735 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」[sage] - 2010/10/21 07:08:28.12 ed0uceE0 1/16

――とある学園都市外の病院

砂皿緻密は学園都市の攻防でまだ中学生の少女である絹旗最愛からロケット弾の攻撃を受け重傷を負った。
その為、学園都市外の病院で入院している。

砂皿の入院している病院にステファニー=ゴージャスパレスはほぼ毎日面会に来ていた。

彼が重症を負い、失神してはや二か月。
あのクソ戦争も終わって、世界は平和に見えたが、地域ごとの紛争はそうなくなるもんじゃない。

今でもステファニーにはいくつかの暗殺などの要望、希望、依頼など以来が殺到している。

「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」
それらの紙をステファニーはクシャクシャにしてゴミ箱に放り込む。
暗号化されている文章は一般人が拾って読んでも全く意味が解らないから平気だ。

プシュー…

砂皿の入院している部屋のドアが開く。ドアが横にスライドするとそこにはかつての見知った顔が。

「黄泉川?久しぶりじゃない…」

ステファニーが口を開く。ステファニーに黄泉川と呼ばれた人物は学園都市の不良間ではそれなりに知られた存在になっていた。
なぜなら彼女は学園都市の警邏機関である警備員として活躍しているからだ。

「よ。ステファニー、それがお前の師なのか?」

男の様な強い語調でかたる黄泉川愛穂。爆乳のその女は立ったまま砂皿の眠っているベットを見ている。

「そうよ。っていうか、何よ…今更。もうあのクサった学園都市には戻らないわよ」

ステファニーはどうやら学園都市に積もりに積もった恨みがあるらしい。



元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-15冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285633664/
736 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」2[sage] - 2010/10/21 07:10:20.32 ed0uceE0 2/16

「まぁ、そういうなって。お前の学園都市復帰を望んでる奴らも多いんだぞ?亀山とか覚えてる?」

黄泉川が名前を出した亀山とはあのクソ戦争で日本海の制空権を確保したという教師の名だ。
奇異に感じるが、学園都市では教師が武器の扱いに長けてなくてはいけない。
非常時には鉄火場に飛び込む覚悟も持ってなければいけないのだ。

「亀山かぁ…あの熱血馬鹿の女好きねぇ…」

ため息混じりにそう言うステファニー。

「正直、今回学園都市を出てきてここまで来たのにはお前に聞きたいことがあったからじゃん?」

(…聞きたいこと?)
ステファニーが首を傾げつつ考える。

「真面目な話だ。ちゃんという」

黄泉川がステファニーの目を見る。

「な、何よ。黄泉川…?」

若干後ろに下がるステファニ。
ガラガラと音を立てて、黄泉川は手近にあったイスを一つ持ってきてどかっと座る。

「復讐とかやめて、学園都市に戻って来い」

復讐という言葉にステファニーがピクリと反応する。

「だ・か・ら・戻らないって言ってるじゃない、黄泉川」

「戦争が終わって学園都市の内部構造も変わってきてるじゃんか…」

そこまで言って口をつぐむ黄泉川。

「ねぇ、黄泉川。私が学園都市に復讐しようと思った理由、知ってるんでしょ?」

737 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」3[sage] - 2010/10/21 07:12:52.18 ed0uceE0 3/16

