849 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2011/02/05 01:26:47.14 J8OsHi2f0 1/6失礼します。
「御坂ならば一方通行のバッテリー充電が可能なのでは?」という仮定で書いたものを投下します。
初投下ですがよろしくお願いします。
「よし……充電完了っと」
病室の中で御坂は黒いバッテリーから手を放した。
バッテリーはオーダーメイドものであり、コンセントで手軽に充電できるものではない。製作者のカエル顔の医者から借りた設計図を理解できる頭脳を持つ、『超電磁砲』御坂美琴だからこそ充電ができたのだ。
御坂は横のベッドに寝ている青年に充電が終わったバッテリー付きのチョーカーを取り付けた。白いベッドに寝ている青年は白い髪に白い肌の華奢な体つきをしている。その安らかな寝顔を見ただけでは誰も彼の正体はわからないだろう。
かつてある実験で御坂に絶望を与えた、学園都市第一位の能力者、一方通行だとは。
自分は何をやっているのだろう?
この男は自分のクローン、妹達を殺しまくった憎むべき悪人ではなかったか?
なぜこんな奴の介助を申し出たのか?
御坂は改めて自分に問いかけた。
少し前なら、目の前の悪党がどうなろうと知ったことではなかったはずだった。許されるならその命を奪いたいとすら考えた。一方通行イコール悪党。その認識しか持てなかった。
しかし、妹達の一員であるあの少女の話を聞いてから、その憎しみが少し形を変えた。どんな風にと聞かれると、御坂自身もうまく答えられないが。
「ン……」
かすかな声が出た後、一方通行の目が開いた。御坂はその赤い瞳を見据えた。
「……」
一方通行は怪訝な表情を浮かべながら上半身を起こした。
目の前にいるのは、いつもこの病院でバッテリーの充電を行っているカエル顔の医者ではなく、彼に刃向かおうとした少女。いかに優秀な彼でも状況が飲み込めないのは無理はないだろう。
「お目覚めの気分はどう?一方通行」
「……超電磁砲、か?」
「何してンだ?」
「アンタのバッテリー充電してあげたの」
「はァ?」
理解できないという表情の一方通行に御坂は言葉を続けた。
「お礼ぐらい言ったら?」
「そりゃどウも。俺の寝首をかっきるチャンスを潰してくださってェ」
「……やっぱバッテリー壊した方が良かったかしら?」
「ハッ、今更何言ってンだ。イカレてんですかァ?」
やはりコイツは好きになれない。
重々承知しているが、改めて御坂は胸中で呟いた。
「で?バッテリー充電してまで俺に何がしたいンだよ?まさか全力の状態で俺を潰したいとか愉快なことは言わねェよな?」
一方通行は蔑むような目で言った。
「全力の状態でなくてもそうしたかったけどね……」
御坂は視線をベッドの横の棚に移した。
「でもあの子が浮かばれないでしょ」
そこには缶コーヒーが置いてあった。
「……あのクソガキが」
それを買ったのが誰かはわかったらしい。悪態をつきつつ一方通行は缶コーヒーに手を伸ばした。
「アンタがどうしてそんな身体になったか、誰を守ってきたのかは大筋で聞いたわ」
「……」
「実験のことを許す気はない。けど、打ち止め達が世話になったのは事実。充電はそのちょっとしたお礼ってとこ」
「なンだそりゃ?結局お前の自己満足じゃねェか。そもそも許してもらう気もねェよ」
御坂の手間を一方通行はあっさり切り捨てた。缶コーヒーを器用に片手で開け、音を立てて飲む。
神経を逆撫でする発言の先を当然彼は予想しているはずだ。怒りに任せてつかみかかるか、場を考慮して耐えるか。どちらにしろ彼の思う壺だろう。
「ええ、こっちもよ。実験だけじゃ飽きたらず―」
もちろんそんなシナリオに従うのは御免である。御坂は変化球を投げてみた。一方通行の弱点をつく変化球を。
「出会ったばかりの幼女を路上で素っ裸にする奴なんて許す気になれないわ」
