986 : 一方通行「来世不動産ねェ」[sage] - 2012/10/13 13:07:41.47 Vptc2rnKo 1/108レスほどお借りしますね。
ネタはこの間の世にも奇妙な物語であった来世不動産のパロです。
遥か彼方に見える地平線。
それだけでここが学園都市ではないことは容易に想像がついた。
近代的な建物を詰め込んだあの囲いの中で、
空と陸の境など目にすることはまずいない。
「いや、無いこともねェな――」
どこだかの科学者が自然の無い生活は精神の健康を害し、
能力開発にも悪影響を及ぼすのではないか?という説をあげていたのを思い出す。
その対策として自身が担当する学生には、
自然に触れさせながら心にゆとりをもたせた能力開発を行なっていると。
ただ、それが仮想現実空間上に作り出した味も素っ気もない嘘っぱちな大自然というのが科学者らしい。
だが少なくとも今自分がいる場所はそんなものではなかった。
科学の範疇で説明できるものであれば、
学園都市の粋を結集した最新の仮想現実空間だろうが、
超能力者級の能力によるものだろうがとっくに抜けだして首謀者をボロ雑巾に変えている。
それができないことこそここが現実であることの証明だった。
驕りでもなんでもない。
180万の能力者の頂点に君臨する一方通行にとっては、
証明などそれで十分すぎるものだった。
「とりあえず――、ここに入るしかねェか」
視線を地平線から手前に戻す。
見渡す限りの草原の中に唯一存在する建造物。
木造の小さな家。
「来世不動産」
扉にかかれた文字をそのまま読み上げる。
確かに、窓から覗く中の様子は何かの見せのようだし、
よく見えないが物件紹介のような張り紙も確認できた。
それにしても不動産はいいとして、来世?
そんなことを考えながら一方通行は扉を開く。
「いらっしゃーい」
カランカラーンと、
扉に取り付けられたベルが小気味のいい音を鳴らす。
それと同時にカウンターの中にいた長い黒髪の少女が、
すでに作られていた営業スマイルをこちらに向けて出迎えてくれた。
「悪いが俺は客じゃねェ。ここがどこだ聞きてェだけ――」
「いえいえ、あなたは立派なうちのお客様ですよ?」
「あァ?」
話を途中で遮られた上に訳の分からないことを言われ瞬時に不機嫌な声を返す。
お客?なに言ってンだこいつは。
押し売り?不動産の?どンなダイナミックな押し売りだそりゃ。
そもそも見た限り中学高校生くらいのガキがなンで店なンて――。
そんな思考を巡らせながら店の中を見回す。
が、壁に貼り付けられた物件紹介の紙が目に入った瞬間に一方通行の視線も思考も停止せざるを得なかった。
「おい」
「はい?」
「ここは何屋だ?」
「来世不動産です!」
「そうか不動産か……それじゃァそこに張ってある動物やらなにやらが書いてある紙はなンだ?」
「当店自慢の物件になります!」
「……あァそうか、来世不動産って名前のペットショッ――」
「いえいえ、うちは立派な不動産屋さんですよ!」
「……時間をやるから俺に分かるよォに説明しろ」
「もちろん!お客様に理解いただいた上で商品をお勧めするのが商売人の義務ですから!」
「――という訳です。ご理解いただけましたか?」
「あァ……、信じたくねェがな」
店員の佐天涙子の話をまとめると、大前提としてまず自分が死んでしまったことを告げられた。
死因は……話したくもない。
そしてここは来世不動産。
死んでしまった者が辿り着く場所で、
来世生まれ変わるものをここで決めてみな転生していくらしい。
つまり、壁に貼り付けられた物件紹介はその転生後の新しい体ということだ。
そんな馬鹿な話信じたくはなかったが、
今まさに物件紹介に載っていたゴマフアザラシを下見をして帰ってきた身としては信じざるを得ない。
「それで、普段ですとまずお客様の現在のポイントに着いて説明するんですが端折りますね?」
「そンなな大事そうな話端折るンじゃねェよ……、つーかポイントってなンだ?」
「あー、ポイントの説明してませんでしたっけ?お客様の生前の善行、悪事によってポイントが振り分けられるんです」
「そういうシステムになってンのか」
「はい!それで端折る理由としては……たぶんお客様の場合ポイントの詳細聞いても楽しくないですよ?」
「はァ?なンで?」
「えっとですね、ちょっとまてください……、はい!今出ている画面に数字と項目が乗ってますね?これがお客様のしてきたこととその回数です」
