472 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/06/07 18:55:59.97 5Sm7ts.0 1/41

投下させてもらいます、全39レス。以下注意書き

・妹達の一部がオリキャラ化しています、でもってそのオリキャラがメインのお話です
・原作改虐、オリ設定追加あり
・暴力、流血描写あり

では「ミサカ 絆地獄たち」どうぞ

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-5冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1275661269/
475 : ミサカ 絆地獄たち 1/39[saga] - 2010/06/07 18:57:04.10 5Sm7ts.0 2/41

ここは学園都市のとあるゲームセンター。
街の裏通りに面し、小じんまりとしてるがこの不況でも人の入りはそこそこ。
いたってありふれた店舗である。

この店舗は二階建てで一階はUFOキャッチャー、プリクラなどの一般人が利用するもの、
二階には格ゲー、シューティングなど一般人が見たら引きそうなものを隔離している。

そして、その二階の片隅のシューティングゲーム(STG)コーナーにて、一人の少女が悪戦苦闘していた。
肩まで伸びたきれいな茶色の髪、どこぞの中学の制服、整った顔立ち、頭にはいかついゴーグル。
そして、その小さい左手にはレバーがしっかりと握られ、右手は人指し指で力強くボタンを押さえている。
ただでさえ不人気のSTGを年端のいかない女の子がやってる姿は、周りから見たら異様にしか映らなかったであろう。


ズキャーーーーーーーーン!アーッ!!!!!!!!!(←ゲームオーバー)


10459号「……」


この先ほどまでSTGをやってた少女はとある事情により生まれた実験体の一人、
妹達(シスターズ)、検体番号10459号である。


10459号「ケツイ難しいです……とミサカは弱音を吐きます」


10459号は席を立ち、小さくため息をもらす。
コンマ数秒の思考の後、自分一人の力では無理だという結論に達した。


10459号「これはもうミサカネットワークの力を借りるしかありませんね、とミサカは他力本願上等です」

10459号「脳波を調整してミサカネットワーク接続を開始します、とミサカはちょっとテンション上がって来ました!」

476 : ミサカ 絆地獄たち 2/39[saga] - 2010/06/07 18:57:40.77 5Sm7ts.0 3/41

ミサカネットワークを駆使してケツイ―絆地獄たち―を攻略してみる


1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
今、ゲーセンでケツイしてるんだけどおまいら力かしてくれろ。
3面からむずい!なんか敵いっぱいでわけわかんなくて死ぬ…。
もっと言うと2面のボスからキツイ…。なにあれ…。
さらに言うと1面から(ry。

だれか助けて!!!


2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka00829



3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka08100



4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka01945
終了

477 : ミサカ 絆地獄たち 3/39[saga] - 2010/06/07 18:58:19.88 5Sm7ts.0 4/41

10459号「……なかなかまともなレスが付きませんね、とミサカはハラワタが煮えくりかえる思いです」


10459号はぶつぶつ独り言を言いつつ、ネットワークを遮断しゲームセンターの外に出た。
風が冷たい。しかし研究所の無機的なそれとは違い、どこか心地よい冷たさだ。

少女はご贔屓の自動販売機を見つけると、小慣れた手つきで商品を購入した。
こういう時は一服するに限る。まあ一服と言ってもジュースなのだが。


10459号「……ぷはあ、ヤシの実サイダーおいしいです、とミサカは良い笑顔」


一服が終わりゲームセンター周囲を散策。
途中でダンゴムシを観察したり、野草を観察したり、猫に逃げられたりしつつ、元いた場所に戻って来た。
これだけ時間が経てばスレの方も少しは賑わっているだろう。


10459号「さあて、そろそろ良いですかね、とミサカはミサカネットワークに接続します!」

478 : ミサカ 絆地獄たち 4/39[saga] - 2010/06/07 18:58:57.28 5Sm7ts.0 5/41

ミサカネットワークを駆使してケツイ―絆地獄たち―を攻略してみる


1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
今、ゲーセンでケツイしてるんだけどおまいら力かしてくれろ。
3面からむずい!なんか敵いっぱいでわけわかんなくて死ぬ…。
もっと言うと2面のボスからキツイ…。なにあれ…。
さらに言うと1面から(ry。

だれか助けて!!!


2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka00829



3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka08100



4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka01945
終了



(新着レスなし)

479 : ミサカ 絆地獄たち 5/39[saga] - 2010/06/07 18:59:36.08 5Sm7ts.0 6/41

10459号「……」

10459号「…………」

10459号「………………」


ばんばんばん!と鈍い音がこだまする。あまりの悔しさに10459号が壁を殴りつけたのだ。


10459号「なんでミサカの立てたスレはのびないんですか……ケツイ面白いのに……
……とミサカは断腸の思いです」


10459号「はあ……このままシューティングは滅んでしまうのでしょうか……とミサカはテンション下がって来た……」


10459号「念のためもう一回、とミサカはスレを確認します」


10459号「やっぱりダメか……とミサカは意気消沈します」


10459号「……念のためもう一回とミサカは……」



5 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108←New!
ケツイってシューティングだっけ?わかんね




10459号「! レスが付いてます! とミサカは獲物を前にした肉欲獣のごとくがっつきます!」

480 : ミサカ 絆地獄たち 6/39[saga] - 2010/06/07 19:00:20.70 5Sm7ts.0 7/41

6 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
うん、弾幕シューティングだよ。
人いなくて寂しかったお(´・ω・`)


7 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108
ふーん、シューティングって全部同じに見えるけど
ゲーム性違ったりすんの?


8 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
うん!全然違うよ!私は外に出てからいろんなSTGをやったけど、
敵と一番「戦っている」って感じがするのはこの「ケツイ」なんだよね!
とにかく敵がいっぱいいて、ガンガン避けて、ガンガン壊すこの快感!
あと稼ぎシステムが面白い!
私みたいな下手横シューターでも5箱がどばどば!と出てきて超爽快!
1面の音楽も最高すぎてもうね…あれだけで100円の元とれるわ。
さんたるるるはネ申。



興味を持ったのならこれを機に挑戦してみてわ?


9 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108
きもい


10 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
ごめん

481 : ミサカ 絆地獄たち 7/39[saga] - 2010/06/07 19:00:53.13 5Sm7ts.0 8/41

11 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
それにしても全然レス付かないなあ…
12108号さんはゲーセンとか行かないの?


12 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108
このスレタイで寄ってくる奴は多分いない
ゲーセンは前一度行ったきり
レイで小足ぺチぺチやってたら乱入されて終わった
それ以来行ってない


13 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
そっかー。ケツイで二人プレイとか最高に燃えると思うだけどなー。
だれかいっしょにやってくんないかなー。


14 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108
やろっか?どこ行けばいい?


15 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10459
mjd!研究所最寄りの薔薇DIEスってお店だよ!入り口で待ってるよん!