しばらく沈黙が部屋を支配する。

「この男性の事か…」

黄泉川が寝ている男、砂皿緻密を見て言う。

「そうよ。それに、私の親族の子も学園都市の抗争で惨殺されてるの。私は師匠である砂皿さんをここまでにした学園都市を決して許さない」

「…この人はステファニーの思い人なのか?」

黄泉川の鋭い黄読みがステファニーをドキッとさせる。
しかしステファニーは毅然とした顔でこういう。

「そうよ」

「相変わらず、やると決めたら一直線な奴じゃん。ステファニー」

「はっ。あんたもね。相変わらず警備員の仕事にも精を出してるようで」

ステファニーと黄泉川の売り言葉に買い言葉はこの後もしばらく続いた。


「邪魔して悪かったな。じゃ、そろそろ帰るじゃん。あ、なんかあったら連絡するじゃん」

黄泉川がステファニーの前に連絡先をメモを置き、手を振って病室から出ていく。

「じゃあね。…ふぅ。やっと帰ったか黄泉川のヤツ」

鬱陶しそうに聞こえるが、実は久しぶりの同僚の再会でちょっぴり嬉しいステファニー。

「さーって、砂皿さんもいつも通りスヤスヤ寝てますし、私も帰りますかねぇ」

ステファニーがむくっと椅子から立ち上がった時。

「…むぅー…」

砂皿がおもむろに起き上った。しかもメチャメチャ眠たそうな顔をして。

「……」

よくアニメや漫画ではこういうシーンの時に抱きついたり、涙を流したりするが、実際そうでもない。
ステファニーは口をぽかーんと開けていた。

738 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」4[sage] - 2010/10/21 07:13:26.61 ed0uceE0 4/16

「…腹が減ったな。お、貴様か。おい、バームクーヘンをくれ」

いきなりでなんだが、バームクーヘンは砂皿の大好物である。

砂皿がかつてオーストリアのGEKコブラという特殊部隊で専任講師をしていた際に彼を慕う部下からプレゼントされ、以降気にいっているそうだ。

「ないですよー><」

いきなりの砂皿の起床で驚きつつもバームクーヘンの有無に答弁するステファニー。

「…というか、俺はどの位昏倒していたんだ?」

二か月ほどですよ、とステファニーが言うと砂皿は驚く。

「…なんと二か月も」

「あ、ナースコール押しちゃってください。砂皿さん起きたんで」

砂皿がナースコールボタンをポチと押す。




看護婦が来て、状況を説明すると医者がやってきた。
医務室へ二人は移動する。

「まずは意識不明の状態からの復帰おめでとう。体調は特に何もない。至って健康だ。数日の内に退院できるだろう」

医者の説明を聞く二人。砂皿はもちろん。ステファニーもホッと胸をなでおろした。



病室に戻る砂皿とステファニー。
砂皿はもう普通に歩行できるレベルにまで回復している。

「良かったですね!砂皿さん!」

ステファニーがニコリと笑いかける。
半年の間、砂皿を見まいに来ていたステファニーの苦労も報われた訳だ。
だが、ステファニーには一つの懸念があった。

(…また、危険な戦場に行くんですか?砂皿さん…)

そんな事を考えていると砂皿がベットに腰をかけ、ステファニーの方を向く。

「貴様は俺が寝ている最中、付きっきりで面倒見てくれたのか?」

739 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」5[sage] - 2010/10/21 07:16:45.93 ed0uceE0 5/16

ステファニーは最初はほぼ毎日看病に来ていたが、ここ最近はまた傭兵稼業を開始したらしく、あまり見舞いに行けなかった。

「そうですねぇ。毎日じゃないけど、ちょいちょい来てましたよ。砂皿さん」

「そうか。ありがとな。たかだか一傭兵風情に…」

いえ、そんな事ありませんよ、とステファニーは言う。

「あ、あの、砂皿さん…!」

(あれだけは聞いておきたい…!)

ステファニーは椅子に座りながら、グッと自分のこぶしを強く握り砂皿に話しかける。

「何だ」

本当にさっきまで昏倒していたのだろうか、と思うほどのギラとした目を向ける砂皿。

「…また、戦場に戻るんですか?」

「無論だ」

(やっぱりか…。私は砂皿さんにもう戦場にいかないでほしい。そんな願いも届かないのかな)