「あァ、分かった。説明しなくていい。10031とか見えたからいい。なンか一気にテンション下がってきたからもォいい……」
「それじゃぁ、物件の紹介にいきますね?」
「……おォ」
「そうですね。まず物件おすすめするにあたって何か希望とかあります?大きい動物がいいとか」
「そォだな……、言いたかねェが俺は体が華奢で弱かったからな。来世はもう少し逞しいほうがいいな」
「逞しいですか……、他には?」
「強すぎる能力のせいで孤独なことが多かったから周りは多い方がいい、あとは学園都市に縛られるようなことがねェ自由な生活がしてェ」
「はいはい。結構そういう希望口に出さない方かと思いましたけどそうでもないですね?」
「来世を決める大事なときに変なこと気にしてられねェだろ」
「あははは、確かに。そういう切り替えがうまくできないで物件選び失敗する人いますから。……えっと、ご希望に合致する物件としてこちらはどうでしょう?」
「どれど……ゾウムシ?」
「体表が硬くて頑丈な外骨格に覆われているので逞しいですし」
「それだけだったらクワガタとかのほうがまだいいわ」
「しかも、日本だけでその種1000種以上!全世界なら約6万種という大きなグループに属しているので孤独じゃありません」
「いや、周りが多いってそういうことじゃねェよ」
「さらに、ゾウムシは土壌中に卵を産み落として、生まれた幼虫は自由生活をするのですごく自由な幼少時代を送れますよ?」
「いや、ねぇわ。パスで」
「そうですか。いきなり即決来るかと思ったんですが……」
「頭にゾウムシ湧いてるンじゃないですかァ?」
「そうですね……、他には何かリクエストあります?」
「虫じゃなくてせめて哺乳類になりてェ」
「哺乳類ですか。肉食と草食ならどっちが好みです?」
「争いごとは前世で腹いっぱいだ。ゆっくり過ごせる草食のほうがいい」
「草食……っと。出ました。カバとかどうです?」
「カバ?なンか獰猛とか聞いたことあンぞ?」
「それは縄張りに入ってきた動物や子供を襲う動物に対してですよ」
「そうなのか?」
「えぇ。そうですね。カバがどれくらい温厚かというと、ライオンに抵抗するでもなくのんびり捕食されるくらいには温厚です」
「いや、俺は底までのんびりしたのは望ンでねェわ……」
「ダメですかー。まぁ時間はいくらでもありますからゆっくり選んで下さい」
「ところでよォ」
「はい?なんですか?」
「俺のポイントってどれくらいあるンだ?」
「えーっとですね。お客様のポイントは6000ポイントですね」
「……基準がわからねェ。少ないのか?」
「めちゃくちゃ少ないですね。普通の人は平均で10万ポイントくらいは持ってますから」
「じゅっ!?え!?」
「ちなみにさっきおすすめしたカバがお客様のポイントで帰る最良商品です」
「……聞いてねェ」
「言ってませんから」
そういう佐天の顔は今日一番いい笑顔だった。
一方通行は感覚で知っている。
これは小さい頃からよく見てきた笑顔だ。
客に向けてする笑顔じゃない。
悪党がする――、裏のある笑顔っていうのはいつもこういう物なのだ。
「――で?何が目的だ?」
「目的だなんて、お客様にそんな恐れ多い」
そう言いながらも顔には悪そうな笑顔が張り付いたままだった。
その笑顔のまま、ただですねー。と佐天は続ける。
「特別処置ってのがありまして」
「特別処置?」
「えぇ。まぁ、簡単にい言っちゃえば『ポイントがねぇ!?だったら兄ちゃん体で払っていきな!!』ってやつなんですけどね?」
「体で……」
「あぁ、別にえっちぃのじゃないですから期待しないでくださいね?」
「してねェよ……つまりあれか?ここで――」
「はい、私のお手伝いをしてお小遣い稼ぎなんていかがですか、お客さ――、いえ、一方通行さん?」
「金のねェやつは客でもねェってか」
「世の中そういうもんですよ?今あるポイントで満足するなら、すぐにでもお客様にもどれますけど?」
「あいにく俺は妥協は嫌いなンでなァ?」
「それじゃぁ?」
「交渉成立だ、佐天先輩よォ」
ここは来世不動産。
死者に次の道を指し示すための不動産屋さんだ。
皆さんが大切なお客様。
すべてのお客様に満足の行く物件を――
995 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga] - 2012/10/13 13:13:02.12 Vptc2rnKo 10/10以上です。
来世不動産の話が面白かったから勢いでやった後悔はしていない。