736 : in my memory -past- 0/7[] - 2010/06/15 21:34:48.33 epxabaMo 1/10少し書いてるのがたまったので投下します。
差し詰めプロローグ、といったところでしょうか。
では、読む前に。
・この物語はIF世界です。
・人によっては『原作殺し』です。IFなので当然かもしれませんが。
以上を踏まえた上で、御覧になることをおすすめします。
人間が怖かった。
それはないだろう、と人はいう。
曰く、怖いのは人を傷つける猛獣だと。
曰く、怖いのは人の形をした幽霊だと。
しかしながら、私にはそれがとても信じられなかった。
猛獣を怖いといい、それを平然と[ピーーー]人間が。
幽霊を怖いといい、それを肝試しなどの遊びに組み込む人間が。
そして、誰かが傷つけられているのを見て、ただ笑いを浮かべるだけの人間が。
表では笑を浮かべて、そして裏では何を考えているのかが全く分からない他人が――
どうして、怖くないといえるのだろうか?
どうして、恐ろしくないといえるのだろうか?
私の思いには、いつもそんなものが根底にあった。
……だからだろう。この私に開発された能力が『読心能力』だったのは。
さらに人が怖くなった。
なまじ人の心が見えすぎていたから。
ある人が何をどう考えてその結論に至ったのか、と打算的な思いが見えた。
またとある人がどうやったら嫌いな人を貶められるか、と強い悪意が見えた。
結局、私は人の心が見えても見えなくても、他人が怖いことに代わりがない。
ただ、それだけの話だった。
確かそんな時だ。
私が、彼女――あの白い少女と出会ったのは。
人間が怖かった。
それはないだろう、と人はいう。
曰く、怖いのは人を傷つける猛獣だと。
曰く、怖いのは人の形をした幽霊だと。
しかしながら、私にはそれがとても信じられなかった。
猛獣を怖いといい、それを平然と殺す人間が。
幽霊を怖いといい、それを肝試しなどの遊びに組み込む人間が。
そして、誰かが傷つけられているのを見て、ただ笑いを浮かべるだけの人間が。
表では笑を浮かべて、そして裏では何を考えているのかが全く分からない他人が――
どうして、怖くないといえるのだろうか?
どうして、恐ろしくないといえるのだろうか?
私の思いには、いつもそんなものが根底にあった。
……だからだろう。この私に開発された能力が『読心能力』だったのは。
さらに人が怖くなった。
なまじ人の心が見えすぎていたから。
ある人が何をどう考えてその結論に至ったのか、と打算的な思いが見えた。
またとある人がどうやったら嫌いな人を貶められるか、と強い悪意が見えた。
結局、私は人の心が見えても見えなくても、他人が怖いことに代わりがない。
ただ、それだけの話だった。
三年前。確か、そんな時だ。
私が、彼女――あの白い少女と出会ったのは。
「私の名前はね、インデックスっていうんだよ」
白い少女は私に出会うやいなや、そう名乗った。
少女は私と同じくらいの年に見える。
学園都市では特に珍しくもない銀髪碧眼に、対称に珍しい金色の刺繍を施された修道服。
インデックスが言うには、『歩く教会』というどういう理論なのかはわからないが、物理、能力問わず、あらゆる攻撃を防ぐものらしかった。
私の『読心能力』も、通じなかった。
けれど。
私はインデックスを遠ざけるようなことはしなかった。
否。
できなかった。
インデックスは私とは比べ物にならない、何十倍もの地獄を抱えていた。
記憶がなく、魔術師――私は『その時』がくるまでにわかに信じられなかった――に追いかけられる人生を続けてきて。
それなのに、彼女の笑みはあまりに純粋で――そして、あまりに表裏のないものだったから。
わかってしまったのだ、私は。
彼女は怖い人間たちと違う、あまりにも違う――例えるなら、そう。
『天使』のような。
そんなものなのだろう、と。
結論から先にいわせてもらうと、私は彼女に激情を抱いたのだ。
それが友情なのか、愛情なのかは分からない。おそらくは前者だと思う。
数日、数週間、数カ月。
そうして、時を過ごすにつれて、心が分からないでも、裏が読めないでも距離が縮まっていくのが頭ではなく心で理解出来たから。
しかし、
しかし、
しかし。
私たちの別れは唐突にやってきた。
いや、唐突ではなかったかもしれない。
それとない兆候はあったのだ。ただ、私が気がつかなかっただけで。
例えば、インデックスの記憶が丁度その日の一年前からなかったと言うこと。
完全記憶能力を持つというのに、記憶が無くなるのはどんなことがありえるのだろう。
普通に考えれば、ない。
しかし、ここはあらゆる異能を調査する学園都市。答えを導き出すことはそう難しいことではない。
つまりは、記憶を喪失したのではなく、消去されたのだ、と。
例えば、インデックスの身の上話。
魔術師に追いかけられていたというのに、どうして私と一緒の時は来なかったのだろう。
それは彼らがインデックスの記憶にある十万三千冊が目的なのではなくて、彼女自身の安全を目的としていたから。
そして私達との平和な記憶を築かせるために。
だけど、私はそれに気づくのがあまりに遅すぎた。
……そう、あまりに。
「その禁書目録の記憶を消させてもらう」
いきなりインデックスが苦しみ始めてどう仕様もなかった私に、その修道服の男はそう言ってきた。
彼の頭の中は一瞬で読み取ることが出来た。
苦しみだった。
悲しみだった。
辛さだった。
どうしてこの少女が記憶を消されなければいけないのか、その理由を知っていて、それでも認めていない、そんな感情で溢れていた。
