139 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:22:09.42 RaFFNJ840 1/8

以下6レス程お借りします

>>67-70,>>89-96,>>114-121と同設定の話
性懲りもなく続いてきましたがこれで最後です

今回は後日談的な話
時系列は大まかに 一方編→御坂編→上条編→後日談 となります

誰も救われない話

未来を手にした話
 
関連
「実験を止める為の方法が実は前提から間違っていたら」というIF話
「実験を止める為の方法が実は前提から間違っていたら」というIF話 御坂編
「実験を止める為の方法が実は前提から間違っていたら」というIF話 一方通行編

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-38冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350107497/
140 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:22:59.65 RaFFNJ840 2/8

天井亜雄が部屋に戻ると、自分の席である筈の場所に一人の人影があった

「……、芳川か?」

「あら、おかえりなさい」

「人の部屋で何をしている……」

見覚えの有り過ぎる後姿に名前を呼べば、慌てる素振りもなく振り返るのは白衣の女性

同僚である芳川桔梗だった

「身体検査の日取りはまだ決まらないみたいね」

「……ああ。設備を整えるのに手間が掛かっているようだな」

「それはしょうがないわね」

先日、絶対能力進化計画は全ての過程を終えた

一方通行がどれほどの領域に到達しているのかはこれから測定をした上で判断されるのだ

少しばかり気が焦れるのは仕方の無いことだろう

しかも途中でイレギュラーがあったにも拘らず、寧ろ当初の予定より進行は早かった

「樹形図の設計者の演算は間違いない。……強いて不安要素を上げるとすれば例の第10032次実験だけだが」

無能力者の少年との戦闘で一方通行が大幅に能力を向上させたのは見て判る程に顕著だった

能力の応用の幅を大きく広げた、という方が正しい表現だろうか

「計画外の戦闘は予測演算に誤差を生じさせる可能性は事前に示されていたからな」

「……そう言えば、本来に懸念されていた第三位との戦闘は結局問題にならなかったわね」

「超電磁砲か。どうやら自分が一手目で死ぬ事で実験を止めようとしたらしいな」

無駄な事を、と天井が呟く

乾いた声はそれでも僅かながら哀れみを含んでいた

「前提として示された手数は超電磁砲に有利な条件下で尚且つ逃げに徹した場合を想定したものだ」

「真っ向から戦いを挑めば、どちらが先手を取るにせよ一手目で終わる事など明白だろうに」

独白に近い口調だが、聞いていた芳川は頷く

「それすら気付けないほど切羽詰っていたのでしょうね」

「大体、命を捨ててでも助けようとする時点で理解出来んがな。たかが劣化模造品相手に」

「……そうね」

普段から余り感情の色を見せない芳川が、珍しく僅かに言い淀む

声も口調も淡々としたままだったため周りにはわからない程度だったが
 

141 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:24:00.85 RaFFNJ840 3/8

「――ところで、話の腰を折って悪いのだけれど。天井博士?」

「? 何だ?」

急に口調を切り替えて掛けられた声に天井が訝しむように眉を顰める

芳川は机の角に軽く腰掛けていた

手にしているのはクリップで留められた紙の束だ

ちらりと紙面に眼を落とし、それを天井に向かって掲げてみせる

「妹達と一方通行の戦闘データ20000通り+α。……こんなレポート、今更どうするのかしら?」

絶対能力進化計画の報告書は既に上へ提出済みだった

芳川が手にしているのはそれとは別に作られたらしい、特に一方通行に関するデータを詳細に纏めた物だ

少しだけ思案を巡らせた天井だが、隠しておく必要も無いと判断したのかあっさりと口を開く

「木原数多という研究者を知っているか?」

「木原……ええ、一方通行の開発者ね」

「実験や研究に一方通行を関わらせる場合、課せられている絶対条件が一つある」

芳川の返答に軽く頷く事で肯定し、天井はレポートを指し示す

「ジャンルや内容に関わらず、詳細なデータを提出する事になっているんだ」

その手で起動しっ放しのPCに差し込んであるメモリーチップを抜き出す

「一応の提出先は上という事になっているが、最終的には全て木原数多の元へ届くのだそうだ」

「そう。また開発を手掛けるつもりなのかしら?」

「さあな。そこまでは私にも判らんし、知る気も無い」

チップを専用のケースに収め、芳川にレポートを返すようにと手を差し出す

渡された紙の束を封筒に入れながら、疲れたような溜息を一つ

「一方通行が木原数多の手元を離れたのは何年も前だが、情報は全て把握しているという事だろう」

気の無い口調だった

