21 : - 2016/01/02 22:07:11.98 CtlAG5QH0 1/18

18レスほどいただきます、結構長くなります
サイコパスとのいわゆるクロスで軽いグロ描写注意です
シーン切り替えで場面が飛びます

元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-41冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450865667/
22 : - 2016/01/02 22:08:30.21 CtlAG5QH0 2/18

その銃口(システム)は、正義を支配する――。


「はっ、はっ、はっ……!!」

カンカンカン、という小気味のいい音が規則的に夜の闇に響く。
それに混ざって獣のような荒い息遣いも聞こえてくる。

彼は必死だった。走って、走って、走って。
ただひたすらに逃げ続けた。そんなことに意味はないと頭の中では分かっているのに。
異常なまでの生存本能に駆られた男の様子は尋常ではなく、目は血走っている。
無理に動かし続けた足はついに限界を迎え、男は躓いて派手に転倒してしまった。

「ぅぅぅぅぅぅ……!!」

低く唸り必死に立ち上がろうとするも、悲鳴を上げる体は言うことを聞かないようだった。
そんな彼の耳を、ひとつの音が支配した。
夜の漆黒の中で反響するこつ、こつ、こつという音。

来る。絶望的で、破滅的で、終焉を齎す死神が現れる。
男は恐怖のあまり発狂しかけたが、まるでそれを止めるように凛とした声が投げかけられる。

「あら、そんなところに蹲ってどうしたの? 100円玉でも落ちてた?」

どことなく侮蔑の込められた口調で、それは闇を切り裂いて現れた。
真紅のドレスは闇にあって派手すぎるが、何故だかそれが本来あるべき姿であるとでも言うかのように調和している。
若い少女。一見すればそのドレスも相まってホステスにも見えるが、この女がそんな可愛い存在ではないことは男が一番感じていた。

「ひ、ひぃぃっ……!?」

なりふり構っている場合ではなかったのだろう。
男は手を動かし足をよじり、地を這いずるようにして眼前の紅い死神から距離を取る。
次第に言うことを聞くようになってきた足に力を入れて立ち上がり、駆け出す。

「ねえ、君。ちょっと私のお願いを聞いてくれないかな」

……そんな言葉だった。たったそれだけの言葉なのに、何故かそれは男の身体の自由を奪った。
女の言葉に逆らえない。恐ろしいのは強制的なものではないところだった。
強引に動きを止めさせるのではなく、何故だか止まりたくなる。この死神の言葉を聴いてあげたくなる。
まるで数年来の友人の頼みごとか、あるいは愛する恋人のおねだりのような。

23 : - 2016/01/02 22:09:37.06 CtlAG5QH0 3/18

「ありがとう。でも、そんな遠くじゃお話ができないよ。
ほら、もっとこっちに来てちょうだい。そう……」

動きを止めた男を見て、女は嬉しそうに礼を述べる。
その言葉に誘われるままに男は引き返し女の元へと戻っていくが、その内心は恐怖に塗りつぶされていた。
逃げたい。逃げなければならない。にも関わらず、どうしてか女の言葉に逆らうことができない。

「ごめんね。今、うちの弓箭猟虎(スナイパー)は別の仕事をしてるから、いつもみたいにクリーンにとはいかないけど」

紅い死神がその可愛らしい唇を開いて謝罪した。
それだけで全てを許せる気がした。そんなはずはないのに。

その時だった。男は自分の背後にもう一人、誰かがいるのに気がついた。
いつからいた――?

「――ねぇ、あなたの色は何色なんだろうね?」

男はゆっくりと振り返る。一人の少女がいた。
年の頃はこのドレスの女とそう変わりはないだろうが、こちらは大きな暗視ゴーグルのようなものをつけているのが目を引く。
しかしそれ以上に、男はその少女が手に持っているものに視線が釘付けになっていた。
一丁の銃。水色の光を放つそれは、対象を認識するとそれに相応しい形へと変形を始める。

