668 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] - 2014/09/18 19:32:55.89 o6LDSdpko 1/13少々借ります
浜黒ものでオチナシヤマナシイミナシです
時節は秋口。
まだまだ夏の残り火があちらこちらで燻っている。
流れる空気はまだまだ暑苦しい。
そんな中、浜面仕上は自分のベッドの上で昼寝と洒落こんでいた。
昨夜の睡眠が浅かったこともある。クーラーをつけないで暑苦しかったこともある。
理由はいくらでも挙げられるが、ともかく泥のように眠り込んでいた
時間は午後二時過ぎ。
健全な男子高校生としては―――日常生活の態度はともかく、些か呑気すぎる。
健全な男子高校生でないとしても、学園都市の闇の世界に、否、『学園都市』という機構そのものに敵対するものとしては、なんともはや、だ。
そうだとしても、この程度の贅沢だったら―――まぁ、許されるのではないだろうか?
(……ああ、俺、眠ってるのか……)
明晰夢、のようなものだろうか?
浜面仕上は今、自分が眠っていることを明確に自覚している。その上で夢を見ている。更には寝汗をかいている肉体の不快も覚えている。
ゆらゆらと認識は夢現を漂い、そしてその曖昧な自分を浜面は認識している。
誰もが身に覚えがあるような体験を、今浜面は味わっていた。
(これは、夢だ―――)
今、浜面は超能力者から逃げている。
無能力者と超能力者との戦力差はネズミと獅子以上だろう。
勝ち目なんかない。
ないが、それを理解しながら、無様に逃げ惑って、髪の毛ほどもないだろう勝利の可能性を探している。
アスファルトで転がって身を削り。
拳ほどもあるコンクリートの破片の嵐で無様に踊り狂い。
全てを焼き尽くし押しつぶす光の束の中で頭を抱え。
そうして、隻眼隻手の少女を、超能力者『麦野沈利』を殺すことばかりを考えている―――
(そうじゃねぇ、そうじゃねぇだろ―――)
夢の中で、己の身と精神を灼きながら黒い殺意を固く固く尖らせている浜面仕上。
そして、そんな自分を必死に否定する『浜面仕上』という自分。
(知ってるだろ! 俺!
麦野は―――麦野が、どんな思いで―――
アイツが、悪いとしても―――だとしても―――)
夢の中の自分を『浜面仕上』は止められない。
理解をしていながら、夢の中の自分をコントロールできないでいる。
それは、つまり悪夢であって。
(……ちく、しょう……)
夢の中で舞台は変わっている。
工場の中で。
研究所の中で。
白銀のロシアの平原で。
浜面仕上は麦野沈利を屠っている。
(夢、だっていうのに―――)
夢の中で殺人を繰り返す浜面仕上と。
それを見ている『浜面仕上』と。
さらにそんな二つの自分を冷静冷酷に観察しているもうひとりのハマヅラシアゲ。
別に分裂症というわけではない。
ただ、単純にそういう状態であるというだけだ。
だから、こんな『夢』は目を覚ませばちょっと寝汗がひどかった、ぐらいで終わってしまう。
三番目のハマヅラシアゲが冷静にそう考えていながらも、一番目と二番目が苦しみを訴えていた。
そんな、中。
「おーい、いつまで寝てるんだよぉ。
買い物付き合ってくれるって言ったじゃん」
ゆさゆさ、と。
現実世界の浜面仕上の肉体が刺激を受けた。
うっすらと、自分でもわからない程度にまぶたを開けるとそこには長い黒髪の一部分を白銀に染めた気の強そうな少女がいた。
(なんだ―――黒夜か―――)
一番目と二番目と三番目。
分裂していた浜面仕上が融合する。
そうすれば今まで見ていた夢のことが大昔にしまったアルバムの写真用にセピアに色あせていく。
もう、思い出せない。
ただ、悲しい気分だけが残っている。
だから爽快な目覚めとは言い難く、まだまだ肉体も精神も睡眠を必要としている。
(いいや、もう少し寝る―――)
明瞭に意識があるわけではない。
計算があるわけではない。
ただ、一秒でも二秒でもまだ目をつぶっていられると思ったし。
仮に黒夜がキレて恐ろしい「窒素爆槍」を繰り出しても、なんとかなるんじゃないか、と心の何処かが判断しただけだ。
要するに、面倒を先送りにした。
「誰もいねーんだよ、絹旗ちゃんはひとりで映画見に行っちゃうし。
浜ちゃん、起きろってば」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
黒夜海鳥はサイボーグの少女だが、その腕力は腕の細さとそう変わらない。
大柄な浜面の肉体を押してもそれなりに限界はある。
諦めろよ、と浜面は感じた。
「……ホントーに、テコでも起きないレベルで寝てるのかよ。
あー、クソ。
流石に家の中で能力ぶっぱなすわけにもいかねぇしなぁ」
だいたい、十秒ほども格闘して。
ボリボリと頭を掻きながら黒夜が浜面から離れた。
能力を使う場所の分別をわきまえたのは黒夜が丸くなったからだろう。
いいことだ、と―――明確に思考したわけではないのだが―――浜面の無意識が呑み込んだ。
黒夜海鳥。
大能力者、レベル4。
両手から―――そして、無数に存在する義肢から窒素の槍を放出する「窒素爆槍」の能力を持つサイボーグの少女。
若干十二歳でありながらその戦闘能力は条件によっては超能力者に相当し、「新入生」という暗部組織を率いていたこともある。
しかし、やはり若干十二歳であり、その肉体は華奢で細い。
