994 : 埋め立てがてら短編テスト[sage] - 2012/04/21 00:54:34.90 VuOAfO6mo 1/7

 死体で視界が埋め尽くされている。

 冷たくなった肉の塊と、未だ温かさを保っている血の池を、14,5歳位だろうか、
"真っ白な翼"を携えた少年が無機質な瞳で一瞥すると、フンと鼻を鳴らして踵を返した。

 血だまりの中に沈む、白衣を纏った肉片は、かつて少年の能力を開発していた研究者達だ。

 最早この場に少年以外で生きている者は居ない。
 ならばこの研究所に設置されている機器の数々も、無用の長物だろう。

 少年が冷ややかな表情を浮かべながら、近くにあったコンピューターに手を触れる。

 それだけで液晶に映っていた暗号のような数字の数々が無に帰し、
 周辺にあった機器が次々と火花を散らしてシャットダウンしていった。

「これで晴れて俺も暗部入り、ってか?」

 その室内に居たすべての研究者達を死へと追いやった張本人である少年は、興味のかけらも感じさせない様子で呟いた。

 どうせただの実験動物(モルモット)だったのだ、今更暗部に落ちるだの落ちないだのと、
 そんな些事にいちいち気を落としたりする必要もないと、強がるように吐き捨てた。

 ここは学園都市。

 一見小奇麗な街並みの裏側、闇の中では小間使い達が必死になって血と硝煙の匂いを誤魔化している。

 実はというとこの学園都市、超能力とかいう怪しげな力を科学的に開発していく機関である。

 学生を集め、彼らに投薬し、電極を刺し、脳みそをいじくりまわして力を発現させる、
 そんな人体実験を平気で行うという、何も知らない人間が聞けば声高々に止めろと叫ぶに違いない。

 しかし、こうして学園都市が機能しているという事実は、ある一定の結果を出しているからに他ならない。

 それどころか、学園都市が持つ技術は他の先進国よりも一回りも二回りも進んでおり、
 地理的には日本に位置する学園都市だが、この都市はある意味で独立国家のような様相を呈している。

 さて、踵を返し、血肉にまみれた研究室を出て行った少年もまた、能力者だ。
 それも、1人で軍隊と対抗できるほどの力を有した。

 ここで1つ注意をしておかなければならない事がある。
 当然ながら何もこの学園都市に住まう生徒一人一人がそのような力を持っているわけではない。

 少年のように軍隊を相手に出来るほどの力を持った者は、学園都市に住まう230万人の生徒達のうちの、たったの7人。
 超能力者(レベル5)と呼ばれる人間達だけである。

 そして少年もまた、その超能力者の一人。名を垣根帝督という。

「でもまあ、どうでもイイよな。そんな事」

 レベル5の中でも頂点から二番目に位置する、すなわち学園都市の中で第二位の実力を持つ能力者である
『未元物質(ダークマター)』は、自身の身の振り方をどうでもいいと斬って捨てた。

 垣根は外に出るに当たって、やたらと騒がしい警備システムを黙らせ、
 静かな時間を取り戻せたことを確認すると、研究所(ねぐら)を抜け出して夜空を見上げる。

 科学に染まり、技術で埋め尽くされたこの街は、東京のように高層ビルが立ち並んでいるというのに、やたらめったら綺麗な夜空だった。

 いつもはよじれた金網の隙間をすり抜けるように研究所から抜け出していた垣根だったが、
 今回はその限りではない。
堂々と超能力を発揮して、背中に翼を生やして飛び越えた。

 そうしてアスファルトの道を駆け抜けていく。
 いつもの日常、それに別れを告げる為に。そんな日常と決別する為に。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-36冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1328256460/
995 : 埋め立てがてら短編テスト[sage] - 2012/04/21 00:55:10.71 VuOAfO6mo 2/7




 出会いのきっかけは、別になんでもない。
 頭を抱えて思い出す事に労力を強いるほどに、どうでもいい出来事で少女と垣根は出会った。

 しかしそれでも、何故かその少女と意気投合した垣根は、名前も知らない少女に会うために、度々研究所を抜け出していた。

 何故だろうか、垣根はそれを運命のように感じていた。
 ちょっと力を入れればすぐに千切れそうな、そんなか細い糸ではあったが、きっと自分たちは糸で繋がっていると。
 だがしかし、垣根も、恐らくは少女も知っている。それは愛や幸せなどではない事を。

