に夜を透かす。

「会いたいなあ……」

 あれから幾年。その微笑だけは少年のように。
 彼の夢は壊されない。月沈まぬがために。

424 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県)[sage] - 2012/02/27 19:30:08.46 OwYRatfeo 5/5


以上です。3レスの間違いでした
魔導書への復讐に走る上条さんも見てみたいななんて