佐天「この一杯のために、生きてるっ感じかな」
朝起きてすぐ、朝食や洗顔よりもさきに
缶ビールを開けて、喉に流し込む。
苦みと爽快感が、通り抜ける。
二本目を開けながら、TVをつけ
HDDの録画を再生する。
仕事で見逃した、深夜バラエティだ。
上条『どうも! 青ピ上やんの、上やんです!』
テレビの画面の中で、ひな壇に座る
ツンツンのウニ頭の男が威勢よく挨拶する。
佐天「あ、御坂さんの旦那さんじゃない。先週、出てたんだ」
古い友人の配偶者であり、何度か顔を合わせた事もある。
お笑い芸人をしているとの話で、最近テレビでも見るようになった。
『上やんの奥さんと言えば、有名な学園都市出身の超能力者、御坂美琴さんですが……』
青ピ『それ、旧姓ですわ。いまは相方の本名になってますん。稼ぎ的には確実に、こいつがミサやんになるべきやと思いますが』
上やん『どういう意味だよ! つか、稼ぎはお前も同じだろ!』
青ピ『僕、ドラマの仕事もやってるけど、上やんしてないやん。その間ネタの一つでも、書いてくれるかと思ってたんやけど。……それならギャラ折半でも良かったんやけど』
上条『うっ、お、俺も働いてたんだよ』
『どんなお仕事ですか』
上条『そ、掃除とか、洗濯とか、料理とか。……家の』
青ピ『ええ、これからは青ピミサやんで行きます』
上条『上条さん否定された! 上条の部分限定で!』
佐天「旦那さん、いじられキャラだなぁ」
テレビを流し見しながら、二本目のビールを開ける。
休日だから、朝から飲んでも
誰にも怒られないし、どんどん開けてしまう。
だらしないと心のどこかで考えなくもないが、
朝ビールの魔力には勝てない。
上やん『まぁ。テレビでコメンテーターしてる時は気取ってますけど、家ではごろごろしてるだけですね』
佐天「また、御坂さんの話してる」
三本目のビールを開けた時、
また友人の夫が、司会者に話をふられている。
答えの中で話がずれ、
彼の妻、つまり佐天の友人の話題になっていた。
青ピ『そんなん言ってると、またビリビリされるで。……まさか、されたいからか!』
上やん『人を変態みたいに言うな!』
青ピ『ちょっと羨ましいやん!』
上やん『本物かよ!』
佐天「どっちも、そういうヒトじゃないのかな」
違う番組で、電流罰ゲームで良い笑顔を見せた事を覚えている。
そのせいで、最近友人もそっちの人じゃないかと疑っている。
根は良い人だけど、結構イノシシみたいなとこあるし。
佐天「ん、電話?」
机の上に置きっぱなしにしていた
携帯電話が、軽快なメロディを奏でる。
確か、この曲は……
佐天「偶然ってあるんだ。……もしもし」
美琴〈もしもし、今、時間大丈夫?〉
画面に映っている人の、奥さんからの電話。
友人なのだから、当たり前の事なんだけど、
自分が有名人になったみたいで、
少しくすぐったい気分だ。
佐天「はい、今日は休みですからだいじょぶです」
美琴〈うん、相談があるんだけど……〉
不安そうな友人の声。
彼女がこういう声を出すときは、
ほとんどの場合、
佐天「旦那さんの事ですか?」
美琴〈な、なんでわかったの!?〉
佐天「付き合い長いじゃないですか」
中一の時に知り合って、十数年経つ。
考えている事は、何となく想像がつく。
美琴が、わかりやすい人間な事もあるが。
美琴〈そうね……〉
佐天「はい。それで、どうしたんですか」
美琴〈う、うん。実はね……〉
友人が言いにくそうに言葉を濁す。
そして、テレビの中でまた司会者が、
例の二人に話をふり、
美琴〈アイツ、浮気してるのかも〉
青ピ『そういや、上やん。前、グラビアの子と歩いとったやん。浮気?』
佐天「そうなんですか!」
携帯とテレビから同じタイミングで、
衝撃発言が飛んでくる。
美琴〈最近、知らない子とメールしてたみたいだし〉
上条『ちげーよ。ただ、相談に乗ってただけだよ』
佐天「ふむふむ。なるほど」
とりあえず、美琴の言いたい事を話させようと、
先を促す。当然、テレビにも注目しながら。
青ピ『でも、仲よさそうだったやん』
美琴〈アイツ、私の事嫌いになったのかな。だから……〉
上条『そんな勇気はねぇよ。つか、勇気リンリンでもしねーし』
佐天「ふむぅ」
青ピ『ほう、言うやん。つい、ふらふらってなったりとかないん?』
美琴〈どうしよう。別れたくないよ……〉
上条『ねぇよ。絶対無い』
上条『愛してるからな。今はもう』
青ピ「流石、テレビでのろけるんや」
にやにやと笑う相方の人は、確信犯だと思う。
週刊誌に騒がれる前に、先手を打ったのではないかと思う。
普段のトークも、計算っぽいし。
佐天「浮気かもしれませんね」
美琴〈そ、そうなのかなァ……〉
佐天「じゃ、ウチで作戦会議しませんか。初春や白井さんも呼んで」
美琴「作戦会議?」
佐天「そうです。旦那さんの浮気にどう対抗するのか、相談しましょう」
美琴「う、うん」
佐天「じゃ、13時にウチに集合しましょう。あの二人には連絡しときます」
美琴「あ、ありがとう」
佐天「いえいえ」
いつもなら、見たらすぐに消去するHDDのデータだが、
今回の番組は寿命が長そうだ。
少なくとも、あの三人と見るまでは……
了
865 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2011/01/15 00:18:33.69 /zkhs1NP0 6/7以上です
上琴書く時、何故か佐天さんが使いやすいです。
お目汚し失礼しました。
867 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/15 01:43:01.62 rxV/zflf0 7/7おつ
佐天さん策士やな