『犯罪係数、オーバー310。執行対象です』

ただ朗々と歌うような女性らしい機械音声が、ただ唯一の音として場を支配する。
目の前の男を社会に必要のない因子であると断定する。

『執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に標準を定め、対象を排除してください』

凶悪な姿形へと変形したそれは、無慈悲な音声と共にその水色の輝きを増す。
『ドミネーター』と呼ばれる銃を握り締めた少女は、その銃口を男へと突きつけたままどこまでも平坦に引き金に指をかける。


「――――執行します、とミサカはトリガーを引き絞ります」


直後。軽い音がした。断罪がなされた。訪れたのは、破滅だった。
血と肉と様々な欠片が散乱している様を見て、ドレスの少女は口を開く。

「……お願い、聞いてくれてありがとう」

24 : - 2016/01/02 22:11:12.75 CtlAG5QH0 4/18

――――――――――

「はーい、それじゃあ今日は皆さんの適性検査の結果を配布するのですよー」

見た目年齢10歳ほどの担任教師の言葉にクラスのあちこちからため息や愚痴が漏れる。
あまり楽しい結果が待っているとは思えない連中は今から将来を憂い始めていた。

「……かくいう上条さんもその一人ですけどね。どんな進路になることやら」

続々と返却されていく適性検査の結果。
次々とあがる悲鳴や歓喜の声。
それらに混じって漏れた上条当麻の愚痴に悪友たちが反応を返す。

「カミやんはまだええ。ボクなんかどんな結果になるか想像もつかんわ」

「お前はエロゲ製作でもすればいいんじゃないのかにゃー」

その手があったか……ッ!! と震える青髪ピアス。
……本当にこいつの将来はそれでいいのかと不安になる。

「コラお前たち、また下らない話をしてるんじゃないの」

吹寄制理をお持ちの豊満な胸……ではなく、豊満な胸をお持ちの吹寄制理が三人に割って入る。
上条はわざとらしく目を逸らしながら

「吹寄サンはいい結果だったんでしょうねー」

「……ん。まぁ、思ってたよりね。いくつかがA判定だったわ。
ちょっと安心したわ、大学制度なんて廃止されて久しいわけだし」

「くっ、上条さんの色相が濁っちゃいますよ」

「私はむしろこの馬鹿のサイコパスがクリアなのが不思議でならないけど」

吹寄はそう言って青髪ピアスに目を向ける。
確かにあっという間にアウトになりそうなものだが、これまで一度も街頭スキャナにもかかったことがないのだ。
もっとも、上条としても流石に友人が施設送りになるのは見たくないところではあるのだが。
とはいえ一つ付け加えておくと、スキャナには引っかかっていなくても風紀委員の職質は何十と受けているのだった。

「ハッハァー!! ボクの愛は『シビュラ』にも認められてるってことや!!」

「そうは思いたくないんだけどな。せいぜい犯罪係数ぶっちぎらないよう気をつけてくれよ?」

「ちなみに私の犯罪係数は53万よ」

「ファッ!?」

「冗談よ」

25 : - 2016/01/02 22:12:36.58 CtlAG5QH0 5/18

珍しくジョークを飛ばす吹寄に青髪ピアスが瞠目していると、「にゃー!?」という叫びがどこからか聞こえてきた。
見ると金髪アロハ野郎が一枚の紙を手に小さく震えている。
一体どんな愉快な結果だったのだろうか、などと他人事のように考えていると「上条ちゃーん」と担任教師のお呼びがかかる。
そして、

「……不幸だ」

C判定。事務やエンジニアなどのデスクワーク系はほぼ全滅であった。
適性が出ているのはドローンが普及している今では少なくなった肉体労働、そして意外にもカウンセリング系統であった。

「はーい、それじゃあ皆さん席についてほしいのですー」

全ての結果を配布し終えた月詠小萌は教壇に立ち、その小さな身体を精一杯アピールする。

「今回の適性検査で良い結果が出た人も残念な結果になってしまった人もいると思います。
でもですねー、あまり気に病む必要はないと思うのですよ。皆さんはまだ一年生なので、これからきっと結果も変わっていくのです。
逆を言えば今回良い結果だった人たちもうっかり油断していると……なーんてこともあり得るかもしれないので気をつけてほしいのですー」

