590 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 14:58:19.98 5JRKegHZo 1/12

>>589
反応なかったら悲しいなあって思ってた所に反応が来てたので、続きをもう少し書いてみました。
多分今回も7か8レスくらい。

※関連
とある幻想の一撃必殺
http://toaruss.blog.jp/archives/1046842585.html

>>587

「ソーメンありがとう。美味しかったんだよ!」
「そりゃどうも。あの店員も大喜びするだろうな」
 近場の公園にあるベンチに腰を掛け、まるで飲み物を飲むような勢いでソーメンをかきこんだインデックスは、上条の持っているソーメンに視線を向けながら感謝を示した。ぎゅるるる、と腹から虫の声が鳴いていなければ、きっと正しく感謝の気持ちを伝えられたはずである。
 まだまだ空腹は収まらない。そんな様子のインデックスに上条は食べかけのソーメンを差し出した。
「あー……俺の分も食べるか?」
「……ううん。もう時間だから、行かなくちゃ」
 しかし、インデックスはその手を拒んだ。
 この心優しい少年を、魔術師の世界に引き摺り込むわけには行かない。それがインデックスの本心だった。今までだって一人で逃げてきたのだ。今更助けなどいらない。相反する想いを抱え、それをひた隠しにして、表情を見られないように踵を返した。
「なあ」
「……何かな?」
 そんなインデックスを上条は引き止める。まるで、彼女の本心を正しく見通したかのように。
「お前、そんな辛そうな顔すんならよ、素直に助け求めろよ」
 その言葉が嬉しかった。だからこそ、頭がカッとなった。せっかく光の道を歩んでいるのに、わざわざこちら側に来る事はない。それを教える為の一言を、インデックスは咄嗟に言い放つ。

「それじゃあとーまは、地獄の底まで着いて来てくれる?」

 魔術の事や十万三千冊に完全記憶の事も、記憶が一年前から途絶えている事も、全てを教えた。しかし、上条は疑う事を知らず、彼女の言う事を全て受け入れた。インデックスが記憶を失ってから一年は経つが、これほど親身になって話を聞いてくれた人物を彼女は知らない。
 そんな彼だからこそ、そんな彼にこそ、助けてもらいたい。助けて欲しい。しかし、そんな彼だからこそこちら側に連れてきてはならない。
 インデックスがその意志を示すほどに、上条の意志は強固となっていく。
 救われない者こそ救われるべきなのだ。その考えを実践する為に、彼は全力で己が身体を鍛え抜き、強靭な身体と精神、そしていくら水に濡らしても形すら変わらない強力な髪の毛を手に入れた。

「じゃあさ、インデックス。お前を“こっち”まで引き上げたら良いんだな?」

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-40冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379543420/
591 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 14:59:25.08 5JRKegHZo 2/12

 念を押すように、上条は問いかける。続いて、ジロリと何処か虚空を見上げた。
 直線距離にして五十メートルはあろう場所にある、周りよりも一際高いオフィスビルの屋上に視線を向けた。

「……魔術師だったら、降りてきやがれ!!」

 不思議と通行人が居ない中で、上条は叫び声を上げた。彼の声でインデックスはようやく気がつく。
 今しがた自身の周りに“人払いの結界”が張られたのだ。魔術に造詣のない上条の方が何故それを察知できたのか。
 その疑問が解決するよりも早く、太陽を覆う影が二人の上空に一瞬だけ現れた。その瞬間に気づかなかったインデックスにとって、目の前の存在は唐突に現れたように見えただろう。
 しかし、上条には彼女がオフィスビルの屋上からこの公園まで飛んできたのだと人目で分かった。

「……ステイルが張った人払いの結界に、インデックスよりも先に気づくとは……貴方は、何者ですか?」
「さあな。誰だって良いだろ。強いて言うならアンタらの邪魔をする、敵だよ」
「そうですか。では、尋ねますが……インデックスを渡してもらえますか?」

 奇妙な服装をした日本人の女だった。ジーンズの片側だけを大胆に太ももが見えるまで切ってあり、右手には二メートルにも届こうかとばかりの長身の刀が握られている。
 素人の上条からも見て取れるほどに、鞘に納まった刀からは本物である事を示す威圧と殺意が振りまかれていた。

「断る」
 対する上条の返答は短い。女の動きをジッと睨みつけ、いつでも動けるような姿勢で腰を低く落とした。
 構えらしい構えではない。独自に編み出した動き易い体勢なのだろう。だからこそ、女にとっては次なる動きが予想できなかった。
 だが、関係ない。“聖人”たる神裂火織に、常人の策略は通じない。

