839 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/14 07:03:12.72 K9iRT6RSO 1/14>>388-399 >>504-515の続きを投下します
※関連
麦野「王子さま……」(>>338-339)
http://toaruss.blog.jp/archives/1019704394.html
麦野「王子さま……」2(>>504-515)
http://toaruss.blog.jp/archives/1020179884.html
ガラス片が降り注ぎ、西日を不規則に反射させながら砕けて粉になり粒になる。
男は消えた。
ただ、麦野は何もしていない。今からするところだった。
役目を見失った電子が遊び、ばらけていく。
「ったく、今日は気分が良いってのにつまらねェモノ見せてンじゃねェよ三下が」
男は消えた。
麦野の視界の外れへと高く高く打ち上がり、ビルの窓へと吸い込まれて。
「よォ、大丈夫か?」
「……」
麦野は喋れない。
見惚れてしまっていた。
白い髪を柔らかく揺らし、血の色に燃える瞳に微笑みを巡らせ、興味が薄そうな口調で、優しく手を伸ばしてくる青年の姿に。
男らしさは無い。綺麗に整った中性的な顔。筋肉の無い痩身。白く透き通った肌。
だが、男らしいと思い、
格好良いと感じ、
現実離れという言葉が思考に貼り付けられた。
「ウ、ウゼェんだよ!人助けのつもりかぁ?気持ち悪ぃ!とっとと失せろっ!!」
気付き、自己嫌悪。否定。拒絶。
ほんのりと熱くなった顔が気恥ずかしく、青年の目線から逃れて俯く。
「口悪ィな。俺も人のこと言えねェが」
「黙れっつってんだろ!白塗りぃ!!」
カラカラと笑う青年に苛立ちを吐き捨て、そのまま壁を支えに立ち上がる。
足の痛烈な痛みを誤魔化し、腹部の鈍い熱を押し殺し歩く。脂汗が吹き出す。
「怪我してるじゃねェか。病院連れてってやるよ。良い先生ェ知ってンだ」
青年の横を通り過ぎる。無視して、足を引き摺る。
「……ァッ!!」
痛みが野火のように貪欲に思考を塗り潰した。
体勢が保てず、倒れる。
「見たところ、骨はボロボロだな」
麦野を襲った凶器が青年の手の中でくるりと回った。
軽く、丈夫で、長さを変えられる使用者を選ばない杖。
「ノロノロだ。ンなンじゃ、病院着く前に日付変わっちまうぜ?」
先程は、あれが右足を軽く叩いた。
「テメェがんな邪魔しなきゃ直ぐにでも着くんだよぉぉぉ!!分かってんのかこのキチがぁぁぁ!!」
弱い怪我人扱いされるのは嫌だったが、真っ当に心配がされないのも嫌悪が湧いた。
(クソッ!優しくするなら……)
優しくするなら、最後まで。
思いを掻き消す。嫌気が差した。
プライドと何かが心の中でぶつかり合い、砕けて散らばる。幾つも。何回も。何度も。
決まり切らない酷く不安定な場所で気持ちが揺れる。
「あー、そうだな。ほら、捕まれよ」
「手ぇどけろ!!肘から先落っことすぞ!!」
青年の手はその片側に引き摺り込む悪魔の手に見えた。
受け取らない。
「あ?お前腹も怪我してンのか」
変装用に着こんだ服。暗闇を這いずり回り、人目を避ける為の使い捨ての服。
当然、綺麗な色は着いていない。お洒落な柄も華やかなストラップも無い。灰色、黒色、藍色の深く暗い単色染め。
血は溢れるが表面に染み込むことはなく、穴も上部一枚二枚が目立つだけ。奥は暗がりになっていて分かりにくい。
良く気付けたと罵りたい気分に襲われた。
「ちょっと見せてみろよ」
「えっ!?」
麦野の服を白い手が掴む。
そのまま放出してしまいたかった罵倒が喉元で消失する。
「結構な厚着してンな」
細いが荒く骨の張った確かに男だと分かる指が、重厚な防御壁を一枚、一枚絡め取っていく。
ぞわりと背筋に虫の這うような感触が走った。
「ちょっ、やめてっ……!」
妙に女らしい自分の声が鋭く鼓膜を打ち、骨を振るわし、吐き気が込み上げた。
もう、遅い。
「あっ………」
「~~~ッ!!」
血液が沸騰する。
靴音が乾いて響く。
コール音が反響する。
『お掛けになった電話番号は、ただいま――
「クソッ!」
何十回と聞き返された女性の声。
荒々しく電源ボタンを押して、間を待たずして再び電話を掛ける。
携帯の画面に表示される番号、そして名前。
迷走する電波の求める先の相手は一方通行。
『グループ』の最終兵器で、計画に必要な黒のキング。
南国風の派手な上着一枚にサングラス、逆立たせた金髪。