サイボーグであることを考慮しても―――下半身は殆ど生身であるのだから―――脚の細さがそれを証明している。
胸元まで伸ばした黒髪はストレートでよく手入れをしている。
両耳から降りた房の一部分だけを白銀に抜いて、黒を基調としたパンクファッションを合わせている。
上半身はへそを出した黒のタンクトップ。下半身は両サイドを紐で構築した黒のスラックス。
正直、ファッションだけでいうと二十世紀の遺物に近いが、似合っていないわけではない。
ただ、いくら剣のある厳しい表情をしたところで十二歳の少女であって、背伸びをしているなぁ、という嫌いはある。
浜面からみればとてもとても恐ろしい少女ではあるが、どこかしら可愛らしいものを感じてもいた。
感覚としては、浜面と同じアイテムの少女たち(恋人である滝壺理后を除く)と同じようなものだろうか。
恐ろしいけれども、どこかしら寂しがり屋で、その心の隙間を埋めてやりたいと思っている。
それは同情やお節介などではなく、きっと浜面仕上が浜面仕上たるに必要な部分なのだろう。
人間の感情なんてオンオフのデジタルではなく、いくつもの点が重なってその濃淡で構築されているものであり。
だからこそ曖昧な言葉でしか表現できない。
それでも近似値的な言葉を探すとするのならば―――庇護欲、とでも言うのだろう。
殺し合いをした人間同士に芽生える感情としてはとても不可解なものだろうけれども、きっとそれが浜面仕上だ。
それでも、惰眠を貪るには代え難い。
別に、黒夜海鳥はひとりで買い物に行けないほど世間知らずではないし。
オンナの長い買い物に付き合わされて荷物持ちされるという特権をたまにはスルーしてもいいだろう。
「……それにしてもよく寝てんなぁ……狸寝入りじゃねぇよなぁ、浜ちゃん?」
ぎし。
ベッドが軋む音がした。
黒夜がベッドサイドに腰掛けたからだ。
サイボーグといっても体重的に極端に重いわけではない。
少女の骨格に日常的に運用でき搭載できる重量には限界があって。
その限界は同じ程度の体格の少女よりやや重いか、という程度のものでしかない。
くる、と上半身をひねって、覆い被さった。
長い髪がふわりと落ちて浜面の顔を擽る。
無意識のうちに顔を背けて髪を払ったが、その態度が「浜面が眠り込んでいる」ことに信頼を与えた。
「ったくよぉ。こちとらいつでもブチ殺せるっていうのに。
緊張感ないなぁ」
言って、黒夜が唇を釣り上げる。
けれども言葉の響きに殺意のようなものはない。
無防備な浜面の姿をおかしく思っている、ということを黒夜なりの言葉で表現しただけのようだ。
(……なんだよ、まだなんかあんのかよ……)
繰り返すが浜面仕上は夢現。
片足は現し世に意識がのっていてももう片足はヒュプノスの花園の中。
だからこそ、まぶたを閉じていて決して見えていないはずの黒夜海鳥の表情が認識できた。
頬が赤くなっている。
何か戸惑っている。
やりたいことがあるのだが、それを本当にやってもいいのだろうか、と判断を下せないでいる。
(……!?)
数十秒後。
浜面仕上は明確に明瞭に覚醒した。
目は瞑っている。
だが心臓が一瞬高鳴った。
何が起きたか。
目を開けなくてもわかる。
身体全体にうっすらと掛かる重さ。
少しだけ高い体温。
柔らかな肌と硬さを感じさせる骨格と筋肉と。
今、黒夜海鳥は浜面の横に寝転がっている。
そして、頭をぐい、と浜面の胸板に乗せている。
要するに、添い寝、している。
(な、なんだぁ!? 何考えてるんだこいつ!)
がばっと跳ね起きても良かったが、何故か動けなかった。
実際に眠っていて、なお眠ったふりをしていたからか、本当に肉体だけが眠り続けていて意識だけが覚醒したのか。
自分の肉体なのに、浜面仕上は動けない。
そんな浜面に、黒夜は小さな頭のオデコのあたりをぐいぐいと押し付けた。
丁度、小さい子供が自分の親に甘えるように。
何も言わないが、それでなんとなく浜面は気づいた。
(……黒夜も、まだ子供だもんな)
スキンシップ。
甘えてみたかったのだろう。
常日頃の悪党悪役ぶった尖ったファッションスタイルと性格からは想像できないにせよ。
彼女がまだ年幼い少女であることには変わりはない。
これが、フレメア=セイヴェルンのように露骨といってもいいぐらいに甘えてきてくれるのならば。
鈍感な浜面でもすぐに気づくことができただろうが。
黒夜海鳥の日常的な態度からはそれを読み取ることができなかった。
だから、まぁ―――
(しゃあねぇか。可愛いもんだ―――)
浜面仕上は納得する。
忘れた夢の置き土産の悲しい何かが解けていく。
これっぽっちも覚えてはいないのだけれども、あの夢の中で自分がしたかったことの答えは、こういうものだったのかもしれない。
そうして、また眠りに落ちていく。
暑苦しさと重さが何故か心地よい。
パズルのピースがはまったような爽快さ。
夏の残り香の中で午睡は続けられた。
もちろん、最後はとんでもない殺意と悪意と嫉妬と世界を収束させるような絶対的な怒りによって浜面仕上の幸福は破られるのだが。
それはまた別の話。
680 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2014/09/18 19:46:08.10 o6LDSdpko 13/13イジョウです
スキンシップですよスキンシップ