16 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12108
わかった


17 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka00829
精々残り少ない余生を楽しみましょうってか





(dat落ち)

482 : ミサカ 絆地獄たち 8/39[saga] - 2010/06/07 19:01:28.36 5Sm7ts.0 9/41

それから数十分後




肩まで伸びたきれいな茶色の髪、どこぞの中学の制服、整った顔立ち、そして頭にはいかついゴーグル。
10459号と寸分違わぬ姿をした少女――妹達、検体番号12108号がゲームセンターに到着した。

到着して、自分を呼んだ個体を探すもそれらしい人影はない。
見えるものと言えば若者同士の喧嘩、それを見て悲鳴をあげる女性、
「不幸だー!」と叫びながら犬に追いかけられる少年……
そんな光景を見ながら、12108号はぼんやりと思った。


――相変わらず騒がしい街だ


喧騒の街、学園都市。

主に学生を集め能力開発や実験、研究を行っており、広さは東京都の約3分の1を占める。
脳開発に携わる科学者には非常に魅力的な環境であろう。
もちろん、たいていの科学者はまともだ。
しかし、己の目的のため非人道的な実験を平然と行う科学者がいるのもまた事実だった。


10459号、12108号もそのような実験の「実験体」であった。


絶対能力進化(レベル6シフト)。

その内容を簡略に説明すると、学園都市最強の超能力者、一方通行に
様々な状況のもと、同じ人間のクローン体を2万人殺させるという
これ以上ないくらい非人道的なものであった。


実験で使われるクローン体――妹達は成長促進のため薬漬けにされ、
機戒による人格形成を受け、戦闘訓練を受けた。

言ってみれば、殺されるためだけに。

483 : ミサカ 絆地獄たち 9/39[saga] - 2010/06/07 19:02:02.86 5Sm7ts.0 10/41

今現在、訓練は最終段階。
学園都市の地理把握、および一般人に怪しまれない立ち居振る舞いの学習。
自由行動期間。そう置き換えても良かった。

実験の内容を考えると奇妙と思えるほどの温情訓練であったが、
もしかしたら今回の実験に参加した科学者の中にも
少しでもクローン体に人間らしい経験をさせたい、という良識派がいるのかもしれない。

普通なら喜んでも良さそうなものだが、多くの妹達がそうであるように
12108号も暇を持て余していた。やることがない。退屈。
だから今回10459号の呼びかけに応じたのも暇つぶしの意味合いが強かった。


しかし、その10459号の姿が見当たらない。


呼びだした側がいないのはどういうことなのか、と考えつつ
少女は無表情のままあたりを見渡す。やはりそれらしき姿はない。
入り口で待ってると言ったはずだがゲームセンターの内部にいるのだろうか?
ことによると入り口が複数あるのかもしれない。

とりあえず入店するのが合理的だ、12108号はそう考えた。
入り口の前まで進み、自分の背丈よりはるかに大きいガラス扉に手をのばす。
少女の手が扉に触れるか触れないか、ちょうどその時。彼女の耳に奇声が飛び込んできた。


「うおぉおーい!」


12108号は声のした方向、右側に向きなおす。
そして遠くから何者かが全速力で向かってくるのを確認した。

肩まで伸びたきれいな茶色の髪、どこぞの中学の制服、顔はこの距離ではわからないが、頭にはいかついゴーグル。
だんだんと距離が近づく。
学習装置で習得した通りのきれいな走法、少し疲労の色が見えるが自分と同じ顔、
顔がうっすら紅潮し、汗も浮かべている。その後ろには真っ黒な大型犬を引き連れて――


「ばうばう!」

10459号「うぁぐぐぐぉおあぇ!」

12108号「!?」

484 : ミサカ 絆地獄たち 10/39[saga] - 2010/06/07 19:02:47.91 5Sm7ts.0 11/41

10459号と思しき個体が犬に追いかけられている。
それはわかる。だがこちらに向かってきてるのは何の意図があるのか。
まるで「たすけてください!」と言わんばかりの勢いだ。


10459号「たすけてください! とミサカは必死にお願いします!」


やはり、そうなのか。

12108号は再度犬の姿を観察した。高さは自分たちの胸あたりほど。
重戦車をイメージさせるどっしりとした肉つき。
体と同じ色のその目は、ドス黒く輝きを放っている。
その口からは鋭い牙がむき出しになっており、下手したら食い殺されそうな気がしてくる。


10459号「たすけてえええぇ! とミサカはワラをもつかむ状態です!」

「ばう!ばう!はっは!」

12108号「……」


腰に手をあて、ぴょんぴょんと跳ねるようにその場足踏みを始める12108号。
そのまま振り向くと、10459号に巻き込まれる形で一目散に走りだした。

485 : ミサカ 絆地獄たち 11/39[saga] - 2010/06/07 19:03:39.49 5Sm7ts.0 12/41

あれからどれくらい走っただろうか。

陽が傾きかけたころ、大きな川にかかる鉄橋の上。
そこに息も絶え絶えな二人の少女の姿があった。


12108号「どうやら逃げ切れたようですね、とミサカは現状を把握します」

10459号「一時はどうなることかと思いました、とミサカは汗びっしょり……
もうこれに懲りて大型犬にエサをやろうと近づいて尻尾を踏むという失態はしません、とも付け加えます」


そんなことをしていたのか。12108号は声にこそ出さなかったが内心呆れていた。
無駄に行動を起こし、無駄にリスクを背負い、無駄に走るハメになった。
調整は大丈夫なのか、と同じ実験体の身ながら心配になってくる。

そんな12108号の白い視線を知ってか知らぬか、10459号は突如何か気付いたように口を開いた。


10459号「自己紹介がまだですよね、初めまして私は検体番号10459号です! とミサカは一礼します」


ぶん! と頭突きかと思うほど勢いよく頭を下げる10459号。
危ない。命中したらスイカくらいは割れそうだ。


12108号「厳密には初対面とは言えませんが私は検体番号12108号です、とミサカは儀礼的に返事をします」

10459号「では早速ケツイをやりにゲーセンに戻りましょう、とミサカは提案します」

12108号「別に構いませんが、とミサカは乗り気ではないものの提案に賛成します」


二人はもと来た道を戻り出した。が、数歩進んだところで10459号が足を止める。
横を歩いていた12108号は「今度はどうしたんだ」、と思いつつ10459号の方を向いた。

夕陽を中心に空、川がほのかに赤みを帯びている。
どうやら10459号は夕焼けに見とれているようだった。
よほど気にいったのか、手すりから身を乗り出して満足気な笑みを浮かべている。

12108号は少し思案した。12108号にとって夕暮れは単なる自然現象の一つに過ぎない。
しかしそこに趣を感じる人間がいることも知っている。
邪魔するのは無粋かと思い一緒に夕焼けを眺めることにした。

486 : ミサカ 絆地獄たち 12/39[saga] - 2010/06/07 19:04:16.76 5Sm7ts.0 13/41

数分後……



10459号「……」

12108号(まだですか、とミサカは少々疲れてきました)


横目で10459号の方を見るが微動だにしていない。
その目だけは妙に生き生きとしている。
放っておいたらいつまでもこのままかもしれない。
しかし、一度邪魔するのが無粋だと思った手前今さら話を切り出しにくい。
12108号はしょうがなく夕焼けを再度鑑賞することにした。

飛行船が赤みがかった空を突っ切るように飛んでいる。
中央に取り付けてある大画面は、日本有数の大企業EVAC社が新型炊飯器の開発に成功した、という内容のニュースを伝えていた。

視線を少し落として夕陽。これはもう飽きた。

さらに落として川。何か流れている。木の板、その上に茶色い物が……物?