その言葉にざわつき始めたクラスを見て小萌は、

「はいー。まあ、確かに絶対に変わるという断定はできません。
それはつまり、シビュラが判断を変えるということですから。けれど、たとえ変わらなかったとしてもですよ?
それでも今皆さんの手元に示されている適性はシビュラのお墨付きなのです。その先の幸せは約束されているのですよー」

「それは……まあ」

思わず上条は呟く。シビュラシステムはその人の才能や能力を読み取って、その人間が最も幸福になれる生き方を示してくれる。
幸せになれれば何でもいい男上条当麻にとってこれほどありがたいこともない。

「シビュラシステムがこの街に導入されてもう随分と年月が経ちます。
シビュラ導入以前は幸せになれるかどうかなんて運任せだったのですよー?
先生が先生になったのだって、シビュラからの適性をもらったからなのです。
元々研究者だったのですけど、今は皆さんの先生をやれて本当に幸せなのです」

ボクも幸せです小萌センセー!! などという叫びが近くから聞こえてきた。
……それはともかく、確かに随分と前は誰も彼もが将来を手探りで進んでいたらしい。
今では信じられないし考えられないことだが、そんなスーパーハードモードな時代があったのだった。

(シビュラシステムなしなんて考えられないよなぁ……)

その恩恵を受けられなかった過去の時代の人たちに憐れみに似た感情さえ覚えてしまう。

「……では姫神ちゃん、シビュラシステムについて簡単に説明できますか?」

ぼーっとしている間に話が進んでいたようで、指名された姫神は迷うことなくさらさらと言う。

26 : - 2016/01/02 22:13:23.41 CtlAG5QH0 6/18

「シビュラシステムとは。包括的生涯福祉支援システム。
サイマティックスキャンによって人間の生体力場を読み取り。サイコパスとして数値化する。
対象の職業適性を示すことで。その人が最も幸福で充実した生き方ができるよう導いてくれる」

「その通りなのです、流石姫神ちゃん!!」

「以前は雇用すら不安定で問題になったりしていたのですよね?
仕事が見つからないなんて、今では信じられないの一言だけど。
そもそもそんなことになったら色相が濁っちゃうわよね」

仕事などシビュラが適切なものを選んでくれる。見つからないことなど絶対に起こらない。
しかし、やはり昔はそんな時代があったらしい。
シビュラ導入以前など経験しているはずのない上条には分からないし、絶対にそんな時代など経験もしたくなかった。

「それに対する不満が色々なデモとかの形で表れていたらしいぜい。
デモとかそういうのは今じゃ可能性として排除されてるっていうのににゃー。
きっと今そんなことになったら全員潜在犯で片っ端から施設送りですたい」

「ですねー。やはりシビュラ導入以前は仕事が見つからず就職ができなくなって路頭に迷ったり、ホームレスなんて問題があったりもしたのですー。
しかしこれによって誰もが幸せになることができるようになりましたし、雇用も約束されたのです。治安も劇的に改善されました。
誰もが最も自分に合った道に進み、その先で幸せを掴むことができる。
シビュラシステムによって、ついに今私たちが生きているような理想の社会が実現したわけなのです」

小萌は人差し指をぴんと立て、にこりと笑った。

「『成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である』、なのですよー」

27 : - 2016/01/02 22:14:44.82 CtlAG5QH0 7/18

――――――――――

初春飾利は目の前のモニターを眺めてため息をついていた。

「やっぱり見つかりませんね……」

「チッ。どうやってかは分かりませんがスキャナを潜り抜けて行動しているようですわね。
エリアストレスの上昇もなし、か。……ですがどこにいようと必ず炙り出してやりますわ。
今のこの時代に殺人など、ふざけた真似をしでかす輩がいるとは」

そう呟く白井黒子の目は決意の炎に燃えていた。
先日発生した一件の事件。一人の男性が何者かに殺害されたのだ。

「聞いた話では、昔は出かける時にはみんなわざわざ玄関に鍵をかけたりしていたらしいですよ?
今となっては道行く人は街頭スキャナの色相検査をパスしている、クリアなサイコパスの持ち主であることが証明されているのに。
それと比べると随分と世紀末な時代だったんだなぁというか、なんというかって感じですよね」

