397 : 未元定規[sage] - 2010/06/13 19:16:05.28 EVb.xEDO 1/5

――とある一室――

(はーぁ、なんでこんな親父の相手なんかしなくちゃいけないんだろ)

スクールのメンバーであるドレスの少女は『上』からの命令により、とある男と接触を図っていた。

「よく来てくれた。お酒は飲めるのかい?」

「いえ、未成年なもので」

「……それは残念だ」

能力を使わなくてもこの男の下心は丸分かりだった。早く終わらせたい。ドレスの少女はそう心の中で呟いた。

「まさかあの会社の役員が君みたいな子だとは思わなかったよ」

「えぇ、よく言われます」

さも当然のように答えるがもちろん嘘だ。上層部が偽の情報をこの男に与え、それらしく演じているだけだ。

「それで要件はなにかね?」

ドサッ、とソファーに腰掛けた男の目つきが変わる。一応それなりに危ない橋は渡ってきた目をしていた。

「はい。我が社はあなたの会社を買収しようと考えています」

「なんと」

もちろんこれも嘘だ。この男の裏でやっていることを確証付けるための嘘。言わば、揺さぶりである。

「買収と言っても。あなた方を下に置くような真似はしません」

「技術力を買いたい、という訳かね?」

「えぇ」

「うむ……」

ドレスの少女に与えられた仕事は、この男が『外』に学園都市の技術を持ち出しているという証拠を掴め、というものだった。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-6冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276186522/
398 : 未元定規[sage] - 2010/06/13 19:16:48.78 EVb.xEDO 2/5

(出来ればこんな奴に能力は使いたくないな)

「全面的に資金援助を約束します。資金繰りに困っていると聞きましたが?」

「……」

更に一歩踏み込む。買収を受け入れれば『外』に技術を流している事が明るみになってしまう。買収を断ったら資金繰りに困る。これでこの男がどこかでボロを出すと少女は睨んだ

「以下かでしょうか?」

「分かった。買収を受け入れよう。ただし……」

きた。これでボロを出せば目標は達成。後は適当にあしらって『上』に報告すれば完了。だが男の答えは予想外のものだった。

「ただし、君が条件だ」

「はいぃ!?」

突然のことに少女は驚いた。それもそうだ。イエスかノー、またはタイム。普通であればこの3通りの答えしか返ってこないはずだからである

「君を私の駒にしたい」

「あの、それはどういう……?」

「意味が分からないかい? つまりは人質という訳さ」

「っ!?」

この男を少々侮っていた。ただでさえ『外』に敏感な学園都市を相手に、その裏をかいくぐり技術を流しているその手腕は相当なものである

「あ、あの私は……」

「さ、隣に座りなさい。お互いに突っ込んだ話をしようじゃないか」

ソファーをポンポンと叩き男は手招きする。実にいやらしい感じが滲み出ているのを少女は感じた。

399 : 未元定規[sage] - 2010/06/13 19:20:33.76 EVb.xEDO 3/5

(これはまずいわ。一旦、お互いの距離を離して仕切り直しね)
少女は自らの持つ能力を使い、自分と男の心理的距離を遠ざけた。

「私たちは妥協案を用意していません。よってその条件は飲めせまん」

「君は役員とはいえまだまだ半人前の小娘にしか過ぎん。交渉の駆け引きというものを教えてやろう」

そう言うと男はおもむろに立ち上がり、ジリジリと少女との距離を縮める。

(効いてない!? いえ、違うわ。最初から距離は遠かったんだわ。なら距離を多少近付ければ……)

「見れば見るほど可愛い顔してるね。オタクの役員は見る目があるようだ」

「きゃあっ!?」

男は少女の手を取り壁に押し付け、自由を奪ってから足を掛け少女を寝転ばせる。大の大人に力で勝てるはずがなく、抵抗虚しく組み敷かれる形となった。

(距離を近付けても遠ざけても意味ないってことは最初からこれが目的!?)