そもそもは妹達関連の研究が主体である天井にしてみれば、その辺りに余り関心は無い

一方通行とは量産型能力者計画が頓挫した折に拾われた先で偶然関わっただけだ

勿論超能力者第一位に対する研究者として興味自体はあるのだが、基本的に門外漢なのだ

それとは別に、木原姓を冠した研究者と深く関わりたくないという思惑も少なくはない

天井が身を置く場所も日の当たる立場とは決して言えない

だが彼らは手掛ける研究の方向性も孕む闇の濃度も全く異なるのだ

下手に関わって片足でも踏み込んでしまう可能性を易々と甘受できるほど浅い領域ではなかった

「――まあ、私は一方通行の研究をしている訳ではないからな」

ばっさりと切って捨て、思考を切り替える為に軽く頭を振る

これで話題は終わりだと暗に示したつもりだった
 

142 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:25:02.78 RaFFNJ840 4/8

必要な書類が全て揃った事を確認し、厳重に封緘して、使い古した鞄に放り込む

対象が超能力者第一位、しかも絶対能力進化計画関連とくれば最重要極秘情報である

当然とも言えるが扱いは面倒極まりない

後で外出のついでに専門の部署に頼むつもりだった

閉じた鞄を傍らに置くと芳川へ向き直る

話が終わっても去ろうとしないのは他にも部屋を訪ねた理由があるのだろう

察した天井が促す前に目の前に細い封筒が掲げられる

思わず注視したそれには非常に見覚えがあったが、よく見れば宛名は芳川になっている

事情を把握するには十分だった

「貴方にも通達があったでしょう?」

「勿論だ。……私に来ているのだから、お前にも届いて当然なのだな。考えるまでも無い」

「そうね。私も妹達が担当だから」

事前に一通り読んではいるのだろう、既に封は切られていた

芳川が中身を取り出し天井に向けて広げる

折り目の付いた紙面に機械的な印字が並んでいた

一瞥すれば必然的に、上部に大きめのサイズで記された七文字が目に入る

『第三次製造計画』

極秘と捺された書類には天井に届けられた物とほぼ同じ内容が書かれていた

一言で要約すれば、MNWの有用性を活用する為に新たに妹達を製造するべし、という命令である

求められているのは妹達製造の発端である戦闘用ではなく通信機構の形成に長けた個体

しかも、人間を模した形状をしている必要は無いとの注釈まで付いている

学園都市のみならず世界中に配置する為には寧ろその方が何かと都合が良いのだろう

超電磁砲の劣化複製品は既に安価で安定的に生み出す事が出来るし、必要に応じて様々なチューニングが可能だ

能力者の脳を取り出して能力を吐き出す機械を造る技術は既に他所で確立されていた

妹達の統括には唯一生存している最終信号を調製し直して流用するようにと指示が出されている

「チューニングが終了したらこれを最終信号に入力するように、だそうよ」

芳川へ届けられた通達には幾つかのデータチップが同封されていた

その内の一つを指で挟んでひらひらと弄びながら芳川が首を傾げる

「コード名『ANGEL』……どういう意味なのかしらね?」

科学の街に似つかわしく無い名称ではあった
 

143 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:26:10.45 RaFFNJ840 5/8

「デバッグ終了」

「最終信号の脳波、バイタル共に正常を確認」

「妹達もMNWも安定に稼働している」

第三次製造計画は順調に準備が整えられていた

最終信号が常時収まっているカプセルには改良した洗脳装置が付随している

複雑な命令コードであろうと強制的な初期化であろうと仕込むのは造作無い

「これで無事MNWが確立されれば貴方の将来は安泰ね」

仄かに笑みを浮かべた芳川が揶揄う口調で声を掛ける

何せ学園都市を治める統括理事長直々の命なのだから、と

その芳川も立場的にはほぼ同等なのだが、解った上で言ってのける辺りがこの同僚の性質だった

だから敢えて突っ込む事はせずに天井は一言だけ返す

「ああ、そうだな」

表面上こそ落ち着いた素振りだが、潜む高揚を隠し切れず声に滲み出ていた

実情、それ以外にも妹達を使いたいという依頼は多い

主に置き去りを使って行われる実験で最も挙げられる問題の一つが安定性である

能力の他、精神や身体能力の安定性も重要だった

個体毎の差が激しく応用が利かなかったり、暴走の危険が伴う事も侭ある

そういった問題を、妹達を使えばほぼ払拭出来るのだ

更に、構造が比較的単純な動物ではなく、より人間に近い存在を使って臨床を行えるのも魅力的だった

重宝されるのも当然といえるだろう

言うまでもなくその全てが表に出せない類の用途だが、それ故に報酬も破格だ

目下の課題は相手の要望に合わせてより詳細に正確に調整を行う為の技術を更に発展させる事か

そうなると、木原数多が取っている方法を活用するのが有効だろう

取引先に対し、妹達を使った際の詳細なデータの提供を義務付ける

それらをフィードバックさせる事で効果的に効率良く質を高められる

