314 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:36:13.94 D9RslqSDO 1/12



「あれから10年か…」


かつての学園都市第3位、超電磁砲と呼ばれた少女は石の群れの中でぼやいた。目の前に立つ石碑には、彼女の最愛の人の名前が刻まれている。


此処は第3次世界大戦で亡くなった人の名前が彫られた石碑が並ぶ慰霊碑群。

死んだ者は勿論、戦うために都市を出て死体すら帰らなかった者の名も、ここには刻まれている。


戦争終結から10年と3ヶ月が経った。それだけ経って、この場所を訪れる人も少しずつ減っている。皆未来へ進もうとしているのだろう。居なくなった人達にいつまでも執着するのは無価値だ。


元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-22冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295367884/
315 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:36:59.76 D9RslqSDO 2/12

御坂美琴は、戦争終結後すぐに学園都市の改造に乗り出した。

第2位や4位の裏での働きや、教師陣の訴え。何より学園都市を変えたのはレベル0やレベル1の、低能力者と蔑まれてきた生徒達だった。

都市外部の協力もあり、10年をかけてやっと未成年である学生を含む直接民主制の、本来あるべき姿になったのである。

生徒は自らの意思で都市を出ていく事も出来る。親も自由に都市へ入れる。代わりに技術の悪用を狙った外部からの侵入が増え、治安的な問題がまだ残るが、それを解決するのには時間を要するだろう。だが諦めずに地道にやれば解決出来ると美琴達は考えている。


「あんたにも見て欲しかったな」

美琴は石碑を撫でながら言った。彼女が都市の変化を一番見て欲しいと思う少年は、もう居ない。

どこかで生きている、必ず帰ってくると信じていた時期もあるが、そんな甘い執着心を持ったままでは進んでこれなかった。

316 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:37:47.62 D9RslqSDO 3/12


「あ、お姉様」

物思いに耽る美琴に背後から声を掛けたのは、大きな花束を抱えた打ち止めだった。隣に居る美琴と瓜二つの少女は恐らく10032号と呼ばれる個体だ。胸からハートのアクセサリーを吊っている。

「お久し振りです、お姉様。とミサカは事務的挨拶から入ります」

「お姉様もお参り?って、ミサカはミサカは訊いてみる」

この10年の間に、打ち止めは大学に通う様になった。身長も伸びたし、態度も大人びた。そんな彼女が大好きだと言う真っ白な髪の少年も、戦争以来帰っていない。

彼の名前も石碑のどこかに刻まれているのだろうが、本名を知らない打ち止め達にそれを探す術はない。彼女らにとって、少年の名前は普段呼んでいた物だからだそうだ。打ち止めは、いつか本名は本人の口から聞きたい、と言っている。

317 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:38:16.67 D9RslqSDO 4/12


「もう10年になりますね」

10032号、御坂妹と呼ばれたクローンの言葉に打ち止めが花束を置きながら振り返った。

「早かったね、この10年は」

「そう、ね」

美琴は相槌をうつ。本当に早かった。学園都市の広い敷地を西から東、北から南に走り回っていたらあっと言う間にもう大学を卒業していた。

「垣根帝督が、話があるので今日の20時に総合理事会議場の2階事務ホールに来るようにとお姉様に言っていましたよ、とミサカは事務連絡をします」

「え、ちょ、待ってメモさせて!」

一度はかつての第1位にバラバラにされたと言う垣根だったが、今はカエル顔の医者に治されて五体満足で学園都市のために尽力する一人だ。同じく、麦野沈利率いるアイテムという組織も表世界に住む住人のために裏側を背負ってくれている。

318 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:38:57.59 D9RslqSDO 5/12

「しかし、皮肉な事ですね。ミサカ達が二人の顔を曇らせず済んでいる事は、幸福な事かも知れないのですから、とミサカは言います」

「また?」

「うん、3日前にドイツに居た17442号と16899号が…ってミサカはミサカはしょんぼりしつつ言ってみる」

ミサカ達はクローンだ。ただでさえ短いクローンの寿命を、急激な成長を促すための薬品投与で更に縮めてしまっている。

学園都市に残り、冥界返しの治療を受けられた10数人のミサカ達と、薬品投与の少なかった打ち止め以外の個体は、少しずつ寿命を消費していた。戦争に巻き込まれた事もあって、一万人弱残っていた妹達も、既に6千人程になってしまっている。

そんな事を知らせたら、今は居ない二人の少年がそれぞれどうなるかは明確に想像する事ができる。

「よかった…のね。そこだけは」

319 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:39:30.48 D9RslqSDO 6/12


上条当麻が残したものは多い。

彼と同居していたシスターは、今はイギリスで政治をしているそうだ。学園都市とも良好な関係を築いてくれている。

忙しいだろうに、毎週美琴に励ましの手紙を送ってくる。メールで送れば楽なのに、と言ってみた事もあるが、「人を元気にする魔術は、でんしめーるには載せられないんだよ」と一蹴された。

確かに綺麗で繊細な筆記体で書いて送られてくる手紙は、読んでいると元気が湧く様な気がする。科学の街で、魔術で元気になるなんて言ったら笑われてしまうだろうか。


姫神という黒髪の少女はインデックスと一緒にイギリスへ渡ったそうだ。秘書の様な仕事をしているらしい。


他にも上条当麻に助けられた、借りがあるという人物は多く、彼らは皆一様に石碑の前で悔しそうな表情をしていた。

惜しい人物を亡くした、と言うのだろうか。こういう時には。


320 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:40:07.74 D9RslqSDO 7/12



一時間ほどお互いの現状について話した3人は、慰霊碑近くのベンチから腰を上げた。

同じ顔をしてベンチに並ぶ自分達を、人は何を思って見るのだろう?