「ならば、押し通るまでです」

 すると女の身体が蜃気楼のように揺らぎ、消え去った。いくら人払いの結界を察知出来たとはいえ、相手は高々一介の高校生である。
 わざわざ正面から叩き潰すまでもなく、インデックスを捕らえるだけでよい。とはいえ、インデックスの着ている“歩く境界”があるので彼女を捕らえる事こそが真に難しい事柄なのだが。
 逆説的に、上条を叩き潰して人質に取る事でインデックスを抑えようと考えて、彼女は二人の前に姿を現したのだ。

「ふっ!」

 神裂は小さく息を吐いて、鞘に入ったままの刀―七天七刀を力なく振るった。
 完全に手を抜いた一撃であり、一瞬のうちに意識を刈り取ろうとした彼女の情けでもあり、聖人の傲慢とも呼べる攻撃であった。

 その瞬間。パシッと小さな音が響き渡った。

592 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:01:08.02 5JRKegHZo 3/12

「……!」

 神裂は思わず飛び退いて距離を置く。いくら手加減をしていたとはいえ、一般人には何をされたかすら分からないはずだ。
 ならば、何故自身の攻撃が受け止められたのか。その答えは単純明快だ。

「手ぇ抜くのは構わないけどよ……それで勝てると思うなら、その幻想をぶち殺すぞぉ!!」
「が、あっ……!!」

 バックステップで下がった神裂との距離を一瞬の間に詰めた上条は、その右手を彼女の腹部へと叩き込んだ。
 その一撃を受けた彼女の身体は大きく持ち上がり、神裂は思わず肺から息を吐き出した。

「へえ……一撃でやられなかったのは、アンタで三人目だよ。俺は上条当麻ってんだ、アンタは?」
 まるでトラックのタイヤでも叩いたかのような感触だった。
 そんなモノを殴って平然としている上条も大概であるが、彼の一撃を受けてこの場に立っている彼女もまた異常なのである。
 彼女の持つ強さを肌で感じた上条は素直にそれを讃えながら名乗りを上げた。敵には容赦しないが、認めた者にはいくらか寛容になるのだ。

「はっ、はっ……私は、神裂火織と申します。まさか東洋の島国で私にこれ程のダメージを与える者が居るとは思っていませんでした……先ほどの無礼を謝罪します」

 息を整えた神裂は、相手の力量も察せずに加減してしまった事に謝罪をして、スッと背筋を伸ばした。
 先ほどまでのダメージがなかったかのような綺麗な姿勢で刀を構える。
「ですので、これからは全力を尽くします。貴方を打倒する為に―――救われぬ者に救いの手を《Salvere000》!!」
 魔術師が相手を殺すと誓った際に言い放つ、殺し名―魔法名というものがある。
 “救われぬ者に救いの手を《Salvere00》”は神裂にとっての魔法名であり、その名乗りこそが全力の証でもあった。
 十メートル程の距離を置いて、神裂は七天七刀を横薙ぎに振るう。インデックスからしたら、右腕がぶれたようにしか見えなかっただろう。
 七閃とは見えない斬撃で、一瞬で七度殺す事から七閃と呼ばれている。その名に相応しい速力で以って、地面を抉りながら上条へと襲い掛かった。
「なんだこりゃ、ワイヤーか?」
「ッ……!!」
 凝らすように目を細めた上条は、太陽に反射する細いワイヤーが向かってくるのを視認していた。ワイヤーを掻い潜って一歩ずつ距離を詰めていく。
 ギュッと強く右手を握り締め、じりじりと間を縮めていく上条に対して、神裂は得体の知れない恐怖を抱いた。恐怖は動きを鈍らせ、七閃の切れ味を一瞬にして弱らせる。

 距離が、手の届く所まで縮まった。

「捕まえたぜ、魔術師……!!」
「それは、こちらの台詞です」

 ピンと、空気が一瞬にして張り詰めた。周囲から人が払われた事もあって辺りは静寂に包まれている。しかし、それ以上の“何か”が二人の間には渦巻いていた。
 いや、張り詰めていたのは空気だけではない。物理的に、二人の間をワイヤーが張り巡らされており、懐に入り込んだ上条は例えるならば蜘蛛の餌である。
 だがそんな事は関係ない。彼に出来る事は真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす事だけなのだから。しかし、その愚直な動きだけで数多の敵を屠ってきた。
 その戦いぶりから、学園都市最強を冠する超能力者よりも上条に対して喧嘩を売りに行く不良もいたりいなかったりするらしい。曰く、第三位を買い物帰りの片手間に往なし、第七位とは死闘の果てに親友となったらしい。