「そもそもサイコパスの色相検査と犯罪係数の測定がありますし。
危険人物を潜在犯として、実際に犯行に及ぶ前に発見し社会から隔離・治療・排除することで未然に犯行を防げるんですもの。
……シビュラシステム統治で犯罪率が劇的に低下した今、こんな派手な殺人をやらかすお馬鹿さんなど絶滅危惧種もいいところということですわね」

サイマティックスキャンというシビュラシステムによって実現された技術。
魂の秘密を解き明かすに至った科学の叡智で心の在り様を明らかにし、対象の反社会性や攻撃性などを『犯罪係数』として数値化するもの。
人間の心理的傾向は全て数値化され管理され、人々は個人の魂の判定基準となったその測定値を『サイコパス』の俗称で呼び習わした。

サイコパスの色相は簡単にチェックできる。街中に設置されている街頭スキャナも、この色相を測るものだ。
ストレスの度合いなど単純なものを計る際のパロメーターとなる。
これに対して犯罪係数はより深く人間の心理状態を計測・数値化したものであり、高度な処理能力が必要とされるため、街頭スキャナ程度では計測できない。
この数値が基準値をオーバーしていると『潜在犯』と判断され、犯罪に走る可能性が高い者として更正施設へと送られるのだ。
そしてこの犯罪係数を計測することができるものは一つだけ。

28 : - 2016/01/02 22:15:58.01 CtlAG5QH0 8/18

「……犯人がどんな手を使っていようとも、ドミネーターは誤魔化せませんわ。
絶対に見つけ出してドミネーターの銃口を突きつけ、シビュラの下の裁きを受けさせてやりますの」

「とは言っても、私たち学生の風紀委員なんて下っ端も下っ端、最下層ですよ?
ドミネーターなんて触れもしませんよ。あれを持てるのは警備員からシビュラの選抜を受けた一握りの人だけじゃないですか。
そもそも私たちには権限がないのでドミネーターを持ったとしてもユーザー認証が通りませんし」

初春が軽い調子で言うと白井はそんなこと分かってますの、とその頭を軽く叩く。
あうー、とぼやく初春だったがやがてその表情を真剣な顔つきへと変えていく。

「それにしても、ですよ。……あの情報は一体どういうことなんでしょうか。
ましてやドミネーターを使用したなんて……」

その言葉に白井はぴくりと反応し、不快そうにため息をついた。

「それを知りたいから、こうして独断専行で事件を調べてるのでしょうに」

「でもまさか、何かの間違いですよね」

「当たり前ですの。そんなことはわたくしたちが一番分かっているはずですわ」

初春飾利はすっと目を細め、何の手がかりも映していないモニターを見つめて呟く。

「御坂さん……」

「……お姉様」

御坂美琴。その少女はメンタル美人と評判で。
具体的には、生まれてからほとんどサイコパスを曇らせることなくクリアに保ち続けている少女だった。

29 : - 2016/01/02 22:17:30.17 CtlAG5QH0 9/18

――――――――――

『エリアストレス上昇警報。エリアストレス上昇警報――――』

「急げカミやん!! もう時間がないぞ!!」

「あいつ……っ!!」

上条と土御門は走っていた。
学園都市に侵入した正体不明の魔術師。
おそらくその魔術師が何かしたのだろう、エリアストレスが発生していた。

「一体、どうやって、侵入したっていうんだよっ!?」

「だから、そこら辺を色々と、知る必要がある!! あいつが、この街の追っ手に、始末される前にな!!」

あり得ないことだった。シビュラに守られたこの街の警備は尋常ではない。
ステイル=マグヌスや神裂火織など、一部の人間は上層部との協定に基づいて出入りすることもあるようだった。
しかし、侵入。それはこの街の意思に反して強引に立ち入ることを意味する。

仮に侵入できたとしても、その先で侵入者を待っているのはドミネーターの銃口だ。
学園都市に侵入している時点で間違いなく犯罪係数は100を超える。そうなればパラライザーが起動し、捕縛される。
300を超えればエリミネーター。更正不能とされ社会から排除される。
そしてドミネーターは、レベル5だろうと何だろうと、『聖人』のような魔術的特殊性を持つ存在をも一撃で粉砕するのだ。

