341 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/08/29 00:04:22.48 T9TcgoAO 1/3


アパートメントの部屋が、ただ一人欠けただけでこんなにも物足りなさを感じさせる能力を秘めてるとは思わなかった。
陽光を取り入れる為の大きな窓、大人が寝転べるくらいのソファー、木目が綺麗で味のある机と四脚の椅子。
その全部の柔らかな色彩が自分の内心から滲んでくる『くすみ』で、どことなく褪せているように見える。


「……もう3日だぞ、馬鹿」


広いソファーに腰掛けたシルビアのぼやきは昨日と一昨日に呟かれたものと殆ど同じ文面だ。
数字と溜息、それからモヤモヤとしたあんまり嬉しくない類の感情だけが零す言葉の重量を着実に増していく。

オッレルスが無断で消えるのは珍しくもない事なのに、最近はあの男が居ないと世界の色彩が霞んで見えて仕方ない。妙に、つまらないのだ。
俺は大丈夫だよ、なんて言いながら後先考えずに無茶ばっかりする馬鹿のへらへら笑顔に頭と心をゆっくり侵略されていくような気分だ。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-13冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1282585289/
342 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/08/29 00:05:04.97 T9TcgoAO 2/3

……まぁ別に、悪い感覚じゃないけど。

基本的に自分の感情と信念、それから直感には素直なシルビアはこの感情の原本が何なのか痛いくらい理解していた。
あの男の馬鹿さ加減に枷を嵌めるような真似はしたくないからと今のところ告白予定は存在しないが、しかしこうも放置されると――


「……首輪でも付けてやろうか、あの駄犬め」


そんな恨み言を零すシルビアの瞳に、ふと今は空っぽな窓際の陶器が映った。
それは、白くてツルリとした表面に下品にならない程度のシンプルさで金の細工がされたシルビアお気に入りの花瓶だった。
いつだったか、今みたいに急に消えたオッレルスが帰ってきた時にプレゼントだと言って差し出されたブルーデイジーの花を思い出す。


――シルビアに似合うと思ったから


口説き文句か、馬鹿。と思った気がする。
ソファーにだらりと半身を預けた彼女は、差し込む陽光に瞬きの回数を落としながらゆっくりと反芻させた過去に微笑みを乗せた。
もし、アイツがまた花を持ってきてくれたら今回はお仕置きは無しにしてやろう。きっともうすぐ帰ってくる気がするし、名案だ。
次に起きたとき、あの笑顔が花と一緒に視界を埋めてくれることだけ願いながら、シルビアはゆっくりと眠りに落ちた。

343 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] - 2010/08/29 00:05:41.54 T9TcgoAO 3/3

あの二人の距離感を掴むのは難しいな……読んでくれたら幸いです、失礼しました