「――」

ステファニーは黙りこくってしまう。いや、正確には何も言えなかった。
しばらく沈黙が病室を支配すると砂皿が口を開く。

「貴様は俺に戦場に行かないでほしいのか?」

砂皿の質問にステファニーは素直にコクリとうなずいた。
ステファニーは何か言おうとするが上手くいえない。

「…」

こくりと無言で頷くステファニー。

先ほども述べたと通り、砂皿緻密とステファニー=ゴージャスパレスは傭兵だ。

今回砂皿緻密が昏倒していた理由も、学園都市の抗争に巻き込まれ、重傷を負ったからだ。
戦場は常に危険に満ちている。死と隣り合わせの場所なのだ。

ステファニーにその戦場で生きるために闘う手法を教え込んだのが砂皿緻密という男。

740 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」6[sage] - 2010/10/21 07:18:59.27 ed0uceE0 6/16

彼女は砂皿を尊敬していた。師匠と仰ぐこともあり、ステファニーが撃ち漏らした敵をノーギャラで始末してくれたこともあった。

二人は十歳ほど年齢は離れている。しかし、ステファニーは砂皿に対して師匠以上に彼の事を慕っている。

故に砂皿がまた戦場に行く事に気が気でないのである。
以前の抗争で砂皿が負傷した時、私怨でステファニーは軽機関散弾銃を用いて負傷させた女にカチ込みをかけている。


(前みたいに砂皿さんがいなくなってしまう様な気持ちを味わいたくない…!)


いかなる戦場でも単独隠密を基本に据えた行動をとっていた砂皿緻密。

そんな彼の傭兵としての生き方に心酔しているステファニー。

「…ヒッグ…砂皿さん…いかないで…ヒッグ…」

ステファニーは気がつけば涙をポロポロ垂らし、泣いていた。

「…貴様に兵(つわもの)の生きざまを教授したのは俺だ。それ以外、貴様は俺に何を求める」

涙を流すステファニーを慰めようとするどころか、突き放すような砂皿。

「にゃは…ヒッグ…エッグ…そうで…すよね。こんな所で泣いてるなんて…ハハ」

「そうだ。俺は貴様に仕事をこなす上での技術を教えたにすぎない」

そう。彼女に仕事を教えたのは砂皿緻密。

一瞬にして死に転落する事もままある戦場に於いてもっとも排除しなければならないもの。情。

だからこそ、砂皿緻密は戦場で生き残るすべとして、決して集団行動をしないようにしていたのだ。

情や、他者を助けなければいけないという観念から離脱する為に。
そうすれば個人で戦場を闊歩できるから。

741 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」7[sage] - 2010/10/21 07:21:05.36 ed0uceE0 7/16

しかし、これには大きな落とし穴が存在するのだ。


それは――自己が負傷あるいは瀕死の傷をおった場合。

そう。自分が負傷した場合、周囲に助けを求めることが出来ない。弾薬が不足した場合、何もできない。
あらゆるイレギュラー事態に冷静沈着に対応できるものが許される、単独隠密行動。
砂皿緻密にはそれを全うできるだけの能力が備わっている。

と、思われた。
しかし、その幻想は先の学園都市の抗争で僅か十二、三歳ほどの少女が射出したロケット弾で打ち砕かれた。


「砂皿さん…退院したら、私と一日いてくれませんか?」

「……何をする」


退院したからと言って直ぐに砂皿に仕事が入ってくるとは限らない。しかし、長い期間入らないという保証もない。
ならば、師と仰ぎ、それ以上の気持ちを抱く砂皿に対して何かしたい。いや、しなくてもいい。

「一緒にいるだけでいいんです。なんなら一日中カフェにいても構いませんし、砂皿さんお気に入りの場所に行っても構いません」

だから、とステファニーは前置きをするとすうと息を吸い込み言う。

「その日だけは一緒に私と話しましょう?」

涙を浮かべながらもにこやかに笑うステファニーの姿を見て、戦場の狙撃手は一瞬心を奪われかけていた。

「…承知した」

砂皿が頷くとステファニーはほっとする。
退院まで後、数日だ。
楽しみのような、辛いような、なんともいえない複雑な心境に陥るステファニーと砂皿だった。

742 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」8[sage] - 2010/10/21 07:21:39.79 ed0uceE0 8/16