 閑話休題。
 さて、相対した二人はどちらが先に動くのか。いや、実の所既に動いているのではないか。インデックスには二人の動きが見切れる筈がないが、固唾を呑んで見守っていた。

593 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:02:26.11 5JRKegHZo 4/12

 インデックスが見える範囲で先に動いたのは神裂だった。
 本気を出すとは言ったものの不殺を貫く心算でいるらしく、彼女は鞘から刀身を抜き放つ事はない。それでも、彼女が充分本気である事はその殺意のような鋭い戦意から察する事が出来る。

 察する事が出来るからこそ、鞘に収まった刀の動きも見栄えがよくなるというものだ。
 どんなに速力を得ていようとも、まだその一振りは視認も出来れば反応も出来る。

 避けるのに、何の問題もありはしない。

「クッ……!!」

 神裂は本気の一振りがいとも容易く避けられた事に対して驚きを示しながらも歯噛みした。
 これ以上はいけない。これ以上の力を発揮するには、本気を通り越して全力にならなければならない。
 その全力は、相手を確殺せずにはいられないのだ。そんな事は神裂自身が認められなかった。
「お前、そんなに強い力を持っててさ、何でインデックスを追い回すような事にそんな力を使ってんだ?」
「ッ……!!」
「詰まんない顔してんぜ、お前。せっかく鍛えた力を、何下らねぇ事に使ってんだよ。もっとさ、何かあるだろ。なんつーか、ほら、魔術師って普段何してっか知らねえけど、多分なんかあるだろ」

 鞘の嵐を丁寧にすり抜けながら、上条は懇々と言葉を重ねた。その一つ一つが形を持たない刃物ののように、神裂の中にある何かへと突き刺さっていく。

 神裂は思う。
 ―――何も知らないくせに、偉そうな事を言うな!!

「……うるっせえんだよ、ド素人が!!」

 唐突に、神裂から放たれていた丁寧で鋭い武術然とした攻撃が、荒々しくなった。
「今まで私達がどんな気持ちで“あの子の記憶を奪ってきた”か分かりますか!? 何も知らない他人が、ずけずけとこっちの領域まで踏み込んでんですか!! 私が、ステイルが、一体どんな思いで彼女の前に立っているのか、貴方なんかに一体何が分かるというのですか!?」
 荒々しさは言葉を重ねるうちに増して行き、竜巻のような暴風の中に上条は晒される。
 何度も何度も叩きつけられる鞘に対して、両手を駆使してガードを重ねていたものの、そのガードを無理矢理こじ開ける力強さがあり、さしもの上条も彼女の攻撃を受けざるを得なかった。

 そうしてガードが上がった所に、神裂からの蹴りが入る。
 脇腹に捻じ込まれたミドルキックは、上条の身体を持ち上げたまま二、三メートルは吹き飛ばした。

「ハッ、ハッ……」
 興奮のままに畳み掛けた神裂はゆっくりと息を整える。手ごたえは充分にあった。未だに両足を地に着けて立っている上条の姿が信じられない。だが、ダメージはあった筈。
 しかしその考えは、一瞬にして覆された。

「成程、何か事情があるってのは分かったし、確かにアンタは強えよ。だけど、そんなアンタに俺のダチの言葉を教えてやる……!」

 上条が一歩足を踏み出すと、地面が大きく揺れた。二歩目を踏み出すと、揺れによってワイヤーの結界が大きく緩む。神裂は迎撃しようと鞘を振るい、ワイヤーを操作するが、最早手遅れであった。

「―――お前の攻撃には、根性が足りねぇ!!!」

 あらゆる幻想を打ち砕く右手が神裂の顔面に突き刺さって、彼女は天高くへ吹き飛び星となった。
 一介の高校生が世界に十と居ない聖人を圧倒した余りにも衝撃的な光景を、インデックスは一生忘れないだろう。

594 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:04:04.22 5JRKegHZo 5/12

 そんな風に余韻に包まれていると、天高く舞い上がった神裂がそのまま重力にしたがって再び公園へと落ちてきた。
 ちょっとしたクレーターが出来ており、その中心にはどこぞの栽培マンから自爆攻撃を喰らったような姿で倒れこむ神裂の姿があった。

「……私は……負けたのですね」

 流石に勝ったろうと思っていた上条すらも、ムクリと起き上がった彼女に対して驚きを露にする。
 しかし、彼女から戦意は感じられない。それどころか何処か吹っ切れた面持ちを浮かべていた。

「……私は、迷っていました。このままで良いのか、と。ですが、こうするしかないと思い込むことで自分自身すらも誤魔化していたのかもしれません。上条当麻、貴方には感謝しています。貴方の拳があったからこそ、私は目を覚ます事が出来ました……私は向き合う事にします。自分の罪とも、インデックスとも……」
「そうか、それは良かったな」