猫だ。子猫が木の板に乗って流されている。
隣の10459号も気づいたらしく「あ」と小さく声を出した。

487 : ミサカ 絆地獄たち 13/39[saga] - 2010/06/07 19:05:01.48 5Sm7ts.0 14/41

さてどうしたものか、12108号は決して非情な性格の持ち主ではない。
猫だって好きだ。子猫は、大好きだ。

しかし状況がどうしようもない。
子猫は川のちょうど中央を流れている。川岸までの距離は30メートルといったところか。
助けに行くまでに遠くに流されてしまう。

悩んだ12108号は10459号の意見を仰ぐことにした。一応。


12108号「どうしますか、とミサカは……」


言いかけて12108号は気づいた。さっきまで隣にいた10459号がいない。
足元にはなぜかゴーグル、セーター、靴、靴下と濡れたら困りそうな物がセットで置かれている。
そして真下から轟音が鳴り響く。


12108号「……」


12108号は、取りあえず横に向いていた顔を正面に戻した。
そのままあごを引いて川を見下ろす。


10459号「今助けます! とミサカは意気込みます!」

子猫「みいー」


いつの間に川に飛び込んだのか。
川に飛び込んだ10459号は意外にも達者な泳ぎを見せている。

12108号は驚きと感心と呆然が入り混じりしばらくの間次の行動が起こせなかったが、
我に返ると10459号脱ぎたてセットを持ち、橋を渡って川岸まで急ぎ足で向かった。

488 : ミサカ 絆地獄たち 14/39[saga] - 2010/06/07 19:05:41.30 5Sm7ts.0 15/41

数分後、川岸


12108号が川岸まで泳いできた10459号に手を貸し引っ張り上げる。
少女の体は全身ずぶ濡れだが、その手にはしっかりと子猫が抱かれている。
救助は成功した。


12108号「お疲れさまです、とミサカは一応ねぎらいの言葉をかけます」

10459号「なあに当然のことをしたまでです、とミサカは胸をはります。
子猫ちゃん、これからは気をつけるんだぞ、とも付け加えます」

子猫「みぃー!」

10459号「ぐわ!んげ!」

子猫は10459号にネコパンチをかます。驚いた10459号の手から大地に下りるとそのまま逃げるように走り出した。
残された二人の少女はだんだんと小さくなるその姿を黙って見つめることしかできなかった。


10459号「なぜですか……と、ミサカは茫然自失に陥ります……」

12108号「私たちの体は微弱な磁場を形成しています。
それに反応して逃げ出したのでしょう、とミサカは冷静に分析します」

10459号「はあ……とミサカはため息を吐きます……」


肩を落としがっくりとうなだれる10459号。
その姿を見て少し同情したのか、12108号は慰めの言葉をかける。


12108号「あの……そんなに落ち込む必要はないと思います。
少なくともあの子猫はあなたのおかげで助かりました。
そこは自信を持っていいのではないでしょうか、とミサカは客観的に意見を述べます」

10459号「……」

12108号「……?どうしましたか、とミサカは……」

10459号「うん、君良いこと言った、何か自信が湧いてきました! とミサカは再度胸を張ります」

12108号(やっぱり変わってるな、こいつ)

489 : ミサカ 絆地獄たち 15/39[saga] - 2010/06/07 19:06:22.78 5Sm7ts.0 16/41

10459号「善行をした後は気分がいいです、
というわけでケツイをやりに行きましょう、とミサカは改めて誘います」

12108号「その前に服を乾かすのが先ではないでしょうか、とミサカは突っ込みを入れます。
濡れた服から水分が蒸発する際に体の熱エネルギーを奪っていき、
風邪など体調の不調を起こす恐れがあります、とも付け加えます」

10459号「ゲーセンに行くのが先ではないでしょうか、とミサカは冷静に分析します」


どこが冷静な分析なんだ。12108号はのどまで出かかったその言葉をぐっと飲み込む。
ここで10459号を罵ったところで状況は変わらない。ストイックに建設的な意見を出すべきだ。


12108号「もう時間も遅いので研究所に帰還するのはどうでしょうか、とミサカは提案します」

10459号「嫌です、とミサカは拒否します」

12108号「なぜですか、とミサカは問いかけます」

10459号「ケツイやりに行きましょう、とミサカは誘います」

12108号「質問に答えてください、とミサカは困惑します」

10459号「ケツイの二人プレイは最高に燃えると思うんですよね、
私たちのケツイ愛は決して服が濡れたくらいで冷めたりはしません、とミサカは熱弁します。
服なんか適当に絞っとけば大丈夫です、とも付け加えます」


今までにない強い口調でしゃべる10459号。
その勢いたるや、ケツイとやらの素晴らしさを小一時間は語り出しそうな感じだ。
下手に刺激すると危険だ、ケツイについて話す10459号にはそう思わせるほどの圧力がある。

12108号は、折れた。


12108号「もうそれでいいです、とミサカは投げやりに言います」

490 : ミサカ 絆地獄たち 16/39[saga] - 2010/06/07 19:06:56.28 5Sm7ts.0 17/41

二人は再び街頭に出るとゲームセンターへと向かって歩き出した。
その二人のずぶ濡れになってない方、12108号は奇妙な感慨を覚えていた。

二万人の妹達、そこには御坂美琴という一人のオリジナルがいることを大前提としている。
その二万人が同じように造られ、同じように教育され、脳波リンクにより記憶を共有するわけだから
当然、同じような人間になる。共有してない情報から多少の個体差は出るが、微々たるものだ。
しかし、12108号は10459号の性格を把握しきれずにいた。
自分と全く同じはずなのに。

簡単に言えば、12108号は10459号の未知の部分に興味を持ち始めた。


12108号「泳ぎはどこで覚えたのですか、とミサカは尋ねます」

10459号「今日見た映画の見よう見まねです、とミサカは説明します」

12108号「それはどんな映画ですか、とミサカは再度尋ねます」


片方がひたすら質問し、もう片方がひたすら答える警察の取り調べのような会話。
違うことと言えば取り調べを受ける10459号の顔がかすかに得意げであるぐらいか。
はたから見たらお世辞にも盛り上がってるとは言えない。
しかし当の二人は満足していた。
10459号は自分の体験を話すだけで楽しかったし、12108号は話を聞くだけで何となく気持ちが軽くなった。


10459号「着きましたね、さあケツイしましょう、とミサカは意気揚々と乗り込みます」


数十分前に訪れたばかりの場所。ビルやら映画館が並ぶ中、肩身が狭そうな小さなゲームセンター。
造られてから大分経つのか壁はうっすら緑に変色しており、使われなくなった機甲の緑を連想させる。

その古寂れた外見は、しかし今の12108号には新鮮に映った。

491 : ミサカ 絆地獄たち 17/39[saga] - 2010/06/07 19:07:37.60 5Sm7ts.0 18/41

夏、ゲームセンター薔薇DIEス二階。
蒸し暑いがこの時期は学生さんたちも多く見られ店内はにわかに活気づいている。
といってもシューティングコーナーに相変わらず人が少なく
今現在、常連と化した少女が二人いるだけだった。


ズキャーーーーーーーーン!アーッ!!!!!!!!!(←ゲームオーバー)