だから、土御門が心配しているのは謎の魔術師が学園都市を害すことだけではなかった。
そいつがシビュラを揺るがす可能性だけでなく、何の情報も得られないままそいつが学園都市に始末されてしまうことを。

少なくとも表向きには誰にも気付かれずに学園都市に潜入した手腕。
ここにきて分かりやすく騒ぎを起こしたのも何か策があってのことに違いないだろう。
只者ではないことはもはや疑いなかった。

この街の上層部と、イギリス清教の二重スパイをしている土御門としては看過できない。
可能な限りの情報を得る必要があった。まして学園都市側にも何やら不穏な動きがある。
しかし何より問題なのは、

「まだ禁書目録には連絡がつかないのか!?」

「さっきから連絡してるけど、全然出ねぇ!!
クソッ、まさか本当にインデックスが目的だったってのか!?」

インデックス。その消息が不明なことだった。
今ではどうやって出会ったのかも分からない少女だが、上条には大切な存在だった。

(――――待て、よ)

上条は一つの疑問を感じた。
その奇妙さに気付いてしまった。

(……インデックスは、前の俺と初めて会った時。どうやって学園都市に入り込んだんだ――――?)

30 : - 2016/01/02 22:18:36.62 CtlAG5QH0 10/18

――――――――――

「……」

白い修道服を纏った少女は、自身に向けられた水色の光を静かに見つめていた。

『犯罪係数、137。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。
慎重に標準を定め、対象を制圧してください』

ドミネーターが静かに変形を始める。
社会に害悪を与え得ると判断した障害を排除せんがために。

「……絶対なんて、この世にないんだよ。全能者のパラドクスも解決できてないくせに」

水色の光が輝く。その無機質な銃口を正面から受け止めて、インデックスは冷たく一言だけ告げた。

『対象の脅威判定が更新されました。犯罪係数、オーバー300。執行対象です。
執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に標準を定め、対象を排除してください』

ドミネーターが再び変形する。今度は先ほどとは違う、より凶悪で凶暴な姿へと。
先ほどまでとは違う明確な殺意を秘めた兵器。インデックスは臆しない。

「シビュラ、あなたの答えを聞きましょう」

その者が一つ問いかける。
果たして今の問いが関係しているのかしていないのか、ドミネーターから再び平坦な音声が流れ始めた。

『対象の脅威判定が更新されました。犯罪係数、アンダー40。執行対象ではありません。トリガーをロックします』

ドミネーターは三度変形し、そしてそれきり沈黙してしまった。
僅かな静寂が訪れる。両者に動きはなかった。
少しして、その者は納得したように天を仰ぎ呟いた。

「……これが、あなたの色、か。ではシビュラ。あなたは果たして何色か――――?」

31 : - 2016/01/02 22:21:21.06 CtlAG5QH0 11/18

――――――――――

「……滝壺は、どうした」

浜面仕上が歯を食いしばりながら問うと、目の前の少女は僅かに口元を歪めた。

「彼女のサイコパスは随分とダメージを受けていたみたいだけど。
今すぐセラピーを受けて療養するっていうのならともかく、まだ少しでも無理をするようなら潜在犯になっちゃうわよ?」

「滝壺に何をしたのかって聞いてんだよこのクソ野郎がっ!!」

「何もしてないってば。私たちは別にあなたのことを敵だとは思ってないんだよ?」

「なんだと……?」

ドレスの女の予想外の言葉に浜面の動きが止まる。
その言葉に隠された真意を探ろうとしていると、空間を切り裂いて一人の少女が現れた。

「浜面さん、滝壺さんは無事ですわ。ご安心くださいな」

「……そうか、すまねぇ」

白井黒子は簡潔に報告するとキッと目の前の女を睨み付ける。
ようやく掴んだ尻尾。この女には聞きたいことが山ほどあった。
通信越しには初春も待機している。会話の全てを記録するためだった。