 そして、起き上がるなり言い放った言葉がインデックスへの謝罪だ。
 続いて、インデックスを取り巻く十万三千冊の魔道書と記憶について語り、涙して謝った。
 インデックスと言うか弱い存在をよってたかって追いかけていたのには、それなりの理由があったというわけである。
 一年周期で記憶を消さねば、インデックスの命が危ない。完全記憶と言う能力が、彼女の脳を圧迫しているのだそうだ。事実として、一年前も彼女は謎の高熱にうなされ、命の危機に晒されたのだ。
 説明を一通り聞いたところで、インデックスは唸るように考え込みながら、借りてきた猫のように小さくなっている神裂と向き合った。

「つまり、かおりは私の友達だったって事でいいの?」
「あ、ああ……インデックスが私の事を昔のように呼んでくれる日が来るとは……許してください、インデックス。弱くて情けなくて、貴方と向き合うのが怖くなって逃げ出した私を……!!」
「かおりも辛かったんだね、もう大丈夫。怖くない、怖くないから……」
「インデックス……うう、ああぁああぁぁ……!!」

 ひざまずいて懺悔する神裂を、インデックスは聖女の如き微笑みで抱きしめた。
 そして、神裂の中で押し留めていた何かは呆気なく決壊する。

 ここに来るまでに、一体何度の襲撃をかけたのか、最早分からなかった。
 心を殺してインデックスを追いかけた。記憶を消すたびに、自身の中にある何かを一緒に殺していた。
 失ったものを取り戻す事は出来ないが、失う恐怖をこれ以上インデックスに背負わせたくない。それが彼女の本心であった。

「……私は、これからインデックスとずっと共にいたいと思います。そして、インデックスの記憶を消すその瞬間まで、たくさんの思い出を作って、最後の時まで健やかに、幸せに過ごしてもらう事をここに誓います!!」
「ちょっと待って、何でそうなるんだよ」

595 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:05:25.96 5JRKegHZo 6/12

「そうなるとは……?」

 上条は思わず突っ込みを入れた。何故根本的な原因を模索しないのか。
 病気なら医者に見せれば良い。この科学の街で、理解出来ない現象を目の当たりにしてそれの追求をしないのは怠慢と言っても過言ではない。
 しかし、魔術のプロフェッショナルである神裂とて、その術を探していないはずはない。ありとあらゆる手段を用いて、インデックスを治そうとしたはずだ。それでも届かなかったからこそ、現状の状況なのである。
 しかし、だからと言って分からないことを分からないまま蓋をしてしまった彼女を、上条は理解できなかった。

 確かに、上条当麻は頭が悪い。ここで言う頭が悪いとは、知識が足りていないというだけであって決して愚鈍だと言う訳ではない。
 足りない知識は勉強するなり調べるなり、或いは教えを請うなりして解決を図り、補習はあれども何だかんだで単位はしっかりと取っていた。

「だから、記憶を消さなきゃならない理由を見つけりゃ良いだろって言ってるの上条さんは!! お分かり!?」
「だから、完全記憶が原因で脳の容量を圧迫してるって言ってるじゃないですか!! 何故分からぬのです!?」

 このままでは埒が開かないと、上条は携帯電話を取り出してアドレス帳を開いた。カーソルを“小萌先生”に合わせ、通話ボタンを押す。

『あ、上条ちゃん。どうかしましたか~? 補習なら後三十分程で開始ですよ~』

 子供のような無邪気な声色が電話越しから伝わってきた。
 担任の月詠小萌は、上条からの電話を補習時間の確認かと思っているようだが、そうではない。これはのっぴきならない事情と言うものだ。
 寧ろ公休扱いにしてもらって然るべき所を、サボったという悪名を背負ってまでサボるのだ。そんな風に自分を言い聞かせながら、上条は意を決して今日の補修に参加出来ないことを告げた。

「すみません、先生。今度補習の補習をして下さい。今日は急用が入ったので無理です!」
『えぇ~! 何でですか!? 先生の授業、そんなに嫌だったんですかぁ!?』

 今にも泣き出しそうな声で、その情景を思い浮かべた上条は思わず罪の意識に苛まれてしまった。
 だが、心を鬼にして告げる。今は補習などしている時間はないのだ。今すぐにでも脳科学に造詣の深い人物を探しにいかねばならないのだから。