10459号「……」

12108号「相変わらずですね、とミサカは少々呆れます」

10459号「今回は4ボスまで行けたもん、とミサカは反論します」

12108号「そんなにケツイが好きならネットワークを通して実況プレイをしてみては? とミサカは意地悪な笑みを浮かべます」

10459号「……前にそれでヒンシュク買ったの知ってるくせに、とミサカはちょっと拗ねます」


10459号と12108号の付き合いはまだ続いていた。
互いに時間がある時はこうやってゲームセンターで駄弁るのが恒例となっている。
12108号の目には10459号の持つ個性が出会うたびに増していくように思えた。
あえて形容するなら明朗活発、天真爛漫、能天気、こんなところか。
いつの間にか、口調も変わった。(語尾は例のアレだが)

一方、12108号は突っ込みと皮肉ばかりが上手くなっていた。


12108号「少し重要な話があるのですが、とミサカは申し出ます」

10459号「うんいいよ、とミサカは軽く返事をします」

12108号「こんな不衛生で騒がしい場所ではやりにくいので喫茶店にでも行きましょう、とミサカは提案します」

10459号「もしかしてケンカ売ってるのかな、とミサカはカスり波動ガンしゅっしゅ」

露骨に「怒ってます」という顔を作る10459号を12108号が適当になだめる。
二人の間では慣例となったやりとりを経て店外に出た。

492 : ミサカ 絆地獄たち 18/39[saga] - 2010/06/07 19:08:18.41 5Sm7ts.0 19/41

街頭。夕空を浮かぶ飛行船が大画面で今日のニュースを伝える。
「先月上映されたEVAC社制作『夕暮れの艦隊』の興行収入が歴代一位となり……」
その声が響く中、二人の少女は横並びで歩を進める。


10459号「大事な話って何? とミサカは興味津津です」

12108号「……」

10459号「うおーい、聞いてますかー、とミサカはあなたの顔の前で手をブンブンやります」


12108号は悩んでいた。今日の話をどう切り出すか。その一点を。
その内容はもちろん実験にも関係している。

実験は何の障害もなく順調に進行していた。
毎日、数時間おきに実験体が一方通行と交戦し、物言わぬ屍なり
別の実験体が複数でその死体及び戦闘の形跡を処理していく。
そこに倫理観、道徳心といった類のものは入る余地はなく、
ただ淡々とスケジュールが守られるだけであった。

実験は既に第九九〇〇次実験までが完了していた。

10459号と12108号の二人にももちろん実験での役割がある。
次会えるのはいつになるかわからない。いやもう時間はないのだ。これが最後かもしれない。
だからこそ12108号はこの機会に話しておきたかった。

思案を続ける12108号の目によく見なれた、見なれすぎた人影が近づいてくるのが映った。
自分たちと同じ容姿。妹達の一人であるのは疑いようがなかった。


「あなたたちは検体番号10459号と12108号ですね、とミサカは念のため確認を取ります」

493 : ミサカ 絆地獄たち 19/39[saga] - 2010/06/07 19:09:03.78 5Sm7ts.0 20/41

10459号「10032号さんちゃーす、とミサカは軽い挨拶をします」

12108号「……」

10459号がニコニコと応対する中、12108号は内心穏やかならざるものを感じていた。

10459号「今日は何の用? とミサカは尋ねます」

10032号「いえ、特に伝達はありません、とミサカは答えます。ただ……」

10459号「?」

10032号「あなたたち二人はネットワークに接続してない時間が長いため、
研究者たちに目を付けられる恐れがあります。目立つ行動は避けるべきでは? とミサカは助言します」

10459号「うん気をつける、わざわざどうも! とミサカは頭を下げます」

10032号「では私はこれで、とミサカは一礼します」


10032号が十分に遠ざかったのを確認して、やっと12108号が口を開いた。


12108号「言いたいことだけ言って帰ってしまいました、とミサカは不快感を示します」

10459号「うん? でも10032号さん良い人だよ? とミサカは評します」

12108号「良い人って……」

12108号が吐き捨てるように言う。

12108号「みんな、同じではありませんか、とミサカは率直に言います」

494 : ミサカ 絆地獄たち 20/39[saga] - 2010/06/07 19:09:40.70 5Sm7ts.0 21/41

12108号は10032号が嫌いだった。

いや、10032号だけではない。
実験の計画を立てた研究者たち。実験の主役であり虐殺を楽しむ一方通行。
こんな悲惨な実験が行われていることを知ってか知らぬか、どこかで平和に暮らしているだろう「お姉様」。
計画通りに殺されることに何の疑いも持たない妹達。そしてそれらと本質的に何ら変わらない自分自身。
とにかく実験に関わるもの全てに嫌悪感を抱くようになっていた。


――ただ一人の例外を除いて


10459号「どしたの? とミサカはちょっと心配します」

12108号「何でもありません、そこの喫茶店にでも入りましょう、とミサカは提案します」


どうしてこのような感情を持つに至ったかは12108号自身よくわかっていない。
何かを好きになればそれを中心にした価値観が形成され、相反するものが嫌いになる。
12108号の場合、その結果が少し極端だったというだけのことかもしれない。

12108号は考える。10459号は他の妹達それぞれ全員を一人の人間としてとらえているらしかった。
それが単なる同朋としてなのか、はたまた姉妹としてなのかはわからないが。


一体どれほど辛かったのだろう。


ある時は殺される者と感覚を共有し、ある時は死体を処理し、人の死と直面することは。
それを九千回以上繰り返し、なおも続くのは。
そしていずれは自分も死す運命にあるということは。

495 : ミサカ 絆地獄たち 21/39[saga] - 2010/06/07 19:10:30.46 5Sm7ts.0 22/41

喫茶店、中


10459号「喫茶店なんか初めてだなー、とミサカは興奮を禁じえません」

12108号「……」

10459号「……? 大丈夫?今日調子悪いの? とミサカは心配します」

12108号「……いえ、大丈夫です、とミサカは自分の健康状態を伝えます」

10459号「そっか、無理しちゃ駄目だよ、とミサカは気遣います」


――無理してるのはどっちだ。


間もなく店員がやってきた。
注文を聞く時二人の少女の顔を不思議そうに見比べ、すぐに合点がいったという表情をした。
仲の良い双子とでも思ったに違いなかった。
12108号は適当にメニューの中から安そうな飲み物を探すと、その商品名を店員に告げた。


10459号「チョコパフェ楽しみだなあ、とミサカは期待でいっぱいです」


笑顔を浮かべる対面の少女を12108号はじっと見つめた。
屈託の無い笑顔。この笑顔も無理に作ってるものなのだろうか。
普段の明るい言動も、ゲームに精を出すのも辛い現実から少しでも目をそらすための物なのか。

12108号は胸の痛みを感じた、狂おしいほどに。
何とか目の前の少女の力になりたい。そう思った。


12108号「10459号、ネットワークは遮断してますね、とミサカは確認を取ります」

10459号「うん、で何? とミサカは質問します」

12108号は10459号を真っ直ぐ見据えると、意を決して言った。

12108号「死ぬのは恐くないですか、とミサカは問いかけます」


10459号の顔から笑顔が消えた。

長い無音。
もともと静かな喫茶店の中、二人の少女の周辺はより静けさを増していた。

496 : ミサカ 絆地獄たち 22/39[saga] - 2010/06/07 19:11:06.76 5Sm7ts.0 23/41

場に重たい空気が流れる。
その空気を察し、10459号もまた真剣に答えた。


10459号「死ぬのは……恐いです、とミサカは正直に答えます」

少女は悲壮な表情を浮かべながらも淡々と言葉を続けていく。

10459号「何もできなくて……何も考えれなくて……そんな時間が永遠に続くのって恐いです、とミサカは付け足します」

12108号はその一語一句を静かに、確実に心に刻んでいく。

10459号「でも……しょうがないんですよね、私たちそのために作られたから、とミサカは……」


言葉はここで止まった。そっと目を閉じる10459号。
12108号はその顔を黙って見つめた。
泣いているのかとも思ったがその様子はない。
涙を見せまいと必死にこらえているのか、あるいは涙などとうの昔に枯れ果ててしまったのか。