「あなたたちはこの社会をどう思う?」

「は?」

しかし意外にも口火を切ったのはドレスの女だった。
想定外の質問を受けた二人は戸惑うように顔を固める。
女は机に隅に腰掛け、足をぶらぶらと揺らしながら世間話でもするかのように言う。

「社会を管理しているのはシビュラシステム。犯罪率は劇的に低下、能力に応じた進路、雇用の約束、幸福の確約。
これこそが実現された理想社会である、ね。なんて素晴らしいシステム。なんて素晴らしい社会」

ドレスの少女は楽しげに話し、唐突に苦虫を噛み潰したかのような表情へと変わる。

32 : - 2016/01/02 22:22:37.02 CtlAG5QH0 12/18

「――反吐が出るわ」

「な、ん……?」

「あなた、一体何を……?」

「私たちはね」

ドレスの女はぶらぶらさせていた足を止め、真剣な面持ちで浜面と白井を見つめる。
ただの口八丁でも誤魔化しでもない。彼女の本心なのが嫌でも伝わってきた。

「ただ当たり前に生きたい、それだけなのよ」

「……だったらどうしてこんなことやってんだ。
普通に生きてりゃ最低限の暮らしは確実に約束されてるだろ。
シビュラがなかったら俺たちはどれだけ苦しい生活を強いられてたか分からねぇんだぞ?」

「そうね。でもシビュラが提供するのはただ心臓が動いているだけの空っぽの生。
画一的な幸福の押し付けなんていらない。競争があったっていいじゃない。
自分の頭で考えて、自分で決めて、その責任を自分で背負って。それでこそ人間っていう生き物は『生きている』んだって、そう思わないかな?」

「……そこまでにしなさいな。これ以上続けるとあなたのサイコパスがどこまで曇るか分かりませんわよ。
今ならまだパラライザーで済むものを、悪化させてエリミネーターを起動させるつもりですの?」

白井が女の話を遮った。ここまで堂々とシビュラを否定するものなど見たことがなかった。
改めて白井は思う。この女は異常だ。社会から隔離されるべき特異であると。

「ああ、濁るぜ。そういう風になっているんだからな」

背後から、声がした。

「「っ!?」」

浜面と白井が同時に振り返る。長身の男がいた。
くすんだ茶に近い金髪に高級ブランドで固められた服装、非常に整った顔立ち。
それでいて全身から重苦しいプレッシャーを放っている一人の男。
一体いつからそこにいたのか。それを二人は全く把握できなかった。

「知っているか。昔は『歴史』っつうのは必修に近い学問だったらしいぜ」

『歴史、が……?』

今まで黙っていた初春の声が通信越しに漏れる。
歴史など改めて学ぶ必要性が分からない。それは浜面と白井も同様だった。
誰も興味を持たない事柄。それが歴史、過去だった。

33 : - 2016/01/02 22:24:14.43 CtlAG5QH0 13/18

「より良い社会を築くため、過去の過ちに学ぶためだ。
ところが今では既に完成されたシステムとしてシビュラシステムが君臨している。これがどういうことか分かるか?」

「……?」

分からない。この二人が何を話し、何を見ているのか。
聞いてはいけない、深入りしてはならない気がした。
でなければ底なしの沼に沈み込んでいくような感覚を覚えた。

「……過去の人たちが何を思い、何を目指して、どんな努力をして社会を構築し、運営してきたか。
そこの彼が言ったように、その理念や過ちの繰り返しを流れとして捉えることができれば。
将来的にどのような世界が訪れるべきなのか、その理想を思い浮かべることができるよね」

『……言っていることは、何となく分かります。そしてそれがシビュラだったんじゃないですか……!!』

初春の声は何故か震えていた。きっと浜面や白井と同じ。
何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような、そんな感覚に陥っているのだろう。

「完成された社会、制度の最終形態っつうご立派な触れ込みで、な」

「だから、なんだって言うんだ。実際、シビュラの導入でどれだけの人間が救われたと思ってる。
単に幸せだって話だけじゃねぇ、犯罪係数の測定によって罪を犯さずに済んだ奴、その犠牲にならずに済んだ奴が大勢いるんだぞ……!!」