「あ! 後お尋ねしたいのですが、完全記憶が原因で人が死んじゃう事ってあるんすか!? 例えば、記憶が多すぎて脳を圧迫するとか!」
『……うう、上条ちゃん。補習の補習は脳科学についても学んでもらいますからね。結論から述べると、そんな事はありえません。元々、人の記憶は色んな場所に収められるように出来ていて、歩き方とか喋り方と言った記憶と、その日あった出来事だとか勉強して学んだ知識などの記憶は別々の場所に収納されるのです。そんな風に枝分かれしている記憶をひとくくりにするのはナンセンスなのですよ~。と言うか、少し調べたらわかると思いますけど、完全記憶能力を持った人々が検索にヒットすると思いますし、その中には高齢の方も居られますよ』
「そうなんですか、ありがとうございます! 助かりました!」

 携帯を閉じて、上条はどこか非難めいた視線を神裂へと向けた。

596 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:06:54.71 5JRKegHZo 7/12

「そら見た事か! 上条さんは科学の人なので、完全記憶の所為で死んじゃうなんてオカルト認めません!!」
「ですが上条当麻! 貴方こそ初めは信じていたではありませんか! それに、彼女は一年周期で記憶を消さなければ、本当に苦しんじゃうんですよ!? その理由が完全記憶能力でなければ、一体何なのです!?」
「……そこなんだよ、俺が気になってんのは」

 十万三千冊と言う魔道書。詳細は分からないが、魔術師にとって重要な本であるという事は上条にも分かる。
 そんな重大な文書を紙という媒体に残しておかず、データと言う形で保存しようと言う発想は分かる。その際に科学の結晶であるパソコンを使わないのもまあ分かる。

 ただ一つ分からないことは、何故都合よく完全記憶能力を持った少女が、都合よく魔力を精製できない体質であったのか。
 両者共に希少性の高い体質であるということはインデックスとの会話と小萌との会話で理解していた。

 ならばこそ、そんな“都合の良い人材”が果たして存在するものなのか。
 そして、インデックスと言う重要書類の塊を、何の保険もなしにこうして野放しにする状況はありえるのだろうか。

「ひょっとしてだけどさ、記憶は消さなければならないんじゃなくて、消さざるを得ないように仕向けたんじゃないのか? その魔術ってのを使ってさ。条件さえ整えば、何でも出来るんだろ? 十万三千冊もあれば、そんな魔術の一つもあって良いと思うけど」
「う、うん……確かに、複数の条件付けをクリア出来れば、時限性と記憶破壊を両立させられるかも。でも、それを実現するには物凄く複雑で膨大な術式が必要なんだよ? 設置するのにも、解除するのにも」
「あるんなら、実現させたって事だろうぜ。何せ十万三千冊だ。とんでもない価値がありそうだってのは素人の俺にだって分かる事だ。だったら、何か小細工をして当然だろ」

 上条の推理を聞くに連れて、神裂の表情はみるみるうちに青くなっていった。
 確かに、魔術に関してありとあらゆる手段を講じたのは事実だ。だが、それは飽くまでインデックスが完全記憶と言う奇病にかかっていたという場合である。
 病気でもなんでもなく、第三者の魔術によって歪められたとなれば話は違う。
 治療を目的とした魔術から、解呪を目的とした魔術へと調査内容をシフトしなければならなかったのだ。
 結局の所、自身が騙されていたというの可能性に気がつかなかった神裂の落ち度である、ということだ。

「そ、んな……ならば、私は今まで一体何を……」

 今まで行ってきた記憶消去は全て無駄な事だったのかもしれない。その事実に、神裂は打ちひしがれるしかなかった。

「落ち込むのは良いけどよ、まずは動こうぜ。現状を打破するのが先だろ? その後、いくらでもインデックスに謝れば良いさ」
「そうですね……すみません、インデックス。本当なら今ここで切腹をしたいくらいなのですが……全ては貴方の身体をちゃんと治してからにしてもよろしいですか?」
「う、うん。出来れば自殺なんてやめて欲しいかも……」

 大団円で済みそうな所で腹を切られでもしたら、いくらなんでも後味が悪すぎるだろうと、インデックスと上条は若干引き気味に突っ込みを入れた。

597 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:08:22.03 5JRKegHZo 8/12



「……それで、これから一体どうするんだい? 言っておくがインデックスに残された時間は精々三日か四日だ。こうなると残りの時間、上の連中はすっとぼけるに違いないだろう。それで僕らがインデックスの記憶を消して帰還した所で、僕らの持つ都合の悪い情報を消す、何てこともあってもおかしくない。|必要悪の教会《ネセサリウス》とは、即ちそういう場所だ」