真面目とはかけ離れた見てくれの土御門元春は、アジトを歩き回りながら焦りと苛立ちと不安の混じった顔で電話を鳴らし続けていた。
昨晩、敵である原子崩しが仕掛けた罠。
自滅覚悟の暴走。
被害を順調に増やされ続け、不本意ながらも誘いに乗り、数分で化け物を殺せる悪魔を送り込んだ。
結果としては最悪の一歩手前。
作戦は成否の曖昧な、ただ怪我を負わされただけに終わった。
一方通行は第四位と戦闘の場所を移してから、姿を消した。
失念していたのだ。
最強を手にしていた頃の彼は封じられている。彼が絶対者として地上に降臨出来るのは、たったの30分。
強過ぎる猛獣を縛る鎖。
死ぬ可能性は薄くない。きちんと、漂っている。
下手な仲間意識や情は抱かない。暗部のモノであり、土御門としての掟でもある。
しかし、そう言い続けても、胸中の心臓を締め上げるように張った根が消えない。
響くコーリング音。
口から漏れる悪態。
早まる足。
響くコーリング音。
壁に振り落とす拳。
醒める痛覚。
響くコーリング音。
電波の繋がる細い音。
「一方通行!!無事か!?おいっ!」
らしくない焦燥に駆られた自分の声。
もし、電話の向こうが第四位なら、最上級のおもてなしとして、最下級の罵倒や嘲りを貰うだろう。絶望を伝えられて、谷底に落とされるかもしれない。
それを、気にする暇が生まれない。
『おゥ。心配掛けちまったようだな。悪いことしたよ、土御門』
悪怯れた様子、反省の色が薄い彼の声。
恥ずかしい。
歓喜が胸の中ではち切れそうになっていた。
「アクセラレっ――
『ねぇ、あくせられーた。お電話誰から?』
『も、ももももしかして、か、彼女さん?』
『ふぅ。結局、一位様は隅に置けない奴って訳よ』
『超普通に友人じゃないですか?』
聞こえる。電子情報に分解され、離れた場所に居る自分のところまで聞こえる。
賑やかで明るく甘い少女達の声。
『ちと、黙ってろ!今から、大事な話するとこなンだ!』
万更、嫌そうでもない仲間……違う。裏切り者の声。
『ご、ごめんなさい……。彼女との邪魔しちゃ悪いよね……』
『彼女じゃねェよ!!』
熱いやり取り。
『ったく……』
怒涛の勢いで吹き上げる感情に青く澄んでいた空には黒煙が立ち込め、青々と茂る草花はマグマに飲み込まれ、穏やかに流れる清水は血で染まり、歌う動物達は生を奪われる。
荒れる死地。灰と骸が転がり、消され損ないの魑魅魍魎が跋乎する。
分かる。
殺意だ。憎悪だ。怨嗟だ。嫉妬だ。憤怒だ。
「一方通行…」
『あ?』
心と対称的に頭は冷静だった。
この後、何を言えば彼も、自分も、他のメンバーも救われるか。
その最善の道が一本道で見えた。
「お前、暫く帰って来るんじゃないにゃー」
握り締めるように携帯を閉じる。
ミシリ、と手の中の機械が悲鳴を上げた。
気持ちを落ち着かせる為には暖かい飲み物が一番効果的だ。
矜恃を捨てて手に入れた戦利品を胃に流し込んだ。
酸味が無く、渋味の濃くないまろやかな味わい。舌で転がる苦味もしつこくなく、過ぎれば仄かな甘味を残していく。
風味高い薫りが広がり、洗練された刺激がシナプスを喜びに奮わせる。
穏やかな心地のままに優しく息を吐くと、それとは違った余韻の深い薫りが鼻腔を突いた。
その素直な感想を煎れてくれた彼女に言うと、とびきりの笑顔で喜んでくれた。
少し、ドキリとする。
もう一口。心を鎮める必要がある。
着信拒否を告げるアナウンスが流れる携帯をゆっくりと畳む。
どうしたものだろうか。
少女達は興味津々にこちらを見るだけで、その呟きの答えは教えてくれない。
コーヒーのおかわりを頼む。
本当に、どうしたものだろうか。
足音が帰ってくると、一方通行は神妙な面持ちで扉へと向かった。
そして、浜面を肩に担いだ麦野の姿が見えると膝を着き、頭を地面に擦り付けた。
男としての決断を告げる。
始めは肩の荷を転がす程に狼狽していた彼女も言葉が染み込んでいくにつれて常を取り戻し、笑顔で意思を包み込んだ。
(私の助言が良かったんだ)
第一位が第四位に頭を下げているその異常性。
恋人が顔面ダイブを成し遂げたのに微動だにしない危険性。
特に気にするでもなく、何時ものようにマイペースでのんびり構え、顔を仄かに赤くしている主演を見つめる。
滝壺理后は自分の功績を静かに喜んだ。
このまま変容の無い一日を過ごしていれば、二人の距離はもっと短くなるだろう。
自分はその手伝いをしてあげるのだ。
