964 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga] - 2010/12/04 11:18:29.47 1XvaDkHA 1/10発掘した昔書いた通行止めモノを投下してみる。
(たぶん)シリアス。
19巻の最後の一方通行が打ち止めを部屋から連れ出すまでを妄想したものなので
19巻読了後にお読みいただけるといいかと。
暗い話なのでおkだよって人だけ見てください
8レスお借りします
夜はまだ明けていないようだ。
まだ薄暗い空を見て、打ち止めは朦朧とする意識ながらも思う。
部屋は静寂と、早朝の冷たい空気で満たされてる。
そんな夜明けの直前に、打ち止めは目を覚ました。
頭を少し動かすと酷い頭痛が刺し、風邪でも引いちゃったかなあ……と少女は口の中で呟いた。
が、少女の口からは震えた息が零れただけで、それはもう声になっていなかった。
思えば、身体が妙に火照って全身がうっすらと汗ばんでいる。
その症状が、自身の『崩壊』の兆候だということを、幼い彼女は知る由もない。
もう身体は起き上がらなかった。
だんだん鼓動が早まり、噴き出す汗が滴となって伝う。
今や全身がびっしょりと汗で濡れている。
(……あれれ、どうしちゃったのかな……ミサ、カ……)
ふいに、打ち止めの視界が揺らいだ。
どうやら自分の容体は、気を失う直前まで達しているらしい。
外の世界が、遠くなっていく。
徐々に霞みゆく意識の中、
ぽたり、ぽたり、という音が打ち止めの耳についた。
耳を良く澄ますと、その滴が落ちるような音はドアの向こうから聞こえてきているようだった。
音はだんだん大きくなり、
近づくにつれて足音も聞こえ始める。
打ち止めは足音を聞いて、もう、誰の――とは、思わなかった。
やがてゆっくりと、弱弱しくドアが開く。
そこには、
打ち止めの思い描いたように、血だらけの少年が立っていた。
一方通行は血を引きずるようにして歩く。
それは誰かの返り血ではなく、まぎれもない一方通行自身の血液だった。
歩いた後にはべったりと血痕が残っていたが、もはや彼にはそんなことを気にする余裕などない。
部屋のドアを開けると、やはりそこには少女が眠っていた。
打ち止めの呼吸は荒く、
それは眠っているというよりぐったり横たわっている、と言う表現の方が正しい。
熱病に侵された様な少女を見て、
一方通行は初めて少女と出会ったときの夜を思いだす。
――天井亜雄によってウィルスを打ち込まれた打ち止めを救い出し、自身の能力を失ったあの日。
あの時の打ち止めも、こんな状態だったと思う。
あの日を境に、一方通行を取り巻いていた世界は変わった。
言いかえれば、それがすべての始まりだった。
一方通行は手近な紙を手元にやり、震える手で血文字を綴る。
それは黄泉川たちへの書き置きであり、それは自分の決意の証でもあった。
コピー用紙にのたくった赤い文字を、その文章を、黄泉川はどう解釈するだろうか。
それには短くこう書かれていた。
このガキの命は、必ず助けて見せる、
――と。
一方通行が。
……あの人が帰ってきた。
ろくに目も開けていられない状態でありながら、打ち止めはそう確信した。
以前彼と会ったのはいつだろうか。
ある日を境に、突然会える日が限られて、
それから打ち止めはいつもその少年が隣にいた――そんな日常の幸せを、後になって痛いほど思い知らされた。
懐かしくて、抱きしめたくて。
無数の気持ちが、打ち止めの胸に溢れてくる。
――今までどこにいたの、
――どうしてこんな時間に来たの、
――どうしてそんなに、傷ついてるの……?