 頭に大きなたんこぶを作った赤いロン毛の魔術師、ステイル=マグヌスはオフィスビルの手すりに寄りかかって淡々と状況を説明した。
 神裂が負けるとは思わず、人払いの結界を当たり一面に張った後にのこのことオフィスビルの屋上に戻った所を、公園から上条によって|狙撃《スナイプ》されたのだ。

 録に魔術を披露する間もなく、高々石ころ程度に敗北を喫した。その恥は余りにも大きい。今すぐにでも魔法名を言い放ってルーンをばら撒きたい所だが、今はインデックスの事が先決だと自身を強く律した。

 長時間の人払いは効力も薄くなるし、何より怪しまれる恐れがある。例えば、交通状況などを正確に把握しているこの街において、突如として人の行き来が失われた地点が急に現れるとどうなるだろうか。
 少しの間だけならばたまたまで済ませるが、長時間の場合だと偶然を通り過ぎて作為を感じざるを得ない。そこで何かが行われていると勘ぐる方が自然である。

 そんな訳で、先のオフィスビルへと足を運んだという訳だ。
 神裂がインデックスを抱えてワイヤーなどを駆使して地上八十メートルを駆け上り、上条は一足で屋上まで辿り着いていた。
 インデックスを運ぶには右手に宿った力が邪魔だったので、彼女は神裂に任せただけである。
 成程、聖人と真正面からやりあって勝利を収めただけあって、出鱈目な運動能力だった。

「少し、気になるのですが宜しいですか?」
「ん、何だ?」

 神裂はジッと上条を見つめて尋ねた。神裂のような巨乳美人に見つめられてたじろがない高校生はいないだろう。上条もまた僅かに視線を逸らしながら返答する。
「貴方は一体、何処でどうやってそんな力を得たのでしょうか? 魔術でもなければ超能力でもなく。純然たる身体能力。どんな鍛え方をすれば……」
 それは聖人の力に頼ってきた神裂にとって、重要な事柄を内包した質問であった。ここで上条から何かヒントを得られれば、もっと強くなれる。自身の魔法名に恥じない働きが出来るかもしれない。

「そうだな。隠すような事でもねえし、教えよう……しっかり聞いとけよ」

 彼女の真摯な視線に応えるべく、上条は姿勢を正して真正面から神裂を見据えた。

598 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:10:00.61 5JRKegHZo 9/12

「いいか? 重要なのは、このハードトレーニングを最後まで続けられるかどうかだ」
 科学技術による肉体改造や遺伝子操作、薬品投与でもなく単純なトレーニングで、一体どうしてそこまでの力を得たのか。三人はゴクリと息を呑んで上条の言葉を待った。
「いいか神裂。継続は力なりと言う言葉を信じて、最後まで続ける事が大事なんだ。どんなに辛くてもな。俺はこの三年間で、ここまで強くなれた」
 講釈するように辺りをうろうろとしながら、上条は着実に解答へと近づいていく。そして、その時は訪れた。

「……腕立て伏せと腹筋にスクワット、これらを毎日百回三セットと、ランニングを十キロ。毎日だ、風邪を引いてもやり遂げろ。勿論一日三食は欠かすな。朝がきついなら消化の良いバナナやヨーグルトなんかでも良い。そして極め付けに精神力を鍛える為に、炎天下の夏だろうと豪雪の冬だろうとエアコンは使うな。節電にもなって家計にも優しいぞ。俺も最初は死ぬ程辛かったし、実際何回か|冥土返し《ヘヴンキャンセラー》の爺さんにも世話になった。一日休もうなんて思った事も何度もあった。だけど強いヒーローになるという確固たる信念の元、血反吐をぶちまけたってトレーニングは欠かさなかった」
 上条は語る。どんなに足が重く動かなくなってもスクワットを繰り返し、腕が悲鳴を上げるように奇妙な管楽器風味の音を鳴り響かせようとも腕立てを断行し、ぶちぶちっと嫌な感触が腹を巡っても腹筋を続けた。
 そうして不断の努力を続けた結果、変化に気づいたのは訓練を始めてから一年半後の事だった。

「俺はツンツン頭になっていた。そして強くなっていた」

 髪型すらろくに変わらない程の剛毛となり、その毛は鉄板をも貫く。
 髪の毛ですらこの強さであるというのに、肉体がそれに劣らないはずがない。
 インデックスがさわさわと上条の頭に触れる。本当に堅かった。どんなワックスで塗り固めてもこんな堅さは得られないだろう。

「つまり、魔術だの超能力だのと自分の力の代替を求めてる時点で俺には勝てねぇ……人間の強さってのはな、自分の意志でいくらでも変えられるもんだ」
「上条当麻、貴方と言う人は……ふざけないでください!!」