 それが垣根にとっての日常。決別すべき日常。
 本来交わるべきでない、光と影が、そこでは交わっていた。

 だが、垣根は今宵完全に闇に染まった。こうなっては光を浴びる事すら許されない、じめじめとした陰気な暗闇の中で生きていかねばならない。
 そんな中で、か弱い光がちらついたところで、すぐに広大な闇に食いつぶされるだろう。

 故に垣根は自分とその少女との間に境界線を引きに行くのである。

 いつもの場所、いつも少女と待ち合わせている秘密の隠れ家。
 そこに垣根がたどり着くと、吹き抜けるビル風が突如としてなりを潜めた。

 扉を開くと、少女が笑顔を浮かべながら出迎える。
 静かな路地裏の中に、少女と垣根の呼吸の音だけが夜の闇の中に小さく響き渡った。

 いつもと変わらない笑顔で垣根を迎え入れた少女を見て、突如として垣根の脳裏に、まるで走馬灯のように日々の記憶の欠片が駆け巡った。

996 : 埋め立てがてら短編テスト[sage] - 2012/04/21 00:55:48.53 VuOAfO6mo 3/7





 研究所を抜け出すのは、いつも夜だった。
 何となく、スパイ映画の主人公にでもなった気分になれるから。
 それが詰まらなく色あせた研究所生活に、色を与えてくれるから。

 そうして隠れ家へと向かう垣根は少女と落ち合い、あるときは下らない話で盛り上がり、あるときは夜の街を駆け巡った。
 まるで子供のように、楽しそうに。失った時間を取り戻すかのように。忘れた時間を思い出すかのように。

 不意に目が合うと、互いに笑いあい、そしてその度に垣根は祈りをささげた。
 どうか、この共犯者との逃走劇がいつまでも続きますように、と。

 神など居ない事はとうの昔に承知済みだ。

 だから、この祈りが届かない事も理解している。
 それでも、祈らずにはいられない。どうか、駆ける俺達を止めないでくれ、と。
 遠く光る明かりの方へ、闇から這い上がりたいという願望と共に、垣根は駆けていく。




 いつもは笑って返答するのに、一体どうしたんだろう。
 そんな疑問の表情を浮かべた少女の手を引き、垣根は隠れ家を飛び出した。

 隠れ家からしばらく歩いたところにある、誰も居ないビル。その壁には落書きが残っていた。

 少女と垣根が残した秘密の暗号。
 次はいつ会おうか、そんな事を書き記した、ちょっと頭を捻れば解けるような簡単な暗号である。

 いつの間にか壊れていた時計を見やると、永遠に自由を与えられたように感じてしまう。

 だが、垣根に残された時間は、もう少ない。
 壁の落書きを懐かしむように手でなぞった垣根は、思わず少女を巻き込んでゴロリと地べたへと転がった。
 少女は、抵抗もなく垣根を受け入れる。

 背中に感じるコンクリートの冷たさの感じと対比するかのように、唇は暖かい。
 少女の体温を肌に感じながら、甘くて苦いその舌を、もう一度。

 一瞬、垣根の脳裏によぎったのは、この少女と共に過ごす、バラ色のように幸せな未来予想図。
 すると不意に、西の夜空に光る稲妻に意識を呼び起こされ、垣根は気がついた。

 そんな事はあるはずがない。既に垣根は闇色に染まっているのだから。
 そんな穢れた人間が、光の中で生きていくなど、考えられない。
 そんな事を望んだところで、叶うはずもないだろう。

997 : 埋め立てがてら短編テスト[sage] - 2012/04/21 00:56:18.89 VuOAfO6mo 4/7


 だから、ここでお別れだ。
 ポツリと一言言い残して、垣根はユラリと立ち上がった。

 光と影に境界線を引く。月の光に照らされる少女と対照的に、垣根は夜の帳に沈んだままだ。
 いつもはここで少女の手を引き、無人と化した学園都市を駆け回るのだが、今日だけはその限りではなかった。

「ちょっと、押し倒しておいてどこに行く気?」

 少女がムスッとした様子で起き上がるが、垣根は気にした様子もなく踵を返した。

「ひょっとして、あなたが研究所を1つ潰しちゃったって話かしら?」

 続く言葉に垣根はビクリと肩を揺らして立ち止まる。
 振り返ると、してやったりといった様子で口角を上げている少女の姿があった。

「……お前、どうしてその事を」

「今日付けであなた、私と同じ暗部組織に落ちてもらうから、かな?
 といっても、私も今日付けなんだけどね」

 月夜の光を一心に受け、少女はどこか幻想的な雰囲気で笑う。
 あっけにとられていた垣根は、未だに状況がつかめていない様子で首をポカンとしていた。
 そんな垣根の耳元にそっと近寄る少女は、悪魔のような提案をささやく。

