697 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage] - 2014/10/26 22:31:29.46 Z3yYgd/30 1/11


9レス程お借りします。
フィアンマさんが歪んでない再構成みたいな内容です。
グロはないですが、流血描写があります。
スレ立ての際はCPはフィリアナのつもりですが、まだそこまで描写してません。

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-40冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379543420/
698 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(1/9)[sage] - 2014/10/26 22:34:10.76 Z3yYgd/30 2/11




右方のフィアンマ。

彼が魔術師になって与えられた称号は、大変仰々しいものだった。
というよりも、彼の才能はその道しか示してはくれなかったのだ。
幼い頃より、周囲と少し、彼は『ズレ』ていた。
詳しく言えば、産まれてきた時から、というべきなのかもしれない。

目の前で人が死ぬ。
目の前で誰かが怪我をする。

彼の日常生活には、およそ子供には似つかわしくないこれらのイベントがほぼ毎日あった。
そしてそれらの結果が生み出すのは、フィアンマが何かを得るということだった。

両親が死に、遺産が手に入る。
友人が死に、死を免れる。

彼の周囲で起こってしまう現象は、彼の抱える『世界を救える程の力』によるものだった。
魔術サイドでは『聖人』と呼ばれる体質よりも余程特別な才能を抱えて、彼はこの世に生まれでてきた。
せめて誰も自分の幸運には巻き込むまいと彼は聖職者の道を選び。
自分の体質によって誰かを傷つけんと手段を求めた結果、魔術というものを識った。
魔術師になった彼は、気がつけば幼い子供だというのにローマ正教最高権力者、ローマ教皇の相談役とされ。
自らの才能の意味を知ってしまった彼は、もはや世界を救う他に未来を観測ることが出来なくなっていた。
そのためにどのような犠牲を支払っても仕方がない、という歪んだ価値観までをも形成してしまいながら。

699 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(2/9)[sage] - 2014/10/26 22:35:51.55 Z3yYgd/30 3/11


そして、彼の計画には、自分よりもかなり年下の少年が必要だった。
より正確に言えば、その幼子の右腕が。
自分の右腕と統合し、現状抱えている『世界を救える程の力』を出力する。
彼には、それを行える程の財力も、力も、権力もあった。
周りが彼を讃え、彼にとっては『幸運』にも、材料を揃えてしまった。

『はじめまして、上条当麻』

彼は、少年の前に姿を現した。
齢にして十二の彼は、少年に穏やかに微笑みかける。
一切の魔術を無効化する右腕を持つ五歳の幼い子供。
『上条当麻』は、まずこう言った。
彼の中で半ばルール化されていた警告。

『おれのなまえ…そっか、てれびでみたんだ。
 おにいさん、おれにかかわると、けがするよ。
 おれは"やくびょうがみ"だから、ちかづかないで。
 ……それとも、おにいさんもおれにいなくなってほしいのか?』

そして、その歪んだ自己紹介が。

右方のフィアンマという孤独な少年の、琴線に触れた。
世界を救う使命だとか、右腕を切断しなければだとか。
そんな大仰な事は全て頭から吹っ飛んで、ただ、彼はしゃがみこむ。
不幸になるぞ、と警告した幼い子供の細い体躯を、何の躊躇もなしに抱きしめた。

『そういう訳ではない。……害意はないんだ』
『おれにさわるとふこうがうつるよ』
『感染らない。……思えば俺様も、そんなようなことを言われてきた』

お前を救いにきた。
一緒に遊ぼう。

右方のフィアンマの方針は、変化していた。
不幸のどん底で歪んだ笑みを浮かべる幼い子供に、過去の自分を重ねていた。
ほんの少しの会話だけで、彼の心は決まった。

この不幸な少年だけは、せめて、世界よりも先に救おう――――と。

700 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(3/9)[sage] - 2014/10/26 22:37:12.63 Z3yYgd/30 4/11