思わず浜面が声を荒げた。それはシビュラシステムの恩恵の一つ。
対象の魂の在り様を計測し心理的傾向を数値化することで、将来的に凶行に走る可能性のある潜在犯を特定する。
そうすれば迅速に社会から隔離することができる。これによってどれほどの犯行が未然に防がれたことか。

『あなたたちの言う社会は、シビュラ導入以前のような社会ですよね?
それが駄目だったからシビュラが生まれたんじゃないですか……!! それが嫌だったからシビュラがみんなに必要とされたんじゃないですか!!
雇用すら不安定で、明日人生がどう転がるか分からなくて、サイマティックスキャンもないから外を歩けばいつ誰に刺されるかもしれない。
幸せになれるかどうかなんて色んな要素に左右される運任せで……。そんな社会の方が良いなんて、本気で言うつもりですか!?』

「別に俺たちだってシビュラの運営する社会に良いところが一つもねぇとまでは言わねぇよ。
だが、今のこの社会ではシビュラが文字通り正義であり法だ。刑罰も裁判もとっくになくなってるわけだしな。
更に正しい社会の姿を描くことなんて妄言以外の何者にもなり得ない」

これ以上は危険だと直感する。防衛本能のようなものが働き始める。

34 : - 2016/01/02 22:26:46.16 CtlAG5QH0 14/18

「そしてそんなことを考える奴は色相検査にひっかかって潜在犯として施設送り。
さっきの歴史の話にしたってそうだ。調べて出てくる資料は全て、現状の社会の成立の必然性を保証するものだけなんだよ。
他の制度や思想が成り立っていたかもしれない可能性なんてのは残らず抹殺されちまってる。
可能性の封殺ってヤツだ。ただポンと渡されて、それ以上良いものなんてないから他を見るな、それで満足しろって言われてるのさ」

「……黙りなさいな」

白井の身体は震えていた。
もう聞きたくなかった。考えたくなかった。

「そもそも公開されているシビュラの基本仕様が全て真実だっていう確証はあるの?」

『何を、言って……』

「おかしいんじゃねぇか? なら聞くけどよ。
レベル5だろうと何だろうとお構いなしに粉砕するドミネーター。
あれはどういう仕組みなんだ? 何をどう撃ち出せばそんな芸当ができる? ドミネーターってのは、何なんだ?」

「そ、れは……」

浜面は答えられなかった。考えたこともない。考える必要がなかった。
そして男は決定的な言葉を放つ。

「――――シビュラシステムとは何なんだ? その正体は、何なんだ?
俺は知りたいんだよ。それは果たしてどれほど価値のあるものなのか。
そしてその上で……ぶっ壊す。気に入らねぇんだよ」

「もう、やめてくださいなッ!! これ以上は……っ、これ以上は……。
わたくしたちのサイコパスまで、曇ってしまいますわ……っ!!」

耳を塞ぐ白井。絶句している初春。立ち尽くしている浜面。
突然別世界に放り込まれたような感覚。そしてその表現はあながち間違ったものでもないのだろう。

「……そうね、それが当然の反応。私たちが生まれる遥か以前からシビュラは君臨していたもの。
生まれた時から当然のようにあって、そんな社会で育ってきたんだから。
それは1+1の答えを疑うくらいあり得ないことなのかもしれないけど、でも、疑いを持ってしまった人もいた。それが私たち」

ドレスの女は腰掛けていた机から降り、ゆっくりと二人に歩み寄っていく。

35 : - 2016/01/02 22:29:42.17 CtlAG5QH0 15/18

「与えられたものだけが全てだと信じて、ただ言われるがまま指示されたことだけに従い続けて、何の疑問も抱かない。
冗談じゃない。私たちの人生は私たちが決める。シビュラなんかに決めさせない。
あなたたちはそれでいいの? そんな空っぽの生で『生きている』って言えるの? そんな人生に価値があるのかな?」

白井と浜面は逃げるように後退するしかなかった。

「別にいきなり私たちに同意しろなんて言わないし不可能だけど。
でも、今あなたたちは私たちの話を聞いて、見たこともない可能性と相対した。
それでも何も、少しも思うことがないって言うなら。まだ盲目的にシビュラを絶対と言うなら」