 しかし、神裂は憤慨して上条を責め立てた。彼の背後ではインデックスがツンツン頭を握ってぶらんとしていた。インデックス程度の体重ならば余裕で支えられる程の剛毛である。

「貴方の常軌を逸した動き……通常のハードワーク程度で得られるものではありません!!」
「いや、でもアンタだって中々常識を超えた動きしてたろ」
「私は良いんです! 魔術師ですから! では貴方は能力者としてレベルはいくつ位お持ちですか!?」
「えっと、レベルはゼロだけど……身体を鍛えるのにレベルは関係ないだろ」
「だからそのトレーニングが普通すぎておかしいって言ってるんです!!」
「んなっ……お前に何が分かる! 俺の辛いトレーニングの日々が!!」

 本当に辛かったんだ! と崩れ落ちるように跪いた。悔しそうに地面を叩くと、地面にひびが入ると共にオフィスビルが小さく揺れた。それに煽られるようにインデックスの身体も踊る。ステイルはインデックスが無邪気に上条へじゃれ付いているのを見て、嫉妬が八割を占める怒りを露にした。

「と言うかインデックス、君は何をしているんだ! そんな男に何時までもくっついてたら駄目だろう!?」
「とーまの髪の毛がどんなに力を入れても変わらないのが面白かったから……」
 ステイルがインデックスを引き離すと、彼女は名残惜しそうに上条の髪の毛から手を離した。

「……まあ、今は良いです。いずれ貴方の強さに秘密を暴いて見せますから……」
「いや、本当にこれだけなんだけどな……」
 こんな所で余計な時間を食っている場合ではないと、神裂は気を取り直すも上条は不服な面持ちである。
「まあ良いや。兎に角、インデックスに何か魔術的な仕掛けが施されてるんだろ?」
「ええ。ですので、それを何とか三日の間で調べて解決方法も模索せねばなりません」
 改めて考えると、本当に時間が足りなかった。今までインデックスを追い回す暇があるのなら、彼女を治す方法をもっと考えていればよかったと、二人の魔術師は詮無き事を思い、後悔する。

「魔術、魔術か……なら、俺の力が使えるかもな」

 屋上に腰掛けていた上条がスッと立ち上がると、自身の右手をインデックスへと向けた。
 彼の右手には|幻想殺し《イマジンブレイカー》というあらゆる異能を打ち払う奇跡の力が宿っていた。
 彼の恐るべき所はそんな力に頼る事無く敵を打倒する戦闘能力なのだが、兎に角彼の右手はそんな不思議な力を有している。

599 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:11:49.71 5JRKegHZo 10/12

「俺の右手は神様の奇跡だって打ち消す事が出来るんだ」

 とはいえ、何処に諸悪の根源となる魔術が刻まれているのか、インデックスですら分からない。
 それ程までに巧妙に隠された魔法陣を、一体どうやって魔術の素人が見つけ出すというのか。

「インデックス……俺を信じろ。お前が信じる俺を信じろ」
「……うんっ!」

 上条の言葉に対してインデックスの返答は明るく、心底信頼しているかのように全身を上条へと預けて瞳を閉じる。今日一日の付き合いだというのに、二人の間には確固たる絆が確かに宿っていた。

「行くぜ、必殺マジシリーズ……|本気の幻想殺し《マジイマジンブレイカー》」

 かざした右手から、ずるりと無色透明の竜の頭が現れた。
 竜はその|顎《アギト》を大きく開け放ち、インデックスをパクリと飲み込む。透明なので包み込んだと言った方が正しいだろうか。
 幻想殺しの効果はその竜にも宿っているらしく、歩く教会が甲高い音共に弾け飛んだ。

「あ、あ、あああああ!!! 貴方と言う人は、何て事を!! ステイル、見てはなりません!!」
「ウゴッ!?」

 下着を残して歩く教会が辺りに散らばったのを、ステイルは呆然としながらもマジマジと見つめていた。彼もまた男であり、思春期なのだ。
 そんな彼の意識を一瞬で刈り取りながら、神裂は七天七刀を腰に構えて上条を睨みつける。だが、当の上条は至って真剣で、これが冗談でもなんでもないことは直ぐに感じ取れた。

 竜の顎が消失する。それと共に、インデックスに変化が生じた。
 ビクンと身体が一度跳ねた後、彼女は機械のように冷たくなった瞳を開け放った。
 彼女の背中から魔方陣が出現し、魔力の循環を感じさせる力場が辺りに生じる。力場に歪められた空間はひび割れ、今にも砕けそうな程に不安定な状態を保っていた。
 冷たい目線を上条の右手へと向け、インデックスはおもむろに右手を前方へと掲げる。一体何をするのか、神裂はステイルを隅っこの方に転がしながらも警戒度を高めた。