――数日後

「今までお世話になりました。ありがとうございます」

砂皿緻密が医者に丁寧にお辞儀をする。スーツを着て、黒のロングコートを羽織る。
そして入院していた時の雑誌や衣服を収納したバックを手に持つ。

そこで前に人がいる事に砂皿は気付く。

「待ってたのか」
砂皿が顔を上げるとそこにはステファニーの姿があった。いつもの迷彩柄のセットアップではない。

「おはようございます。砂皿さん。にゃはーん。今日はちょっとおしゃれしてみました☆」
そこまで高くない黒いヒールに、足の脚線美が栄えるローライズジーンズ、決して品の悪くない豹柄の小さいバックルのベルト。
白いシャツにグレーのもこもこしたファー付きダウンベストを着たステファニーはそんじょそこらの一般人とはかけ離れた美貌をしていた。

「…似合ってるぞ」

ボソという砂皿の発言。しっかり聞きとっていたステファニーは満面の笑みを浮かべ、ほのかに赤面する。

「あ、あ、ありがとうございます//」
(やった!砂皿さんにほめられちゃった☆)

ステファニーのそんな顔を見て一体誰が思うだろうか。
彼女は傭兵なのだ。そして一緒にいるこの男も。

「どこへ行きたい?貴様の行きたいところに行こう」

ステファニーは先日砂皿さんの行きたいところに行きましょう。と提案したので全く考えていなかった。

「すいません。全く考えてないです…」

ふっ。と砂皿が笑う。

「な、な、なんですか?砂皿さん!鼻で笑うなんて!失礼な!」

ステファニーがムキーと冗談半分で怒る。

「そしたら、喫茶店でいいではないか。ちょうど小腹も減ってきたところだしな」

「はーい!にゃはは。砂皿さんとデートですねぇ!最高ですにゃは☆」

テンション上がりまくりのステファニーだが、明日には死ぬとも分からない傭兵稼業。
それを考えると若干の寂しさがステファニーの胸に去来する。

743 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」9[sage] - 2010/10/21 07:22:43.02 ed0uceE0 9/16

(そんな事考えたって無駄無駄。今日は砂皿さんに大事な話もあることですし☆ぱーっとね。楽しんじゃいましょ)


ステファニーはどうやら車で来たらしく、取りあえずは病院近くの駐車場に移動する事になった。

「目立ちたがり屋の貴様にぴったりの車だな」

砂皿がコメントした車は今年販売されたばかりのスポーツカーGrancabrio(グランカブリオ)。
ステファニーの様な長身、容姿端麗の人物が運転するには持ってこいの車だ。

「やっぱ、何事も派手にぱーっとやった方がいいじゃないんですかね?」

そう言いながらステファニーが車のドアあたりに手をピタリとくっつけると車のカギが開錠される。

「どうぞ、砂皿さん☆」
ステファニーがそう言いつつ、ガチャと助手席のドアを開けると砂皿は車に乗り込む。
眠っていた期間が長いとは言え、いまだ健在の筋肉、その上から品よく着こなしているスーツ。

運転席にはモデルもびっくりの綺麗な姿をした白人女性。

この組み合わせは見る人が必ず振り向くような組み合わせだ。渋い。


「荷物はちょっと狭いんですけど、後ろに置いといてください」

そっと後ろに荷物を置くとステファニーの車がブォンと唸りを上げる。

「F1と同じエンジン積んでるんですよね。コイツ」

そういうと軽快な音を立て、車はトーキョーの市街地へ向かっていく。


@都内某所 カフェ Las Chicas

「いらっしゃいませ。お久しぶりです――」

品の良い店員が接客をしてくれるカフェに到着した二人。
どうやらステファニーはかなりいきつけのようだ。

744 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」10[sage] - 2010/10/21 07:23:15.57 ed0uceE0 10/16