女は不快さを僅かに滲ませて告げる。

「おかしいのはあなたたちの方よ。そこの風紀委員の彼女は以前に私たちを異常だと言ったけれど。
――――シビュラ(あんなもの)にまだ従っていられる方が、どうかしているわ」

彼らが。
そう長くはない人生の中でこつこつと積み上げてきたもの全てが。
音をたてて崩れていくのを、感じていた。

「シビュラはこの社会を管理している。だったらアレイスターの野郎と絶対に繋がっているはずだ。
あの野郎のプランとシビュラは密接に関係してやがる。
であればシビュラをぶっ壊すことは、同時にアレイスターに迫る一手にもなる――」

アレイスターという言葉が誰を指しているのかは分からなかった。
もう今は何も知りたくなかった。そして。

『携帯型心理診断・鎮圧執行システム「ドミネーター」、起動しました。
ユーザー認証。使用許諾確認、適正ユーザーです』

そして、その祈りが通じたのか、それは現れた。

「――――そこまでにしてもらおうかしら、垣根帝督」

いつの間にか。
男の背後に水色に光る銃を突きつけている少女がいた。

「だとしても、それでアンタたちのしていることが正当化されるわけじゃない」

機械音声が静かに空間に満ちていく。

『犯罪係数、アンダー300。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。
慎重に標準を定め、対象を制圧してください』

「おっと。意外なところで出てきてくれたもんだ」

その少女の姿には見覚えがあった。
あれはどこからどう見ても。

「お姉、様……?」

何故御坂美琴がここにいるのか。
何故御坂美琴がドミネーターを所有し、使用できているのか。
あの事件の時の情報は正しかったのか。あの事件は御坂美琴が犯人だったのか。
彼女の表情からは何一つとして窺い知れなかった。

36 : - 2016/01/02 22:31:39.79 CtlAG5QH0 16/18

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その時。上条当麻もまた異常な現実に直面していた。
ようやく追い詰めたのだ。その魔術師は片手に意識のないインデックスを抱えていた。
やはり目的はインデックスだったのだろうか。

「……な、ん……で……?」

しかし問題はそれだけではなかった。
こつ、こつ、こつ、と小さな音をたててそれは歩いてきた。
その魔術師へとドミネーターの銃口を向けて。

「……その子を返しなさい。その子はシビュラの……」

見知った少女だった。御坂美琴。
何故御坂美琴がここにいるのか。
何故御坂美琴がドミネーターを所有し、使用できているのか。

上条の中で激しく渦巻く疑問を無視し、魔術師は冷たく笑う。
しかしその目だけは全く笑っていなかった。

「愉快だな」

そう言って、ただ笑う。

「お前も、この魔道書図書館も。そこの幻想殺しも」

ゾッとするものが背筋を這い上がった。
それでも上条は怯むわけにはいかなかった。

「お前は、誰だ。……インデックスから、手を離せ!!」

魔術師の返答はなかった。
少女がドミネーターを改めて突きつけると、銃身が水色の輝きを増していく。
そして音声が流れた。

『犯罪係数、0。執行対象ではありません。トリガーをロックします』

そんな無慈悲な音声が。

「「なっ――――!?」」

二人は同時に息を呑み絶句する。
ドミネーターが脅威と認定しなかった。
この社会に対する明らかな害をシビュラが見過ごした。

「『成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である』、か」

そんな中、ただ一人。その魔術師だけが当たり前のように笑っていた。
ゆっくりとその右手を掲げて挑みかかるように問う。

「さあ、シビュラ。お前に俺様が裁けるか―――?」

37 : - 2016/01/02 22:32:34.10 CtlAG5QH0 17/18

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そして。学園都市にもう一人、静かに笑う者がいた。


「非人間的システムの否定、人間的システムの肯定。まあ、大いに良しとしよう」


そして『人間』はゆったりと笑みを形作る。


「しかし。君たちはシビュラの本当の形をまるで理解していないよ」





38 : - 2016/01/02 22:34:02.13 CtlAG5QH0 18/18

終わりです
今はあまり使われてないみたいですがこういう時このスレあると助かりますね