野次馬取り囲む十字路で、どんどんと体温を喪っていくまだ七歳の子供の身体を、フィアンマは呆然と抱えていた。

遠く、遠くから救急車らしきサイレンが聞こえる。
パトカーらしき赤色灯の輝きが見える。
野次馬はひそひそと耳打ちしあい、カメラで撮影を継続している。

ほんの、一瞬だった。

車道に、子供が居た。
まだよちよち歩きの、幼児のようだった。
バイクが向かう先に、ゆっくりと信号を無視して歩く。

『あのこひかれちゃうぞ、』

と少年が駆け出そうとした。
周囲で起こる不幸は全て自分のせいだと考えている上条当麻が。
それを制して、フィアンマが飛び出た。
上条よりも、自分の方が足が早く腕力があると考えたからだ。
彼らのどちらも善意による行動のはずで、幼児が轢かれずにハッピーエンド、そのはずで。

でも、そうはならなかった。

スピード違反の乗用車が、無事幼児を歩道に連れ戻したフィアンマの方へ向かってきていた。
もしも彼が気づいていれば、その特別な『腕』で乗用車を除けていたかもしれない。
バイクに轢かれずに済んだ幼児と、子を見つけ慌てて駆けてきた親がお礼を言うその様に耳を傾けていなければ。

二年。

その決して短くはない月日、自分の孤独に寄り添ってくれた『お兄ちゃん』を、上条は喪いたくなかった。
飛び込めばどうなるか、をまったく予想出来ていなかった訳ではない。
一度、中年の男から『借金取りに狙われるのはお前のせい』と難癖をつけられ刺された時と同じ感覚はあった。

死。

その概念を、その年齢で、上条は理解出来ていた。
理解出来ていたからこそ。
迷わなかった。躊躇しなかった。思うがまま飛び込んだ。

そして。

701 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(4/9)[sage] - 2014/10/26 22:38:00.86 Z3yYgd/30 5/11


上条の身体がクッションになったものの、やはりフィアンマも轢ねられた。
だが、後に轢ねられた方が軽傷であることは当然で。
ましてや、体躯の小さな者の方が深い傷を負うことは必然のことだった。

『う、ぁ……ぐ、……げほ…っ、ぅぶ、』

照りつける太陽が、血液の黒色染みた赤を照らしている。
折れた骨が片方の肺に突き刺さりでもしたのか、呼吸がおかしい。
そんな状態でも、フィアンマはまず上条を探していた。

自分と同じ孤独を感じていた、たった一人の子供。

彼が無事ならばそれでいい、と何も知らないフィアンマは思って、地面を這いずり。
息を荒くしながら、ようやっと視界の端に子供の姿を見つけた。

頭から血を流し、全身傷だらけで倒れ込んだ上条当麻の姿を。

痛みを、忘れた。
地面を蹴り、必死に上条当麻に近づく。
ぼんやりとした表情で、血まみれで、それでも彼はまだ生きている。
視界の端には去っていく乗用車が映り、状況を嫌でも理解する。

『当、麻……? 俺様を、庇ったのか?』

どうして。

どうして、どうして、どうして。

少年の性格を考えればすぐにわかることが、今のフィアンマには理解出来なかった。

『おれの、こと。……ひとりじゃない、っていってくれた、から』

何気ない会話に、平凡な子供扱いに、救われた。
死地へ飛び込む理由はそれだけでよかった。
目の前で大事な人間が死ぬかもしれないのに、何もしないという選択肢はなかった。

『なあ、おにい、ちゃん』

力ない細い腕、力の入らない右手で、上条はフィアンマの右手を握った。

『やくそく、』
『約束…?』
『おれのせいで、…せかいじゅうで、ふこうになったひとを、たすけてあげて』
『な、に?』

俺のせいで。

つまり、二年間伝え続けたはずのフィアンマの想いは届かなかった。
上条はこの最期の場面でまで、自分が何もしていなくても他者を不幸にしたと思っている。

『おれはもう、しんじゃうけど……おにいちゃんは、だいじょうぶそう、だから、さ』

動物園に行こう。
遊園地に行こう。
水族館に行こう。

見たこともないものをいっぱい見て。
綺麗なものを沢山知って。
そうやって生きていこう、と。

そういった今までの約束は、全てここで破られる。
上条当麻の微笑みは、穏やかだった。どこまでも。
救急車が到着する頃にはもう、上条の意識はとうに途絶えていた。
ただ一人、心が寄り添っていたはずの少年の惨状に、フィアンマは絶望していた。