哀愁と静けさを感じさせるその姿は、既に亡くなった者への黙祷のようにも見えた。

497 : ミサカ 絆地獄たち 23/39[saga] - 2010/06/07 19:11:52.35 5Sm7ts.0 24/41

やはり他の妹達とは違う、と12108号は確信した。
10459号は「死ぬのは嫌だ」と胸を張って言える普通の人間だ。
本来、こんな狂った実験に関わるべき存在ではないのだ。

目の前の、一人の少女を救いたい。
それは実験体として生まれた12108号が初めて自分で見つけた目的であった。


10459号「なんかごめんね、せっかく久しぶりに会えたのに、とミサカは謝ります」

12108号「……死にたくない人が死ぬ必要はない、とミサカは自分の考えを述べます」

10459号「……?」

12108号「あなたは」

一拍の間をおいた後、19108号はこの日のために考えていた計画をついに切り出した。

12108号「実験から脱出する気はありませんか、とミサカは相談します」


小学生でもわかるような簡単な言葉で構成された一言。しかし10459号は一瞬その意味を理解できなかった。
10459号は目を白黒させるとやっとの思いで返事をした。


10459号「……冗談だよね、とミサカは……」

12108号「ミサカは真剣です、と念のため言っておきます。
検体番号00000号という前例がある以上決して不可能な話ではない、とミサカは他の事例を引き合いに出します」


検体番号00000号。この実験で初めて作られた実験体。
現在は何らかの原因でミサカネットワークから遮断され行方不明となっている。
どこか不具合でも生じたのか、逃げ出したのか、詳細は明らかではない。
何にしろ既に研究者たちの手を離れた個体がいるという事実に大きな意味があるのには違いなかった。

498 : ミサカ 絆地獄たち 24/39[saga] - 2010/06/07 19:12:33.04 5Sm7ts.0 25/41

10459号「……でも」

12108号「もちろん不安なのはわかります、ですがこのまま何もせず座死するより……」

10459号「でも、でもでも」

12108号「言いたいことがあるならはっきりしてください、とミサカは指摘します」

10459号「その……みんなに悪いかなって、とミサカは罪悪感が湧きます」

12108号「……みんなとは誰ですか、とミサカは見当が付きません」

10459号「だから、妹達のみんなとか……とミサカは遠慮がちに答えます」


12108号は軽い頭痛を感じた。この期に及んで何を言っているのか。
しかも10459号の言葉には「妹達のみんな≪とか≫」と含みがある。
この≪とか≫は最悪、実験の研究者たちのことを指しているかもしれない。
あんな連中に対して義理を感じる10459号の気がしれない。
もっとも、この甘さが10459号を10459号たらしめてるのだが。


12108号「なるほど、他の妹達をおいて自分だけ逃げるのは忍びないというわけですね、とミサカは推測します」

黙ったまま小さくうなずく10459号。

12108号「ですが待ってください、この脱出計画は他の妹達のためでもあるのです、とミサカは説明します」

10459号「どういうこと? とミサカはわかりかねます」

12108号「もし計画が成功したら他の妹達も『自分も逃げ出そう』と考えるに違いありません、とミサカは推測します。
一人、また一人と逃げ出したら実験はどうなるでしょうか、とミサカは投げかけます。
この計画の成功は、他の妹達の命を救うことにつながるのです、とミサカは説明します」


他の妹達の命を救う。その言葉に10459号の眉がぴくりと反応する。

しっかりとした口調で熱弁を振るう12108号だが、一方で自分の胸に冷え切っていたものを感じていた。
実験が中止になるなんてバカなことありっこない。クローン体の単価は十八万円。
学習や調整の手間があるとはいえ、欠けた分をまた作ればいいだけの話だ。
最初の何人かが逃げた時点で研究者たちも対策を練るだろうし、
そもそも他の妹達が逃げ出すなんて能動的な行為をするとは思えなかった。

それでも口から嘘が平然と流れ出てくる。12108号は改めて自分が異常だと自覚した。

でもこれでいい。目の前の少女が普通の、平穏な生活を手に入れればそれでいい。

499 : ミサカ 絆地獄たち 25/39[saga] - 2010/06/07 19:13:16.14 5Sm7ts.0 26/41

力強い説得を続ける12108号。10459号は一考ののち、首を縦に振った。


10459号「みんなを助けるため……だね、とミサカは決意します」

12108号「ええ、あまり時間はありません、早速ですが具体的な内容を……」


互いの腹は決まった。
いつの間にか置いてあったチョコパフェとアイスコーヒーをそれぞれ手に取ると密談が始まる。
闇に潜むようひっそりと静かに。

まず問題になったのは逃げ込む先であった。
実験には学園都市の上層部が関わっているから、当然学園都市外まで逃げなければならない。
しかもクローン体がその生命を維持するには、高度な設備、技術を持つことが必要条件だ。
でなければクローン体特有の短命により、のたれ死んでしまう。

学園都市外、高度な技術。この二つに該当する場所が一つ見つかった。

EVAC社。その正式名称を「EVAC Industry」社という。
学園都市の南方に隣合うこの会社は世界で知らぬ者はいない日本有数の大企業である。
その広さは工場、研究機関など関連施設も含めて神奈川県を丸々覆い、
学園都市に対峙する形で巨大な企業都市を形成していた。

もともとビデオゲームの開発のみを行っていたその会社はヒット商品を次々に生み出すと急成長を遂げ
現在では電化製品、航空機などの製造業、娯楽産業、クローン体を含む生命科学なども取り扱っている。

当然、政治的発言力も大きく学園都市といえど迂闊に手を出せない存在である。
なお学園都市とEVAC社は決して円満な関係ではない。
両者の持つ力があまりに大きく、現在は友好的な関係だが互いに隙あらば~といった感じだ。

脱出計画を企てる二人にすればまるでこの時のために用意されたような場所ではあるが、
問題はEVAC社が受け入れてくれるかどうかだ。

学園都市の裏で行われている非人道的な実験から逃げ出したクローン体二名。
これをEVAC社がどう見るか。
学園都市を非難する材料として保護するか。はたまた研究対象として保護するか。
いずれにせよ悪いようには扱わないのではないのか、という結論に達した。

500 : ミサカ 絆地獄たち 26/39[saga] - 2010/06/07 19:13:50.16 5Sm7ts.0 27/41

続いて移動手段。

学園都市外に出れて、かつ高速。
学園都市から北へと走る夜間帯の貨物列車を利用することになった。

深夜の駅に忍び込み、貨物列車に隠れる。
もともと軍用クローンとして製造された二人には造作もないことだ。

途中、12108号があえて真っ昼間、人の多い道を通るのを提案した。
実験が明るみに出るのを恐れて逆に手を出しにくいのでは、と考えての策だったが
一般人を巻き込む可能性があると10459号から猛反対を受け、結局却下された。