声にならない言葉は、目の前の少年に届くことはない。
伝えたいことは山ほどあって、
でも蝕まれつつあるこの身体は言うことを聞いてくれない。
意識は薄れていく。
どうしてかな、
ミサカには、こんなに言いたいことがたくさんあるのに。
べったりと張り付く血が凝固して、どす黒く変色している。
一方通行は、自分の血みどろの両手を見て思った。
思えば自分は、昔から血にまみれていた。
故に、血を浴びるのは慣れている。
いや、彼は慣れすぎていた。
何重にも塗り固められた鮮血は、凝固して、こびり付いて、
――彼の心をも真っ黒に染め上げてしまったのだから。
「―――な、んで……」
背後からのか細い少女の声に、一方通行は振り返る。
そして、わずかに目を見開いた。
「どうしてあなたはそんなになるまで無茶するの……っ、……って、ミサカは、ミサカは、」
自分の力で起き上がることさえままならない少女が、
おぼつかない仕草で手をのばして、必死に言葉を紡いでいた。
言葉とは裏腹に、少女は笑っている。
まるで、一方通行を迎え入れるように。
顔には汗が伝い、頭はふらふらと揺れていたけれど、その屈託のない笑みだけは揺らがなかった。
「……ねえ、一方、通……行……」
一方通行の動きが止まる。
彼は素直に驚いた。こんな自分に、まだ笑いかけてくれる人間はいるのかと。
打ち止めは一方通行へと両腕を伸ばして言った。
「おかえり、……ってミサカはミサカは……あなたに言葉を、かけてみる」
小刻みに揺れる少女の腕が、自分へと伸ばされる。
大切なものはここにある。
守るべき少女はここにいる。
一方通行は、その希望を守るためなら、命さえ賭すると心に誓った。
でも、
その光は今にも消えそうで、零れ落ちそうで――
気がつくと、彼は少女を抱きしめていた。
震える腕で、力の限りに抱きしめる。
力の抜けた少女の体は今にも消えてしまいそうで。
――自分の命などどうだっていい、
一方通行は、ただそれが恐ろしかった。
ふいに抱き締められ、打ち止めは言葉を失った。
少年の体は冷たくて、血がこびり付いている。
無理矢理力を振り絞って喋ったりしたものだから、自分の身体はもう限界を迎えてしまったらしい。
動かすにも動かせず、全体重を一方通行へ預ける形になっていた。
意識の途切れる直前、
一方通行は、打ち止めの耳元でささやく。
「……救ってみせる」
掠れた小さな小さな声は、泣きつかれた子供を連想させた。
「オマエは絶対に、俺が救ってみせる」
打ち止めの目から溢れた透明な滴が一筋、頬を伝った。
どうしてそんなこと言うの、
あなたの心はぼろぼろで、守ってあげなくちゃいけないのはミサカのほうなのに。
一方通行は気を失った打ち止めを抱きあげ、部屋を後にした。
貨物列車のコンテナを、低い振動音が揺らす。
このままいけば、列車は学園都市の外へ出るだろう、
と、暗闇の中に身を潜めた一方通行は、力なくうずくまりながら考える。
その腕の中には、振動にあわせて小刻みに震える打ち止めがぐったりと沈んでいた。
一方通行はおもむろに携帯電話を手に取り、
そしてひと思いに握り潰した。
黄泉川と芳川と、そしてグループや『上』の連中と。
これで、一方通行の全てのつながりは絶たれた。
(……これでいい)
彼の手からパラパラと部品が零れる。
壁に背を預け、息を吐いた。
彼は呟く。
その声は小さくて、加速する列車の振動音に消え入りそうだったが、彼はたしかにこう言った。
「――ロシアへ、」
と、短く。
973 : 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga] - 2010/12/04 11:28:29.93 1XvaDkHA 10/10以上です。
ほのぼのらぶらぶーな通行止めもおいしいけど、
こういう切なげな面があってこその通行止めだと思います。
結論を言えば、どんな通行止めでもおいしいと思うんだよ!!!
いつか番外通行も書いてみたいです。あの絶妙な距離感がたまらん。
読んで下さった方には感謝を。
おそまつさまでした。