23 : ちょっとだけ浜面×麦野[] - 2012/04/22 04:34:51.39 Opfxxu8po 1/11

ぐつぐつぐつ。
目の前で芳しい匂いを放つ鍋は、どう見ても早く私を食べてと誘っているに違いない。

特売で買ったエビ。
特売で買った玉ねぎ。
特売で買ったニンジン。
特売で買ったジャガイモ。
特売で買った魚介類とetc。

確かに、特売の安物で構成された安物かもしれない。

しかし、一寸の虫にも五分の魂とはよく言ったもので、
鍋の中で食される事を今か今かと待ちわびるように香ばしい匂いを放つカレーは、
どう考えても不味いはずがないだろう。

「……良し、これは美味いな。出来れば酒もほしいとこだけど」

浜面仕上は、完成間近のカレーを見て、満足そうにうなずいた。

だが、先日街中で出くわした黄泉川に捕まったせいで(悪いことは何にもしていない)、
部屋の中には酒の類は置かれていない。

どういうことかというと、なんと恐ろしいことに、浜面が酔いつぶれた後に
黄泉川が酒飲み仲間を集めたそうで、彼の住まう部屋の酒を全て飲みつくしたそうだ。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-37冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1334385245/
24 : ちょっとだけ浜面×麦野[] - 2012/04/22 04:35:51.17 Opfxxu8po 2/11

翌日頭痛にうなされながら目を覚ました浜面を待っていたのは、べろんべろんに酔った黄泉川らであり、
苦労して手に入れたビンテージ物も、そこらに売ってるような安酒も、
何もかもが空き瓶ないしは空き缶となり果てて浜面の部屋の中に転がっていた。

あのときの絶望たるや、計り知れないものになっている。
こんなにも酒を失うことが辛いのなら、最初から酒などいらぬ。
そう誓った浜面は図らずも禁酒を始めていた。

というのは嘘で、ただ単に失った酒を買い戻す事をすっかり忘れていただけだ。

その事実を思い出した浜面は、げんなりとしながら空っぽになった戸棚を見やる。

―――あそこに、ホントは一杯酒置いてたんだけどな。

酒飲みながら料理するというのが男の料理方法だと信じてやまない浜面にとって、
手持ち無沙汰なまま料理を続けるのは少し寂しいものがある。

兎にも角にも、もう少しで完成だ。そしたら米が炊けるのを待って晩飯と洒落込もう。
そう考えていた矢先に携帯電話が音を立てて自己主張を始めた。

25 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:37:44.18 Opfxxu8po 3/11

誰だこんな時に、と浜面は乱暴に携帯を開くと、
そこに表示されていた文字を見て思わずウッと息を呑んだ。

何度か深呼吸をした後、ゆっくりと通話ボタンを押す。

「……よ、よう。麦野、どうしたんだ?」

麦野沈利。学園都市が誇るレベル5。
傍若無人な女王様が、一体何のようなのか。

いや、麦野からの連絡は大抵パシリ的な役割を押し付ける為のものであり、
恐らくこれから命じられるであろう内容も多分パシリだ。

全くこれから晩御飯だってのにカレーは一晩お預けかと、暗澹たる面持ちで電話の先の主に尋ねた。

「いつもの隠れ家に来なさい」

「りょーかい」

異論はどうせ認められない。
あきらめて麦野の下へと赴くか。

IHヒーターのつまみをひねって加熱をとめた浜面は、名残惜しそうに鍋に蓋をして、部屋を後にした。

26 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:38:30.74 Opfxxu8po 4/11

・・・

アイテムが隠れ家として使用しているマンション。
その一室に辿り着いた浜面は、よくよく考えたらカレーは寝かせた方がコクが出て美味いじゃないかと、
どんよりした気分からいくらか立ち直ったところで合鍵をドアノブに差し込んだ。

しかし鍵は開いていたようで、扉を開け放つと盛大な爆発音と麦野と思しき叫び声が響き渡った。

その音と声を聞いた浜面は思わず土足のままで、音が聞こえた部屋へと向かう。
声を荒げて麦野の安否を確認した浜面の視線の先には。

「麦野!?」

キッチン。

焦げた何か。

浜面の様子に眉をひそめている麦野。

「……あぁ、おせーぞ、はぁーまづらぁー……」

力なくうなだれる麦野を見た浜面は、内心こいつ誰だと突っ込みを入れた。

見たところ、誰かの襲撃を受けたとかそんなあれではないらしく、
安心しつつもキッチン周りを見て回ると、どうやら何か料理に失敗したらしい。

というか、普段鮭弁ばっか買ってきて食ってる麦野に家事スキルなんてあったのかと驚きを示したが、
よく考えたら失敗してるのでやっぱり家事スキルはないのだろうと自己完結した。