702 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(5/9)[sage] - 2014/10/26 22:40:00.63 Z3yYgd/30 6/11


昼の快晴が嘘の様な大雨の中、上条の両親はやってきた。
手術を終え、目覚める可能性は絶望的だと言われた息子の為に。
医者から話を聞き、現実を受け止め、上条の母は泣いていた。
父親は泣くまいとしていて、医者は彼らに同情的だった。

『………、…』

自分を庇って、息子さんは車に轢ねられました。
脳死状態で、いつ目を覚ますか見当もつきません。

そんなことを、曰えるはずがなかった。
病室の廊下、設置された質素なソファーに座ったまま、フィアンマは沈黙していた。
どんなに大人びていて、世界の闇を知っていようと、彼は十四歳だった。
半ば、本当の弟の様に感じていた相手がこの様な状態だとわかっていて、明るく振る舞えるはずがない。
かといって、出てこなければならないはずの謝罪の言葉もなかなか出てこなかった。

絶望と、悲しみと、申し訳なさと。

そういったものに支配され、指先一本すら思う様に動かなかった。
上条が病室で点滴をされるまで、呆然と見ていた。それだけだ。

上条刀夜―――当麻の父親が、近づいてくる。
妻は病室に居させているらしい。話しかけているらしい声が扉越しに聞こえる。
事情の仔細は、看護師から多少は伝わっているだろう。
即ち、フィアンマのせいで自分達の息子は惨状に陥ったのだ、と。
上条が家を出る前に挨拶はした、信用もされていた、ただ一緒に出かけるだけのつもりだった。

『………』
『………隣、いいかな』
『………』

こく、と頷く。
どんな言葉で責め立てられるだろう、とぼんやり考える。
本当の疫病神は自分の方だ。あの子は何も悪くない。

703 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(6/9)[sage] - 2014/10/26 22:41:51.89 Z3yYgd/30 7/11


『あの子は、理不尽に罵倒される事が多かっただろう。
 私も方々を頼り、お守りやら何やらを買ったり、やれることはしたが…終わらない。
 加害者側に裁判を起こしたりして、少しずつ強制的に数を減らすこともした』
『………』
『それで、当麻にはテープレコーダーを持ってもらっていたんだ。裁判の証拠になるから』

穏やかな声色が、かえって怖い。痛い。

『………俺のせいです』

フィアンマは辛うじて、それだけ言葉を振り絞った。

『あの子がこうなったのは、全て俺のせいです』
『……当麻の抱えていたレコーダー、不思議と壊れていなくてね。
 中には、あの子が意識を喪うまでの言葉や、今日一日の君とのやり取りが残っていた』

そして、申し訳ないが、聞かせてもらった。
そんなに長くもないたった一日のやり取りだったけれど、それで関係性がよくわかった。

『当麻は、君と一緒に居る間、笑っていた。
 何でもない話をして、安心していたように感じた』

ありがとう。
当麻と、普通に接してくれて。
何の色眼鏡もかけずに息子の人格こそを見て、優しくしてくれて。

『息子と君との約束の内容はよくわからなかったが、君は守るつもりでいるんだろう?』

今にも消え入りそうな声で、はい、とフィアンマは返事をした。
また、ありがとう、と言われた。
随分昔に忘れていたはずの涙が、止めどもなく、金色の瞳から溢れてソファーを濡らしていった。

704 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(7/9)[sage] - 2014/10/26 22:43:47.75 Z3yYgd/30 8/11


『神の右席』をやめて、ローマ正教の庇護から飛び出した。

"俺のせいで世界中で不幸になった人を、助けてあげて"

あの子に、お前のせいで不幸になった人間など。
不幸な人間なんて、そもそももう、居ないのだと。

そう誇れる様に、自分の手で世界中の人々を救うと決めた。
世界を救える程の、この莫大な才能を抱えた役立たずな右腕で。

705 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(8/9)[sage] - 2014/10/26 22:47:12.29 Z3yYgd/30 9/11