あとはこのサイクルを繰り返せば良い

そうして、その先に天井が目指すのは、嘗て頓挫した量産型能力者計画の再建だ

実は第三次製造計画の傍らで既に試行も始まっている

絶対能力進化計画の頃から妹達のデータを基に成長促進剤や人格設定等に幾度も改良を重ねて来た

現在一体だけ製造された試作品には上位個体からの命令を遮断する為のシートやセレクターが内蔵されている

それによる反逆を防ぐ為の対処は直接組み込んであるので安全管理に問題は無い

今は最終信号の護衛及び監視を兼ねてカプセルの傍らに配置しているそれを、天井は番外個体と呼んでいた

見た目は人間にして高校生ほど、大能力者相当の発電能力を備えている

精々が強能力者程度だった欠陥電気に比べて格段に改良されていた

計画再建は最早机上の空論には終わらないだろうと思えた

堅実に現状を鑑みて尚はっきりと断言出来る程に全てが順調だった
 

144 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:27:37.26 RaFFNJ840 6/8

「一方通行が無事に絶対能力に認定されたとして、」

ふと思いついた思考の欠片がポロリと零れ落ちる

「無闇に思い上がったり――逆に認定されなかった場合に反感を抱いたとしたら、」

無意識に声が低くなり、内容に芳川が軽く目を瞠る

「……罷り間違って反逆など起こさないだろうな……?」

口にしてぞっとした

最早止められる者などいないであろうあの化け物がもし牙を剥いたら、と

自分の言葉に盛大に眉を顰める天井とは対照的に、表情を戻した芳川が気の無い口調で返す

「それは多分、大丈夫でしょうね」

「……何故そう言い切れる。例え絶対能力に届かなかったとしても、あれほどの力なのだぞ……?」

「だからこそ、よ」

短く返す芳川の声には僅かに沈んだような響きがあった

「強過ぎる力は異端でしかない。学園都市でさえもそうならば、外では尚更でしょう?」

「……まあ、確かに。進化計画以前から既にアレは充分規格外の化け物だったが」

「強くなれば強くなるほどその力こそが逆に強固な枷にもなるわ」

ふ、と小さく息を吐いて芳川は視線を宙に流す

「だからもう一方通行は学園都市以外では生きられないでしょうね」

「敢えて首輪を付ける必要も無いという事か」

「ええ……」

あの子も可哀想に、と口の中でぽつりと落とされた言葉は天井の耳には届かない

超電磁砲も無能力者だという少年もまたそれぞれに哀れだ

資料で目にした子どもの領域をまだまだ出ない彼らの顔が思い浮かぶ

芳川は痛ましげな色を滲ませた目を僅かに眇めた

でも私は何もするつもりはないけれど、と感情の揺らぎを抑えるように自らを断じる

下手に手を出そうとしても何も変わりはしない事を知っているから

寧ろ逆に、更なる絶望を知るだけだと解っているから

例え誰かにとって僅かな慰めになるのだとしても、救いには決して届きはしない

精一杯足掻いた子ども達の様に

「余計な領域には立ち入らないのが賢明か」

声が聞こえるはずも無いのに応えるようなタイミングで天井が呟く

尤も、芳川の思考とは微妙に噛み合わない内容だったが
 

145 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:28:19.71 RaFFNJ840 7/8

「折角安寧を得られたんだ。好奇心で藪を突付いて毒蛇に咬まれるのは御免だからな」

「……ええ。そう、ね……」

振り切ったように薄く笑みを浮かべて天井が嘯く

一瞬だけ複雑な目をした芳川もややあって頷いた

根付く感情が別の物であったとしても、やる事が変らなければ所詮は同じ穴の狢だ

結局の所、そういう事だった

僅かに落ちた沈黙を裂くように、PCのスピーカーから軽快な単音が響く

外部からのメールの着信を知らせる音だ

自動でウィルスを検索し開かれたのは妹達の提供申請だった

手馴れた様子で形式的な雛形を送り返し送信の画面を確認するとぐっと背を伸ばす

第三次製造計画の正式な受諾をして以来、毎日のように複数の研究所や施設から申請が来ていた

明るい調子の息を一つ吐き、感慨深げに天井が口を開く

「第三次製造計画も、臨床実験用の妹達の製作も、全てが順調。――我々の未来は明るいな」

その声を背に聞きながら、芳川はカーテンを開けて外を眺める

ビル群の向こうには雲一つ無く、高く澄んだ青が視界を染める

空は、目が眩むほど鮮やかに晴れ渡っていた







Fin.
 

146 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] - 2012/11/11 01:29:03.39 RaFFNJ840 8/8

子供達は誰も救われない話
の裏を返せば
未来を手にした大人達の話 でした

原作では実験凍結で御坂と妹達は救われて、天井博士他関係者達は破滅
なら実験が完了すればその逆になるのではないかなと思ってこうなった

そんな訳で

上条と御坂が立てた実験を止める為の方法(仮)が実は前提から間違っていた、というIF話
これにて終幕です
御覧頂き有難うございました