「レモンティーとケーキください☆」

砂皿さんはどうしますか?とステファニーが聞く。

「ブラックで」

店員がかしこまりましたと言い、店の裏側に消えていく。

「ここ、料理出るまでに時間かかるんですけど、かなりおいしいんですよ!」

「…そうか」

寡黙な砂皿緻密。ステファニーは最初はこの寡黙さに耐えられなかったが、今では心地よく感じれるほどだ。

(砂皿さんに聞きたいこと…今聞こうかな…)

若干目が泳いでるステファニーを看破したのだろうか、砂皿が言う。

「どうした、目が泳いでるぞ。言いたい事があるなら言えばどうだ」

「あは、砂皿さんは鋭いなぁ。隠しごとは出来ませんね…」

ふぅ、と息を吸い込むステファニー。まっすぐにこちらを見ている砂皿。

(よーし。言うぞ)

「砂皿さん、傭兵なんて辞めて、私と一緒に暮らしてください!」

「断る」

「ですよねー…」

(ったく言って数秒で轟沈かい)

あははと気まずそうに笑いながら頭をぽりぽりかくステファニー。

「貴様はなぜ俺にそこまで要求する」

「?」

砂皿の質問にため息をつくステファニー。

745 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」11[sage] - 2010/10/21 07:23:59.46 ed0uceE0 11/16

「砂皿さんに死んでほしくないからに決まってるじゃないですか。砂皿さんも傭兵に疲れてるんじゃないんですか?」

あくまで私の推論ですケド。と付け加えるステファニー。
しかし、砂皿がかつて学園都市で勇戦奮闘した時も、否、それより前からずっとステファニーは砂皿の闘いを見聞き、感じていた。

「砂皿さんは傭兵稼業を辞めたいと思わないんですか?私はここ数年で砂皿さんが疲れているように見えますよ」

ステファニーの指摘は存外的外れではなかった。
砂皿自信もいつかはこの仕事を辞めたいと思っていた。

しかし、これは人を殺すことに疲れたのではなく、あくまで目標を達成する困難さからくるものだ。
目標の四肢を打ち抜く。目標に圧力を加える。社会的に抹殺する。

そうした器用なことが出来ればどれほど楽か。
しかし、この男にそのような器用な術はない。あくまで狙撃。

「…確かに疲れているし、人殺しなんてすることがなく、お金が手に入ればいいと思う。だがな」

ステファニーは黙って聞いている。

「なぜ、俺の生き方に難癖をつけようとする。そこまでして貴様が俺の生活に介入する必要があるか」

つらい。ステファニーはズキンと胸が痛むのを感じた。
心臓を丸ごと何か猛禽類(もうきんるい)に鷲掴みにされたような気分になる。

(おっかしいなぁ…。今日は泣かずに楽しくって決めてたのに…)

ステファニーの目が潤む。どうしても涙が出そうになる。

「俺は、今までどんな戦場でも一人で戦ってきた。もちろん、友軍はいるが、そいつらと共に行動したことなどない」

ステファニーは鼻をかむふりして、砂皿にばれないように、そっと瞼から溢れそうになっている涙を拭き取る。

「それは砂皿さんの行動美学ですよね」

「あぁ、そうだ」

そう。

ステファニーがコスタリカの戦場で包囲殲滅されかけた時、遠方から敵ヘリの操縦席を撃ちぬいたのは、単独行動していた砂皿だ。

「でも、私は違うと思います。砂皿さんはもっと違う意味で一人で行動していたと思います」

746 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」11[sage] - 2010/10/21 07:25:25.74 ed0uceE0 12/16