金髪の少女の嘆きは、重々しいものだった。
自嘲の笑みは痛々しく、口にした言葉の全てに悲哀が篭められている。

「お姉さんは―――私はね、」

ただ、困っている人を助けたかった。
別に、感謝の言葉が欲しかった訳じゃない。
両親から言われたように、親切を働いてきただけ。
その多くは確実に誰かを助け、少女は笑顔を受け取ってきた。

ありがとう。
助かった。
感謝するよ。

ささやかな感謝の言葉が嬉しくて。
泣きそうだった人が笑顔を浮かべてくれるのが心地よくて。
悪意ある人々から善意で他者を救い出す自分が、ちょっと誇らしかったりもして。

だから。

多分、彼女が全てを喪う瞬間は呆気なかった。
無事家に送り届けられたはずの少年が、虐待で死んだというニュースを耳にして。
彼女を取り巻いていたはずの暖かい世界は、残酷で基準のない恐ろしいものに変化してしまった。

「今の私は、『追跡封じ(ルートディスターブ)』」

報酬を得て。
その報酬の為だけに、働く存在。
善悪も関係無い、過程だけを手伝って、結果の先の未来なんて見たくもない。

「逃げたい人が居るのなら、逃がす。
 運んで欲しいものがあるのなら運ぶ。
 たどり着きたい場所があるのなら連れて行ってあげる」

本当は。
昔の様に、無邪気に誰かを救っていたかった。
ヒーローの様に、なんてわがままは言わない。

「知ってる? この世界には、理不尽しかないのよ。
 私は、それをこの目でしっかり見てきてしまっている。
 階段を昇るのを手伝ってあげたおばあさんがテロリストで、地下鉄に乗るはずだった人が皆死んだり。
 迷子になっていた子供を家まで送り届けたら、魔術結社の儀式に使い潰されてしまったり。
 他にも色々あるわ、語りきれない位にね。……忌々しい位、何が正解かなんて私にはわからない。
 だからね、私は誰かに無条件に手を差し伸べることをやめたわ。それが不幸に繋がるかもしれないもの」

それは、まだまだ心の幼い少女の慟哭だった。
そして、現実を知ってしまった大人の理屈でもあった。
彼女はそう泣き叫びながら、それでも『誰かを救うこと』自体はやめていない。

706 : フィアンマ「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」(9/9)[sage] - 2014/10/26 22:49:10.47 Z3yYgd/30 10/11


「絶対的な基準が欲しい」

王様でも、皇帝でも、枢機卿でも、教皇でも、魔術結社でも、…何だって構わない。

「この人は助けても絶対に悪果なんて出ないって! そう信じられるだけの基準が!」

彼女の柔らかな唇が、訴えの後に紙を食む。
勢いよく千切ると同時、氾濫した川の如き炎の波が青年へと押し寄せる。
これで終わり。この攻撃からは誰も逃れられなんてしない。
『速記原典』を使用した少女は、いびつな笑みを浮かべていた。

ああ、また傷つけてしまった。
仕事の為、誰かの助けの為と言いながら、また。

「……自分でもわかってる。こんなのは、ただの幻想(もうそう)よ。
 現実には存在しない、どんな魔術をもってしても実現出来ない可能性。
 ギャンブルの必勝法と変わらない。私の、絶対に叶わないわがまま」

だからもう―――捨ててしまえ。

どんなに綺麗なものだって、綺麗事を叶えてくれる神様なんて自分の声を聞きはしないのだ。
魔術師になって、誰にも読んでもらえない原典を使って戦う日々。

少女の頬を涙が伝った頃。
未だ燃え盛る炎の中、敵である、死んだはずの青年の声が響いてくる。

「そうか。お前は、救われたいのだな。そして、必要なものは救いの基準。
 それが幻想(ゆめ)だと言うのならば、俺様がやるべきことは一つに絞られる」
「ッ!?」

思わず身構える少女に対し、青年の態度はとても穏やかだった。
親しい女の子の将来の夢を聞くような、そんな。










「―――いいだろう。まずは、その哀れな幻想を救ってやろう」
















―――――――――これは、上条当麻不在の物語。


                        そして。


                              救世主が、ヒーローに救われていた物語―――――――――

707 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga] - 2014/10/26 22:51:46.20 Z3yYgd/30 11/11


以上です。お目汚し失礼しました。