決行は八月十四日。
出来るだけ早く、そして二人が行動を起こしてもできるだけ怪しまれない日付となった。

細かい部分に不安は残るがやむをえない。計画自体に無茶があるのは明白だった。
例えるなら高度二千メートルで綱渡りをしつつ雲をつかむような話だ。


それでもやるしかない。


計画に一応のメドが立つと二人は一旦別れ、元の実験体としての日常に戻った。
一日、また一日と経つたびに静かに、そして確実に緊張は高まっていった。

10459号は自分たちにも明るい未来が訪れることを信じて。
12108号は自分には決して見ることのできないであろう明るい未来のために。

八月十四日――審判の日を迎えた。

501 : ミサカ 絆地獄たち 27/39[saga] - 2010/06/07 19:14:23.51 5Sm7ts.0 28/41

八月十四日、深夜。

街は既に人気がなく静まりかえっている。
わずかな月明かりだけがあたりを照らす夜の街を、駆け抜けていく二つの影があった。

10459号と12108号は本日最後の実験が終わるとすぐに合流。
そのまま第一の目的地である駅へと向かっている。むろん、ミサカネットワークは遮断して、だ。

12108号は自分の体に異常を感じていた。脈拍数、体温の上昇。
深く考えずともこれらが焦り、不安に由来するものであることは明白だった。
隣の10459号も同じことを感じているはずだ。
自分が落ち着かなくてどうする、と12108号は無理やり自らを奮い立たせた。

それにしても不気味なほど静かだ。
静けさのあまり自分の足音、心臓の鼓動、呼吸音さえもいやに大きく聞こえてくる。
12108号は体の動きは止めず、首を回して周囲を確認する。
周りには依然変わった様子はない。


10459号「大丈夫? とミサカは小声で尋ねます」

12108号「いえ、何でもありません、とミサカは返答します」


追っ手の一人でも来る覚悟はしてたのだがその様子はない。
まさか実験体が逃げ出す訳がないとタカを括っていたのか。
それとも単価十八万のクローンなどいくらでも替えが利くとでも思っているのか。

考えても仕方がない。今は自分に出来ることをするだけだ。
12108号は再び前を見据えると、大地を蹴る足に力を込めた。

502 : ミサカ 絆地獄たち 28/39[saga] - 2010/06/07 19:14:56.87 5Sm7ts.0 29/41

ゲームセンター、喫茶店……見なれた場所が視界に入っては、また消えていく。

12108号(そういえばこのあたりで10459号と出会ったんだっけ。あの時は犬から逃げてて)

少し遠くに巨大な鉄橋が見えてくる。目的の駅は橋を越えたすぐそこだ。
心臓がより大きな音を立てドクドクと体の内側を叩く。
予定通りだ。数分後に発車する貨物列車に潜入しそのまま学園都市の外まで抜け出す。

鉄橋の入り口にさしかかる。
あと少し。心臓だけでない。首、指先、体のいたる部分が激しく脈打っている。
と、ここで10459号が突然声を発した。


10459号「あ、あれ!」

12108号「……!」


12108号が10459号の示す方を見る。人がいる。
橋のちょうど中ほど。手すりにもたれ掛かるような姿勢。
背丈から予測するに未成年だろうか。


12108号「突っ切りましょう、とミサカは述べます」

10459号「うん! とミサカは答えます!」


追っ手なら既に何らかの動きを見せてるはずだがその様子はない。
恐らくは家出少年か家出少女か……
ともかく今相手にする理由などない。

503 : ミサカ 絆地獄たち 29/39[saga] - 2010/06/07 19:15:35.21 5Sm7ts.0 30/41

追っ手ではない。その考えに確信こそあるものの12108号の胸には不安が生じていた。
進めば進むほど、その男(女?)に近づけば近づくほど不安が広がっていくのがわかる。
まるで解除不能の時限爆弾でも胸に仕込まれたかのようだ。

逃げ出してから人を見かけなかったせいだ、と12108号は結論付けた。
ここまで人という人に遭遇しなかったのが逆に不自然なのだ。
人が一人橋にいる、ただそれだけの話だ。

爆弾は不発だ。何事もなく通り過ぎて終わる。
現に距離が二十メートルほどまで近づいたが白い髪のその男は一向に――


12108号(……白い髪?)


足取りは急に重くなった。
不安が疑念へと変わっていく。そんなはずはない。
八月十四日付けの実験はとうに終了した。実験場所だってかなり離れている。
脳裏に感覚共有を通して見た奴の顔が浮かぶ。
白い髪、赤い瞳、黒い服、口元にうっすらと浮かぶ笑み。
奴がこの場にいるはずがない。見間違いだ。

この時になって、初めて白髪の男が動いた。
何かに気付いたかのようにゆっくりと手すりから離れ、顔をこちらに向ける。
――と同時に10459号と12108号の足は完全に止まった。

その姿によく見覚えがあったから。
くすんだ白い髪、ぎらぎらと輝く赤い瞳、悪趣味な模様の入った黒い服。口元にうっすらと浮かぶ笑み。
12108号の頭の中のイメージと目の前の男が、完全に重なった。

足がすくみ、汗が吹き出し、心臓が破裂せんばかりに動く。体全体の器官が危険信号を発している。
疑念は確信を一気に飛び越して恐怖になっていた。


「よォ、遅かったンじゃねェのか?」


学園都市最強の超能力者、一方通行。
困惑する二人の少女を尻目に、ゆったりとした口調で言葉を発した。

504 : ミサカ 絆地獄たち 30/39[saga] - 2010/06/07 19:16:12.63 5Sm7ts.0 31/41

ふっと我に帰る12108号。今、一番すべきことは――


12108号「こっちへ! 早く! とミサカは手を引きます!」

10459号「う、うん――」


二人が逆方向へ逃げようとしたその時、背後から突風が吹いた。
態勢を崩しかけ身を少しかがめる。
気付くと、もう一方通行が自分たちの正面に回っていた。


一方通行「何逃げよォとしてンの、オマエら。あ、今回はそォいう趣旨だっけか」

10459号「どうして……?」

一方通行「あァ?」

12108号「なぜあなたがここにいるのです、とミサカは問います」

一方通行「オイオイ! 随分なご質問だなァ! 一万回近く同じ事やっててまだ自分の役割がわかンねェのか!」


一方通行が両手を大げさに広げて嘲笑する。
10459号は未だ事態が飲み込めてなかったが、12108号は気付いてしまった。

実験体二名。一方通行。特殊な状況下。人気のない場所。
これらが意味するものは、一つ。


一方通行「そういや、いつものセリフはどうした? あ、たまには俺が言ってみるのもオツかもなァ」


死神が静かに死刑宣告を告げる。


一方通行「残り時間一分。間もなく『予定通り』緊急第一〇四五九次実験、および第一二一〇八次実験を始めます。
木偶人形のお二方は所定の位置でガクガク震えていてください、てかァ!」

505 : ミサカ 絆地獄たち 31/39[saga] - 2010/06/07 19:16:49.45 5Sm7ts.0 32/41

結局、脱出計画など最初から破綻していた。

上の人間の手の平で体よく踊らされていただけだった。

逃亡先にEVAC社を選んだことも、この橋を通ることも、自分が10459号に脱出を持ち掛けたことも、
10459号との出会いも、研究者たちの思惑通りだったのかもしれない。