27 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:39:25.17 Opfxxu8po 5/11

「で、こりゃ一体何の騒ぎなんだよ?」

「いや、なんつーかさ……今まで暗部の任務やらなにやらで、ろくな飯も食ってなかったし……」

なにやら言いよどんでいる麦野を見て、そもそもちゃんとした飯を食ってなかったのは自分の栄養管理の仕方がずさんなだけじゃ、
と、言おうとしたがそんなこといったら昇天させられること間違いなしなので何も言わず麦野の言葉を待つ。

「それで、料理でも作って浜面に毒見させようかと思ってさぁ」

「おい、失敗前提かよ」

毒見とか言っちゃうあたり、むしろ失敗料理だけを食わせるつもりなんじゃねえかと
勘ぐってしまうほど、麦野の言葉には悪意しか感じられなかった。

「ま、見ての通りどう見ても失敗してるんだけどね……食べる?」

「この炭みたいなのをか? 最早原型留めてねぇっての……」

「だよね……」

ショボンしている麦野から察するに、割とガチでがんばって料理した結果がこれなのだろうか。

そう考えると、先ほど麦野の料理を酷評した自分は結構酷い奴かもしれない。
浜面は、多分焼き魚であろうそれを箸でつかむと、頭からバリバリと音を立てて咀嚼した。

28 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:40:32.22 Opfxxu8po 6/11

突然の出来事にポカンとしている麦野を尻目に、
しばらくの間黒い塊を噛み砕く作業に集中し、半分ほど食べたところで一度箸を置いた。

口に入れた分を全て飲み込んだところで再び口を開く。

「これはあれだな、焼きすぎだな」

「……んなもん、見りゃ分かるっつーの。つーかなんだよそりゃ、私への当て付けか何かか?」

麦野は浜面に対して不満そうに目を細める。
しかし、そんな視線を意に介さずに浜面は続けた。

「ったく、焼き方がなってねーよ。
 焼き魚は水分とか旨味をにがさねーように、強火で一気に焼き上げるもんだろ。
 ただ、強すぎてもそれはそれで焦がしちまうから、焼き魚は難しいんだ。
 魚を調理してえってんなら、まずは焼くより煮る方から慣れてった方が良いんじゃねえか?
 鮭を使いたいってんならシチューとかもあるしよ」

「……」

一気に捲くし立てた浜面に、麦野は思わず目をパチクリとさせた。
まさかあの浜面がこんなにも料理に詳しいなどと、思いもよらなかったらしく、
状況を把握するのに数秒を要した。戦場では命取りになる数秒だ。

それほどまでに狼狽する麦野を見ることが出来るとはと、
浜面は得意げにしながら焦げた鮭(多分)を食べつくした。

29 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:41:25.69 Opfxxu8po 7/11

「ん、ごっそさん。今後の成長に期待ってとこかな」

「……んだよ、偉そうにしやがって、浜面の癖に」

「食った側がどう批評しようとそいつの勝手だろ?」

「だ、だったら私にもお前の料理食わせてみろよ!! そうじゃねえと不公平だろうが!?」

しかし、苦し紛れの麦野の反論は、食べるのが待ち遠しいほどに
自信たっぷりなシーフードカレーを先ほどまで作っていた浜面にとっての禁句だ。

突如として黙り込み、不適に笑う浜面の顔を見て思わず後ずさりする麦野に対して、ゆっくりと口を開いた。

「くっくっく……その言葉を俺に向けるとはな……
 良いぜ、だったら俺んちに来いよ麦野、そんな包丁捨ててかかって来い!!
 本物のカレーってもんを、食わせてやる!! ふはははは!!」

