222 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2013/04/29 20:08:30.77 s88h9fZQo 1/4

白垣根と一方さんで2レスほど頂きます。
白垣根のキャラが掴みきれていない感がありますが、ご容赦下さい。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-39冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363523022/
223 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2013/04/29 20:10:38.99 s88h9fZQo 2/4

「HeLa細胞はヘンリエッタ・ラックス自身か。あなたはどう思いますか?」

『垣根帝督』は一方通行にそう訊ねた。彼が結局のところ『垣根帝督』その人なのかというのかは正直はっきりしないところなのだが、そう呼ぶのが一番手っ取り早い。

「はァ?哲学か、生物学か。オマエそォいうの好きだったのか。」

「私の存在はヘンリエッタ・ラックスにおけるHeLa細胞に近いと思います。彼女の一部が彼女の意思に反して膨らんだ。ヘンリエッタ自身が死んで50年以上たった今でも、彼女の一部であるHeLa細胞は増え続けている。」

HeLa細胞とは、あるガン患者の細胞につけられた名前である。その細胞の持ち主はヘンリエッタ・ラックス。彼女は疾うの昔に亡くなっているが、彼女の体の一部であったその細胞は未だに世界中で細胞の研究に使われている。
現在の『垣根帝督』がHeLa細胞と似た存在である、という喩え話は言い得て妙である。彼は元々は垣根帝督の一部、単なる能力の発現でしかなかった。それが自身の意思を獲得し、今は垣根帝督自身のように振舞っている。一方通行はそれが実際に垣根であろうとなかろうと彼なりに『垣根帝督』を認めているので、そこについて細かく気にしたりはしなかった。

「人の体はおよそ60兆の細胞でできていると言われています。恐らくこれまでに増え、そして死んでいったHeLa細胞の数はその程度の数ではないことでしょう。HeLa細胞は元々のヘンリエッタよりも遥かに大きなものとなっています。」

「HeLa細胞はヘンリエッタ・ラックス自身か。私は垣根帝督自身か。」

「別にどっちだっていいンじゃねェの。オマエはオマエだろォが。」

一方通行は興味無さ気にそう言ってコーヒーを一口含んだ。実際に彼はそんなことには興味がない。目の前の『垣根』に興味がないというわけではない、彼が嘗ての垣根と同一だろうと何だろうと、そんなことが現在の『垣根』自身に影響するとは思っていないのだ。
しかしながら『垣根』は一方通行の素っ気ない態度にも穏やかな笑みを崩さない。

「では、質問を変えましょう。」




「あなたは半年前のあなたと同じ存在でしょうか。」




224 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2013/04/29 20:13:38.34 s88h9fZQo 3/4

一方通行はぴくりと眉を動かして、コーヒーカップを持っていた手を止めた。

「人の体の70%は水でできています。そしてその水は3週間で全て入れ替わると言われています。つまりは普通、人の体は3週間で70%は全く別のものに成り代わるわけです。」

「水以外の成分も、数年あれば完全に別物に入れ替わるそうですね。そうなったら、あなたはあなたなのでしょうか。」

恐らく人間は脳で自分を自分だと認識しているのだろう。その脳みそですら、数年の時間があれば科学的には全く別物に変わる。そして脳科学はその設問に対して未だ明確な答えを出すことができていない。瞬間的な電気信号が、永続的な『個の認識』を支えるメカニズムは今もって不明である。

「そンなことについて物理的にどォだとか、脳科学的にどォだとか議論する気はしねェな。」

「おや、意外です。」

こういう話題は他人ごとではあるまいに、と『垣根』は思ったが、口には出さなかった。
自分もだいぶ嘗ての垣根帝督とは様変わりしてしまったが、彼も大概である。平気な顔をしてクローンの少女を殺していた頃からまだ半年も経っていない。今では彼女らが擦り傷を作るのにすら渋い表情を見せる彼が、果たして嘗ての彼と本当に同一人物なのか。見る人によっては悪い冗談にしか思えないだろう。

「オマエは、以前の垣根がしたことは自分には関係ないとか言うつもりか。」

「そんなつもりはありませんが。」

「俺も同じだ。」

「あの頃の俺が今の俺と同じかどうかなンて知らねェよ。」

「ただ、責任は俺がとる。これは今の『俺』の仕事だ。」

一方通行はコーヒーを飲みきると、かちゃりと小気味のいい音を立ててソーサーの上に載せ、かと思うとさっさと席を立った。

「気分を悪くしてしまったでしょうか。」

少し不安げな表情を見せた『垣根』に対し、一方通行は否定も肯定もせずにこう言った。

「……またな。」



さっさと立ち去ってしまった第一位の影は既に人混みに紛れて見えなくなっていた。
またな、ということはこれからも自分に会うつもりがあるのだろうか。こちらをまるっきり信用しているわけでもないだろうに。でも、信頼したいとは思ってくれているのだろう。
案外と性善説めいた期待を隠し持っている第一位が羨ましく思えて―こういうところは元の垣根帝督の性か、現在の『垣根帝督』も人を信用しきれなくてどこか冷めていた―また会って話してみたいな、と思った。

225 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2013/04/29 20:17:37.48 s88h9fZQo 4/4

ふと白垣根ってがん細胞みたいだなぁと思ったんですが、自スレでは消化しにくい内容だったので投下してしまいました。
あえて分かりにくいテーマを選んでおいて、しかも消化しきれなかった感がすごいですが、ご容赦下さい。

では、失礼致します。