115 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/06/12 00:14:52.71 2fSntoEo 1/6

ここはとある教会。
今日もたくさんのキリスト教徒が礼拝に参加している……わけではない。
その教会は何故かまったく人気がなく、教会自体が神に祈りを捧げているようにただ粛々としていた。

そんな教会にただひとつの人影が見える。
修道女(シスター)である。修道女がたった一人。
両手を組み、膝を折り、蹲るようなその姿勢から微動だにもしない。

「お、おじゃましまーす」

不意に──そんな空間に、異物がやって来た。

「友達の家に遊びに来た子供ですか、あなたは! あの、今、こちらに入ってしまっても大丈夫ですか?」

綺麗な黒髪の青年と、長い髪の女性だった。
隣にいる青年を窘めるように女性は続ける。

「はい、何か御用ですか」

 修道女は、自身の祈りをすかさず中断させ、にこりと応えた。

「──綺麗だ」

「っ!!」

女性は思い切り青年の足を踏みつけた。

「ってぇ! なにすんだ!」

「アホ面晒してるからです!」

「なんだと!」

「なんですか!」

くすくす、と修道女から笑い声が漏れた。

「あ……」

「す、すいません。このアホ男、いつも誰にでもデレデレしやがるもんで」

「笑い顔もすっげぇ可愛い……」

「死ね」

ドッゴォ! と、衝撃音と共に青年は吹き飛んだ、ように見えた。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-6冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276186522/
117 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/06/12 00:15:14.03 2fSntoEo 2/6

「ふふ……お仲がよろしいんですね」

あくまで笑顔は崩さずに修道女は続ける。何か懐かしいものを見るように。

「あ、教会に傷を……。も、申し訳ありません!」

「俺には何も謝罪なしかよ……」

「当たり前です」

「くっそぉー、相変わらずひでぇ女だ」

「ふふん、一生後悔するんですね」

ああ、この二人には固い絆があるんだ。
そんな二人を修道女は微笑んで見つめていた。
その視線には恋人同士への憧憬と羨望と、──ズキリ──いけない。
今、私はとして考えてはいけない事を考えてしまいました。
お許しください、主よ。
ごめんね、『   』。

「あれ? おい、なんかシスターさんが俯いてるぞ?」

「え? あ、シスターさん! 本当に申し訳ありません! 謝罪と賠償は全てこのアホ男が……」

「おぃィ! いやまぁ、お前のせいだし俺が弁償するのも仕方が……」

「いいえ、失礼しました。少し昔の事を思い出してしまっていたのです」

「シスターさんでもそういう事、あるんですね」

「当たり前です! シスターさんだって女の子なんですから!」

「いいえ、こんなことを考えてしまう私はシスター失格なのかもしれませんね」

修道女は、一瞬だけ憂いを帯びた顔を見せた、気がした。

「それでは改めまして、私が当教会のシスターです。何か御用でしょうか」

それは──ただ主に敬虔な修道女の顔だった。

118 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/06/12 00:15:56.73 2fSntoEo 3/6

「結婚式──ですか?」

ここ、学園都市は言わずと知れた学園の街である。学生の内に結婚するなんて輩は滅多にいない。

──しなければならなくなってしまった、そんな人々も皆無ではないのだが。

「はい」

青年は先程は違い、真面目くさった顔で応える。

「俺と──」

女性に顔を向ける。
女性も青年に視線を注ぐ。
二人はしばし見つめ合った。
どれくらいの時間が経っただろう。
ふいに女性が観念したように頷いた。

「──こいつの、二人の、いや、二人だけの結婚式です」

二人だけ? 
修道女は首を傾げた。
結婚式と言えば、大勢の友達や、家族や、親戚や、──母親や、父親、きょうだい──そんな人々に囲まれて行うものだ。
大っぴらにしたくないという人々もいることはいるが、それでも二人だけというのは稀だろう。
修道女は自分の知識と照らし合わせてそう考えた。
いや、それ以前に──

「そもそも、ここの教会ではふだん結婚式という行事を行っていないのです」

「え゛」

青年の顔が引き攣った。
今までの真面目ぶった顔が崩れた事もあり、なるほどこれは『アホ面』だ。
修道女がそう思ったかは定かではない。

「なにアホ面ぶら下げてるんですか。ほら、行きますよ。ご迷惑をおかけしました、シスターさん」

「ちょ、ちょっと待てよ! おい、そんなに引っ張るな! あの、シスターさん、どういうことなんですか? 結婚式って言えば、チャペルで~みたいな勝手なイメージあるんスけど……」

「そのチャペルウェディングというイメージは決して誤りではないのですが。ウェディングドレスを着て、新婦に祝福を受け、ブーケを投げる。それは正式なイギリス清教の結婚式ではないのですよ」
「日本では、いわゆる「キリスト教式結婚式」という、ホテルや式場でそれなりの、華やかで、綺羅びやかで、おしゃれな結婚式を行うんです。本当の清教の結婚式というものは、静かで、もっと大人しいものなんです」

「はぁ……」

「その清教式の結婚式というものは、それなりの準備がいるのです。私のような修道女だけで結婚式など……」

「それでもっ」

「ほら、できないんですよ。とっとと諦めて……」

女性は青年の服を引っ張る。早くこの場から離れたいかとでも言うように。

119 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/06/12 00:16:24.65 2fSntoEo 4/6

「諦められるか!」

青年は叫んだ。

「っ!」

「お前はそれでいいのか!」

青年は叫び続ける。

「……って」

「意思じゃないのか!」

青年は叫び続ける。女性に向かって。

「契約じゃなかったのか!」

青年は叫び続ける。何かを吐き出すように。

「誓いじゃなかったのか!」

青年は叫び続ける。苦しさから逃れるように。

「けじめじゃなかったのか!」

青年は叫び続ける。誰かに向かって。

「…………だって」

「俺はっ!」

「こわくなっちゃいました」

120 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] - 2010/06/12 00:16:56.31 2fSntoEo 5/6

その女性は。

「ぐっ!!」

「怖いんですよ。私はあなたのものになりました。それでも」

「それでもっ! こわいんですよ!」

「あれから何年か経ちました」

「あなたと何年も過ごしました」

「色々なことがありました」

「私は大人になって、あなたも大人になりました」

「それでも──」

「超、こわいんです」

その女性は、とても幼く見えた。

122 : 浜絹モノ(終前)[sage] - 2010/06/12 00:17:37.65 2fSntoEo 6/6

というわけで、前スレ>>850.の続きでした。
タイトルは『浜絹モノ(終前)』
こんなところで止めてすいません。
あとキリスト教系の知識は曖昧です。脳内補完でよろしくお願いします。
今回もよくわからない感じですが、次回はこれでもかってくらいイチャイチャさせる予定です。


※関連
浜絹モノ(?) (前スレ>>850)
浜絹モノ(仮)(前々スレ>>889)←最初