そんなつまらない考えが浮かぶ。


「では、ミサカはそろそろ行きます。先生はこのミサカの体調は良好だと仰っていましたので、また会う事は出来ると思います」

「不吉な事言わないで。近いうちに、会いにいくわ。その時は皆でランチでも食べましょ」

御坂妹は一瞬動きを止めると、ぎこちなさの残る微笑みを浮かべた。

「どうせお姉様の奢りなら、せっかくですからディナーにしませんか」

そしてニヤリ、と口角を上げる。

御坂は個性豊かになっていく妹達の変化を喜びながら、「わかったわかった」と両手を軽く上げた。参りました、のポーズである。

「あんたらには敵わないわ。とびきりの店、見つけといてよね」

「了解しました、とミサカは敬礼してお姉様に背を向けます」

321 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:40:45.24 D9RslqSDO 8/12

美琴は御坂妹の背中を見送りながら、打ち止めに向き直った。

「あんたはまだ時間大丈夫なの?」

もう日も暮れかけていて、空が紫とも紺ともつかない色に変化している。

「うん、レポートもないし。せっかく会えたからお姉様とももっとお喋りしたいかも!って、ミサカはミサカは言ってみる」

美琴は最近他国との友好関係に関して学園都市外のあちこちを飛び回っている。

そのせいか、住居が近くにあって比較的よく会えるはずの打ち止めとも最近ゆっくりと話ができていなかった。


「わかった。じゃあファミレスとかに移動しましょ。家はちょっと荒れてるし、打ち止めは同居してる人がいるんでしょ」

「うん。黄泉川や芳川はお姉様を連れて帰っても怒らないけど、お腹減ったのでミサカはミサカはお姉様に賛成っ!」

二人でベンチを立つ。枯れ葉を巻き上げながら吹き抜けた風が、切り傷を付ける様な鋭さで頬を撫でていく。

322 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:41:15.89 D9RslqSDO 9/12

「じゃあ行く前に、もう一回挨拶だけさせて」

美琴は無数に並ぶ同じ形の石碑の間を縫って進む。もう通い慣れて、辺りが真っ暗でもどれが目的の石碑なのかわかってしまう。

打ち止めも同じ様で、特に手間取る様子も見せずに美琴についてきた。


美琴は手をメガホンの様に丸めて、腹にたっぷりと息を吸い込むと、惜しみ無くそれを声にして吐き出した。

「上条当麻のばっかやろー!もう待たないから、死ぬ気で追い付いて来やがれー!」

ふぅと息をついて隣に目をやると、いきなりの咆哮に目を丸くしていた打ち止めが、にっこりと笑って姉を真似た。

「一方通行のばっかやろー!いつまで迷子さんでいるの、もう探してやらないからっ!って、ミサカは、ミサカは…」

力を失っていく声。必死に笑顔を浮かべて涙を溢さないようにする彼女を見ると心が痛くなる。

美琴は打ち止めを抱き締めると、その温かさを感じながら言った。

323 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:41:45.94 D9RslqSDO 10/12

「まったく、私の可愛い妹を悲しませるなんて許せないわね。帰ってきたら思う存分ビリビリしてやるわ、あの若白髪」

それを聞いた打ち止めも、美琴を抱き締め返して肩に顔を埋めて言った。

「本当、ミサカ達の大事なお姉様をこんなに寂しがらせるなんて駄目なヒーローさん。帰ってきたら残った妹達皆で叱ってあげなくちゃ!」


それから2人はお互いの肩で少しだけ泣いて、その場を後にした。

もう石碑に名を刻む事に反対して暴れたり、そこら辺で姿を見つけられる様な気がして寝ずに街を走り回ったりしていた頃とは違う。

お前達が置いて行った自分達は、いつまでも待ってその場足踏みをしているような寂しい女ではないのだと、いつか追い付いてこいと彼らを想いながら。




324 : だそく[sage] - 2011/01/25 21:42:40.70 D9RslqSDO 11/12




・・・・・・



二人が去った後、石碑の裏で話す影があった。


「10年か…。そんなに経っちまったんだな」

「……」

「俺を忘れようとしてるなら、もう姿は現さないでおこうと思ったけど」

「…そうじゃねェみたいだな」

「仕方ないな」

「あァ」



「一万人の妹に叱られに行こう」

「壮絶だな」

「お前だって、御坂のビリビリは効くぞ?」

「食らってやンよ、それくらい。何回でもなァ」





325 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] - 2011/01/25 21:43:48.87 D9RslqSDO 12/12

おわりです。


思ったより長くなっちゃいまして、申し訳ありませんでした。