砂皿緻密の眉がピクリと動く。

「…どういうことだ…」

砂皿が何かを見透かされたような、そんなばつが悪そうな表情を浮かべたのをステファニーは見過ごさなかった。

「砂皿さんはもし自分が包囲されたりして命の危機にひんした時、周りに誰もいないでほしいって思ってますよね」

「……」

砂皿は何も言わない。おそらく当たっているのだろう。

「だからいつも戦場で危険な所に潜行して要人をとっとと始末して帰ってくる。他の人には危害が及ばない様にする為に」

ステファニーのきりとした顔から放たれる言葉はまだ続く。

「自分が死ねば、自分に殺される人もいなくなる。そう考えてますよね」

「…知っていたのか」

砂皿は正直に自分の戦場における単独行動理由を認めた。
こくんと頷くステファニー。

「だって、前に私が撃ち漏らした華僑の奴らだって砂皿さんは渋々始末しに行ってくれましたよね」

そう。以前ステファニーが始末し損ねた華僑の奴らを砂皿はノーギャラで始末した事があった。

「あの時も、実際は華僑の奴ら、地域の武装民兵どもと組んでかなりの人数でしたよね」

「あれはただの寄せ集めの雑兵どもだ。戦力にすらなっていなかった」

華僑のやつらは地域のチンピラ共に武器を渡して警備させていたのだが、プロにかかれば彼らの警備網を突破する事など造作もなかった。

「それは砂皿さんだからこそ言えるんですよ。私はまだ未熟ですし…その」

ステファニーが言い淀んでいる。それはかつて砂皿に指摘された嬉しいような悲しいような言葉。

「容姿端麗すぎる故に、目立ちすぎている」

砂皿が指摘する。ステファニーは決して狙った訳ではない。

「あは、そう言ってくれるとやっぱり、嬉しいかもです☆」

ステファニーが屈託のない笑顔を砂皿に向ける。

(貴様はその笑顔を無意識に向けてくる。反則だ)

実は、砂皿緻密はこの笑顔に弱い。
彼女が意識している、していないにせよ、彼女の素から出る無垢な表情に。

747 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」13[sage] - 2010/10/21 07:26:09.66 ed0uceE0 13/16

「コーヒー、レモンティー、ケーキになります」

店員が先ほど注文した品々を机に丁寧に置く。

店内ではメロディアスなピアノにのって心地よい旋律が流れ来る。

確か、これはアンドレ・ギャグノンか?とステファニーが思い出しつつケーキを頬張る。

「うん☆おいしいです。砂皿さんも食べますか?」
(よっしゃ!ここであーんしてあげるイベント発生?)

「いや、結構だ。甘いものはどうしても苦手なんだ」

砂皿は甘いものがどうしても苦手だった。
かつてオーストリアのGEKの面々からもらったバームクーヘンもかなり苦めなテイストだったそうだ。

「えー…食べてくださいよーブーブー」

足をジタバタさせて悪態をつくステファニーを見て砂皿がくつくつと笑う。

「全く素振りだけは…まるで子供だな。貴様は」

「え?まだこう見えても17歳ですよ?」

きょとんとした表情のステファニー。

「…ぷ。はっはっは…!」

砂皿が声を出して笑った。

「17歳か…いや。はっは」

砂皿が声を出して笑うとはよほどの事だ。数年一緒に仕事をしてきた間に砂皿さ声を出して笑ったこと等なかった。

「わ、私の冗談、そ、そんなにおかしいですか><」

「あー、久しぶりに笑ったよ…!」
砂皿が口を開けて笑っているのを初めてみたステファニー。

748 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」14[sage] - 2010/10/21 07:27:14.40 ed0uceE0 14/16