「一緒にこの学園都市を、ぶっ壊さない?」

 しかしその提案は、まるで天啓のように垣根には聞こえた。

 親に捨てられ、研究者に弄られ、壊れるまで使い潰される消費道具のような人生だ。
 それなら自分が先に壊れるか、世界が先に壊れるか、競争するのも悪くない。

 どういう経緯を経て少女が暗部に落ちてきたのかは知らないが、そんな事は最早些事に過ぎないだろう。
 気がつけば、一も二もなく頷いていた。

「……良いぜ、どうせ暇つぶしみてぇな人生だったんだ、行くとこまで行ってやるよ」

「あら、だったら私のことも暇つぶしの一環だったの? 私悲しい……」

「う、うるせぇ! ただの比喩表現だろうが! べ、別にそんなつもりで言ったんじゃ……」

 よよよ、と泣き崩れる少女を見て、垣根は慌てた様子で訂正をかけたが、
 少女の目には涙など全く浮かんでおらず、だまされたのだと気づいて不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「ふふ、そんな事分かってるわよ。それじゃ、戻りましょ。私達の隠れ家に」

「チッ……まぁいい。戻るか」

 だがしかし少女の微笑を見ていると、そんな些細な事はどうでもよくなっていた。
 今から駆ける道は、とうてい許されるものではないし、道の終わりには破滅しか待っていないかもしれない。

 だがしかし、そんな常識は『未元物質』を持つ垣根には通用しない。
 そんなふざけた運命(さだめ)は、ぶち壊してやる。だから今は大人しく待っていろ。

 あいも変わらずやたらと綺麗な夜空をにらみつけ、垣根は少女を伴って隠れ家へと駆けていく。

998 : 埋め立てがてら短編テスト[sage] - 2012/04/21 00:56:46.41 VuOAfO6mo 5/7



「……ねぇ、ちょっと、ねぇってば!」

「……あ?」

 ゆさゆさと揺さぶられる感覚に目を覚ました垣根は、辺りを見回した。
 そこにはいつもの隠れ家の室内と、不機嫌そうに頬を膨らませているドレスの少女の姿がある。

「もう、いくら声かけても起きないんだから。どんな夢を見てたんだか。
 起きたくないほど、幸せな夢だったんでしょうね」

「……まぁ、そんなとこだな」

 ジトッとにらみつけているドレスの少女は、あの時と比べて少し大人びている。
 あれから2、3年ほど経っただろうか、全く成長期というのは斯くも早いものなのかと垣根は内心舌を巻いた。

 さて、ドレスの少女がこんなにも垣根の目覚めを促していたのは、
 どうやら任務の通達があったらしく、割と時間に限りがあるのだそうだ。
 だというのに呑気に眠りこけていた垣根に対して、ドレスの少女は優しげな声色で皮肉を口にした。

「全く、そんな事でスクールのリーダーが務まるのかしら」

「はっ、務まってっからこうして生き延びてきてんだろ」

「ふふ、それもそうね」

 寝癖を直すように頭をかきながら、ベッド代わりにしていたソファーから立ち上がった垣根は、不敵な笑みを浮かべて返答した。
 そんな自信に満ち溢れた目を見たドレスの少女も、同じく楽しそうにころころと笑う。

 あの時と全く変わらない。

 垣根と少女は今日もまた夜の街を駆ける。
 いつものように、垣根は祈った。どうか、俺達の邪魔をするな、と。

 だけど祈りは届かなくていい。
 他力本願で得たものなど、無意味に等しいから。
 だから自分で手繰り寄せてやるんだ。

 遠く光る明かりの方へ、そんな決意と共に、垣根と少女は駆けていく。


999 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2012/04/21 00:58:03.62 VuOAfO6mo 6/7

どうも、お粗末さまでした。
スピッツの夜を駆けるって歌に合わせた感じの短編。
衝動的に書いたもんだからなんか気恥ずかしい。

そして何より、後1レス分あればぴったりだったのに。

1000 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2012/04/21 01:00:23.48 VuOAfO6mo 7/7

それでは、失礼します。