12108号は全身から力が抜けていくのを感じた。
自分は大馬鹿者だ。子ども騙しの計画を考え、結果、10459号の生命を究極の危険にさらしている。


一方通行「残り時間。四十……三十九……三十八……」


10459号が12108号の方を向く。
12108号は恐怖した。その口から罵倒の言葉が飛び出すのを。
残り少しの命とはいえ、この子にだけは嫌われたくなかった。

やがて10459号がゆっくりと口を開いた。


10459号「そんな顔しちゃ……」

12108号「……?」

10459号「そんな顔しちゃダメ! まだ何か手はあるよ! 二人で生き抜けよう! とミサカは頭をフル回転させます。
二人で力を合わせれば……きっと、ね」


ふっと体が軽くなる。
この絶望的な状況でもまだこの子は諦めてない。二人で生き抜けようと言ってくれる。
一瞬、嫌な考えが頭をよぎる。10459号の人格さえも研究者たちに意図されたもので――

関係ない、と思った。どんな過程があろうが10459号は10459号だ。
そして自分は10459号を助けたいと思っている。動機なんてそれだけで十分だ。

506 : ミサカ 絆地獄たち 32/39[saga] - 2010/06/07 19:17:31.41 5Sm7ts.0 33/41

一方通行「二十……十九……十八……」

考えろ。二人で生き残るなんて贅沢なことは言わない。
何とか10459号が生き抜ける方法を。

一方通行「十七……十六……十五……」

自分がおとりになって一方通行を引きつけるとして、
この実験が正規に行われているものなら近くに他の妹達が待機しているはずだ。
ならば普通に逃げさせても捕まる。

一方通行「十四……十三……」

ある考えが浮かんだが一方通行が見逃すか?
一方通行は意外に律儀だ。実験の開始までは手をださないことを祈るしかない。

一方通行「十二……十一……」

10459号「どう!? 何かある!? とミサカは!」

12108号「ひとつだけ……」

12108号が素早く手を10459号の足に回し、両手で抱え上げる。
突然の事態に慌てる10459号を尻目にお姫様だっこを完成させた。
10459号の体がずっしり重い。
鍛えておいて良かった。12108号は生まれて初めて訓練に感謝した。

一方通行「ジュウ! キュウ! ハチ! ナナァ!」

10459号「ちょ! 何してんの!?」

10459号を抱えたまま手すりの方へ向かう。

一方通行「ロク! ゴォ! ヨン!」

12108号「ここでお別れです、ミサカは別れの言葉を交わします。……あなたと過ごした時間、楽しかったですよ」

10459号「え、ま、」

一方通行「サァン! ニィ! イチィ!」

12108号「ちぇいさあああああああああああああああ!!」

10459号「ぐわあああああああああああああああああ!!」


10459号の体を高々と掲げ、角度を付けて放り投げる12108号。
10459号は宙を舞うと闇に吸いこまれるように落ちていき、そのまま川の中に消えていった。

507 : ミサカ 絆地獄たち 33/39[saga] - 2010/06/07 19:18:19.37 5Sm7ts.0 34/41

10459号が着水したのを確認し、ひとまず安心する12108号。
10459号は泳ぎが得意だ。あとは無事に逃げ切ることを祈るばかりである。

12108号は一方通行の方を向きなおした。
先ほどまでとは打って変わって静かにただずむ最強。
その静かさが逆に不気味さを放っている。
だがもう恐れる必要はない。失うものなど、何もないのだから。


一方通行「……何やってンの、オマエ」


冷めた口調。一方通行の反応は、驚きというよりはむしろ呆れに近かった。
まるで一連のやり取りが無駄だとでも言うように。


一方通行「まあ、たまには鬼ごっこてのもイイかもなァ。でもオマエらは大変じゃねェの?死体の処理とか――」


瞬間、闇夜を照らすような閃光が一方通行に襲う。
周囲に火花が飛び散る中、無傷の一方通行は攻撃が12108号によるものだと確認すると、
一際大きい笑い声を上げた。


一方通行「イイね! イイねェ!! 今日は積極的じゃねェか! 本気で殺しに来てくれよォォォォォォォォォォ!!」


さらに二本、三本……多数の電撃が棒立ちの一方通行へと突貫する。

今までの実験で明らかになっているのは「一方通行が周りに何らかのバリアーを張っている」ということであった。
バリアーに触れたあらゆる攻撃は全て跳ね返されるように攻撃側に帰ってくる。
もちろん、普通に戦っても勝ち目などない。
バリアーに制限時間があると決め込んでの物量押し。最強に対する最後の足掻き。

12108号に放たれた無数の電撃。その全てが命中する寸前のところで跳ね返り、12108号へと突き刺さる。
着弾した部位から痛覚が広がり、12108号の顔が苦痛でゆがむ。跳ね返されることを見越して手加減してるとはいえ、長い間耐えれないことは明白だった。
それでも構わず電撃を放つ。二人の間に無数の電撃が往復する。

刻一刻と経つにつれ電撃は弱くなり、数も途切れ途切れなっていく。そしてついに電撃は止んだ。崩れ落ちるように膝をつく12108号と余裕の笑みで立つ一方通行。
必死に攻撃した側が傷だらけになり、攻撃を受けた側が相手を見下ろす。なんとも理不尽な構図だった。

508 : ミサカ 絆地獄たち 34/39[saga] - 2010/06/07 19:18:54.00 5Sm7ts.0 35/41

一方通行「終わりか! 終わりですかァ! もう終わりですかァ! じゃあ今度はこっちからだなァ!」


言いつつ一瞬で距離を詰める一方通行。12108号に回避運動を取らせる時間なども与えず、
その無防備な脇腹にミドルキックを入れる。
12108号がゆっくりと倒れる――その途中、さらに上からはたくような無造作な仕草が12108号の体を地面に叩きつけた。

追撃。一方通行は足を後ろに引き、そのまま振り子のように12108号の脇腹に叩きこむ。
苦痛の声が漏らす少女は、背中を丸めうずくまる他なかった。


一方通行「愉快にケツなンか出しやがって。騎乗位より後背位がお好きですかァ? 橋上なのに!! ンはっ、無理があっか!」


さらに追撃。一瞬で勝負を決せぬよう手加減された蹴りが連続で突き刺さる。
打たれっぱなしのサンドバックのような状態で、12108号は次のように考えた。

これでいい。最初からレベル2の自分がレベル5の一方通行にかなうなど思っていない。
この男は人殺しを楽しむような狂った人間だ。逆に言えば、目の前の獲物を放っておくことができない。
こんな自分の命ならいくらでもくれてやる。できるだけ耐えて、10459号の逃げる時間を作るだけだ。

蹴られた部分から、痛みとは何か別の不快感が伝播していく。意識がかすれていき、口の中いっぱいに血の味が広がる。
幾度となく感覚共有を通じて味わった感覚。死はもうすぐ目の前にまで迫っていた。