人の恋愛を助けることのやりがいと楽しさを肌で感じ始めていた。
だが、事件は起こる。
「裏切り者扱いだ」
一方通行が組織に帰ってくるなと言われたらしい。
「ごめんっ!」
「むぎのは悪くない!」
まるで、ロミオとジュリエット。
敵対しているから。
上の仲が悪いから。
世間体が濁るから。
先が見えないから。
世界が違うから。
何故、そんな理由で恋が、想いが踏み潰されねばならないのか。
何故、そんな理由で二人の間に壁を立て、仕切りを張るのか。
恋こそ自由なのに。
理不尽な世界そのものに滝壺は義憤を感じた。
普段抱く事すら珍しい荒れた思いが言葉に伝わって出る。
「悪くないもん!」
「まァ、落ち着けよ。ちゃンと弁解すっから」
宥める役目の恋人はまだ再起していない。
一方通行の言葉を聞いても彼女の膨れっ面は収まらなかった。
彼は直ぐにはご機嫌取りが無理だと判断し、諦めて電話を開いた。
「他の仕事仲間に連絡入れるわ」
操作音。電子音。
間を空け、音楽が部屋に鳴り響く。
「………は?」
放心と警戒が部屋の空気に複雑に交じり合った。
一方通行の仕事仲間に掛けたはずの電話が、何故かアジトの一室、浜面仕上の部屋から音を鳴らしている。
偶然の可能性も有ったが、そんな幸せな考えが信じられる程の好条件がこちらには揃っていない。
「お、おィ………まさか、殺しに来たってかァ?」
「見てくる」
悪い警報は無い。
苦痛の悲鳴。誰かの焦る声。物が転がる音。
それでも、その言葉を聞いた滝壺は急ぎ足で部屋へと駆けた。
「はまづら!」
ドアを開く。
「ん?…あ、あぁ。お早う滝壺」
浜面は何事も無くそこにいた。荒らされた形跡も無い。
「良かった…」
少しの安堵。無事だった。それで良い。
だが、滝壺の後を着いて部屋を覗き込んだ4人はそれでは終わらない。
机の上で揺れながら女性向けの着信音を発信する携帯を疑問に思わずにはいられなかった。
「浜面。その携帯は誰のですか?超気になります」
「あー、これ?これは昨日拾った……ふぁ……」
欠伸1つ。
「今日、届けようと思って……」
「そォか……」
元気を急激に失った様の一方通行が踵を巡らせる。
「はまづらは優しいね」
余計な心配をさせられたことに今にもはち切れそうな爆弾三人を部屋に残し、滝壺も出ていく。
安全と平穏を確認できただけで満足した。
背後の嫌な気配と言い訳にならない言い訳をする恋人は何時ものことだ。
気にしない。
「あァ……別に携帯落とすぐらいしちゃうもンなァ。結標ェ……」
彼女からすれば、今はリビングで脱力して頭を抱える一方通行が気になった。
「……大丈夫だ。まだ、手は在るンだ」
心配そうに見つめられていたのに気付き、一方通行の声のトーンが平常になる。
再び携帯。
操作音。
背後の悲鳴。
今度は着信が部屋の中で鳴ることなく繋がった。
「おォ、俺だ。ちょっと……あァ!?オマエ海原じゃねェな?」
「誰だ?奴の言ってた妹さンかァ!?」
「違う?じゃァ、だ……」
「あっ!テメッ!その声オリジナルか!!」
「なンで、あいつの携帯持ってンだよ?…………はァ!?拾ったァ!?何処でだ!!」
「ベッドの下……」
「そォか。分かった。こっちのバカが面倒なことして済まなかったなァ」
「……あァ、解体遊びしようが的にしようが好きにしとけ」
「ついでにお節介だが、部屋ン中探知することを勧める。じゃァな」
一方通行の放り投げた携帯が机の上を滑り、端から落ちる。
「どうだった?」
様子を見れば大方の予想は付く。
彼も机から落ちそうな程に沈んでいる。
だが、相手は女性の声で会話がやや日常的だ。滝壺の質問には興味よりも、不安が多い。
「海原ァ………」
ゆらりと立ち上がる。
「海原ァァァァァ!!」
咆哮。
猛々しく殺意を孕んで叫ぶ一方通行は、正に悪魔の称号に恥じない学園都市第一位の化け物だった。
(うなばらさんか……)
一方通行の本性を見た滝壺は決意する。
(あんなに名前を呼んでる。大切なんだね……)
(むぎの、ライバル出現だよ)
例えどんなに困難な道でも、最後まで大好きな麦野を応援していくことを。
強く強く………。
それが噛み合わない意志だと気付かぬままに。
852 : むぎのーん[] - 2011/01/14 07:26:19.48 K9iRT6RSO 14/14以上
何かアレですね。ぐだぐだで涙が出そうです
次回、必ず終わらせます。どんなことしても終わらせます
最悪、僕達の戦いはこれからだっ!!で締めるか、ソードエッガー麦のんENDにします