「警告、第三章第二節―――」
「テメェが根源か、死ね!!」

 声色も、瞳も、何もかもがガラリと変わったインデックスに対して、上条は容赦しなかった。
 一瞬で間を詰めて、肉体だけはインデックスのものなので優しく右手を彼女の頭に触れさせる。

「警、告、最終章、第零……首輪、致命的な破損……確認、再生……不可……消」

 パリン! と何かが割れた音と共に、インデックスは崩れ落ちる。
 機械的な声色だが、出番が全くなかったことに対する憂いを見え隠れさせながら、魔方陣や謎の力場は消え去って行った。

「今のは……」

 神裂が呆然としていると、上条の頭上から光の羽根が降り注いでいた。その羽根は先の急変したインデックスによるイタチの最後っ屁と言う奴である。
 しかし、その羽根は最後っ屁にしては余りにも強力すぎる威力を有しているのを、魔術師たる神裂は良く知っていた。
 それに触れてはならない。神裂が声を荒げて注意を喚起する前に、上条は光の羽に触れていた。

「フンッ!」

 ツンツン頭を振るうと、光の羽根が次々とツンツンによって貫かれ、破壊されていく。
 例え完全記憶能力がなくとも、神裂火織はその光景を一生忘れる事はないだろう。

 一連と呼ぶのもおこがましい程に、魔術と科学は交差したのかしてないのか良く分からないままに事件の収束を迎えるのであった。

600 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:12:58.95 5JRKegHZo 11/12

 上条家の朝は早い。
 夏の茹だるような暑さに目が覚めてしまうのも理由の一つだが、最近は何故か知らないが居候が出来たお陰でおなかがすいたと起こされると言うのが大きな理由だ。
 しかし今日、彼が早起きをせざるを得なかったのは、インデックスによる目覚ましではなく、インターホンからの呼び鈴であった。

 朝の五時に一体誰だよ、と無警戒にも眠気まなこで扉を開くと、そこにはいつぞやの魔術師の一人が居た。
 神裂火織は玄関に入り込むなり土下座した。

「弟子にして下さい」
「え、ヤダよ面倒臭い」
「ッ……!?」
「何故、みたいな顔されたってやなもんは嫌なんだよ」
「人目を避けてこんな時間に来たのに……」

 にべもなく突き放された事で神裂はしょんぼりとしながら、土下座の体勢からそのまま女の子座りをする。
 態とではないのだが、あまりにもあざとい姿に上条は思わず頬を引きつらせた。

「そりゃ魔術師なんだからこんな場所に居たら駄目だろ。え、何? よしんば弟子になったとして、これからどうするつもりだったの?」

 今更だが、神裂は腰に刀を差し、風呂敷を背負っていた。
 魔術師なのだから武装しているのは百歩譲って許すとして、背中に背負ったそれは一体何なのか。上条は恐る恐る尋ねた。

「ここに住んでもいいですか?」
「うん、絶対ダメ。つーか必要悪の教会とやらはどうした」

 風呂敷をドサッと床に下ろしながら神裂は尋ねる。こいつマジかよ、とドン引きすらしていた。
「ご心配なく。基本的に私はフリーで行動していますので、指令があれば行動しますが、それまでは基本的に何処に拠点を置こうと私の勝手です」
「それが科学の街じゃなけりゃな!!」
 インデックスはまあ、色々と込み入った事情があるから居候にするのも吝かではなかった。
 しかし、この神裂という女は一体どういうつもりなのだろうか。インデックスもそうなのだが、仮にも年頃の女がそんな無防備を晒して良いものなのだろうか。
 ヒーローを志している上条だからこそ過ちは起きないし起こさせない所存ではあるが、一介の男子高校生なら間違いが起きて然るべき漫画チックな展開である。
 すると、神裂が風呂敷の中を漁り始めた。上条は何をする心算だとばかりに身構える。

 札束が上条の目の前にドサリとぶちまけられた。

「部屋代払います」
「ちゃんと歯ブラシ持ってきたか?」

 ヒーローも金には勝てなかった。そんな夏休み五日目の早朝であった。

601 : とある幻想の一撃必殺[saga] - 2014/08/02 15:15:54.08 5JRKegHZo 12/12

終わりです。ペンデックスさん涙目。
7、8レスとか大嘘つきました。

1巻のお話をまとめてみましたが、小説家と言う方はホントに凄いと思う今日この頃。2万字くらいでヘトヘトですわ。

後、このお話はせっかくなのでハーメルンさんにも投稿してます。マルチ投稿なので一応。
それでは失礼いたします、ご拝読ありがとうございました。