時、既に遅し。ここまでくれば理性が吹っ飛んだ男に対し心理的距離など関係ない

「ちょっと、やめて!」

「可愛い抵抗してくれるね。燃えるシチュエーションだ」

ジタバタともがくも、手足に体重をかけて押さえられては身動き1つ取ることが出来ない。抵抗のない首をイヤイヤと辛うじで動かすも、それは男の本能に火を付けるだけだった

「いや、離して! あなたの話を聞くから! お願い!」

「妥協案は用意してないんだろう? なら話なんて意味ないね」

「ひっ!?」

首筋を舐められ思わず変な声を挙げてしまう。今まで犬か猫くらいにしか舐められていない場所だ。

「お願いだから止めてよ! 誰か助けて!」

「助けを呼んだとしても下の私兵団を突破出来るはずがないよ。残念だったね」

「いや! お願いだから触らないで!」

男は左手で少女両手を押さえつけ、右手で胸元を弄る。

「お願い助けて垣根!」

「おっと、心理ちゃんはお楽しみ中でしたか」

バダン! と根は扉を勢いよく蹴り、部屋の中で組み敷かれている少女をからかう。

「違うわよ! お願い早くなんとかして!」
「な、なんなんだね君は!?」

400 : 未元定規[sage] - 2010/06/13 19:21:08.49 EVb.xEDO 4/5

「俺か? 俺はその女の仲間だよ」

「仲間だと!? ええぃ、下の私兵団は一体なにをしている!?」

「私兵団? あぁ、あの雑魚共か。手加減はしてやったが生きてるか死んでるかは分からねぇな」

「っ……!」

男は絶句した。高い金を払って雇った100人の私兵団、その装備と技量はアンチスキルに勝るとも劣らない。この私兵団を垣根と呼ばれた男は1人で突破してきたのである。

「それよりよ」

「……」

「いつまでも俺の女に乗っかってんじゃねぇ!!」

「ふごっ!!」

垣根はまたも勢いよく蹴った。少女に覆い被さる男を。

「お、女ぁ? ぐっ! な、なんなんだよお前らはよぉ……」

「安心しろ、お前だけは生かしとけって命令だ。今ここど死ぬことない」

垣根はうずくまってる男の襟を掴み囁くように言う。

「い、今ってなんだよ!?」

「あーうるせぇ。うるせぇから寝てろ」

垣根の周囲が僅かに発光する。

「は? ぁ……」

男は間もなく眠るように倒れた。おそらく、空気中のなにかを未元物質で変質させ眠るようななにかを生み出したのだろう。

「こ、殺してない? 生きてるよね?」

垣根の背後に隠れるようにして少女は恐る恐る尋ねる。

「俺はお前と違ってそんなヘマはしねぇっての

「ご、ごめんなさい……」

401 : 未元定規[sage] - 2010/06/13 19:21:33.34 EVb.xEDO 5/5

「なぁ、謝る前によ」

「なに?」

「その胸元、どうにかしたらどうなんだ?」

「っ!?」

少女は慌てて胸を隠すも垣根に見られた後では意味などなかった。男に弄られた時は大丈夫なはずだったが、なにかの拍子にずれてしまったのだろう。胸の片方が露出していた。

「ばかっ、見るな変態!」

「助けに来てやったってのになんだよその言いようは」

「うっ」

「『お願い助けて垣根!』とか泣き言を言ってたくせによ」
「~~っ!」

似てもない声色を使ってからかわれジダバタする少女を垣根は「はははっ」と、笑い飛ばす

「でも、助けてくれてありがとう」

「礼なんかよりも反省するんだな。毎度毎度助けてもらえると思うなよ。切ると判断したら切る。俺達はそんな甘い世界にいねぇ」

「……分かってるわ」

先程までとは打って変わって真剣な顔付きで垣根は少女に対し忠告する。少女はその姿に多少の恐怖を覚えながらも承諾の言葉を返す

「ね、ねぇ! 1つ聞きたいことがあるんだけど……」

「あ? なんだよ」

もじもじとする少女に垣根はぶっきらぼうに聞き返す

「私はいつから垣根の女になったの?」

「……さぁな。なんのことだか分からねぇな」

「え、ちょなにそれ!?」

「ん? この音は下部組織が到着したのか。さて、早く帰るぞ心理ちゃん」

「ちゃんと答えてって……あ、待って! こんな所で1人にしないでよ!」

スタスタと先を歩く垣根とそれを追い掛けるドレスの少女。暗部に生きる2人の僅かな安らぎがそこにはあった