「!?ゲホッゴホッ」
見事にストライク。一方通行はむせ込んだ。
「しかも汚い自分の部屋に連れ込んで一夜を過ごさせたですって?私の妹を何だと思ってるの?」
御坂は追撃をかける。予想以上の一方通行の狼狽ぶりは見ていて気持ちがよかった。
「ちげェよ!!あれは事故だ!!ガキがボロ布一枚で外をうろついているなンざ想像できねェだろうがァ!!」
「顔見るぐらいならちょっとずらせばいいじゃない。何でボロ布ごとひっぺ返すのよ?本人の拒否も聞かずに」
「……ぐ」
御坂の言い分は間違っていない。そのため一方通行も言い返す言葉が思いつかず、黙り込んだ。
そんな一方通行に背を向け、御坂は病室のドアに歩いていった。
「次変なことしたらただじゃ置かないわよ、へ・ん・た・い」
「誰が変態だァ!」
強調した言葉に声を荒げた一方通行にため息をつき、御坂はドアに手をかけた。
「あとバッテリーのリフレッシュもやっといたから。それ予備ないんでしょ?」
バッテリーの寿命は無限ではない。使い続けていれば劣化し、放電時間が減ってしまう。
一方通行のものは作られてからそれほど時間は経っていない。しかし、彼自身が血なまぐさい環境で行動することが多いため、大切に扱われているとは言い難い。たまにはリフレッシュが必要なのは道理だ。
「……あっそォ」
一方通行は関心なさげに頭をかいた。
「じゃあね」
御坂はドアを開けて出ていこうとした。
「……待て」
「何?これ以上アンタと話したくないんだけど」
「ありがとよ」
「……は?」
御坂は口をぽかんと開けた。お礼ぐらい言えとはいったが、はなから期待などしていなかったのだ。
「何馬鹿な顔してンだよ。こうでも言わねえと、そこに隠れてるクソガキが面倒なだけだ」
廊下の隅で少女が肩を震わせた。
「立ち聞きとかくだらねェ真似してンじゃねェよ、打ち止め」
「うぅ、あなたとお姉様を二人きりにするのってすごく不安だったもん、ってミサカはミサカは自分の行動を正当化してみたり」
申し訳なさそうな表情で打ち止めは病室に入ってきた。
「大丈夫よ、コイツが変なことをしないかぎり私は手を出さないつもりだし」
御坂は打ち止めの頭を撫でながら言った。
「まだ言うか……」
一方通行はため息をついた。
「じゃ、またね」
今度こそ御坂は病室を出て行った。
「またね……か」
廊下を歩きながら御坂はつぶやいた。
またね。
それは再び会うことを前提にして成り立つ台詞だ。
バッテリーを充電するのは今回限りと決めている。ならば、次はどのような形で憎むべきあの男に会うのだろうか。
(私は憎い……のよね?一方通行が)
憎いはずの悪党が自分の知らない所でしていたことを聞いたとき、最初はとても信じられなかった。受け入れることを拒絶した。
しかし、受け入れないのは自分の妹達から目を逸らすことでしかない。御坂はゆっくりと事実を受け入れるようにした。そこで感じたのは、一方通行に対する大きな借りであった。
本来ならば、妹達を守るのは自分がやるべきことだ。それを一方通行がやっている。
何らかの形でこの借りを返さなければならないと思った。そうしなければ、先に進めないような気がした。
結局思いついたのはバッテリーの充電及びリフレッシュという案だった。医者がやった方がいいはずだし、借りを返すことにつながるかどうかも疑わしい。なのに、御坂はそれを実行した。こんなバカげた提案を許可してくれたあの医者には頭が上がらない。
(ま、打ち止めが喜んでくれたから良しとしますか)
妹の笑顔が見れた。今はそれでいい。時間はまだあるはずだから。
御坂は自問自答を終え、病院を出た。
きれいな夕日が彼女を照らした。
854 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] - 2011/02/05 01:35:59.39 J8OsHi2f0 6/6以上です。失礼しました。