私はそれを知ってしまったがあまり、何もいえなくなっていた。
ぶつけたかった。
なんで私からインデックスを奪っていくのか。
どうして彼女がこんなにも苦しまなければいけないのか。
そんな疑問を、言葉をぶつけたかったのに、記憶を奪う彼の気持ちを知ってしまったから。
私は、インデックスの側にただ立ち尽くした。
「一〇分。それで終わらせろ」
時間をくれた。
それは私たちに対する慈悲。
出会ってから数カ月間共に友情を深め合ってきた私たちに餞た贈り物。
私には一片も分からない、魔術的記号に塗れた一人の少女。
私は彼女の頬をそっと、撫でた。
――ごめんね。
少女はそう呟いた。
私は泣きそうになる。けれど、押し止める。
少女との別れに、涙は見せてはいけない。この少女に、後悔の念を残させてはいけない。
――えっとさ、初めてあったときとっても驚いたんだよ。
――だって、道に倒れてるんだもん。おなかすいたーってね。
――だから偶然持ってた鯛焼きをそっと口元までもっていくと、私の手ごと食べたよね。
――すごく驚いたなぁ……って、驚いてばっかりだったね、私。
――でもさ、インデックスも驚いてたよね。清掃ロボットだとかさ。
――ああ、アニメも好きだったよね。マジカルパワードカナミン。
――好きなキャラクターが別れて、喧嘩もしたよね。
――また、こんど一緒にみたいなぁ。
私はしゃべり続けた。
インデックスは私の方を見て、ただ頷いてくれた。
永遠だ。
それは、私たちの、一瞬の永遠。
まるで、時が止まったかのように感じていた。
それでもやっぱり、現実は非情で。
その時は刻々と、だんだんと近づいてきて。
――……ごめんね。
我慢など、できるはずもなかった。
許して欲しかった。
無力な私を。非力な私を。インデックスを守れない私を。
人間が怖かった。
それを克服する、足利りをくれた少女に、私は何もしてあげられなかったから。
インデックスは、いつしか目を再び閉じて、苦しそうに息をしていた。
そんな彼女に、自分自身に、私は言い聞かせるようにして、呟く。
――今度は……今度は、もっとうまくやるよ。
――インデックスの記憶を消させない方法を見つけて見せる。
――そうしたら、一緒に学校に行こう。インデックスは魔術って奴使えないんだから、超能力者になっても大丈夫だよね?
――インデックスのお陰で出来た友達も、紹介したいんだ……
――そう……できたら……いいなぁ…………っ
かちゃん、と背後のドアが開いた。
時間だ。
――待っててね、インデックス。
私は立ち上がり、近づく足音とすれ違う。
――今度は、絶対に、完璧に、救いだすからね。
聞こえていないはずだ。
聞こえないはずだ。
なのに、私の耳は確かに白い少女が返事をする声が聞こえたのだ。
『うん。待ってる』――――確かに、そう、聞こえたのだ。
その日から、私の『自分だけの現実』《げんじつ》は変わった。
彼女の頭を侵食している本を消すために、記憶消去の術を得た。
彼女の消された記憶を戻すために、思考、記憶を再現する術を得た。
彼女の記憶がどんな方法でもいじられない為に、精神に錠前をかける術を得た。
そうして、私はいつしか学園都市最大の精神系統の能力使いとして、こう呼ばれた。
――『心理掌握』、と。
私の周りには沢山の人がいる。私はそれらの中で、女王サマとして君臨していた。
少女に教わった方法でも、やはり腹黒い人は寄ってくる。
ならば、いっそのこと相手がそんな感情を抱くことすら畏怖する人物になってしまえばいい、と考えた結果がこれだった。
私の被った仮面は予想外にうまく行って、そして今や二三〇万人もいる能力者の、五番目だ。
それでも、これは私の通過点に過ぎない。
私の脳裏にあるのは、いつの日も、あの少女の姿だった。
私が力を得たのは、全てあの少女の為だった。
私は――ヒーローになれる力を得たのだ。
もう十分だ。もう救える。
地獄しかない、それでも人々に安寧の心を与える、白い少女を。
問題は、そう。彼女がいまどこにいるか、ということだった。
イギリス清教ならイギリスだろうか。学園都市と魔術は相容れないものだろうから、骨が折れそうだ。
そう思いながら、街を歩いていた矢先だ。
「とうまとうまーっ、早くしないとカナミンの再放送はじまっちゃうかも!」
「ちょっとは待ってくださいよインデックスさん……私し上条当麻めは、卵二パックといういつ不幸に見舞われてもおかしくない要素をもちあるいているんですから……」
頭がツンツンした黒髪の高校生と。
あの時からほとんど何も変わらない白い少女が横切るのは。
「――――――――――!」
私は声にならない歓声をあげた。
どうして彼女がまたここにいるのか。そんなことはもはやどうでもいい。
彼女がここにいるというその事実だけで十二分過ぎる。
どうやら、あの高校生が今回のパートナーらしい。
けれど、そんなのは関係ないだろう。
今の私にはなんでもできるのだ。
彼女の記憶を操作し、思い出させることも、消すことも、自由自在なのだから。
さぁ、はじめよう。
私がヒーローになるための物語を。
さぁ、はじめよう。
彼女を、ヒロインを救うための物語を。
746 : in my memory -past- 8/7[] - 2010/06/15 21:42:24.53 epxabaMo 10/10もしも心理掌握が禁書目録とであっていたら。そんな話です。
勿論、禁書は上条さんに救われています。位置的にはアウレオルスですね。
一人称はここまで、二章からは三人称になります。
ともかく、目を通してくれた方はありがとうございました。