ほどなく一方通行はいったん足を止めた。足を使い、転がすように12108号の体を仰向けにひっくり返す。


一方通行「なァ、死ぬ前にひとつ教えろよ。オマエなンであんなことした?」

12108号は答えない。単純に質問の意味を測りかねて。

509 : ミサカ 絆地獄たち 35/39[saga] - 2010/06/07 19:19:35.61 5Sm7ts.0 36/41

一方通行「なンで片割れの奴を逃がすようなマネをしたか、って聞いてンだよ。人形にも変な感慨が湧くことがあンのかァ?」

12108号「友達を……」

最後の力を振り絞り、吐き捨てるように言う。

12108号「友達を助けるのに理由が必要ですか? もっとも孤独に生きてきたあなたにはわからないかもしれませんが、とミサカは――」


言葉は途中で悲鳴に変わる。一方通行のその足が、12108号の左腕を横切るように踏みつぶしていた。


一方通行「トモダチだから助けましたァ? イイねェ! ケッサクだなこりゃ!
実験体がどの口で言ってンだァ! まあ、俺には一生わかンなくていいンですけどねェ!」


一方通行が振り上げた足を12108号の頭上に持っていく。
12108号はそっと目を閉じた。自分にやれることはここまでだ。
静かに、最後の時を待とう。

その時は、なかなか来なかった。
感覚的に長く感じているだけか、実際に長い時間なのか12108号には判断できなかったが。

突然、一方通行の声が聞こえてきた。


一方通行「……おい、これも実験通りなのかァ?」


多少の困惑が混じった声。目を開けると一方通行は12108号とは関係のない、どこか彼方を見つめていた。


――まさか


12108号は再度、最後の力を振り絞ると、一方通行の向いてる方向へと顔を向けた。

510 : ミサカ 絆地獄たち 36/39[saga] - 2010/06/07 19:20:13.82 5Sm7ts.0 37/41

そこには、全身ずぶ濡れの少女がしっかりと立っていた。


12108号(な、にを、――――)


少女は真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


一方通行「やっぱオマエらのことはわかンねェ。わざわざ死にに来なくてもいいだろォよ。探す手間が省けたけどなァ」


少女は止まらない。


一方通行「よっぽど死にてェンだな。ま、俺が言えた義理じゃァねェか」


少女が止まる。一方通行との間合いに入った所で。


一方通行「しかしわかンねェ。どうせオマエも、そこで寝てる木偶も、もうすぐ死ぬンだぜ。少しでも長生きしようとか考えねェのか?」

「友達を……」

一方通行「あ?」


10459号「友達を助けるのに、理由なんかいらない! とミサカは啖呵を切ります!」


朦朧とした意識の中、12108号の頭に10459号の声が鳴り響く。
ああ、そうか。この子はこういう子だった。
思慮がなくて、ノリで行動して……でも目の前の命を放っておくことができなくて……。

世界を救うようなヒーローなんていなくていい。悪党も、ましてやレベル6なんてどうでもいい。
当たり前のことを、当たり前にできる少女が一人いればそれで――


だが。10459号が死地に自ら来たのもまた事実だった。

必死に声を出そうとする12108号。
しかし、消耗のあまりか「逃げて」の一言すら10459号の元へは届かなかった。

511 : ミサカ 絆地獄たち 37/39[saga] - 2010/06/07 19:21:01.20 5Sm7ts.0 38/41

一方通行「トモダチ、トモダチ、トモダチ……クッソ気持ち悪ィ。オマエらはあれか? 小学校の学級会か何かと勘違いしてンのか?」


ツバを吐きつつ、不快感をあらわにする一方通行。赤い両目が10459号をとらえる。
鉄橋を思いっきり蹴ったその瞬間、爆発的な加速度を得ると目前の獲物に突撃した。


一方通行「大人しく殺されろっつってンだよォォォォォォォォォォォ!!」


一方通行により無造作に突き出されたその右腕が、10459号の頭部を狙う。
手が接触するかしないか、その刹那。10459号はかいくぐるように避けると、そのまま一方通行のふところへ潜った。

瞬時に手の握りを変える。人指し指と中指を真っ直ぐ伸ばすVサイン。


10459号「悪く思わないでね!!」


態勢を崩しよろめく一方通行の両目を狙い撃つ全力の目つぶし。
一方通行の虚を突いたその攻撃が完全に決まる、かに思われた。

指が網膜に触れようというその時、10459号は指から走る激痛を感じた。
まるでコンクリートの壁に針金を突き立てたかのように、二本の指がぐにゃりと曲がっている。
反射的に手を戻すと、一方通行が狂気の笑みを浮かべていた。

一方通行の左手が10459号の右腕をしっかりとつかむ。


10459号「あ!?」

一方通行「相方が左腕ならオマエは右腕だな」

12108号(や……め……)


12108号は何とか起き上がろうとする、が体が言うことを聞かない。


一方通行「結構キレイなンだぜ。真っ赤な血が噴水みてェに噴き出してよォ。見せてやろっか」


一方通行はほんの少し、力を込めるとそのまま10459号の腕を――――引きちぎった。

暗闇の中、少女の悲鳴と男の笑い声が響き渡る。

少女は、赤い血をまき散らしながら地面をごろごろとのたうちまわり、しばらくするとピクリとも動かなくなった。

512 : ミサカ 絆地獄たち 38/39[saga] - 2010/06/07 19:21:38.65 5Sm7ts.0 39/41

数分後、街頭


うす暗く、人気のない道を一人の男が歩いていた。
白い髪、赤い瞳、黒い服。特徴的なその姿にある者は奇異の目を向け、ある者は決して目を合わせようとしない。
学園都市最強の超能力者、一方通行。ちょうど本日の本当の最終実験を終え、帰路についていた。

ふと思い浮かぶ実験体の顔。それ同時に一方通行は小さく舌打ちをする。


――トドメを刺し損ねた。いや、同じことだ。どの道あの二人は出血多量か何かで死ぬ。

実験は成功だ。いつものように戦って、いつものように殺した。そして今、いつものように帰っている。
何ら変わりない。いつも通りだ。

なのに、心の奥底に奇妙な違和感がある。そもそも自分は人殺しを内省するような人間だったか。

一方通行は、再び狂気で自らの頭を満たす。まるで間違いを上から塗りつぶすように。


一方通行(人体をモグってのはやっぱたまンねェな。明日は久々に足でもやっか)


死神は不敵な笑みを浮かべると再び闇へと姿を消した。

513 : ミサカ 絆地獄たち 39/39[saga] - 2010/06/07 19:22:15.69 5Sm7ts.0 40/41

鉄橋は数分前に人殺しがあったとは思えぬほど静まり返っていた。
血がいたる所に飛び散ってる中、二人の少女は寄りそうように倒れている。

死を覚悟したその瞬間、二人が考えたこと。それは憎悪や後悔の類ではなかった。


10459号は12108号に感謝した。こんな自分に全力を尽くしてくれてありがとう、と。


12108号もまた10459号に感謝した。自分の生を鮮やかなものにし、はっきりとした目的を与えてくれてありがとう、と。


避けることのできない、永遠の別れとともに……。



――NO REMORSE






奇しくも、この後一方通行がとある少年に敗北することにより実験は中止に追い込まれることとなる。

少女がその幼い命を散らしてから、わずか一週間後の出来事であった。

514 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/06/07 19:24:18.81 5Sm7ts.0 41/41

以上です、布束絡ましたかったけどいろいろあって見送り
読んでくれた人。いよいよもってお疲れ様、そしてありがとう

あと禁書二期おめ