しばし笑い、そのあとしばらく沈黙が走る。

「……」

今回の沈黙はなんだかいやな予感がするステファニー。

「実は一週間後に仕事が入りそうなんだ」

ステファニーは一気に地獄に落ちたような気分になった。
確かに戦場に行って死ぬと確定したわけではない。
だが、先の学園都市の戦場はどうだ?砂皿は死にかけた。

ステファニーは師匠であり、思い人である砂皿を失うという“可能性”ですら許容できなくなっていた。

「そうですか…なら、一つ条件があります」

ステファニーも先ほどまで笑っていた表情から一気に顔が強張る。

「今まで冗談みたいに行ってきましたが、私は師匠である砂皿さんを尊敬する以上に、好きになってしまいました」

「ほう」

軽いような感じで答弁しているのはステファニーがあまり緊張しすぎないようにする砂皿の配慮だろうか。

「単独で行動する時の砂皿さんの強さは認めます。でも…」

ステファニーは真正面に砂皿を見据えて言葉を発する。

「砂皿さん…守るべきものがあるという強さもすごいんですよ?私は守るべきものなんて今はない。ケド、守られたことならあります」

コスタリカの地獄の戦場で。と付け加えるステファニー。

「……」

砂皿は黙ってステファニーの話を聞いていた。

「――砂皿さんの帰るべき場所に私はなりたい」

749 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」15[sage] - 2010/10/21 07:28:44.84 ed0uceE0 15/16

ステファニーは決して考え抜いたうえでのセリフではなく、生の自分の言葉を話していく。

「だから…グス…自分を少しはいたわってください…ヒグ…」

(駄目だなぁ…最近ホントに涙もろい…)

涙がこぼれそうになるステファニー。砂皿が無言でハンカチを渡す。

(――香水?)

香水のほのかな香りがするハンカチをステファニーは受け取る。

決して甘すぎない、香水の香りがステファニーの鼻腔をくすぐる。

「…拭け」

はい。と言い涙をぬぐう。

「…俺は帰ってこないかもしれないぞ?」

砂皿の言うことは至極当たり前の事だ。戦場から100%帰還できる事など、ありえない。
けれども、ステファニーは信じていた。彼の機関の可能性を。

「砂皿さん、言ってましたよね。『私なら、どんな状況であっても爆薬で死ぬ事だけは絶対にありえない』って。それを信じます」

砂皿は今まで一人で行動していた。だけど、守る者がいるとなると、闘いに支障が出かねない。
守るべきものなんてただの弱点にしかならないから。砂皿はそう考えていた。

しかし、守るべきものが自分の弱点にしかならないと思っている事が間違いだった。

「…貴様は俺を待つと言うのか。いついかなる時に命を落とすことになるかわからない戦場で闘う俺を」

「守るべきものを持つというのはその人に強さも与えます。砂皿さんはどんな過酷な戦場からでも私の為に帰ってきてくれると信じてます☆」

にゃは☆と破顔一笑の表情で迎えるステファニー。


「全く。自分勝手で、者好きな奴だな。貴様は」

砂皿が呆れたように言う。が、ステファニーは全く動じない。

「えっと…その…砂皿さんは…私の為に何度でも戦場から戻って来てくれますか?」

ステファニーの半信半疑の質問。
何度も繰り返しになるが、戦場では100パーセント生還する事は保証できない。

750 : ステファニー「ったく。砂皿さん、起きてくださいよー。私はヒマヒマなんですよ?」ラスト[sage] - 2010/10/21 07:29:23.51 ed0uceE0 16/16

だが、砂皿緻密という男の経歴は燦然と輝き、事実彼はあらゆる戦場で生き残っている。
彼なら今後も怪我を負うことはあっても、死ぬことはない、とステファニーは思う。

(俺はとんでもない奴を弟子にしてしまったようだな…あまつさえ、こいつを守ってもいいと思いはじめている)

「あぁ。戻ってこよう。何度でも。貴様の為に生き甲斐を見出す男が一人くらいいてもいいだろう。それと俺なら…」

なんですか?とステファニーは怪訝な顔をする。
砂皿が自信に満ち、それでも奢り高ぶらないとでも言いたそうな表情を浮かべる。

「俺なら、どんな状況であっても戦場で死ぬ事だけは絶対にありえない」

かつて、爆薬で死ぬことはないと豪語した男が自分自身にさらに高いハードルを課した瞬間であった。

――そう、爆薬うんぬんではなく、戦場で死ぬ事自体を全然否定する力強い言葉。

「にゃはは。嬉しいですっ☆砂皿さん、大好きですよ」

ステファニーは最高の笑顔を砂皿に向ける。

「全く…貴様という奴は…」

ふっ、と砂皿は笑う。

彼のいつもいかつく眉間によっているしわがととれた瞬間であった。

おしまい