「な!? は、放しやがれ!!」

割と力持ちだと自負している麦野をもってしても、
万力のような力で腕を引く浜面を振りほどくことが出来ず、為す術なく引っ張られていった。

しかし、能力を行使してまでこの手を振りほどこうとは思わない麦野であった。

30 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:42:19.31 Opfxxu8po 8/11

・・・

しばらく歩いたところで、道端にコンビニを見つけた浜面は、
麦野に断りを入れてその店内へと駆け込んでいった。

一体なんなんだといった様子でガードレールをベンチ代わりに腰掛けていたところ、
コンビニ袋を携えてすぐに戻ってきた浜面に、麦野は顔をしかめる。

「はーまづらぁ、まさか私に酒飲ませようってんじゃねーだろうな?」

「ちげーよ! こいつはただの趣味だっつーの! 丁度切らしてたからな」

それじゃ、行くぞ。
そういって当たり前のように手を引く浜面に、麦野は何も言わず従った。

更にもうしばらくその状態を保っていると、ようやく浜面の住まうアパートに到着したらしく、
その外装はそこらへんにある学生寮のような建物だ。

対するアイテムの"隠れ家"はこのアパートの数倍の高さに位置している。
これが格差社会か。そんなことをどうでもよさげに考えながら、
麦野は無抵抗なまま浜面の部屋へと吸い込まれていった。

まずはじめに感じたのは、カレーの匂いだ。
どうやら浜面の言ったことは本当らしく、やたらと食欲が沸いてくるようなその香りは、間違いなくシーフード。
鮭が入っているかは分からないが、魚介類は割りと好きな部類なので実に楽しみである。

そんな心なしかわくわくしている麦野の様子を察したのか、
浜面は、すぐにカレーを温めなおすと言って食器の用意を始めた。

31 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:43:02.10 Opfxxu8po 9/11

「ま、麦野はそこのテーブルんとこで待っててくれ。
 元々三日分くらい作ってたからな、二人分くらいなら全く問題ねえ」

「ふん、不味かったら承知しねえからな」

「はっはっは、愚問を」

恐らくは美味しいのだろう。
しかし、期待感を露にしてはリーダーとしての威厳が、とか考えたのか、
麦野は憮然とした態度で告げるが、自信満々な様子で背を向けたまま返答した。

そんな浜面の背中を見ながら、麦野はぼんやりと考える。

あの背中は、滝壺のもんだ。

お似合いのカップルだろう。容姿としては美女と野獣だが。
しかし浜面は滝壺をつれて、学園都市を飛び出し、ロシアに向かい、あらゆる敵を蹴散らして、再び学園都市へと舞い戻った。
そんな二人の絆は固く、とてもじゃないが自分のような人間が入る隙間などない。

いや、そもそもそんなことを考える権利すらないだろう。

次第に暗澹たる面持ちへと変貌を遂げていく麦野は、そんなマイナス思考を止めることが出来ずにいた。
熱くて、濁っていて、それでいてドロドロとした感情が、麦野の中を渦巻いていく。

32 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:43:52.81 Opfxxu8po 10/11

「よーし、出来たぞー」

すると、浜面が呑気な顔して器を二つ持ってきたことで、思考が途切れた。
テーブルの上には、カレーの入った二つの器。

それを見て、浜面の顔を見て。
どうやら食えということだろう。浜面は麦野がスプーンを口に含むことを待っているようだ。

ゴクリと息を呑み、しばらくの間硬直していた麦野はついに意を決したのか、
手を合わせていただきますと言った後、スプーンでカレーをすくった。

そしてそのまま口の中へとカレーを放り込む。

「どうだ、うめーだろ! こいつは最近作った中でも自信作だ!!」

「……ムカつくけど、美味い」

ニコニコとカレーの感想を求める浜面を内心鬱陶しく感じながらも、
事実美味しいカレーを不味いと言う気にはならず、渋々といった様子で肯定した。

とはいえ、一見そこいらに居そうな不良の癖してこんなに料理が美味いとか聞いてない。
どこか釈然としない面持ちでカレーとご飯を乗せたスプーンを口へと運ぶ。何度食べても美味い。

「大体、チンピラ面してる癖してお嬢様な見た目の私より料理が上手っておかしいだろーが!!」

「何その理不尽なキレ方!? つーかこちとら一人暮らしが長かったから当然のスキルだっての!!」

「うるせぇ!! あぁ美味ぇよ畜生が!! 今度私に料理教えろ下さい!!」

「すげえ上から目線で頼んできたな!? 別にいいけどよ、そのくらい」

「当たり前よ。これはリーダー権限での命令だから、断るのは不可能だっての」

堰が切れたようにカレーを食べる麦野。それを見て浜面は満足げに笑った。

そうだ、別に浜面の背中なんて要らない。ただ、少しでも隣に居られれば。

麦野もまた満足げに笑って、ご馳走様でしたと手を合わせた。

33 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2012/04/22 04:44:37.45 Opfxxu8po 11/11

お粗末さまでした。
浜面が実は家事得意っていう捏造設定。

禁書は新約に入ってから読んでないからそのうち読みたい。